「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ」 橘玲(著)

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2002年に出版され、ベストセラーとなった「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」の改訂版です。社会制度や投資環境の変化に合わせて、改訂となりました。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

経済的自立を達成したい人。難易度は入門書から初級者向け程度。

 

要約

黄金の羽根=制度の歪みから構造的に発生する利益。
現代は多くの情報が公開され、だれでも利用できる。このような知識社会では、適切に情報を入手し活用できる者が、目標へ近道できる。情報を活用して社会の制度や構造を理解し、そこに生じている歪みを見抜ければ、近道ができる。近道を自分で見つけられない者は、お金を払うか、回り道をすることになる。

制度や構造の歪みは、いつか必ず顕在化する。(出版業界を例として説明。)
日本は豊かな国だが、経済が成長する時代は終わり、多くの分野で市場が縮小している。人生においてお金がなければ、自由になれない。人生はさまざまな条件に制約されるが、経済的な土台は個人の努力で改善できる。経済合理的に選択することが大切だ。
市場経済の利益は、差異から発生する。この差異は、市場の歪みから生じている。個人がだれでも利用できる歪みに、社会制度上の歪みがある。それは「個人」と「法人」の人格を使い分けることだ。

お金持ちになる方法。
資産形成 = (収入 - 支出) + (資産 × 運用利回り)
であるから、お金持ちになる方法は次の3つに集約される。
①収入を増やす。
②支出を減らす。
③運用利回りを上げる。

収入を増やすには。
①働き手を増やす(共働きなど)。
②稼ぎが増えるような自分への投資をする(自分の人的資本を高める)。

支出を減らすには。
①浪費をしない。
②住宅コストを節約し、無駄な生命保険に入らない。
③所得にかかる税金を払わない(自営業者や企業経営者になる)。

運用利回りを上げるには。
①複利の効果を認識すること。
②十分な元本を用意する。(少額で運用しても効果は小さいが、投資の勉強にはなる。)
③手数料など、投資にかかるコストを安くする。

資産運用について。
①バブル崩壊以降、全く投資をしなかった人が最も得をした。
②企業の業績悪化に対し、従業員の給与は下がらなかった。国家の財政赤字拡大に対し、国民は公共事業や社会保障給付で恩恵を受けた。バブル崩壊後、日本人は豊かになった。
③日本人は大きなリスクを取ってきた(巨額のローンを組んで住宅を買ってきた)。資産のポートフォリオは大きく不動産に偏っており、住宅ローンで不動産を買った時点で、資産運用の余地はほとんどなくなる。
④長期投資が、いつの時代も成功するとは限らない。
⑤金融機関に雇われたアドバイザーの助言(アクティブ運用)は、パッシブ運用に劣る。
⑥経済学者の予測は当たらない。
⑦ファンダメンタルズ分析で適正株価は予測できない。チャート分析で株価の推移は予測できない。
⑧短期投資は、ギャンブルの中では最も有利だ。

不動産投資(住宅購入)は、経済合理性に基づいて行うべきだ。
①家を買うことは、投資を行うことである。不動産はリスク資産である。
②家の値段は、家賃から推計できる。
③マイホームは、帰属家賃の課税対象外となる分だけ有利とされる。
④住宅ローンは、株式の信用取引と同じ(レバレッジをかけた投資)だ。
⑤持ち家と賃貸住宅に、優劣はない。持ち家は、地価が上がれば得をし、地価が下がれば損をする。

生命保険は、不幸の宝くじである。
生命保険は、自分が死ぬと扶養すべき家族が資産もなく残されるときに必要なものだ。無駄な生命保険は損となる。医療保険の役割は、働けなくなった期間も生活を維持する所得補償にある。

・意識されにくいが、子育てコスト(教育費)は家計を強く圧迫する。

会社員は、国家に収奪されている。
国民年金の補填に、厚生年金の保険料が使われている。国民健康保険の補填に、組合健康保険の保険料が使われている。会社は社会保険料の半額を支払うが、これは実質的に人件費である。会社員は見かけ上、所得税と住民税という税負担は低いが、社会保険料を含めた実質税負担率は3割前後にもなる。

制度が歪んでいる場合、合法的な範囲で税金を払わず、合法的な範囲で多くの再分配を受けることが、合理的な行動となる。個人と法人には、税法上大きな格差が存在する。

個人が法人を利用して税コストを下げるには。
①所得税の発生しない範囲で給与を決める。
報酬を所得控除の範囲に抑える。課税所得をゼロにすることで、税負担を最小化する。社会保険料負担の最小化は、制度上困難になった。また個人事業主は、小規模企業共済に加入できる。個人型確定拠出年金と国民年金基金も利用できる。国民年金基金は、積立不足に注意。
②所得税の発生しない範囲で家族を雇用する。
家族の年収を、給与控除などの範囲に抑える。従業員を雇用すると、中小企業退職金共済に加入できる。
③生活費を法人の経費にする。
自宅を事務所とすることで、光熱費の半額を経費とする。ほかにも業務と関係があると説明できる費用は、法人の経費にする。経営セーフティ共済を使うと、法人の損益が調整できる。
④個人資産を法人名義で運用する。
自分の資産を赤字法人に貸し付けることで、運用益(利子・配当・有価証券の売却益など)を無税にできる。

公的融資制度には「黄金の羽根」が落ちている。
自治体には、地域の事業者向けのさまざまな融資制度がある。これらの融資制度は、金利などが破格の好条件である。この制度には税金が投入されているため、関係する機関(自治体・銀行・信用保証協会)がリスクを負うことはなく、審査も甘く金利も低くなる。そのため法人の借り手側(すなわち自分)が、奇跡的なファイナンスという「黄金の羽根」を拾うことができる。手続き上の書類を完備すること。期日までの返済を続け信用をつくることで、さらに多額の借入れも可能となる。

税金のお話。
節税と裏金、税務調査など。

知識社会では、仕事は以下の3種に分けられる。
マックジョブ(バックオフィス):マニュアル通りの仕事。低賃金だが責任も小さい。同一労働同一賃金。
スペシャリスト:高報酬だが責任も大きい。仕事量は、自分がこなせる量に限定される(拡張性がない)。
クリエイター:一部は大成功し莫大な富を得る(拡張性がある)。大半は鳴かず飛ばず。

・同一労働同一賃金の世界では、仕事はどの会社でも使える一般的技能として計る。日本のサラリーマンは、その会社でしか使えない企業特殊技能を身につけている。会社にしがみつかねば生きられない状況は悲惨である。これからは老後もずっと働かなければならない時代となるので、好きなことを仕事にするしかない。自分だけのニッチを見つけ、市場から富を得られるほどに人的資本の専門性を特化することが求められる。

経済的自立を果たすには、経済合理的に行動しなければならない。人生を最適に設計するため、国家を道具として使え。

 

書評

妥当な内容だと感じましたが、特別な発見や驚きはありませんでした。原著も多分読んでいますし、著者の本は複数読んでいるので、当然ではあります。おそらくは原著が出版された当時は、かなり先鋭だったのだろうと思います。2014年になった今では、割とありふれた話になっている印象はありますが、それでも十分に有意義な本です。

漫然と生きてきた私ですが、橘玲氏の本もひとつのきっかけとなり、お金については真剣に考えるようになりました。お金だけが人生ではありませんが、お金で人生は変えられます。本書は社会人2年目ぐらいの人が読むと、勉強になって良いような気がします。もちろんもっと勘の鋭い人は、高校生とか大学生の就職前に読んでおくと、周囲より早くスタートが切れそうです。

まあ年齢に関係なく、経済に興味がないような人は、お金のリテラシーを高めるためにも読んだ方が良いです。お金のリテラシーは自分を守ります。そろそろアベノミクスの雲行きも怪しくなってきましたし。

本書のテーマは2つあります。資産運用論と、個人が法人格を活用する方法です。法人格を利用することは、ガチガチのサラリーマンだと難しい部分も多いのですが、将来の自分の働き方(独立等を含めて)を考える際に、参考にはできるでしょう。

すぐに応用可能なのは資産運用論です。ここで指摘されている以下の超基本原則、
①お金持ちになる方法は、収入を増やすか支出を減らすか運用利回りを上げるか、これしかない。
②ローンで家を買うことは、レバレッジをかけた不動産投資だ。住宅ローンを組んだ時点で、資産運用はもうできない。
③大きな買い物となる生命保険や医療保険は、大部分が無駄だ。
④投資コストを安くすることがきわめて重要。
を知っているか知らないかで、人生の選択が変わります。もし知らないなら、これを理解するためだけでも読む価値があります。
(書評2014/11/16)

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