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「お金は「歴史」で儲けなさい」 加谷珪一(著)

 

人間の世界では、過去に起こったことが再び繰り返されることがあります。本書を読んで、歴史から学び未来を見通し、お金持ちになりましょう。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

お金持ちになりたい人。歴史から投資戦略を考えたい人。

 

要約と注目ポイント

人間社会では、同じようなことが繰り返し起こる。長い年月にわたり資産を維持している富裕層は、とても歴史を重視している。本書では歴史から学んだ知見をもとに、株価の動き(戦争の影響)、インフレ、バブル、イノベーション、商品価格、長期投資、今後の投資戦略を考察する。

 

株価を予想する

日本の株価は、過去130年間で年間収益率が平均7%だった。ただし大きく上昇する時期と、長期に低迷する時期があった。約20年の単位で、超長期のトレンドが発生していた。

第1次世界大戦の戦時需要で大正バブルが発生したが、そのあと崩壊しデフレとなった。デフレと関東大震災による不況に対し、日銀の国債引き受けという金融緩和策がとられた。敗戦後に巨額の債務のため準ハイパーインフレになった。このバブル崩壊から長期デフレ、震災、超金融緩和までの流れは現在と同じである。

人は自分が経験した範囲の感覚で、取引しがちである。株価の歴史的推移を見ておくべきだ。15~20年単位の長期トレンドは、そう簡単に止まらない。だが、永遠に続くこともない。

今の長期停滞は25年続いてきた。現在が、長期トレンドの転換点である可能性は高い。アベノミクスの結末は株高と好景気、インフレが考えられる。

良くも悪くも、アベノミクスは日本の戦後史の転換点になりそうです。

 

インフレ

アメリカ経済は将来も堅調で、ドル高が予測される。日本の経常収支は恒常的に赤字となり、円安となる。したがってインフレとなるが、仮に経済成長が伴わなければスタグフレーションとなる。

インフレやスタグフレーションに備えるには、預金をやめて株を買う。基礎体力があり、グローバル展開していて、需要が減りにくい商品を提供する会社の株が候補となる。優良な不動産を借金で買うのもひとつの方法。他のヘッジ手段は外貨や金など。

過去のドイツや日本でインフレが発生したとき、物価は急激に上がるのに、不動産価格や株価の上昇は遅れた。ドイツのハイパーインフレでは、価格の上昇は①為替、②金、③物価、④不動産、⑤株価、の順番だった。

日本人はオイルショック以降、生活物資のインフレを体験していません。30~40年ぶりに本格的なインフレが起これば、ほとんどの日本人は対応できないでしょう。野心のある人には、チャンスでもあります。

 

バブルとイノベーション

バブルには、マクロ的な市場全体がバブルになる場合と(1980年代後半の日本など)、イノベーションを材料とした個別のバブルの場合(2000年頃のITバブル)がある。

マクロ的バブルは、資産間のお金の移動で発生する。株式、債券、不動産のうちで、過剰にマネーが流れ込んだ資産がバブルとなる。現在は債券バブル。

イノベーションでは巨大な利益が期待されるので、イノベーション関連企業の株価は高騰し、バブルとなる。テクノロジーを材料とするバブルは、再現性がある(鉄道、自動車、半導体、インターネット)。

テクノロジーがバブル化するのは、投資家が理解しやすいとき。次の有力な候補は、人工知能とロボット。テクノロジーの評価は、黎明期、過度な期待、失望、安定的な成長、と移り変わる。投資するのに適切な時期がある。

バブルは何回でも繰り返されるのですが、それでも毎回、たいていの投資家はとんでもないことになります。バブルと、ブームのもとになるイノベーションの歴史的関係は、知っておくと良いでしょう。

 

コモディティ

金などの実物資産は、通貨に対する不安が高まると買われ、通貨への信頼が高まると売られる。

ビットコインは、金本位制に影響を受けて設計されている。世界の一定数の人が価値を認めれば、ビットコインは通貨になる。

原油価格は、1970年代のオイルショックでピークをつけた。リーマンショック前から再び高騰し、高値で推移していたが、アメリカのシェール革命により2014年後半から下落している。今後も供給過剰で、価格は低く抑えられる可能性がある。

資源価格の推移は、アメリカの金融政策の影響を受けます。資源価格が下がれば新興国経済は減速し、その打撃は金融市場に返ってきます。

 

長期投資

株式への長期投資は、年平均7%の高い利回りと複利効果が見込まれる。ただし毎年の利回りは、リスク(標準偏差)の大きさに応じて上下に振れることに注意する。現実的な投資リターンは、べき分布で想定される。長期投資でもリターンの幅は大きい。

投資家は株式投資に高いリターンを求めるので、将来も株価は継続的に上昇すると考えられる。

株価や経済の動向は、人間の心理による影響も大きい。

 

今後の投資戦略

今後の投資戦略を考えるために、大切な基本事項を解説します。そのうえで、有利と考えられる投資戦略を提示しています。

円安やインフレも想定しつつ、有効な投資戦略を考えています。自分が投資するときにも、参考にできるのではないでしょうか。

 

書評

著者には「大金持ちの教科書」という著作があります。このなかで、時代の流れを見極めることが、お金儲けにとって重要と述べています。この時代の流れを読むという部分を拡大し、歴史から学ぶという要素を加えて1冊の本になったのが、本書「お金は「歴史」で儲けなさい」であるような印象です。

そのため、「大金持ちの~」と重複する解説もあります。本書は、歴史的なデータから現状を分析し、将来のシナリオを予測するという点が特徴です。

読んでみて、いろいろ勉強になりました。私とけっこう似た考え方だなと思いました。今後に使えそうな点を、いくつか整理してみます。

日本株式の過去の平均利回りは、年7%としています。「株式投資 第4版」によると、過去200年のアメリカ株の年平均利回りが7%なので、これはだいたい妥当と思われます。株式に数十年単位で投資することは、収益の面でもインフレ対策の面でも悪くない方法だと考えられます。

日本の将来シナリオとして、インフレ(スタグフレーション)は有力と考えます。まだ物価は上がっていませんが。

日本の国家債務を処理するのに、物価上昇率より長期金利を低く保つ、金融抑圧的な政策がとられるだろうと私は予想します。ですから、アメリカの優良株を買う、外貨建て資産を持つ、優良不動産に投資する、といった方法には賛同します。

インフレのとき、資産によって上昇する時期がずれることは勉強になりました。はじめに外貨や貴金属に逃げ、そのあと相対的に安く売り込まれた株や不動産を買うと、お金持ちになれるようです。(上手くいくか、保証はできませんが。)

バブルの分類も、学ぶところがありました。マネーが過剰に流れるところを、冷静に探そうと思います。イノベーションによるバブルの場合、ブームのピークの前に株を買っておきたいのですが、私はたいてい出遅れます。

なので、失望され忘れられたテクノロジーが、本格的に普及してきて復活する前の、横ばいの時期に買うのもありかと思います。

人工知能やロボットは本当に有望と思いますが、今のところ勝者ははっきりしません。アップルやグーグル、フェイスブックやIBMなどは力を入れていますが。
(書評2015/06/29)

「大金持ちの教科書」 加谷珪一(著)

 

お金持ち特有の思考と行動原理を明らかにした、ベストセラー「お金持ちの教科書」。本書はその続編であり、お金持ちになるための普遍的な考え方や、時流の見方を解説します。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

お金持ちになりたい人。

 

要約と注目ポイント

儲けの才能を持たない普通の人がお金持ちになりたいなら、お金持ちの普遍的な考え方や、時代の流れを見抜く方法を学ぶ必要がある。

本書では、お金持ちになるための方法と必要な能力、精神性を論じる。また時代の見方、イノベーション、日本の今後についても考察する。

 

お金持ちになる方法

お金持ちになる方法は、①高給をもらう、②事業を行う、③投資する、しかない。超高給取りはほとんどいないので、仕事をしながら、事業、投資、副業を組み合わせるしかない。

資本主義社会では、投資家(と経営者)が利益の大部分を取る。最も稼げるのが、自分で投資して自分で経営するオーナー経営者である。

事業で稼いだお金を再投資せよ。

お金を儲けるには、不特定多数から広く浅く集めるか、身近なところから搾取するかの2通りがある。

節約は重要。お金持ちの言う節約とは、事業や投資にかかる出費を最小限にすることだ。

速くお金を儲けるには、借金によるレバレッジ効果が必要となる(特に不動産業)。

などなど‥‥

非常に実践的で、合理的な方法論です。このような思考は、誰かが教えてくれることは基本的になく、自分で学ぶしかありません。そういった意味でも貴重な教えです。

 

お金持ちになるための能力

天賦の商才を持つ人もいる。そうではなかった多くのお金持ちは、野心を持ち、努力し、試行錯誤を続けた。

学歴ではなく、「頭がいい」ことは必要。お金儲けのセンスも必要。

極限まで努力したあとで、運が重要となってくる。未開拓の世界では、ルールが定まっている既存の世界での「実力」を超えるものが必要となる。

などなど‥‥

 

お金持ちになるためのメンタリティ

必要なときに、果敢に素早くリスクを取る。

世間一般のお金の価値観から脱却し、お金に対し中立的に行動せよ。

「すべき」や「であるべき」ではなく、合理主義に徹する。

などなど‥‥

教訓となる事例がたくさんあります。身につけるべき能力やメンタルとして、目標になります。

 

時代の見方

好景気のときに、格差は拡大する。実は不景気の方が、格差は縮小する。お金持ちになりたいなら、景気が拡大するタイミングを絶対に逃してはならない。

経済の成長は、資本、労働(人口)、イノベーション(生産性)で決まる。日本は労働力人口が減少し、イノベーションは停滞している。人口動態を見ることは、将来を考えるために必要だ。

お金の総量が増えると、経済成長を促進したり、バブルを発生させたりする。資本が過剰となっている現代では、いろいろなところでバブルが生じている。お金持ちになるためには、次にお金が向かう先を読み、バブルを利用すること。

などなど‥‥

 

イノベーション

イノベーションが起きると、お金儲けのチャンスが生まれる。変化に対応できないと、富を失う。

社会の動き、登場してくる製品やサービスを注意深く見続けていると、大きな動きは予測できる。

お金(通貨)は共同幻想である。ビットコインには、金本位制や金融マーケットの覇権争いという背景がある。

ロボット(人工知能)の高度化が、人間の仕事を奪う。工場の製造現場だけでなく、ホワイトカラーの仕事でも単純作業はロボットが担うようになる。

などなど‥‥

 

将来の日本でお金を儲けるには

日本の将来では、

人口が減少し、若年労働者が不足する。
都市部に人口が集中。
共働きが普通、働ける限り生涯働く。
仕事の外注化。ブルーカラーは不足し、ホワイトカラーは余る。
脱工業化し知識産業化の時代になる。
知識産業化とは、個人情報をすべて収集すること。
個人情報を集めれば、行動などが予測できる。
‥‥
といったことが予想される。

そこからお金を儲ける方法、資産を守る方法を考察する。

これからの時代の流れを読み、イノベーションが社会をどう変えるか考え、日本の将来を見ていきます。そこから自分はどう行動すべきか、とても参考になります。

 

書評

かなり良いです。教訓になる話、勉強になる解説が充実しています。貧乏人の私が評価するのも微妙ですが、良い本です。

前作の「お金持ちの教科書」は、割と間口を広くとっていました。それほど経済やビジネスに関心がなくても、お金持ちってどういう人だろう程度の読者でも、受け入れていました。ただ著者が上級編と述べるだけあり、本書はお金持ちになるための方法論が直球勝負です。

お金を儲けるためには、合理的な思考が必要です。ありのままの現実を、直視しなければなりません。私が漠然と不思議に感じていたいくつかの事象を、説明してくれていたので勉強になりました。(以下のさわかみファンドの例など。)

事象のひとつとして、儲かるビジネスモデルがありました。著者は、儲かる事業のモデルを2つに分けます。1つはブラック企業的なモデルで、身近な弱者から搾取します。ただ実は、搾取モデルは大きな利益にはならないと述べます。弱者はあまりお金を持っていないからです。

日本は搾取モデルの事業者の方が多いのですが、それは非合理な市場が存在するからでもあり、搾取モデルは参入障壁が低いからでもあります。

消費者のニーズを汲み取った、不特定多数から広く浅くお金を集められるモデルの方が、大儲けできます。著者はこのモデルを薦め、消費者に魅力的なサービスとして「見える」ことが、きわめて重要だと説きます。

この例として、グーグルのサービスがあります。グーグルはいいのですが、そのほかに、あるファンドマネージャーの例も挙げます。本文中で実名は出ていませんが、私が推測するに、多分さわかみファンドです。

さわかみファンドは、短期的な市場変動を狙わず、優良な日本企業に超長期で投資することで利益をあげるとしています。このような長期的な視点の投資が、会社にも投資家にも日本社会にも利益をもたらすのだと訴えます。これが実現するなら、確かに美しい物語です。

ただ私は昔から、さわかみファンドは手数料が安くなく、パフォーマンスもあまり良くないので、どのあたりが長期投資に向いているのかさっぱりわかりませんでした。このパフォーマンスなら、手数料が格安の株式インデックスファンドを買うべきだと思っていました。

しかしさわかみファンドは、(一般大衆が優良だと思う)日本企業への長期投資が、すべての人の利益になるという、美しい物語、コンセプトを売っていたのでした。それも消費者が大歓迎する形で。このようなビジネスが強いということです。

このような感じで、時代の動きの読み方、リスクの取り方など、大切な事柄が次々と解説されています。前著と比べると、とにかくお金持ちになるための探求心が強く表れています。まずは小さくてもお金が稼げる事業をつくりたいと、あらためて考えさせられた本でした。
(書評2015/06/28)

「お金持ちの教科書」 加谷珪一(著)

 

長年たくさんのお金持ちに接してきた著者が、お金持ちの思考や行動を観察してまとめた本です。お金持ちになれるヒントが詰まっています。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

お金持ちになりたい人。
お金持ちの特徴を知りたい人。

 

要約と注目ポイント

著者は金融機関勤務と経営コンサルの経験がある。その経験から、お金持ちには思考パターンや行動原理、キャリアに特有の傾向があることを知った。これを応用し、著者自身も富裕層に入ることができた。

本書では以下の3点を解説する。
①お金持ちの実像とその生活
②お金持ちの習慣・思考と行動原理
③お金持ちになるには

 

お金持ちの実像とその生活

社会的地位の高さ、年収の高さ、持っている資産の多さ、これらは世間では混同されるがそれぞれ別のもの。

お金持ちが何代も資産を維持できることは少ない。どんなお金持ちにも、成金の要素はある。(誰にとっても成金になれる可能性はゼロではない。)

日本の(億レベルの)富裕層は、土地持ちタイプ、羽振りのよい商売成功タイプ、ひたすら貯金したタイプが典型的。実業家では、地域密着企業を継承した保守的タイプと、外資系タイプがある。

日本の富裕層数が多いのは、円高と過大評価な不動産のため。外国のお金持ちの資産は、金融資産。

住む場所の話。時計と靴の話。プライベートバンクの話。

1億ドル以上の超お金持ちの話。資産を守って他国に居住することはたいへん。

お金持ちは、お金を失う恐怖を常に感じている。

お金持ちと言えるのは、資産3億円以上か年収3000万円以上のクラス。ただ資産5000万円を超えると、資産を絶対に失いたくないというお金持ちの思考を始める。年収1000万円はお金持ちではない。

ひとまとめにお金持ちといいますが、実は種類があります。日本のお金持ちを分類し、説明します。

 

お金持ちの習慣・思考と行動原理

お金持ちの習慣、思考、行動を具体的に説明する。

わがまま?
ありがとうとよく言う。
ケチ?
食事代はもつ。
価値観が変わり昔の友人と話が合わなくなる。
感謝せずお礼をする。
すべて自分の責任と考える。
人を見抜く、数字を見抜く。
効率的、混雑を嫌う、コストパフォーマンス重視。
リスク管理をする。
見栄を張る効果を知る。

などなど‥‥

お金持ちはなぜ、そのような思考をするのか。お金持ちの習慣や、そのように行動する理由が、具体例を通して見えてきます。

 

お金持ちになるには

それでは、お金持ちになる方法とは。お金持ちになるための、さまざまな視点を説明する。

お金の話ばかりをする。
日本では安心を求める人が多い。これを使う。
元手が少ないなら、リスクを取って集中投資することも必要となる。
自分の目で確かめ、自分の基準を絶対に譲らない。
お金持ちになれるかは、20代の過ごし方で決まる。
年寄りの説教は無視しろ。
貧乏人と付き合うな。
人に使われてはならない。

などなど‥‥

普通の人とは違うところがあるから、お金持ちはお金持ちになったわけです。そのあたりが実例を挙げて、解説されています。なお、普通の人でも今から実行可能な、お金を貯めるアドバイスもあります。

 

書評

本書の内容は、自己啓発と資産運用で半々となっています。お金持ちになれるような、思考や行動原理を身につけるための自己啓発が半分。実際にお金はどう使うべきか、数字の読み方、投資のやり方などが半分という感じです。

これらがきっちり分けて説明されているわけではなく、混在一体となっています。思考や行動、事業や投資のやり方はつながっているので、混ざっています。

お金持ちがどういう生活をしているか、といった話もありますが、私にとってはその部分は割とどうでもよかったです。私はひたすらお金を儲けたいだけなので。その部分も読み物としては楽しめます。

私は投資やお金の本をかなり読んでいるので、大切だと著者が述べている事柄は知っていたものが多いです。やはりそうですよね、とだいたいのところで納得しました。知っているだけでなく実行できるかが、凡人と金持ちの分かれ目だと本文中でも指摘されていますが。実行が大事です。

面白いと思ったのは、いつもお金の話をしていると、周りの人をスクリーニングできるということです。お金の話ばかりすることで、金持ちを妬む人や合理的な思考のできない人が遠ざかります。

さらに自分の目で見て、詐欺師みたいな人たちを排除すれば、付き合えば稼げたり儲けたりできる人が残るとのことです。笑えたうえで、なるほどと感じました。

島田紳助氏の不動産投資の話も、教訓になります。スターとなり、分刻みのスケジュールの中、すべて自分で不動産物件を見て回り、選択して投資したそうです。投資では、そこまでやらなければ儲からない。逆に、そこまでする根性の人は少ないので、そこまで徹底すれば勝てるということです。

世間で繰り返し聞く話についても、勉強になりました。聞き手が快感を覚えるから世間で流布するので、聞き手をその気にさせるサービスをつくれば儲かる。あるいは、本当の真理であるから、本当に実行すれば儲かる。これも素晴らしいです。
(書評2015/06/26)

「改訂版 金持ち父さん貧乏父さん」 ロバート・キヨサキ(著)

 

日本でシリーズ累計350万部、全世界では3000万部という超ベストセラー「金持ち父さん貧乏父さん」。日本語版発売から13年、根本となる「金持ち父さん」の教えはそのままに、最新状況に合わせて改訂版が登場しました。

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

 

対象読者層

お金持ちになりたい人。社会に出る前の若い人。

 

要約

・学歴は高いがお金に苦労した父さんと、高い学歴はないがお金持ちになった父さんから、少年のころ相反する教えを受けた。2つの異なる教えに接したことで、学校では学ばないお金持ちになる考え方を発見できた。金持ちになるか貧乏になるかは、考え方や行動の仕方が原因なのだ。

お金がどのように動くかを知る、お金に関する教育が大切だ。(給料をもらうため)自分がお金のために働くのではなく、(事業などで)お金を自分のために働かせることが、金持ちと貧乏を分ける。

 

金持ち父さんの教えは、6つの指針にまとめられる。

①金持ちはお金のためには働かない。
②お金の流れの読み方を学ぶ。
③自分のビジネスを持つ。
④会社を作って節税する。
⑤金持ちはお金を作り出す。
⑥お金のためではなく学ぶために働く。

①金持ちはお金のためには働かない。
不満や困難な状況になったとき(人生につつきまわされたとき)が学ぶチャンスだ。
学校はお金のために働く方法を学ぶところ。
たいていの人間は、お金がなくなる恐怖と消費の欲望に動かされて働く。
恐怖と欲望という感情に支配されず、感情を観察して自分の頭で考えろ。
自分を知るための情報と知識を求めなくなると、無知にとらわれる。無知が恐怖と欲望を大きくする。
自分がその場にいなくても事業自体がお金を生み出す仕組みをつくること(ビジネス)が、お金が自分のために働くということだ。

②お金の流れの読み方を学ぶ。
金持ちになるには、そして金を持ち続けるためには、お金について学ばなければならない。
資産と負債の違いを知ること。金持ちは資産を手に入れる。中流以下の人は負債を資産と思いこむ。
資産は自分に金を与え、負債は自分から金を持ち去る。
貧乏、中流、金持ちの金の流れの説明。
お金をどう管理するか、勉強する必要がある。
何も考えず他人と同じ行動をとるのは、恐怖に負けている。
大きな持ち家は負債である。金持ちは、収入を生む資産への投資を優先する。
中流の人は、働いて得た収入が他者のふところに入ることに気付いていない。(給料のために働くことは会社のオーナーと株主の利益、支出の税金は政府の利益、負債の住宅ローンは銀行の利益。)働いて努力した分が、そのまま自分の利益になる方法を学べ。
資産の生むお金(キャッシュフロー)が支出を上回り、余ったお金を再投資できるようになれば、お金持ちになれる。

③自分のビジネスを持つ。
利益を生む本当の資産やビジネスを持て。
本物の資産とは、自分がその場にいなくても収入を生むビジネス、株、債券、収入を生む不動産、手形や借用証書、著作権、特許権、そのほか収入を生み出すもの。

④会社を作って節税する。
現代では、税負担が最も重いのが中流。金持ちは会社を利用して節税する。会社を作り、自分のビジネスを持つこと。
会社の利点は、収入から経費を差し引けることと訴訟から身を守れることだ。
中流と金持ちを分けるのは、知識の力だ。会計、投資、市場の理解、法律という4つの知識の力を持て。

⑤金持ちはお金を作り出す。
社会的成功には、「大胆さや度胸」が必要となる。過度の「恐怖心」と「自信のなさ」が、成功の邪魔となる。
現代は、情報が価値を持つ変化の時代だ。いろいろな選択肢を考えつく能力を持つこと。
金持ちは、何もないところからお金を作り出す。お金は実際には存在しない。お金を動かすのではなく、人々の「同意」を動かすのだ。著者が破産した物件を転売して、お金を作った例。
会計、投資、市場の理解、法律という、ファイナンシャル・インテリジェンスを高めよ。
ファイナンシャル・インテリジェンスが高ければ、安全だが儲けの少ない投資ではなく、儲けの大きい取引の有利不利を見極められる。
優れた投資家には、他の人が見逃すチャンスを見つける技術、資金を集める技術、賢い人を集めて組織にする技術、がある。

⑥お金のためではなく学ぶために働く。
「給料をもらって支払いをする」というラットレースにはまる前に、何を学べるかを考えて仕事を探すこと。
広く浅く学べ。新しいことを学べ。セールスを学べ。
長い目で見て学べ。いま毎日やっていることを続けると、最後はどこに行き着くのか?

 

実践するために必要なこと。

①お金を失う恐怖心を克服せよ。
失敗をバネにする。一点集中する。

②悪いことばかり考えて臆病になるな。
臆病者は批判をし、勝者は分析をする。「~はいやだ」という状況を抜け出す道を考えることが成功の鍵だ。

③忙しさを理由にして、本当に大切なことから逃げるな。
忙しいと言って、心の底では大切とわかっていることから逃げるな。理由(忙しい)や罪悪感(やるべきではない)は、感情を殺す。欲望を持つことや、どうすれば実現できるかと考えることは、魂を活性化する。

④自分への支払いを最初にせよ。
税金や他人への支払いを後にすることで、自分にプレッシャーがかかる。何とかしようと、より努力し考えるようになるので、自分が鍛えられる。

⑤無知を隠すために傲慢になるな。
無知を取り繕うため、傲慢になる人がいる。知識を軽視し傲慢にふるまうと、損をする。専門家を探すか、自分で勉強すること。

 

スタートを切るために。

①強い目的意識があるか。
②謙虚に偉大な投資家や専門家から学び、自分にとって新しい考えを受け入れる。
③金持ちの話から学び、中流や貧乏の人の話を反面教師とする。
④いろいろな新しいことを速く学ぶ。
⑤自己抑制能力をもつ。お金・人・自分の時間の管理をする。
⑥能力のある専門家に、報酬をたっぷり払う。
⑦元手は(資産が増えた形で)必ず回収する。
⑧ぜいたく品は、資産が生むキャッシュフローで買う。
⑨与えよ、さらば与えられん。教えよ、さらば与えられん。

・具体的な行動のヒント。

 

書評

3~4年前に、改訂版ではない初版本を読みました。薄い記憶がよみがえりまして、内容はおそらくほぼ同じだと感じました。しかしあらためて読むと、名著と言ってよいのではないでしょうか。特に若い人に読むことをおすすめします。自分ももう少し早く読んでおけばと残念です。

初めて読んだときは、何となくこんなものかと思っただけでした。著者の説明や主張も、あまりわかりませんでした。そのあと、働きながらいろいろと考え、投資や経済の本を読み、少しずつ投資の経験を積んできました。そしてもう一度読むと、著者のひとつひとつの教えの意味が、わかるようになっていました。

インパクトの強い形で大ベストセラーになったので、影響力のある本です。お金を貯めるハウツー本や、自己啓発系の本に書かれていることと共通点は多いです。読みやすく、その後の同じ系統の本にも影響を与えているので、原点である本書を読むのは勉強になるでしょう。

私がこの本を初めて読んだのは、30歳過ぎだったように思います。そしてその意味がつかめたのは、さらに遅かったです。正直、初めに読むのが10年は遅かったと感じます。出遅れました。ただ本書でも例が出てきますが、カーネル・サンダースがケンタッキー・フライド・チキンを創業したのは66歳のときです。過去を振り返っても、過去はもう変えられません。今から頑張るしかない。とにかく若い人に、1日でも早く読むことをおすすめします。
(書評2015/06/24)

「全面改訂 ほったらかし投資術」 山崎元/水瀬ケンイチ(著)

 

毎日忙しい人でもできる投資の方法を、人気経済評論家の山崎元氏が教えます。インデックス投資ブログで有名な、水瀬ケンイチ氏の実践的なアドバイスもあります。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

なるべく手間をかけずに、投資で成果を上げたい人。
インデックス投資マニア。
難易度は初級者以上。入門書とは言えない。

 

要約と注目ポイント

手間のかからない、簡単で無難で負けにくいお金の運用法を、前著「ほったらかし投資術」で提示した。4年経ち、環境変化もふまえて全面改訂したが、投資の基本姿勢に変わりはない。

投資はインデックス運用で行う。

インデックス投資がおすすめな理由

インデックス運用の利点は、

①手数料コストが安い。

②シンプルでわかりやすい。
(資産の価値が指数でわかるので、理解しやすい。ポートフォリオが管理しやすい。)

③負けにくく無難である。
(インデックスファンドは過半のアクティブファンドに勝つ。そして、勝てるアクティブファンドを事前に知ることはできない。)

長期投資では、コストの低さ、管理のしやすさ、安定性は重要です。

インデックス投資ブロガー水瀬氏の投資体験談

将来のため資産をつくろうと投資を開始。ファンダメンタルやテクニカルの分析に、時間と労力を費やして株を買う。

精神的にも疲れるが、それほど努力しても儲からない。市場全体の下落にも巻き込まれる。

そんなときにインデックス投資を知って始める。自分の性格にも合い、継続できた。12年続けたら、良い結果が出ている。

個人がお金を運用する正しい手順

①家計の状態を把握する。

②資産配分を考える。

③個々のアセットクラスに、どの運用商品がベストか考える。

④どの金融機関で投資するか選ぶ。

⑤DC(確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)が使えるなら、③と④のところで組み込む。

⑥ときどきモニタリングとメンテナンスをする。

資産運用の簡単な方法

①非常用生活費と運用資金を分ける。

②ネット証券に口座開設。

③リスク資産の投資額決定。

④リスク資産に配分したお金で、国内株式(MAXISトピックス上場投信)50%と外国株式(ニッセイ外国株式インデックスファンド)50%を買う。

⑤DCとNISAから先にリスク資産を割り振る。

⑥運用以外のお金は、個人向け国債変動金利10年型か預金、MRFで保有する。

⑦モニタリングとメンテナンスをする。

⑧お金が必要になったら、必要な分だけリスク資産を売却する。

資産運用の方法論としては、骨格になります。細かいところ(何の投資信託を買うかなど)は数年で変わる可能性がありますが、長期投資の方針は変えるところは少ないです。

投資対象の資産の解説

アセットアロケーションは、国内株式、外国株式、国内債券、外国債券、現金の5つが基本となる。

ただし現在、先進国は歴史的低金利なので、国内債券を持つ意味はほとんどない。国内債券は現金で良い。外国債券も為替リスクがある上、金利の低下余地は小さいので保有しない。

結果、国内株式と外国株式と現金を適切な比率で持つことにする。

中長期的には、金利の動きは要注意です。

資産運用の各手順を説明

非常用の生活費はいくら必要か

ネット証券の選び方

口座開設の仕方

DCとNISAの説明

リスク資産に投資する額の決め方

積み立て投資と一括投資について

国内株式と外国株式の比率

インデックスファンドの銘柄選択

無リスク資産について

モニタリングとリバランス

などなど‥‥

そのほか、投資の勉強になるトピックなど

インデックス投資を学べる本、サイトの紹介など。

おすすめのインデックスファンド、ETF銘柄の解説。

ETFマネジャーへのインタビュー。

 

書評

前著の「ほったらかし投資術」や、山崎元氏の「全面改訂 超簡単 お金の運用術」などを読んでいると、運用方法に違いはほとんどありません。投資の考え方も同じなので(当然ですが)、どれかを読んでいれば十分だろうと思います。

正しい投資の方法は簡単です。一部に非常用の生活費を残し、最大損失を想定してそれに耐えられる範囲で、日本と外国のコストの低い株式インデックスファンドを買う。積み立て続ける。持ち続ける。終わり。

インデックス投資の優位性や、それを実現する手法も書かれています。ですので、この本1冊ですべて済むはずなのですが、なかなかそうでもないように思われます。

インデックス投資は凄い、保有し続けることは威力がある。これらは、自分なりに投資を勉強して、下手くそなアクティブ投資を実行したあとに、身に染みてわかるものだからです。

結局、ある程度は自分で投資の本などを読み、投資経験を持たないと、インデックス投資に移行しないと思います。

前著から新しくなったところは、DCとNISAの解説および活用法が加わったことです。あともう1点は、債券についてです。先進国の金利低下が極まったので、国内債券に投資する必要は特にない、と述べています。これには私も同感です。

本書の特徴のひとつに、ファンドマネジャーへのインタビューがあります。今回もありまして、ETFマネジャーです。興味のある方はどうぞ。

まとめると、前著や山崎元氏の著作を読んでいる人は、特に読む必要はありません。付け足すのは、確定拠出年金やNISAの知識をアップデートすることと、低金利が今後どうなるかに注意することです。

本書は、投資に興味がない一般人に、手間のかからない合理的な運用方法を教えることを目的にしています。しかし、それにしては難易度が高過ぎます。

著者たちには物足りないでしょうが、投資の基本や運用方法をもっとやさしく説明しないと、一般人には理解できません。実質的には、本書はインデックス投資マニアのための本です。
(書評2015/06/21)

「内藤忍の資産設計塾 第4版」 内藤忍(著)

 

内藤忍氏による、資産運用のベストセラーの第4版です。長期投資のテキストとして読むことができます。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

経済面の人生設計を考えたい人。
長期の投資について勉強したい人。
難易度は、初級者向けレベル。

 

要約と注目ポイント

人生を国家や会社に頼れない時代になった。お金の知識が必要だ。

日本人の保有する資産は、円資産の預貯金に偏り過ぎでリスクがある。現在、円安とインフレという2つのリスクがある。これに対処するためには、資産の現状把握、投資の目標設定、資産配分の決定という順に行動していく。

 

資産運用の前に

お金は目的でなく手段である。人生の目標を考え、いつまでにいくらのお金が必要か数値化する。環境変化に応じ、目標は柔軟に修正する。

企業経営者のような視点で、長期計画を立て運用方針を決定し、分散投資でリスク管理をし、定期的にモニタリングしていく。

情報収集し、環境変化に対応する。自分の頭で考え、自分で決める。わからないものには手を出さない。投資は楽しむものではないので、効率的に。長期で続ける。

お金はただの道具です。自分の人生をよりよくするための。ですのでお金は、長期で計画を立て、長期で運用します。

 

資産運用の基礎知識

まずリスクとリターンの関係を考える。特に最大損失を想定する(標準偏差の2倍程度)。リスクは分散投資で減らせる。

投資の成果の約8割は、資産配分(アセットアロケーション)で決まる。資産配分が一番大切なので、これに最も気をつかうこと。

長期と短期を考えて投資をする。長期投資は、主に経済全体の成長を享受する。ベータの部分のリターン(インデックス投資)が該当する。アルファの部分のリターンは、特定の資産への投資(アクティブ投資)で得られる。

インデックス投資が主役。アクティブ投資は脇役(補完的)。

個人投資家は積立投資から始めよう。(大失敗は避けられる。)

リスクを減らすため、外貨資産も保有しよう。

行動心理学を知って、感情的な投資行動を避けよう。

日本と外国の資産に分散して、インデックス投資を続けるのが基本です。投資に関心があるなら、自分で投資対象を選んで、少しずつアクティブ投資もしてみましょう。

 

金融商品のリスク

金融商品には5つのリスクがある。
(価格リスク、金利リスク、為替リスク、信用リスク、流動性リスク。)

価格、金利、為替のリスクは、マーケットに付随したものである。信用リスクは株式で取り、債券では取らない。流動性リスクは取らない。

リスクを考慮し、金融資産を6タイプに分ける。
(流動性資産、日本株式、日本債券、外国株式、外国債券、その他。)

インデックス投資にもマーケットに付随したリスクはありますが、投資をする以上、このリスクは取るしかありません。投資対象が破綻する信用リスクを取るなら、債券ではなく株式で取る。売りたいときに売れなくなる流動性リスクは、どんな投資対象でも取らない。ということになります。

それぞれの金融商品の解説

投資信託の解説。資産運用の基本となる。

ETFの解説。海外ETFの解説。

日本株式の解説。

日本債券の解説。現状では、個人向け国債の変動10年が良い。

外国債券の解説。

FXの解説。

リートの解説。

オルタナティブ投資の解説。プライベートエクイティとヘッジファンドのこと。

個人投資家に関係ありそうな金融商品は、きっちりと解説されています。

 

資産運用の方法

運用を継続できる最大損失はどこまでかという、自分のリスク許容度を知る。標準偏差の2倍程度のマイナスは、平常時もありうると覚悟する。アセットクラス同士の相関関係を理解する。

資産を6つに分類する。
流動性資産、日本株式、日本債券、海外株式、海外債券、その他(不動産や商品など)。

現在保有する資産の運用と、これから積み立てる資産の運用を合計して計画を立てる。大まかな運用利回りと、予定が決まっている支出を考える。時間の経過とともに、計画は修正していく。

計画から資産配分を考える。10万円から1000万円までのポートフォリオの例。

現在保有する資産を洗い出す。資産配分の計画と比べる。少しずつ差を埋めて、計画に近づける。

3カ月に1回、資産状況をチェックする。1年に1回、計画からのずれをリバランスする。

堅実な方法なので、読むと勉強になります。

 

実物資産を含めた運用

実物資産は、金融商品とは異なり価格の歪みが大きく(市場が非効率)、利益が狙える。実物不動産は、減価償却という税制上のメリットがある。

海外不動産の解説。日本の不動産の解説。

ワイン投資の解説。

貴金属の解説。

実物資産を組み込んだポートフォリオの例(3000万円から1億円)。

 

その他の解説事項

海外口座のメリットとデメリット。

NISAの活用法。

マイホーム購入と住宅ローン。

保険について。

市場の暴落時。

などなど‥‥

 

書評

このシリーズは、表紙が著者の内藤氏のお写真で派手な印象ですが、中身は地味です。本の内容は、堅実でスタンダードな解説になっています。

前著でも思ったのですが、普通の個人投資家が投資対象にするような資産(投資信託とか株式とか債券とか)が網羅されていて、すごく手堅い説明でまとめられています。投資に興味を持ってやさしい入門書を数冊読んだ後の人が、投資の全体像を勉強するのに適していると思います。

長期投資の基本を知るのに、良い本だと思います。ただ著者は最近、ワイン投資や海外不動産を推しているらしく、そういった方面の本も書かれています。(本屋で見かけただけで、私は読んでいないのですが。)

フツーの個人投資家は特殊なことに資産を集中させるべきではない、と私は考えますので、ワインや海外不動産の解説は参考程度でいいかなと思います。

それから、資産ポートフォリオの例がちょっと気にかかります。資産額の多い例では、実物資産が組み込まれていますが、実物資産の比率が高過ぎるように思います。これは個人的な好みもあるのですが、私は身軽な方が良いので、実物不動産の比率が高いのはやや躊躇します。
(書評2015/06/13)

「日経平均トレーディング入門」 國宗利広(著)

 

30年間トレーダーとして過ごした著者が、日経平均の本質を語ります。日経平均とは何か、勉強できる本です。

 

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

今後の日本株式市場が気になる人。難易度は、初級者レベル以上。

 

要約と注目ポイント

日本株式市場を代表する指数といえば、日経平均。日本経済とも深く関係するように思われ、国民にも馴染みのある日経平均だが、その実態を知る人はとても少ない。

日本株に投資をするなら、日経平均についてもっと知るべきだ。

 

日経平均の特徴

ボラティリティが高い。

時価加重平均でもNYダウ式単純平均でもない、ハイブリッド指数である。

先物の売買シェアは、外国人が7割。外国人の動きで方向が決まる。

 

日経平均とアベノミクス

2012年末以降の日経平均は、株価をきわめて重視する安倍政権のリフレ政策アベノミクスと、日銀の異次元緩和の影響が大きい。

だが株価が上がるかどうかは、リフレ政策が理論的に正しいかどうかは関係なく、ヘッジファンドの投機的資金が集まるかどうかで決まる。(2兆ドル以上の資産にレバレッジがかかる。)

FRBが金融緩和を止めたあと、ヘッジファンドが日本の株を買うのか?

 

日経平均を動かす外国人の力は、非常に強いです。そして異次元緩和以降は、中央銀行相場ともなっています。これらの相互作用の結末はいかに?

 

日経平均とバブル

バブルは、壮大なテーマ、大きな投資主体、便乗する欲深い投資家の群れ、という要素の相互作用で発生する。

 

1980年代後半のバブル

テーマ:低金利と豊洲の再開発

投資主体:経験の浅い機関投資家と営業特金(事業法人の資金を証券会社が運用)とファントラ(信託銀行が運用)

バブル崩壊のきっかけ:不動産融資の総量規制と営業特金の廃止

 

現在進行形の相場

テーマ:デフレからの脱却

投資主体:外国人投資家

値動きの激しい日経平均先物は、外国人投資家の大好物となっている。歴史上、バブルは何度でも繰り返してきた。現在の相場も、バブルに至る可能性はある。

 

先進国の中央銀行が金融緩和を続けているため、資産価格にバブルの疑いがあります。

 

日経平均の歴史

日経平均株価指数、誕生から現在までの歴史を解説。

日経平均の性質は、銘柄入れ替えを境に変わった。

2000年に30銘柄の一斉入れ替えが行われた。このとき1週間の準備期間をおいたために、除外銘柄が極端に売られ、採用銘柄が極端に買われた。存続する195銘柄の合計株価より、新規30銘柄の合計株価の方が高かった。

このような歪みのため、入れ替え前後で日経平均は2000円下落し、存続銘柄の指数への寄与度はいきなり半減した。

2005年には、みなし額面方式へ移行した。これによって、分割銘柄の指数寄与度が上がり、除数も低下しなくなった。日経平均は上がりにくい、特殊な指数になってしまった。

 

日経平均には225も銘柄がありますが、指数に与える寄与度としては、一部の銘柄が突出しています。

 

日経平均の先物を理解する

(信用取引を含む)現物市場は株券が存在する有限の世界だが、先物市場は資金さえあれば無限に取引できる。

信用残は主体的な取引の結果なので分析の対象となるが、裁定残は裁定業者の受動的な結果なので分析の対象にはならない。

先物取引は短期トレードである。短期トレードで最も大切なのは、正しい思考法である。

『どちらに動くかわからないが、不定期にトレンドが発生するので、可能性があれば乗り、間違ったらすみやかに降りて、適切な期間トレンドに乗り続け、適切に資金管理を行う。』

はじめに身につけるべきは規律(損切り)。

 

日経平均先物で勝つ

短期トレーディングの鉄則は、弱いヤツを探し、彼らの行動を予測してその逆を行くこと。弱いヤツとは、決断が遅く行動が遅く、過去の実績やコンセンサスを求め、未来を見ず主体的に動けないため、窮地に陥っている人である。

外国人は素直にシンプルに考え、大胆に動く。市場を動かす外国人が大きく動き、弱いヤツが出遅れているときに、思い切って行動できるかが勝負だ。

市場パターンや外部環境の変化について経験を積み、機械的にトレードして規律を守りながらも、それらをすべて包括する直感を使うことが相場では必要。

先物市場では、時間枠で投機と実需を区別して考えるのが重要だ。反対売買できなかった投機が、新たな実需にぶつかるまで値が動く。需給を自分で見抜く力が要求される。

大口の投資家は、隠密に行動する(買い上げたり売り叩くことはない)。夜間は、裁定取引や国内機関投資家の実需が少なく、より投機で動く。

 

ゼロサムゲームの先物市場では、勝者と敗者がくっきりと分かれます。

 

市場に関する解説で、よくある誤り

裁定残が多いと要注意で、少ないと好需給。

金利が上昇すると、解消売り。

外資系の決算期末には、解消売り。

市場の急変動はアルゴが原因。(順張り系アルゴが連鎖することはあまりない。)

オプション建玉の多い方に、相場が動く。

幻のSQは、相場の転換点。

VIXで相場の流れがわかる。

大口の手口情報。

 

新聞やネットのよくありがちな解説記事を、うのみにするのはやめた方が良いかもしれません。

 

そのほかの解説事項

裁定取引やレバレッジETFなど。

 

書評

日経平均の知識を得るために読みましたが、面白かったです。金融市場の現場にいる人にありがちな、ちょっと斜に構えたような、皮肉っぽい表現も多いのですが、面白いし、知らなかったことがたくさんありました。日経平均指数の性質の解説は、勉強になりました。

とはいえ、実戦の先物短期トレーディングは私にはさっぱりわかりません。そのため、需給を読めとか、板から情報を読み取れと言われても、どうにもなりません。そういうものなのか、としか言えないので、おすすめ度は★5個の普通にしてあります。

著者は金融市場(トレード)の世界で30年やってこられたようなので、あらゆることを考え体験し、一周回ってきたという感じです。淡々と市場を冷めた視線で眺めているような印象です。
(書評2015/05/29)

「いつも出遅れる人の株講座」 太田忠(著)

 

アナリスト、そしてファンドマネジャーとして日本株を知り尽くす著者が、アベノミクス相場を解説します。「株が上がっても下がってもしっかり稼ぐ投資のルール」と合わせて読めば、効果倍増です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

アベノミクス相場に乗れず、悔しい人。難易度は、初級者向けレベル。

 

要約と注目ポイント

個人投資家は、株価が相当上昇してから市場に参加し、売らずに下落相場に巻き込まれることが多い。「買い」も「売り」も遅れがちな個人投資家に、株式投資の基本を伝えるのが本書の目的である。

株式市場では、社会的常識が通用しない。自分に都合のよい仮定や、判断の遅れ、乗り遅れたという焦りは失敗のもと。投資について無知ならば、人生を失うことすらある。

投資の結果は、「気づく」か「気づかない」かで大きく変わる。

相場の循環というのは、何を買っても儲かる上昇相場から始まります。それが慢心を生み、最後に大損失につながります。まずは相場の歴史をよく学びましょう。

株式投資をはじめる前に覚えておくこと

投資で利益をあげるには、安く買って高く売る、高く売って安く買い戻す、のふたつしかない。

高値や安値を、正確にとらえることは不可能。投資では、時間も分散せよ(資金の余力を残せ)。

株は、安値をつけたら割安で高値をつけたら割高、とは限らない。(新安値はさらに下がりやすく、新高値はさらに上がりやすい。)

含み益は、売らない限り現実の利益ではない。含み損は、今すでに存在する損失である。

ポートフォリオのうち、含み益のある銘柄は残し(買い増し)、含み損のある銘柄は損切りするべきだ。

自分の投資行動パターンを認識し、誤りを修正せよ。

信用取引や先物取引は、レバレッジのかかったゼロサムゲームと認識せよ。

損失限定のリスク管理と、着実な利益確定のため、逆指値注文を利用する。

マネー雑誌などの大儲け話を、真に受けない。大儲けした人の裏側には、大損した人が多くいる。

投資を始めるときは、まず投資をする目的を考える。そして、お金を安定運用資金と長期運用資金に分ける。安定運用資金は、予定されている支出のためのもので、預金などで運用する。長期運用資金は、複利で殖えるように運用していく。

利益は必ず確定させ、常に危機を想定して、投資資金を守ることが大切だと伝わってきます。

株価が上下する理由を知る

マーケット全体が上昇する理由(景気拡大、世界経済好調、景気刺激策、金融緩和策、円安、金利低下、市場の売買が活発)。下落はその逆。

個別銘柄が上昇する理由(業績拡大、業績回復、増配、自社株買い、ブームやテーマに該当)。下落はその逆。

銘柄の選び方

①会社四季報や日経会社情報を読む。

②気になる会社のホームページを見る。

③会社説明会資料を読む。

④決算短信を読む。

⑤PERとPBRで、投資判断をする。競合他社や、自社の過去の水準と比較する。

投資してはいけない会社の特徴

業績が不安定、業績見通しが甘い、ビジネスモデルが崩壊、事業計画が迷走、株主軽視、頻繁な社名変更や監査法人変更。

2015年現時点で有望な銘柄

インフラ(建設・不動産)、売上増(インバウンド関連)、値上げできる(食品など)、円安メリット(輸出関連)、原油安メリット(電力・運輸)、全国や世界に展開(小売など)、株主還元やROE改善、革新的新事業、新高値更新、忘れられている銘柄。

投資期間別の銘柄3分類

長期トレード銘柄:3年以上。景気とはほぼ無関係に、業績が安定して成長する。小売りやサービス業で、一般消費者相手に徐々に規模を拡大する会社。例はユニクロ。

スイングトレード銘柄:数カ月から数年。景気敏感株や市況連動株。大半の銘柄が該当する。例はコマツ。

デイトレード銘柄:デイトレードは専業でやらないと無理。テーマ株やブーム株はマネーゲームと心得る。

銘柄選択や分類では、著者の長年の経験が学べます。

上昇相場での投資

パターンとして、マーケット全体が2~3段階にわたって上げる。

①初期:(景気で循環する)景気敏感株を買う。金融や不動産株を買う。

②中~後期:国策に売りなし。国策銘柄を買う。好業績(特に営業利益が伸びている)や上方修正銘柄を買う。

下落相場での投資

こちらもパターンとして、2~3段階下げるパターンが多い。下落相場でこそ、投資家として生死が分かれる。リスク管理が必須。ほとんどの投資家は対応できない。

下落相場では休むのが賢明だが、積極的な投資家なら、日経平均株価などのインバース型ETFを買うのもよい。必ず逆指値をつけて、個別銘柄を信用取引で売るのもあり。保有銘柄をつなぎ売りする方法もある。

景気は循環し、相場は繰り返します。著者の見解は参考になります。

投資における金言の紹介。

時間は運用の武器。分散投資の重要性。売買も時間的に分散する。リスク管理の大切さ。相場は循環する。バブルは繰り返し起こる。過去の好パフォーマンスは繰り返さない。大化け銘柄の特徴。などなど。

気に入った金言があれば、自分への戒めに使いましょう。

 

書評

読んでみると、そうだよなと感じることが多い内容です。でも、なかなか実行できません。利益を大きく損失を小さくするトレード、投資というのは簡単ではありません。買いから売りまで、会心の出来というのはほとんど記憶にないです。

本書の中身は結構「株が上がっても下がってもしっかり稼ぐ投資のルール」と被っていますが、本書の方が軽く読める仕上がりです。教訓的な話が多くなっています。

どちらを読んでもいいですが、自分で投資ルールをつくりたい場合は「株が上がっても~」が良いかと思います。こちらは今から市場に参加するなら、注意喚起として役立つかもしれません。

アベノミクス相場は終盤戦と思いますが、現時点でまだ終わりではないと考えています。まだバブルは膨らみきっていないと思っています。バブルは最後に大きく伸びるそうなので、欲深く日本株をまだまだ買っていますが、いきなりはしごを外されないように損切り覚悟です。本書にある、光通信を最高値で買った話などを聞くと、本当に怖くなります(そのあと20日連続ストップ安)。

投資は考え始めると本当に難しいです。長年プロとしてやってきた方の経験が詰まった本なので、自分で投資するときに助けとなる、良い「気づき」に遭遇するかもしれません。
(書評2015/05/25)

「クオンツトレーディング入門」 リシ・K・ナラン(著)

 

アルゴリズム取引で市場を動かすクオンツ。クオンツのトレード手法とはどんなものか、理解に役立つ1冊です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

クオンツ戦略の概要を知りたい人。

 

要約と注目ポイント

本書では、ブラックボックスとされるクオンツトレーディングについて、正確に評価する枠組みを提示する。

アルファを追及する戦略に焦点を当てて解説する。

 

クオンツとは

クオンツトレーディングとは、徹底的な調査に基づいて人間が作成したトレーディング戦略を、コンピュータがシステマティックに実行することである。

リサーチ、データ収集とその編集や加工、投資対象の選定、戦略の決定は人間(クオンツ)が科学的に行っている。規律正しくクオンツ戦略を実行し、トレードを反復するのはコンピュータである。

市場において、クオンツのアルゴリズム取引の比率は高まってきており、その影響は大きい。

クオンツに必要な能力

クオンツはあらゆることを定義づけるために、深く掘り下げて考えなければならない。

この科学的思考が、クオンツの優位性である。大局的な視点、細部の厳密な思考はともに重要だ。

トレーダーには、リスクに対する正しい理解と測定が必要だ。間違ったリスク測定に過度に依存したとき、問題が生じる。

クオンツに学ぶべきは、規律正しい戦略実行である。人間(自由裁量のトレーダー)は感情に動かされやすい。

科学的思考により緻密に構築されたシステムを、規律正しく実行するのがクオンツです。

クオンツトレーディングシステムの基本的構造

アルファモデル:リターンを獲得するための将来予測モデル
リスクモデル:損失を限定させるためのモデル
取引コストモデル:ポートフォリオ変更にかかるコストを計算するモデル

これら3つのモデルの、利益追求、損失限定、コスト制約の要素がポートフォリオ構築モデルに取り込まれる。

ポートフォリオ構築モデルが最良のポートフォリオを決定する。それをめざして執行モデルがトレードする。

クオンツトレーディングシステムには、データとリサーチが不可欠である。システム構築後でも、多大なリサーチが必要となる。

 

アルファモデル

ベンチマークを超えるリターン部分、アルファは、ポートフォリオの選択とサイジングをいつ行うかというタイミングから得られる。

いつ売買するかというタイミングを図るためにクオンツが構築するのが、アルファモデルである。

アルファを追及する、核となるトレーディング戦略は多くない。しかしこれらの基本的戦略を実行する方法は多岐にわたる。

アルファモデルは、予測する対象、予測する期間、予測方法(資産そのものを評価するか、資産間の比較で評価するか)、戦略の適用対象、モデルの具体化(定義)、実行頻度で分類できる。

理論駆動型とデータ駆動型

クオンツは、理論駆動型とデータ駆動型に分かれる。

理論駆動型は、市場を観察して現象を説明できる一般化理論を考え、データで検証し理論の正誤を確かめる。

理論駆動型戦略には、トレンド、平均回帰、バリュー・利回り、グロース、質という5つの概念がある。これらは裁量トレーダーと全く同じである。

トレンドと平均回帰は価格データに基づく。バリュー・利回り、グロース、質はファンダメンタルデータに基づく。

データ駆動型は、市場を観察して正しく分析できれば(パターン認識できれば)、理論は必要ないとする。

データ駆動型戦略の特徴は、高度の数学を用い難しいことと、パターン認識が正しければ人間に理解できる理論は必要ないことである。この戦略では、利用するデータの選択と、データに含まれるノイズが問題となる。

アルファを追求する戦略でも、理論駆動型はわかります。売られ過ぎ、買われ過ぎを狙う平均回帰とか、割安株と割高株の裁定などは、素人でもその概念は理解できます。データ駆動型は、素人にはちょっと難しいかもしれません。

リスクモデル

リスク管理

リスク管理とは、リターンの質と安定性を向上させるために、エクスポージャーを意図的に選択して、望ましいエクスポージャーの大きさを管理し、望ましくないエクスポージャーの対処をすることである。

リスク管理の方法

リスクサイズを制限する。
1つのポジションの最大量を、ポートフォリオ全体の一定比率以下にする。
ボラティリティからリスクを測定する。
ポートフォリオ全体のレバレッジを管理する。
偶発的なエクスポージャーを排除する。
システマティックリスク(市場そのものからのリスクなど)を特定し低減する。

などの方法がある。

リスク管理の方法にも、個人投資家が学べるところはあります。1銘柄のポジションの最大量を抑えるとか、ポートフォリオ全体のレバレッジを抑えるなど、基本に思われます。

取引コストモデル

取引コストモデルは、任意のトレード(現在のポートフォリオから望ましいポートフォリオに変更するトレード)にかかるコストを計算する。

取引コストには、売買手数料、スリッページ、マーケットインパクトがある。

ポートフォリオ構築モデル

ポートフォリオ構築モデルが、アルファモデル、リスクモデル、取引コストモデルの3つを基にして、ポートフォリオを決定する。

ポートフォリオ構築には、ポジション均等加重、リスク均等加重、アルファ駆動型加重、決定木による加重の4タイプがある。

現代ポートフォリオ理論に基づいて、ポートフォリオは最適化される。期待リターン、期待ボラティリティ、資産の相関マトリックスが用いられる。クオンツによって、少しずつ異なる最適化手法がとられる。

執行モデル

目標ポートフォリオが決定したら、執行モデルに従いトレードされる。

注文執行のアルゴリズムでは、考慮する要素は多い。どれほど積極的に注文を出すか(成り行き注文、指値の価格、数量、頻度)、複数の市場への注文、他のトレーダーの注文状況、取引の執行状況などにより、高速で最適に処理されるようなアルゴリズムでなければならない。

アルファモデルによって、最適な執行モデルも変わってくる。最先端のテクノロジーと巨額の資金が投入され、競争は厳しい。

データ

データはきわめて重要である。クオンツトレーディングシステムは入出力モデルであるから、悪いデータが入力されれば、システム内部のモデルが優れていても、悪い結果が出力される。

データには、価格データとファンダメンタルデータがある。価格データに基づくトレーディング戦略は、ファンダメンタルデータによる戦略より、短期の高速トレーディングになりやすい。

データは一次資料供給源の生データのほか、データを使用しやすいようにまとめた二次データベンター、三次データベンターから入手する。

こうして入手したデータだが、欠損や間違い、データ発生時刻の記録のずれなどがある。そのため、データのクリーニングや保存が必要である。

リサーチ

クオンツはリサーチを科学的方法で行う。これにより論理と一貫性がもたらされ、クオンツトレーディングシステムは厳密性と規律を保つ。

また市場は変化し続けるので、継続的にリサーチは行われる。

リサーチの中核となるのが検証である。検証は複雑すぎても簡単すぎてもいけない。検証には、取引コストの推計や空売りが可能かといった仮説も必要となる。

個人投資家も、過去の取引の検証をして、反省をした方が良いと思います。

投資家とクオンツ戦略

モデルリスク

クオンツシステムのリスクのひとつに、モデルリスクがある。

これは現実世界を近似するモデル化に、エラーが存在したときに起こる。誤った適用や定式化、実装エラーなどがモデル化でのエラーの原因となる。

また、市場の振る舞いの変化や外因性ショックにより、モデルは打撃を受ける。

外因性ショックとは、9.11同時多発テロ、イラク戦争開始、ベア・スターンズ救済決定、サブプライムローン危機時の金融株空売り規制実施などであり、モデル化できないので自由裁量で対処することになる。

リスクの具体例は想像できなくても、空想レベルでは日頃からいろいろ考えておくと良いでしょう。

伝播リスク

クオンツシステムのリスクには、伝播リスクもある。

これはクオンツ戦略自体のリスクではない。多くの投資家が同じ戦略を選び、市場で同じ戦略に基づく巨大なポジションが形成されたときのリスクである。

リスク管理も同じようなモデルで行うので、何らかの理由でどこかのクオンツに損失が発生しロスカットが生じると、同じ戦略の他のクオンツの損失が拡大し、ポジションを縮小する動きが連鎖的に発生する。

このように、同時に同じ方向に損切りトレードが殺到すると、流動性が失われる。

流動性が失われたことにより、巨大な損失を埋めるために、他の無関係な戦略の流動性がある資産を投げ売りせざるをえなくなり、別の戦略のクオンツにも影響を及ぼす。

このクオンツのリスクイベントは、2007年8月に発生した。

大口の機関投資家などが、同じ戦略で同じ方向に投資していると、危険なことが起こります。投資対象が混雑しているときは、避けることが賢明です。

クオンツへの批判

クオンツは長年批判を浴びてきた。その批判には、妥当なものも不当なものもある。

市場の計量化の批判については、完璧はありえないが、かなりの精度を持たせることはできると考える。クオンツがリスクを過小評価しているという批判については、モデルの仮定に誤りがあると言える。

また、クオンツがボラティリティを高めているという批判は間違いだ。2008年の金融危機はクオンツが原因ではないし、クオンツは危機をうまく乗り切ったと言えるだろう。

クオンツはヒストリカルデータに依存するが、市場の急激な変化に全く対応できないわけではない。

クオンツは皆同じという批判は誤りで、非常に多様な戦略がある。

クオンツは、規模が大きい方が有利ということはない。データマイニングも、正しく行えば経験科学となる。

投資家がクオンツを評価するには

クオンツと信頼関係を築き、事前に一般的なクオンツ戦略を学習してからクオンツに質問する。質問から得た情報は整理して管理する。細部について質問することで、人間性やスキルを推測できる。

クオンツは、限定された資源で最大の利益を生む投資を求められる。そのため、ポートフォリオマネジャーやCEO、資源配分者と似た資質がある。

成功するクオンツは、非常に細かい部分で正しい判断ができ、さらにそれを改善していくタイプだ。

クオンツには優位性(エッジ)が必要だ。エッジの源は、投資プロセス、競争がないこと、構造的要素(規制や立場など)である。

クオンツに投資するときは、クオンツがとる戦略が分散するようにポートフォリオに組み込む。

 

書評

本書では、ファンダメンタルデータをもとにした長期的な運用のクオンツ手法、高頻度トレードなど短期の運用のクオンツ手法のどちらも扱っています。

市場が荒れると、ヘッジファンドやアルゴリズム取引のせいにされがちです。そういった要因もあるでしょうが、ヘッジファンドやクオンツも所詮は人間のやることです。

「ヘッジファンド投資ガイドブック 金融危機が明らかにした絶対リターン型資産運用の有効性」を読んだときも感じましたが、ヘッジファンドやクオンツの戦略自体は飛び抜けたものではないように思います。少なくとも人智を超えるような、神の行為ではありません。

クオンツと非クオンツを分けるものは何なのか、本書では説明があるのですが、具体例が面白かったです。

例えば、シェブロンとエクソンモービルは似た銘柄です。これらを比較したとき、一時的にシェブロンの株価が安くエクソンモービルが高ければ、シェブロンを買いエクソンモービルを売る裁定取引は誰でも思いつきます。

この戦略はクオンツでも非クオンツでも行います。戦略が違うのではなく、徹底して考えるかが違うのです。銘柄が「似ている」とはどういうことか、株価が「乖離」しているとはどういうことか、といったことを徹底して考えます。

もっと簡単な例ですと、安い株を見つける、というのは誰でも考える戦略です。クオンツの場合、システム化してコンピュータに自動取引をさせるため、すべてを定義づける必要があります。

そのため、深く掘り下げて考えることになります。「安い」とはどういう状態か、「株」とは何を指すのか、「見つける」とはどういうことか、すべてを定義づけられるまで考えます。そしてその戦略が妥当か、リサーチとデータ分析を極限まで突き詰めます。

この深い思考とリサーチの突き詰め方が、クオンツなのです。

本書の出版はサブプライムローン危機後なので、2007年8月に起きたクオンツの損失イベントや、2008年のリーマンショックも考慮されて書かれています。

これらの事象も踏まえて、実務者が冷静にクオンツ戦略を解説しているので、勉強になります。クオンツ戦略を、そのまま個人投資家が応用することはできません。ただトレードの戦略の立て方ということでは勉強できます。

本書の著者はクオンツトレーダーなので、非常に冷静で論理的なマーケットへの向き合い方を知ることができます。

市場に勝ってアルファを得る戦略とは何か。その戦略をとったときのリスクはどう計測され、どうすれば損失を抑えられるか。戦略を実行するときのコストはどれだけか。それらを総合的に判断した、最良のポートフォリオはどうなるか。現在のポートフォリオから最良のポートフォリオに移行するのには、どのようなトレードをするのが最善か。

これを論理的に精密に組み立てるのがクオンツです。合理的に戦略立案から取引執行まで行い、再びリサーチするという、この科学的思考は学ぶべきものかと思います。

ところで、「フラッシュ・ボーイズ」の主題となった高頻度取引ですが、本書の執行モデルの箇所で登場します。原著は2009年出版なので、そのころにはクオンツでは常識になっていたのでしょう。

クオンツが執行モデルについてもとことん考え抜いたら、他の発注者を出し抜く超高速取引に行き着いた、という印象も受けました。
(書評2015/04/11)

「相場師一代」 是川銀蔵(著)

 

日本を代表する相場師、是川銀蔵氏の自伝です。相場師としての人生と考え方をまとめました。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

是川銀蔵氏に興味がある人。

 

要約と注目ポイント

ブラックマンデーと1980年代末のバブル相場

至極真面目に株を扱い、着実な方法を取れば利殖となるが、大金持ちになりたいという目的でやれば失敗する。借金をせず、余裕資金で買え。

商店の小僧、天下取りを夢見る

商店の小僧だったが、天下取りを夢見て、勤め先の倒産を機にロンドンをめざす。しかし第一次大戦が勃発しロンドン行きは不可能となり、山東半島へ出兵した日本軍の御用商人となるべく、青島まで歩く。行き倒れて日本に送還されそうになるが、何とか軍の経理の手伝いとして働き口を得る。

現地で中国人から食品を仕入れ、軍に売る商売を始める。商売は急拡大するが、同業者に疎まれ、軍高官への贈賄で逮捕される。無罪釈放となるが、正道を歩もうと決意し帰国する。

帰国したが仕事がないので、半年もせずに青島に戻る。非鉄金属が高騰していたので、中国通貨の一厘銭を集め溶解し、延べ棒を日本へ輸出し始める。通貨の改鋳は死刑だが、日本人は治外法権ということでこれを回避する。

輸出禁止措置については、日本の税関長を脅迫して黙らせる。大儲けに成功したが、そのあと日本軍に金を貸して踏み倒され、非鉄金属も暴落し、無一文となって日本へ帰る。

日本で再起

南方へ行って一旗揚げたいので、細工をして徴兵を回避する。実家の仕事を押し付けられるがすぐに飽き、大阪で金属加工と販売の会社を興す。好景気で大いに儲けたが、過労で入院する。

入院中、健康について思索し、自然食(粗食)を続け、アルコールと女遊びを避け(もともとしていなかったが)、100年生きようと考える。

やると決めたことはとことんやり、やってはいけないことは絶対にやらないという意志の強さが、相場師として成功した理由だ。

関東大震災で大儲け、昭和の恐慌で倒産

関東大震災の第一報の号外で、トタン板や鉄板、釘を全力買いする。直後に高騰したので、工場の借金を返し、寄付までした。工場経営も順調だったが、昭和二年の金融恐慌に巻き込まれ、倒産する。

債務はきれいに清算して、京都の嵐山に隠棲した。この金融恐慌が資本主義の終末なのか考えるためだ。三年間、貧窮生活を送りつつ図書館にこもり、経済関係の資料を読みつくす。そして資本主義は崩壊せずという結論に達した。

形を変えながら経済は変動を繰り返す。利潤を追求するため、経済は不規則だが一定のリズムで変動するのが自然である。資本主義から共産主義には移行しない。

相場師誕生

経済の法則を発見したので、株式市場で勝負する。売買で勝ち続けると人が集まってきたので、経済研究所を設立する。とにかく自分で確信を持てるまで、観察し研究し分析することが大切だ。アメリカの金本位制停止も、データから予測できた。

経済を研究すると、国際情勢も理解できるようになる。対米英戦が不可避と確信し、軍備増強の必要性を講演しているうちに、憲兵隊と特高警察の監視対象になる。

軍備力増強に貢献するため、自分も朝鮮半島で鉱山開発をする。小磯国昭朝鮮総督の知遇を得て、猛烈に事業を拡大するが、敗戦に至る。

財産は没収。逮捕され、処刑されそうになるが、朝鮮人社員を日本人と平等の待遇にしていたので解放される。

戦後、また復活

再び無一文で日本に帰るが、マッカーサーの占領政策に激怒する。日本の農業生産量を向上させるため、米の二期作の研究に邁進する。多くの人の協力もあり、米の二期作に成功する。資金も尽きたので、成功を機に株式市場へ復帰する。

株式投資の奥義

株式投資の基本は、カメ三則。

①株価が水面下の優良銘柄を選び、じっと待つ。

②経済、相場の動きを常に観察し、勉強する。

③過大な欲を持たず、手持ち資金で投資。

戦後の大勝負

土地の高騰を予測し、堺市近郊の土地を購入する。ニュータウン構想が持ち上がり、土地を売却すると三億円になった。三億円を元手に、大規模な公共事業政策を見込んで、日本セメント株を買い占める。

「もうは、まだなり。まだは、もうなり。」高値で株を手仕舞うことに成功し、三十億円を儲ける。腹八分目で手仕舞うことが大切だ。

次は銅価格が上昇すると読み、同和鉱業を買い占め、仕手戦となる。予想通り銅は値上がりし、同和鉱業株は高騰する。

しかし連日の急騰に欲ボケし、当初の手仕舞い予定を変更し、さらに高値で売ろうとする。株価は天井を打ち下落を始めたが、こうなると持ち株が多過ぎて売れない。安値を切り下げるなか、命からがら処分した。

隠居、でも最後の大勝負

株式市場から足を洗い、子供たちのため奨学金援助を行う財団をつくる。福祉事業を運営して平穏な生活を送っていたが、日経新聞の金鉱脈発見の記事を読み、興奮が抑えられなくなる。超優良な金鉱脈の存在を確信し、住友金属鉱山株で大勝負に出る。

「踏み出し大切なり。」買い出動の時期が決定的に重要である。仕手戦は一進一退となるが、「必ず強欲を思わず、無難に手取りして商仕舞に、休むこと第一なり。」、一時休むことにする。相場道は、売り、買い、休み、の三筋道である。

住友金属鉱山の金鉱開発実施という公式発表により、ついに株価は暴騰する。「相場は天井において最も強く見え、底において最も弱く見えるもの。」「売りは迅速、買いは悠然。」、高値での手仕舞いに成功した。

翌年、高額所得者番付で一位となる。一生のうち、二度や三度のチャンスはある。それを活かすには、日常の努力と精進、理論と実践、日々の思考の訓練、真剣勝負の経験と勝負勘が必要だ。

個人投資家への助言

①銘柄は自分で勉強して選べ。他人の話や、新聞・雑誌の勧めで選ぶな。

②二年後の経済の変化を自分で予測し、大局観を持て。

③株価には妥当な水準がある。値上がり株の深追いは禁物。

④株価は最終的に業績で決まる。腕力相場は敬遠する。

⑤不測の事態があることを覚悟しておく。

積極性、研究熱心、行動力、リスクを取りにいく胆力。これらは学びたい点です。

 

書評

著者の波乱に満ちた人生がわかる、熱い本です。すらすら読めて、まあ面白い本と言えます。若いときから行動力があり、いろいろなことによく気が付く人だ、鼻の効く人だなと思いました。

自分で書いた伝記ですし、同時代に生きていないので、本当のところ(事実関係)はよくわかりません。善悪などは微妙な感じです。正しく生きると決意した後、硬貨を改鋳して不法に輸出しているし。

肝心の相場師としてですが、相場以外の話が多く、実際の株取引についても、内容が少し古く感じられます。今日の市場に対して、何か教訓となるだろうかと考えると、残念ですがそれほどないような気もします。

しかし相場の天井や底についての考察、景気循環などは、現在でも通用しそうです。

本書から、是川氏がとても勉強し、研究熱心であることはわかります。図書館に三年間通って独学したなどのエピソードもありますが、晩年90歳近くで遭遇したブラックマンデーについて、これはコンピュータのシステム売買が原因の一時的な暴落だから買うべきと述べたりしています。

一生を通じて、ずっと好奇心を持ち研鑽を続けたことがうかがえます。このような姿勢は、成功のために必要な条件と感じました。
(書評2015/03/09)