「相場師一代」 是川銀蔵(著)

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日本を代表する相場師、是川銀蔵氏の自伝です。相場師としての人生と考え方をまとめました。

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対象読者層

是川銀蔵氏に興味がある人。

 

要約と注目ポイント

ブラックマンデーと1980年代末のバブル相場

至極真面目に株を扱い、着実な方法を取れば利殖となるが、大金持ちになりたいという目的でやれば失敗する。借金をせず、余裕資金で買え。

商店の小僧、天下取りを夢見る

商店の小僧だったが、天下取りを夢見て、勤め先の倒産を機にロンドンをめざす。しかし第一次大戦が勃発しロンドン行きは不可能となり、山東半島へ出兵した日本軍の御用商人となるべく、青島まで歩く。行き倒れて日本に送還されそうになるが、何とか軍の経理の手伝いとして働き口を得る。

現地で中国人から食品を仕入れ、軍に売る商売を始める。商売は急拡大するが、同業者に疎まれ、軍高官への贈賄で逮捕される。無罪釈放となるが、正道を歩もうと決意し帰国する。

帰国したが仕事がないので、半年もせずに青島に戻る。非鉄金属が高騰していたので、中国通貨の一厘銭を集め溶解し、延べ棒を日本へ輸出し始める。通貨の改鋳は死刑だが、日本人は治外法権ということでこれを回避する。

輸出禁止措置については、日本の税関長を脅迫して黙らせる。大儲けに成功したが、そのあと日本軍に金を貸して踏み倒され、非鉄金属も暴落し、無一文となって日本へ帰る。

日本で再起

南方へ行って一旗揚げたいので、細工をして徴兵を回避する。実家の仕事を押し付けられるがすぐに飽き、大阪で金属加工と販売の会社を興す。好景気で大いに儲けたが、過労で入院する。

入院中、健康について思索し、自然食(粗食)を続け、アルコールと女遊びを避け(もともとしていなかったが)、100年生きようと考える。

やると決めたことはとことんやり、やってはいけないことは絶対にやらないという意志の強さが、相場師として成功した理由だ。

関東大震災で大儲け、昭和の恐慌で倒産

関東大震災の第一報の号外で、トタン板や鉄板、釘を全力買いする。直後に高騰したので、工場の借金を返し、寄付までした。工場経営も順調だったが、昭和二年の金融恐慌に巻き込まれ、倒産する。

債務はきれいに清算して、京都の嵐山に隠棲した。この金融恐慌が資本主義の終末なのか考えるためだ。三年間、貧窮生活を送りつつ図書館にこもり、経済関係の資料を読みつくす。そして資本主義は崩壊せずという結論に達した。

形を変えながら経済は変動を繰り返す。利潤を追求するため、経済は不規則だが一定のリズムで変動するのが自然である。資本主義から共産主義には移行しない。

相場師誕生

経済の法則を発見したので、株式市場で勝負する。売買で勝ち続けると人が集まってきたので、経済研究所を設立する。とにかく自分で確信を持てるまで、観察し研究し分析することが大切だ。アメリカの金本位制停止も、データから予測できた。

経済を研究すると、国際情勢も理解できるようになる。対米英戦が不可避と確信し、軍備増強の必要性を講演しているうちに、憲兵隊と特高警察の監視対象になる。

軍備力増強に貢献するため、自分も朝鮮半島で鉱山開発をする。小磯国昭朝鮮総督の知遇を得て、猛烈に事業を拡大するが、敗戦に至る。

財産は没収。逮捕され、処刑されそうになるが、朝鮮人社員を日本人と平等の待遇にしていたので解放される。

戦後、また復活

再び無一文で日本に帰るが、マッカーサーの占領政策に激怒する。日本の農業生産量を向上させるため、米の二期作の研究に邁進する。多くの人の協力もあり、米の二期作に成功する。資金も尽きたので、成功を機に株式市場へ復帰する。

株式投資の奥義

株式投資の基本は、カメ三則。

①株価が水面下の優良銘柄を選び、じっと待つ。

②経済、相場の動きを常に観察し、勉強する。

③過大な欲を持たず、手持ち資金で投資。

戦後の大勝負

土地の高騰を予測し、堺市近郊の土地を購入する。ニュータウン構想が持ち上がり、土地を売却すると三億円になった。三億円を元手に、大規模な公共事業政策を見込んで、日本セメント株を買い占める。

「もうは、まだなり。まだは、もうなり。」高値で株を手仕舞うことに成功し、三十億円を儲ける。腹八分目で手仕舞うことが大切だ。

次は銅価格が上昇すると読み、同和鉱業を買い占め、仕手戦となる。予想通り銅は値上がりし、同和鉱業株は高騰する。

しかし連日の急騰に欲ボケし、当初の手仕舞い予定を変更し、さらに高値で売ろうとする。株価は天井を打ち下落を始めたが、こうなると持ち株が多過ぎて売れない。安値を切り下げるなか、命からがら処分した。

隠居、でも最後の大勝負

株式市場から足を洗い、子供たちのため奨学金援助を行う財団をつくる。福祉事業を運営して平穏な生活を送っていたが、日経新聞の金鉱脈発見の記事を読み、興奮が抑えられなくなる。超優良な金鉱脈の存在を確信し、住友金属鉱山株で大勝負に出る。

「踏み出し大切なり。」買い出動の時期が決定的に重要である。仕手戦は一進一退となるが、「必ず強欲を思わず、無難に手取りして商仕舞に、休むこと第一なり。」、一時休むことにする。相場道は、売り、買い、休み、の三筋道である。

住友金属鉱山の金鉱開発実施という公式発表により、ついに株価は暴騰する。「相場は天井において最も強く見え、底において最も弱く見えるもの。」「売りは迅速、買いは悠然。」、高値での手仕舞いに成功した。

翌年、高額所得者番付で一位となる。一生のうち、二度や三度のチャンスはある。それを活かすには、日常の努力と精進、理論と実践、日々の思考の訓練、真剣勝負の経験と勝負勘が必要だ。

個人投資家への助言

①銘柄は自分で勉強して選べ。他人の話や、新聞・雑誌の勧めで選ぶな。

②二年後の経済の変化を自分で予測し、大局観を持て。

③株価には妥当な水準がある。値上がり株の深追いは禁物。

④株価は最終的に業績で決まる。腕力相場は敬遠する。

⑤不測の事態があることを覚悟しておく。

積極性、研究熱心、行動力、リスクを取りにいく胆力。これらは学びたい点です。

 

書評

著者の波乱に満ちた人生がわかる、熱い本です。すらすら読めて、まあ面白い本と言えます。若いときから行動力があり、いろいろなことによく気が付く人だ、鼻の効く人だなと思いました。

自分で書いた伝記ですし、同時代に生きていないので、本当のところ(事実関係)はよくわかりません。善悪などは微妙な感じです。正しく生きると決意した後、硬貨を改鋳して不法に輸出しているし。

肝心の相場師としてですが、相場以外の話が多く、実際の株取引についても、内容が少し古く感じられます。今日の市場に対して、何か教訓となるだろうかと考えると、残念ですがそれほどないような気もします。

しかし相場の天井や底についての考察、景気循環などは、現在でも通用しそうです。

本書から、是川氏がとても勉強し、研究熱心であることはわかります。図書館に三年間通って独学したなどのエピソードもありますが、晩年90歳近くで遭遇したブラックマンデーについて、これはコンピュータのシステム売買が原因の一時的な暴落だから買うべきと述べたりしています。

一生を通じて、ずっと好奇心を持ち研鑽を続けたことがうかがえます。このような姿勢は、成功のために必要な条件と感じました。
(書評2015/03/09)

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