「ヘッジファンド投資ガイドブック 金融危機が明らかにした絶対リターン型資産運用の有効性」 高橋誠/浅岡泰史(著)

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投資対象としてヘッジファンドを検討する本です。さらに、自分の投資手法を再考したり、金融市場を理解するのにも役立つ1冊です。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

ヘッジファンドを投資対象として考えたい人。難易度は中級者向け。

 

要約

ヘッジファンドの特徴は、絶対リターンを獲得することと伝統的な資産との相関が低いこと、とされる。過剰な期待や根拠なき中傷を受けるヘッジファンドだが、その特性を理解し、投資意義を考えることが必要であろう。

・ヘッジファンドの代表的な戦略について。

 

ヘッジファンドと金融危機

・1949年にその原型が誕生してから、2007年に運用資産が約2兆ドルに至るまで、ヘッジファンドは順調に拡大してきた。2008年の金融危機は、ヘッジファンドにも最大の危機となった。
2007年、ベアー・スターンズ傘下のファンド破綻。BNPパリバ・ショック。クオンツ型ファンド(ロング・ショート戦略とマーケット・ニュートラル戦略)の虐殺。
2008年、ペロトン・パートナーズ破綻。ベアー・スターンズ破綻。リーマン・ブラザーズ破綻。

金融危機からの教訓。
リターンの源泉はどのようなファクターにあるか確認し、ファクターを分散することが必要である。
高いレバレッジをかけ、流動性の低い資産を保有し、資金調達を短期資金に頼っている場合、危機発生時の信用収縮で破綻する。
市場全体から得られるアルファの大きさには限度があるので、利益をあげるには規模としての限界(キャパシティ)がある。同じ戦略モデルで複数の投資家が同じポジションをとった場合、損失発生時に連鎖的な反応が起きる。
資産の価格変動リスクだけでなく、流動性リスクの評価がきわめて重要である。例えば、レラティブ・バリュー戦略ではレバレッジが高くなるが、ポジションを解消する出口まであらかじめ検討しておく必要がある(物価連動国債と国債に投資したファンドが破綻している)。プットオプションを売却するのと同様に、ファット・テールに弱い。
過去の平均から乖離した資産が、平均に回帰することに賭ける場合、いつ平均に収束するかは予測できない。
急激に資産価格が下がるときは、資産間の相関係数が1に近くなり、あらゆる資産が同時に下がる。
ヘッジファンドに投資するときは、解約条件とともに、投資対象の流動性に留意する(換金しやすいか)。

 

ファンド・オブ・ファンズ

・ファンド・オブ・ファンズの概要。

・ゲートキーパーの役割は、戦略別資産配分、ファンドの発掘とマネージャーの選択、ポートフォリオの構築とリスク管理、解約条件の検討など。

・マルチ・ストラテジー・ファンドとの違い。

 

ヘッジファンドの評価

・ヘッジファンドのインデックスは、明確に定義し時価評価することができない。そのため、相当な誤差があることを考慮しなければならない。

・純資産価格が過去最高水準の上にあるか下にあるかで、報酬率が大きく変わるので、リターンの評価にも影響を与える。また、マネージャーのインセンティブも左右するため、ファンドの成績もまた影響を受けると考えられる。

・ロング・ショート戦略について。日本におけるロング・ショート戦略の特徴。

・マドフ事件について。詐欺では、オペレーション上に問題があることが多い。この事件でも、運用者と事務管理会社と資産管理会社が一体だった。実際の運用者に直接会い、運用方法や運用成績を厳しく確認することが必要である。

・ヘッジファンドのインデックスは、すべてのファンドの情報を反映しておらず、正規分布として分析できるかもわからない。ただそれなりには正規分布に近い。最悪の事態となった2008年9月と10月をみると、ノン・ディレクショナル戦略群のヘッジファンドでは異常なマイナスのリターン(テール・リスクの出現)となったが、ディレクショナル戦略群のヘッジファンドや伝統的資産では、統計的に想定内だった。マネージャーの能力やリスク管理が、結果に現れたとも言える。

・ヘッジファンドのリターンの源泉を見ると、リターンの大部分を市場タイミングから獲得し、個別銘柄選択等の寄与は小さい。市場が活況のときに高いリターンを得るが、市場が下落するときに空売りを十分には活用できていない。「市場動向と無関係に絶対リターンを獲得し、伝統的資産と相関は小さい」というヘッジファンドの謳い文句はやや疑わしい。

・ヘッジファンドの運用成績の優劣を判断するのに、シャープ・レシオは目安程度には活用できる。

・ヘッジファンドのリターンは、かなりの部分が市場ファクター(ベータ)によることがわかった。そのため、ヘッジファンドの複製運用(リターン複製法、戦略複製法、統計複製法)が試みられている。

 

企業年金とヘッジファンド

・日本の企業年金の多くが、ヘッジファンドに投資している。その特徴は、欧米の年金よりヘッジファンドへの投資配分割合が高く、代替投資としての位置付けであり、投資先の大半がファンド・オブ・ファンズというものである。

・企業年金の運営と管理の考え方について。企業が想定する「最大年金コスト額」を超えないように運営し、さらにいかにコスト額を下げるかが、企業年金基金の役割である。

・企業年金の資産運用について。従来の4資産区分(国内外の株式と債券)という概念が有効かは疑問である。資産運用の基本戦略として、キャッシュフロー確保は国内債券投資、短中期戦略は絶対収益重視(ヘッジファンド投資も適する)、長期戦略は長期の高成長享受を目的とする買い持ちとなる。

・短中期戦略には、絶対リターン獲得を目指すノン・ディレクショナル戦略群(マーケット・ニュートラル戦略など)のヘッジファンドが適する。長期戦略には、長期での高リターンが期待できるディレクショナル戦略群(株式ロング・ショート戦略など)のヘッジファンドが適する。

・ヘッジファンドのデューデリジェンスについて。

 

書評

ヘッジファンドがどういう戦略をとっているのか興味があるのですが、全般的に解説した本があまりないので、本書は参考になります。一応なんとか自分の頭でも読めます。難しい数式がたくさん出てくることはないですが、やはり内容は難しいです。

ヘッジファンドについて、各種データを基に論じています。特に金融危機の際にどのようなことが起きたか、破綻を避けるにはどうしたらよいか、といったことは詳しく検討されています。自分に理解できる部分は限定的なのですが、本書は本物のプロが書いているという印象を受けました。金融関係の人が読んでも、満足できるのではないでしょうか。

ヘッジファンドは高いリターンが獲得できると宣伝されますが、本書を読むと、市場に勝つのはやはり難しいと感じます。市場に勝つ、アルファを求めるというのは、アートの領域でもあります。ヘッジファンドは一般的に、固定報酬が2%で成功報酬が20%となります。ファンド・オブ・ファンズだと、二重に報酬が発生します。これだけ高率の報酬を差し引いて、パッシブ運用に勝つのはかなりの難題ではないでしょうか。

個人投資家が優れたヘッジファンドを選んで投資するのは、あまり現実的ではありません。普通の人は、主要なインデックスをパッシブ運用する、コストの安いファンドやETFを選んで、長期投資するのが無難と思います。市場平均に追随すれば、まずまずでしょう。ただ著者は、企業年金運用ではパッシブ運用よりヘッジファンドが優れると述べています。パッシブ運用最高で終わらず、以下のような考え方があると、気に留めておくのもよいかもしれません。

企業年金の運用戦略で、著者は4資産区分の概念を不適切と批判しています。基本戦略は、キャッシュフローに対応する投資、短中期戦略、長期戦略であるべきと考えています。そして短中期戦略と長期戦略ともに、ヘッジファンドが中核になりうると主張します。このような主張はあまり聞いたことがなかったので、私には斬新でした。本書はヘッジファンドの本なので、ヘッジファンドの有用性を訴えるのもわかりますが、日本の年金でヘッジファンド的投資戦略が中心なところはないでしょう。これは誤った主張なのか、時代を先取りしているのか。いずれにせよ、投資戦略としてはこういう考え方もあるのだ、と勉強になりました。

また本書でも述べられていますが、ヘッジファンドが行うことは特別な投資戦略ではないようです。ヘッジファンドのリターンは市場やファクターの影響を受けるので、伝統的資産への投資に、空売りとレバレッジが加わっただけといいます。クオンツ的手法には数学者が必要ですが、ロング・ショート戦略やグローバル・マクロ戦略などは、理屈としては理解できる範囲内です。ヘッジファンドも、正体不明の恐ろしい存在ではないことがわかりました。
(書評2014/11/23)

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