「リスク・テイカーズ 相場を動かす8人のカリスマ投資家」 川上穣(著)

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日経新聞の記者が、アメリカの旬な投資家8人を取材した本です。バフェットは旬ではないですが。投資手法や運用方針、投資家の人柄をまとめた読み物です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

アメリカの成功した投資家に興味がある人。

 

要約と注目ポイント

ダニエル・ローブ

サード・ポイントの創業者。投資先の経営改革を求めて派手に活動する、敵対的なアクティビスト。イベントに乗るイベント・ドリブン戦略を得意とする。

投資には、たくさんのことを知っているより、その時々で最も重要なことは何かを察知できる能力が必要、と語る。アベノミクスを契機に、ソニー、ソフトバンク、IHIに投資した。アクティビストにより、日本企業の体質も変化するか。

デイビット・テッパー

アパルーサ・マネジメントの創業者。倒産した、もしくは破綻寸前の企業の格安な株式や債券を買い、経営が持ち直したあとの高値で売るディストレスト戦略を好む。近年ヘッジファンド報酬ランキングでトップになっている。

数学や会計の能力も優れているが、今、最も大切なことは何か、という一点に集中し、本質を見抜くことができる。そしてリスクを取り、誰よりも早く行動できる。徹底した楽観主義者だが、好機をじっと待つことを厭わず、規律も重んじる。

デイビッド・アインホーン

グリーンライト・キャピタルの創業者。綿密な企業分析からの空売りが有名。サブプライムローン危機では、リーマン・ブラザーズの空売りを公言し利益をあげた。しかしバフェットを尊敬しており、株式市場は長期では上昇しやすいと考えているので、厳選した銘柄を買ってもいる。

日本のりそなホールディングスにも投資している。しかし日本そのものについては、将来的な金利上昇を不可避と見て、日本売りのポジションを取っている。

ビル・アックマン

パーシング・スクエア・キャピタルを率いるアクティビスト。経営者に強い圧力をかける、敵対的な手法を取る。大変な自信家で、株主が企業のオーナーであるべきとの信念を持つ。

多くの投資で成功するが、JCペニーへの投資では大きな失敗を犯す。またその個性の強烈さから、ハーバライフの投資をめぐって、有力なアクティビストのダニエル・ローブやカール・アイカーンと衝突した。

ジム・チェイノス

空売り専門のキニコス・アソシエイツを創設。証券会社のアナリストとして働き始めるが、初めて担当した企業に売り推奨を出した。この成功を機に、投資家に転身する。その後は着実に成功を重ねる。エンロンの不正会計にいち早く気付き、空売りで大きな利益をあげる。

空売りは買いより運用面で不利で、さらに人々から嫌われやすい。それでも空売りにこだわるのは、空売り投資家が企業の不正を最初に感知し、市場に警告を与える役割を果たすと考えるからだ。現在は中国の不動産バブルに対し、売りポジションをとっている。

レイ・ダリオ

世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者。グローバルマクロ戦略をとる。40年間成功を重ね、運用資産は1500億ドル規模に達した。その成功の秘訣として、経済は機械のように動く、と語る。知性を結集して歴史に学べば、規則的に動く経済を予測できると信じている。

独特の投資「原理」を確立し、ブリッジウォーター社員には「原理」を熟読することを求めている(「原理」はブリッジウォーターのホームページで誰でも読めるとのこと)。特異な社風を持つブリッジウォーターだが、世界中の大手機関投資家を顧客としており、その顧客向けレターはFRBも必読の資料だという。

カイル・バス

ヘイマン・キャピタル・マネジメントを創業。日本売りの急先鋒として有名。サブプライムローン危機を察知しての売り、さらにはそれに続く欧州債務危機での売りで成功する。

税収に占める国債の利払い負担が10%超で、公的債務の合計が歳入の5倍以上の国家は財政破綻のリスクがあると語り、次の標的を日本に定めている。

ウォーレン・バフェット

世界一のバリュー投資家である、バークシャー・ハザウェイのCEO。財務を徹底的に分析し、企業の本質的価値を見抜くことで、長期にわたり成功を続けている。バークシャー・ハザウェイは全米屈指の大企業となった。

オマハで開かれる祭典のような株主総会や、バフェットの人柄を慕う多くの人の姿は、米国のバリュー投資の深い伝統を感じさせる。バフェットの高い能力、そして投資への情熱と集中力は、常人の及ぶところではない。バフェット後のバークシャー・ハザウェイの進路はいかなるものになるか。

さまざまなタイプの投資家がいます。派手な要求をするアクティビスト、暴落の底で買うバリュー投資家、企業価値を分析しての空売り投資家、時代を読む投資家。
共通するのは、時代や市場の本質をとらえる、ずば抜けた能力です。個人投資家も、市場の表面的な動きに惑わされず、自分独自の投資の基準を守ることが大切です。

 

書評

とても深く掘り下げたという内容ではありませんが、いろいろな人を取材し集めた材料で構成されています。8人の著名な投資家の特徴がつかめる、読みやすい本です。ちょっと面白いエピソードも挿入されています。

個人的には、ジム・チェイノス氏が新米アナリストとしての最初の仕事で、売り推奨を出した話は笑いました。カイル・バス氏が5セント硬貨を集めている話(銅とニッケルの含有量から5セントより実質的に価値がある。デフレ・インフレ両方への対策だそうです。)も、そこまでするかという感じです。レイ・ダリオ氏の「経済は機械のように動く」という動画も紹介されています(ネット上で日本語版も視聴できます)。

読んで驚いたのは、レバレッジをかけない投資家が結構いることです。ダニエル・ローブ、デイビット・テッパーの各氏はレバレッジをかけていないそうです。バフェット氏もレバレッジをかけていないので、意外とレバレッジをかけずに投資で大成功する人がいるようです。

またジム・チェイノス氏は空売りしかしていないのですが、運用資産は60億ドルです。空売りだけで勝ち続けて、そこまで到達するというのは凄い。

ところで、レイ・ダリオ、ジョン・ポールソン、デイビット・アインホーン、カイル・バスなど、そうそうたる投資家たちが金(ゴールド)を買っているそうです。極端な金融緩和策を取る各国中央銀行に、それだけ不審を抱いているということです。緩和の出口でまた波乱があるかもしれません。

日本でヘッジファンドなど投資家の話をすると、いまだにバフェットやソロスといったところで終わってしまいます。日本の金融担当記者が、やや新しい世代の影響力のある投資家を取材し、良くまとまった著作に仕上げたことを、素直に歓迎したいと思いました。
(書評2014/11/19)

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