「クオンツトレーディング入門」 リシ・K・ナラン(著)

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アルゴリズム取引で市場を動かすクオンツ。クオンツのトレード手法とはどんなものか、理解に役立つ1冊です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

クオンツ戦略の概要を知りたい人。

 

要約と注目ポイント

本書では、ブラックボックスとされるクオンツトレーディングについて、正確に評価する枠組みを提示する。

アルファを追及する戦略に焦点を当てて解説する。

 

クオンツとは

クオンツトレーディングとは、徹底的な調査に基づいて人間が作成したトレーディング戦略を、コンピュータがシステマティックに実行することである。

リサーチ、データ収集とその編集や加工、投資対象の選定、戦略の決定は人間(クオンツ)が科学的に行っている。規律正しくクオンツ戦略を実行し、トレードを反復するのはコンピュータである。

市場において、クオンツのアルゴリズム取引の比率は高まってきており、その影響は大きい。

クオンツに必要な能力

クオンツはあらゆることを定義づけるために、深く掘り下げて考えなければならない。

この科学的思考が、クオンツの優位性である。大局的な視点、細部の厳密な思考はともに重要だ。

トレーダーには、リスクに対する正しい理解と測定が必要だ。間違ったリスク測定に過度に依存したとき、問題が生じる。

クオンツに学ぶべきは、規律正しい戦略実行である。人間(自由裁量のトレーダー)は感情に動かされやすい。

科学的思考により緻密に構築されたシステムを、規律正しく実行するのがクオンツです。

クオンツトレーディングシステムの基本的構造

アルファモデル:リターンを獲得するための将来予測モデル
リスクモデル:損失を限定させるためのモデル
取引コストモデル:ポートフォリオ変更にかかるコストを計算するモデル

これら3つのモデルの、利益追求、損失限定、コスト制約の要素がポートフォリオ構築モデルに取り込まれる。

ポートフォリオ構築モデルが最良のポートフォリオを決定する。それをめざして執行モデルがトレードする。

クオンツトレーディングシステムには、データとリサーチが不可欠である。システム構築後でも、多大なリサーチが必要となる。

 

アルファモデル

ベンチマークを超えるリターン部分、アルファは、ポートフォリオの選択とサイジングをいつ行うかというタイミングから得られる。

いつ売買するかというタイミングを図るためにクオンツが構築するのが、アルファモデルである。

アルファを追及する、核となるトレーディング戦略は多くない。しかしこれらの基本的戦略を実行する方法は多岐にわたる。

アルファモデルは、予測する対象、予測する期間、予測方法(資産そのものを評価するか、資産間の比較で評価するか)、戦略の適用対象、モデルの具体化(定義)、実行頻度で分類できる。

理論駆動型とデータ駆動型

クオンツは、理論駆動型とデータ駆動型に分かれる。

理論駆動型は、市場を観察して現象を説明できる一般化理論を考え、データで検証し理論の正誤を確かめる。

理論駆動型戦略には、トレンド、平均回帰、バリュー・利回り、グロース、質という5つの概念がある。これらは裁量トレーダーと全く同じである。

トレンドと平均回帰は価格データに基づく。バリュー・利回り、グロース、質はファンダメンタルデータに基づく。

データ駆動型は、市場を観察して正しく分析できれば(パターン認識できれば)、理論は必要ないとする。

データ駆動型戦略の特徴は、高度の数学を用い難しいことと、パターン認識が正しければ人間に理解できる理論は必要ないことである。この戦略では、利用するデータの選択と、データに含まれるノイズが問題となる。

アルファを追求する戦略でも、理論駆動型はわかります。売られ過ぎ、買われ過ぎを狙う平均回帰とか、割安株と割高株の裁定などは、素人でもその概念は理解できます。データ駆動型は、素人にはちょっと難しいかもしれません。

リスクモデル

リスク管理

リスク管理とは、リターンの質と安定性を向上させるために、エクスポージャーを意図的に選択して、望ましいエクスポージャーの大きさを管理し、望ましくないエクスポージャーの対処をすることである。

リスク管理の方法

リスクサイズを制限する。
1つのポジションの最大量を、ポートフォリオ全体の一定比率以下にする。
ボラティリティからリスクを測定する。
ポートフォリオ全体のレバレッジを管理する。
偶発的なエクスポージャーを排除する。
システマティックリスク(市場そのものからのリスクなど)を特定し低減する。

などの方法がある。

リスク管理の方法にも、個人投資家が学べるところはあります。1銘柄のポジションの最大量を抑えるとか、ポートフォリオ全体のレバレッジを抑えるなど、基本に思われます。

取引コストモデル

取引コストモデルは、任意のトレード(現在のポートフォリオから望ましいポートフォリオに変更するトレード)にかかるコストを計算する。

取引コストには、売買手数料、スリッページ、マーケットインパクトがある。

ポートフォリオ構築モデル

ポートフォリオ構築モデルが、アルファモデル、リスクモデル、取引コストモデルの3つを基にして、ポートフォリオを決定する。

ポートフォリオ構築には、ポジション均等加重、リスク均等加重、アルファ駆動型加重、決定木による加重の4タイプがある。

現代ポートフォリオ理論に基づいて、ポートフォリオは最適化される。期待リターン、期待ボラティリティ、資産の相関マトリックスが用いられる。クオンツによって、少しずつ異なる最適化手法がとられる。

執行モデル

目標ポートフォリオが決定したら、執行モデルに従いトレードされる。

注文執行のアルゴリズムでは、考慮する要素は多い。どれほど積極的に注文を出すか(成り行き注文、指値の価格、数量、頻度)、複数の市場への注文、他のトレーダーの注文状況、取引の執行状況などにより、高速で最適に処理されるようなアルゴリズムでなければならない。

アルファモデルによって、最適な執行モデルも変わってくる。最先端のテクノロジーと巨額の資金が投入され、競争は厳しい。

データ

データはきわめて重要である。クオンツトレーディングシステムは入出力モデルであるから、悪いデータが入力されれば、システム内部のモデルが優れていても、悪い結果が出力される。

データには、価格データとファンダメンタルデータがある。価格データに基づくトレーディング戦略は、ファンダメンタルデータによる戦略より、短期の高速トレーディングになりやすい。

データは一次資料供給源の生データのほか、データを使用しやすいようにまとめた二次データベンター、三次データベンターから入手する。

こうして入手したデータだが、欠損や間違い、データ発生時刻の記録のずれなどがある。そのため、データのクリーニングや保存が必要である。

リサーチ

クオンツはリサーチを科学的方法で行う。これにより論理と一貫性がもたらされ、クオンツトレーディングシステムは厳密性と規律を保つ。

また市場は変化し続けるので、継続的にリサーチは行われる。

リサーチの中核となるのが検証である。検証は複雑すぎても簡単すぎてもいけない。検証には、取引コストの推計や空売りが可能かといった仮説も必要となる。

個人投資家も、過去の取引の検証をして、反省をした方が良いと思います。

投資家とクオンツ戦略

モデルリスク

クオンツシステムのリスクのひとつに、モデルリスクがある。

これは現実世界を近似するモデル化に、エラーが存在したときに起こる。誤った適用や定式化、実装エラーなどがモデル化でのエラーの原因となる。

また、市場の振る舞いの変化や外因性ショックにより、モデルは打撃を受ける。

外因性ショックとは、9.11同時多発テロ、イラク戦争開始、ベア・スターンズ救済決定、サブプライムローン危機時の金融株空売り規制実施などであり、モデル化できないので自由裁量で対処することになる。

リスクの具体例は想像できなくても、空想レベルでは日頃からいろいろ考えておくと良いでしょう。

伝播リスク

クオンツシステムのリスクには、伝播リスクもある。

これはクオンツ戦略自体のリスクではない。多くの投資家が同じ戦略を選び、市場で同じ戦略に基づく巨大なポジションが形成されたときのリスクである。

リスク管理も同じようなモデルで行うので、何らかの理由でどこかのクオンツに損失が発生しロスカットが生じると、同じ戦略の他のクオンツの損失が拡大し、ポジションを縮小する動きが連鎖的に発生する。

このように、同時に同じ方向に損切りトレードが殺到すると、流動性が失われる。

流動性が失われたことにより、巨大な損失を埋めるために、他の無関係な戦略の流動性がある資産を投げ売りせざるをえなくなり、別の戦略のクオンツにも影響を及ぼす。

このクオンツのリスクイベントは、2007年8月に発生した。

大口の機関投資家などが、同じ戦略で同じ方向に投資していると、危険なことが起こります。投資対象が混雑しているときは、避けることが賢明です。

クオンツへの批判

クオンツは長年批判を浴びてきた。その批判には、妥当なものも不当なものもある。

市場の計量化の批判については、完璧はありえないが、かなりの精度を持たせることはできると考える。クオンツがリスクを過小評価しているという批判については、モデルの仮定に誤りがあると言える。

また、クオンツがボラティリティを高めているという批判は間違いだ。2008年の金融危機はクオンツが原因ではないし、クオンツは危機をうまく乗り切ったと言えるだろう。

クオンツはヒストリカルデータに依存するが、市場の急激な変化に全く対応できないわけではない。

クオンツは皆同じという批判は誤りで、非常に多様な戦略がある。

クオンツは、規模が大きい方が有利ということはない。データマイニングも、正しく行えば経験科学となる。

投資家がクオンツを評価するには

クオンツと信頼関係を築き、事前に一般的なクオンツ戦略を学習してからクオンツに質問する。質問から得た情報は整理して管理する。細部について質問することで、人間性やスキルを推測できる。

クオンツは、限定された資源で最大の利益を生む投資を求められる。そのため、ポートフォリオマネジャーやCEO、資源配分者と似た資質がある。

成功するクオンツは、非常に細かい部分で正しい判断ができ、さらにそれを改善していくタイプだ。

クオンツには優位性(エッジ)が必要だ。エッジの源は、投資プロセス、競争がないこと、構造的要素(規制や立場など)である。

クオンツに投資するときは、クオンツがとる戦略が分散するようにポートフォリオに組み込む。

 

書評

本書では、ファンダメンタルデータをもとにした長期的な運用のクオンツ手法、高頻度トレードなど短期の運用のクオンツ手法のどちらも扱っています。

市場が荒れると、ヘッジファンドやアルゴリズム取引のせいにされがちです。そういった要因もあるでしょうが、ヘッジファンドやクオンツも所詮は人間のやることです。

「ヘッジファンド投資ガイドブック 金融危機が明らかにした絶対リターン型資産運用の有効性」を読んだときも感じましたが、ヘッジファンドやクオンツの戦略自体は飛び抜けたものではないように思います。少なくとも人智を超えるような、神の行為ではありません。

クオンツと非クオンツを分けるものは何なのか、本書では説明があるのですが、具体例が面白かったです。

例えば、シェブロンとエクソンモービルは似た銘柄です。これらを比較したとき、一時的にシェブロンの株価が安くエクソンモービルが高ければ、シェブロンを買いエクソンモービルを売る裁定取引は誰でも思いつきます。

この戦略はクオンツでも非クオンツでも行います。戦略が違うのではなく、徹底して考えるかが違うのです。銘柄が「似ている」とはどういうことか、株価が「乖離」しているとはどういうことか、といったことを徹底して考えます。

もっと簡単な例ですと、安い株を見つける、というのは誰でも考える戦略です。クオンツの場合、システム化してコンピュータに自動取引をさせるため、すべてを定義づける必要があります。

そのため、深く掘り下げて考えることになります。「安い」とはどういう状態か、「株」とは何を指すのか、「見つける」とはどういうことか、すべてを定義づけられるまで考えます。そしてその戦略が妥当か、リサーチとデータ分析を極限まで突き詰めます。

この深い思考とリサーチの突き詰め方が、クオンツなのです。

本書の出版はサブプライムローン危機後なので、2007年8月に起きたクオンツの損失イベントや、2008年のリーマンショックも考慮されて書かれています。

これらの事象も踏まえて、実務者が冷静にクオンツ戦略を解説しているので、勉強になります。クオンツ戦略を、そのまま個人投資家が応用することはできません。ただトレードの戦略の立て方ということでは勉強できます。

本書の著者はクオンツトレーダーなので、非常に冷静で論理的なマーケットへの向き合い方を知ることができます。

市場に勝ってアルファを得る戦略とは何か。その戦略をとったときのリスクはどう計測され、どうすれば損失を抑えられるか。戦略を実行するときのコストはどれだけか。それらを総合的に判断した、最良のポートフォリオはどうなるか。現在のポートフォリオから最良のポートフォリオに移行するのには、どのようなトレードをするのが最善か。

これを論理的に精密に組み立てるのがクオンツです。合理的に戦略立案から取引執行まで行い、再びリサーチするという、この科学的思考は学ぶべきものかと思います。

ところで、「フラッシュ・ボーイズ」の主題となった高頻度取引ですが、本書の執行モデルの箇所で登場します。原著は2009年出版なので、そのころにはクオンツでは常識になっていたのでしょう。

クオンツが執行モデルについてもとことん考え抜いたら、他の発注者を出し抜く超高速取引に行き着いた、という印象も受けました。
(書評2015/04/11)

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