「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか」 ピーター・ティール(著)

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気鋭の起業家が書いたベストセラーです。本書では、有力な起業手法である「リーン・スタートアップ」を痛烈に批判します。そして、起業家とは計画して革新を起こす存在だと説きます。起業論だけでなく、社会批評、自己啓発としても熱い1冊です。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

革新的事業を興したい人のほか、普通にビジネスに関心のある人。

 

要約

テクノロジーは奇跡を生み、より少ない資源でより多くの成果を可能にする。

成功例をコピーし、1からnへと向かうのは、水平的(拡張的)進歩である。新しい何かを行い、0から1へと向かうのは、垂直的(集中的)進歩である。グローバリゼーションは水平的進歩であり、テクノロジーは垂直的進歩である。

未来を左右するのはグローバリゼーションではなく、テクノロジーだ。

新しいテクノロジーを生み出すのは、スタートアップ(少人数のチーム)だ。

・1990年代の状況と、2000年のドットコム・バブル崩壊から、スタートアップの4原則が常識となった
①壮大なビジョンではなく、段階的に少しずつ前進すること。
②起業においては、計画より試行錯誤を柔軟に繰り返し、無駄を小さくすること。
③既存顧客のいる市場で、成功しているライバルの製品を改良することから始めること。
④プロダクトに集中すること。バイラルな成長をするプロダクトをつくることに集中し、広告や営業に力を入れ過ぎない。
だが、このスタートアップの原則は誤りである。
正しくは、①大胆に賭け、②出来の悪い計画でも作り、③競争の厳しい市場には利益はないと考え、④販売をプロダクトと同様に重視する、である。
ドットコム・バブルの失敗に対し、間違った反省をした。その間違った反省は何かを見極め、新しい価値あるテクノロジーを創り出すにはどうするか、自分の頭で考えることが、次世代の企業を築く道だ。

・完全競争下では、企業は利益を得られない。イノベーションによりトップに立ち、市場を支配し独占すると、(独占)企業は最大の利益を得る。起業家は独占企業をめざせ(差別化のできないコモディティ・ビジネスを行ってはならない)。

独占企業は価値を創造し、企業内に取り込むことができる(収益率が高い)。完全競争下では企業はカネのことしか考えられないが、独占企業はカネ以外のこと(倫理や長期的展望)を考える余裕がある。独占企業はクリエイティブに新しい価値を生み出す限りにおいて、消費者に新しい選択を与え、社会をより良くし、進歩させる。独占は、企業を成功させる条件である。経済学者が競争を理想とするのは、学問上モデル化が容易であるために過ぎない。

・クリエイティブな独占企業は、新しい価値を生み出すし、会社(クリエイター)も利益を得る。競争環境下では、生き残るだけで精一杯で、誰も得をしない。競争を避ける方が良いのに、誰もが競争をするのは、競争というイデオロギーを刷り込まれているからである。あるいは、競争心が競争心を煽り、誰もが戦うようになるのかもしれない。本質を見て、大切なこと以外では競争を避けるべきだ。

・企業価値は、その企業が将来生み出すキャッシュフローの総和である。独占していないオールドエコノミーの低成長企業の企業価値は小さく、そのキャッシュフローは短期のものだ。独占している高成長テクノロジー企業の企業価値は大きく、そのキャッシュフローは長期(遠い未来)のものだ。テクノロジー企業の大きな企業価値を正当化するには、10年後に独占企業として存続していることが必要である。

・10年後に独占企業として存続しているか見極めるために、独占企業の特徴を挙げる。
①プロプライエタリ・テクノロジー。
製品やシステムの仕様、技術などを独占的に保持し、秘匿していること。2番手より10倍は優れていること。
②ネットワーク効果。
ユーザー規模が大きくなれること。ただし、ネットワークが小規模なときも初期ユーザーにとって価値があること。小さな市場から始めること。
③規模の経済。
規模拡大の可能性を、最初のデザインに組み込むこと。
④ブランディング。
強いブランドをつくること。ただし、ブランドより本質(プロダクト)が優先される。

独占を築くには。
小さい市場から始めて独占する。理想は、少数の特定ユーザーが集中していて、ライバルがほとんどいない市場を狙う。
規模を拡大する。ニッチ市場を創造し独占したら、関連する少し大きな市場に拡大する。
正しい順序で徐々に規模を拡大すること。
破壊しない。破壊は古い業界を意識することであり、創造に専念すべき。破壊は競争を招く。
終盤戦で勝つ。最重要なのは、将来キャッシュフローを生み出すこと。最初に参入することより、特定の市場で最後に大きく成長し、独占することが大切だ。

未来が明確で予測できると考えるなら、人々は将来の計画を立て実現させようとする。未来があいまいで偶然に左右されると考えるなら、人々は計画を立てず定石通りの選択肢を数多く集めようとする。未来について、捉え方(明確orあいまい)と認識(楽観or悲観)で4つのグループに分けられる。
あいまいな悲観主義:暗い未来を予想するが、どう対処してよいかわからない。現在のヨーロッパ。今を楽しむ行動しかとれない。投資額は小で貯蓄額は大。
明確な悲観主義:未来を予測できると考えるが、暗い未来を予測し、貯蓄に励む。現在の中国。先進国のキャッチアップで豊かになったが、先進国水準の豊かさには到達できないと中国人は考えている。投資額は大で貯蓄額は大。
明確な楽観主義:未来は予測できるし未来は明るい、と考える。自らの計画と努力で、未来はより良くなる、と信じている。1960年代までの欧米。投資額は大で貯蓄額は小。
あいまいな楽観主義:未来は今より良くなると考えるが、未来がどういう姿かは想像できない。未来に期待するが、具体的に未来の姿を設計する必要を感じず、そのため計画もしない。1982年以降のアメリカ。投資額は小で貯蓄額は小。

あいまいな楽観主義は、新しいものをつくらず既存のものをつくり直そうとする。どうすれば富が創造できるかわからないので、優秀な学生は、具体的な工学よりランダムな市場の金融へ向かう。未来がわからないので問題解決のために具体的な計画は持たず、政府は裁量支出より給付支出を多くする。現代の生物学(バイオテクノロジー)は、対象をあいまい(ランダム)なものとみなす。
政治哲学も20世紀(ジョン・ロールズとロバート・ノージック)はあいまいな楽観主義だ。ロールズは左派平等主義でノージックは右派リバタリアンだが、人間は他人と平和に共存できると信じながら、具体的なビジョンを持たずプロセスを重視する点で共通する。(ちなみに古代哲学者のプラトンとアリストテレスは明確な悲観主義、エピクロスとルクレティウスはあいまいな悲観主義、19世紀のヘーゲルやマルクスなどは明確な楽観主義。)

あいまいな楽観主義とは、計画なき進歩(ダーウィンの進化)である。新しい価値を創るには、0から1を生み出すには、大胆な計画が必要だ。スティーブ・ジョブズの最も偉大な業績は、(その美しい製品ではなく)明確で念入りな長期計画を実行するアップルという会社を築いたことだ。今こそデザイン(計画)を復活させるべきだ。起業とは、偶然ではなく計画によって人生(世界)をコントロールする試みなのだ。

我々は正規分布ではなく、べき乗則の世界に生きている。ベンチャーへの投資も、べき乗則に従う。大きく成功する可能性があるスタートアップだけに投資するのが、優れたベンチャーキャピタルだ。指数関数的に成長したベンチャー企業は、結果として民間雇用や国家経済に大きく貢献する。

・人生には選択があるので、すべての人は投資家である。だからすべての人は、べき乗則を意識すべきだ。べき乗則の世界では、ひとつのもの、ひとつのことが他のすべてに勝る。今は起業する人が多すぎるので、起業にこだわらなくてもいい。企業間の違いは、企業内の役割の違いよりはるかに大きい。重要なのは、「何をするか」だ。将来価値を持つと考えられる、自分の得意なことに集中せよ。

・世界には、定説(知るのが簡単)、隠れた真実(知るのが難しい)、謎(知ることが不可能)がある。原理主義者は定説と謎しか認めないが、原理主義者でない我々も、もはや社会には隠れた真実は残っていないと考えている
隠れた真実が残されていないと考える原因は、物理的フロンティアがなくなった以外に、①漸進主義、②リスク回避、③現状への満足、④フラット化(世界の誰かがすでにやっていると考える)、である。

・隠れた真実を見出すのは、ごく少数の人々だ。隠れた真実は、探さなければ見つからない。偉大な企業は、目の前にあるのに誰も気付いていない、隠れた真実を土台にする。隠れた真実の存在を信じて、探さなければならない。

・隠れた真実には、自然についてと人間についての2種類ある。人々があまり語ろうとしない、誰も見ていない場所に、人間についての隠れた真実がある可能性が高い。(例:学問として、物理学は重視されるが栄養学は重視されない。そのため栄養学の研究は、数十年停滞している。肥満は大きな社会問題である。栄養の分野は、科学でなく大手食品団体のロビー活動の影響が大きい。こういう分野に、隠れた真実はある。)隠れた真実を、少数の人々で共有せよ。(この人々は、偉大な企業の創業メンバーにあたる。)

企業にとって、創業時の土台がきわめて重要だ。共同創業者選び(相性)、企業統治の仕組み、社員全員が長期的に一致できる組織構造、などである。
スタートアップでは、
所有:創業者と社員と投資家
経営:マネージャー(創業者)と社員
統治:創業者と投資家からなる取締役会
となる。
取締役は少人数にすること。社員は毎日同じ場所で一緒に働かなければならない。社員はフルタイムで雇うか、雇わないかの2択である。CEOの報酬は低ければ低いほどよい。社員の給料は、固定給よりは仕事に対する現金ボーナスの方がよく、現金ボーナスよりはストックオプションの方がよい。会社の将来価値を向上させる方向にインセンティブが働く報酬にする。
起業の瞬間に正しいことを行えば、将来にわたって新しいものを創造し続ける企業をつくることができる。

同じ時間を過ごしたい人、一緒に働くことを心から楽しめる人を雇え。スタートアップの初期社員には、同じ考え方で同じタイプの人間を集めること。会社に固有の使命があること(ほかのどの会社にもできない大切なことを、なぜ君の会社ができるかを説明せよ)。君の会社に入ることが、素晴らしい仲間と独自の問題に取り組む、またとないチャンスであることを示せ。

各社員それぞれが仕事のひとつに責任を持つこと。社員が同じ仕事を競うと、社内で争いが起こる。役割をはっきりさせ、社内の平和を保つ。

最高のスタートアップは、外部の人が見逃している隠れた真実を正しく信奉した、強い仲間意識で結ばれた集団である。

営業はとても重要である。一流の営業は、セールスしていることに気付かれない。効果的に販売する方法も、創り出さなければならない。有効な販売チャネルがひとつも見つからなければ、そのビジネスは終わりだ。

ひとりの顧客から生涯に得る純利益の平均総額(CLV)が、ひとり当たりの新規顧客獲得費用の平均(CAC)を上回らなければならない。
コンプレックス・セールス(CACが1000万ドル規模):CEOが直接売り込む。スペースXのような会社。
個人セールス(CACが1万ドル規模):適正規模の営業チームが幅広い顧客層に売り込む。ボックスのような会社。
マーケティングと広告宣伝(CACが100ドル規模):一般大衆向けの低価格品。バイラルには広がらないが、営業マンを張り付けるほど単価は高くない。
バイラル・マーケティング(CACが1ドル規模):プロダクト自体が友人を呼び込みたくなる機能を持つ。フェイスブックやペイパル。バイラル成長する可能性のある市場の中の、一番重要なセグメントを最初に支配せよ。ペイパルは、イーベイのパワーセラー2万人を独占した。

・企業はプロダクトを売り込むだけでなく、経営者は企業そのものを、社員や投資家に売り込まなければならない。マスコミを味方につけた、優れた販売戦略やPR戦略は重要である。

機械(コンピュータ)は、人間を補完するものだ。人間が計画を立て、判断を下す。機械が大量のデータを処理する。グローバリゼーションは、労働力としての人間を交換可能にし、消費する資源を争うようにした。テクノロジーは、労働する人間を補完できるし、(わずかな電力以外は)資源を消費しない。人間にできることと機械にできることの融合が、偉業を生む。

まとめ(ビジネスに必要な7要素)。
①エンジニアリング:2番手より10倍優れたブレイクスルーとなる技術。
②タイミング:ビジネスを始める適切な時期。
③独占:小さな市場を独占できる。
④人材:正しいチーム作り。
⑤販売:プロダクトを届けられる方法。
⑥永続性:10~20年後も生き残れるポジショニング。
⑦隠れた真実:気付かれていない独自のチャンス。
失敗したアメリカのクリーンテクノロジー企業は、上の要素を全く満たしていなかった。(クリーンテクノロジー・バブルで終わった。)成功したテスラは、7要素を満たしていた。

・偉大な創業者は、極端な資質を持つと言われる。極端な資質を生まれ持ち、周囲の環境が極端な資質を強化し、周囲の人々が極端な資質を強調し、自分自身が戦略的に極端な資質を誇張する。企業には、創業者の極端な資質が必要である。創業者は、極端な資質を信じ込んで自分を見失ってはならない。

未来について。

 

書評

確かに面白い本です。知的興奮があると言えるでしょうか。テクノロジー系出身者の起業本なのですが、まずかなりビジネス色が強いと感じました。独占企業は批判を避けるため、市場の中のとるに足らない一社であるようにふるまい、競争で消耗している企業は、逆にまるで市場を独占している強豪のように自社を飾るなどと述べています。うっすらとは感じていたことですが、こうはっきり言葉にされると自分のような人間にも理解できます。消耗するコモディティ・ビジネスは避けて独占企業となれ、なんていう言葉はウォーレン・バフェット氏のようです。

と思っていたら、いきなり政治哲学などを論じ始めて(それもかなり真面目に)、びっくりしました。つまり、この世界でどう起業するかはどういう価値を創り出すかを考えることであり、その価値をどのように創り出すかには計画が必要となるが、現代のアメリカは計画を必要としない社会となっていて、なぜ計画を必要としない社会かという問いには思想が関係する、というわけです。

1982年以降、アメリカをあいまいな楽観主義が支配し、未来を予測しなくなったので計画を立てなくなった。そのため企業は投資せずお金を貯めこみ、お金の使い道がわからないので金融業界が栄えた、と著者は述べています。これは、日本が不景気なのは企業が設備投資せず利益を貯めこんでいるからだ、という議論に通じるところがあります。日本の企業も未来がわからず、どこに投資していいかわからないということでしょうか。投資額が小さく貯蓄額が大きいので、日本はあいまいな悲観主義となります。デフレとはあいまいな悲観主義なのか?

本文の始めあたりや日本語版序文からエリート臭が漂ってきますが、著者はあえて挑発的な記述をしているようです。ドットコム・バブル崩壊の反省から、失敗しないように小さくまとまる起業が多くなっています。これが著者には不満らしく、全く新しい価値の創造をめざすよう、本書で焚き付けています。

とはいえ、起業を全面的に勧めているわけでもありません。世界はべき乗則に従うので、勝ち目のない起業よりは、初期のグーグルに入社する方が良いと指摘します。とにかく頭の良い人が書いていて、読んで自分が疑問に思うようなことは、大体あとで説明があります。上でも触れましたが、私が社会の中で薄ぼんやりと感じていたようなことを、著者ははっきりと言葉で組み立てて説明してくれます。確かにこの通りだ、確かにこのような現実があって、こういう風に説明できる、と思う箇所がいくつも出てきます。こうした洞察の延長に、隠れた真実が探せるかもしれません。

最後にビジネスに必要な7要素がまとめてありますが、詳細は本文中で解説されています。ビジネスとして本当に大切な内容です。意表を突く記述も多い本ですが、ビジネス書としても読む価値のある内容です。

著者は、計画せず小さく試行錯誤を繰り返すリーン・スタートアップを批判します。これは、未来を予測しようとしないあいまいな楽観主義のためだ、と言います。そして、隠れた真実があると信じ、これを探して発見し、計画を立てて実現させろ、と主張します。

そう言われると、まあそういうものか、と私は思いました。ただ、ほとんどの人は平凡で未来が見通せず、隠れた真実を見つけて果敢に挑戦したわずかな人が、新しい価値を生み出す(世界を変えるというやつです)ということか、とも思いました。

結局、大多数の凡人は行き当たりばったりのリーン・スタートアップの世界で生き、ごくわずかのビジョナリーが計画に基づき大胆に実行し、指数関数的成功を収めているような気もします。ほとんどの企業は革新などとは無縁で、日々競争にさらされています。これらの企業は、リーン・スタートアップとかカイゼンのような方法で、わずかでも競争で優位に立てるように試みていると思います。ほとんどの人(労働者)も、おそらく新しい価値を生み出そうなどとは考えていないと感じます。

ほぼすべての人(組織)は、俯瞰的な視点を持つこともなく、本質的な「難しいこと」を考えもしません。多くの人が0から1の革新をめざすというのは、可能なのでしょうか?そもそも革命家が社会の多数派になるというのは、矛盾では?

いつの時代も、変革者は理解されず、変わり者で、天才とか悪人などと呼ばれ、孤高で、その真の姿は伝説の中に隠れてしまいます。世界を変える起業家も、変革者なのでした。しかし変革者は、我々と地続きの世界に生きています。あなたが世界を変える起業家である可能性も、ゼロではない。かも。しれない。
(書評2014/11/25)

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