「株が上がっても下がってもしっかり稼ぐ投資のルール バイ・アンド・ホールドを超えて」 太田忠(著)

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なぜ、バイアンドホールドは通用しないのか?今の日本における投資戦略を論じた本です。アクティブ運用については、株式投資を論じています。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

資産運用の戦略を考えたい人。株式投資が好きな人。難易度は初級者向けあたりでしょうか。

 

要約

現在の株式投資では、過去の成長時代のバイ・アンド・ホールドとは異なる方法が必要だ。上昇局面、下落局面、横ばい局面、それぞれに適切な対応をする。

個人投資家は、機関投資家より有利である。投資資金が小さいのでどんな銘柄にも投資できるし、売買のタイミングも自由である。

はじめに、自分が投資をする目的をじっくり考えること。自分のなかで投資の目的がはっきりしたら、次に手持ちの金融資産を3つに分けてみる
①生活資金。(6カ月ほどの生活費。普通預金などで持つ。)
②安定運用資金。(予定されている支出を賄うための安全資産。あるいは保守的に運用する資産。定期預金など。)
③長期運用資金。(老後のためのような、10年単位での投資。)
①、②の順で貯めること。③は②まで貯めてから。③は複利効果を活かして運用していく。

アセットアロケーションが大切である。一般に言われるように、全資産を国内外の債券と株式で4等分しないこと。はじめて投資をするなら、リスク資産は10%まで(90%は現金)。勉強しながら、リスク資産の比率は上げていく。相場の変動に備えて現金は残し、時期をずらして金融資産を買え。リスク資産は自分の得意分野を多く持つようにする。自分の知らない(理解できない)金融資産は買わない。異なる分野で最低5銘柄以上に分散投資せよ。

リスク管理が最も大事で、リスク管理できないと生き残れない。システム障害に備えて、複数の証券会社を使う。長期運用資金で許容される損失は、マイナス5%まで。ポートフォリオ全体でマイナス5%になる前に損切りをする。機械的に損切りを行うため、逆指値注文は必須である。株価が上昇したら逆指値も上げていき、確実に利益を確定させる。持ち株を何回かに分けて売り、利益確定するのもよい。

含み益は実現させてはじめて利益が確定するもの。逆に含み損は、すでに発生した現実の損失である。

投資行動の記録をつけ、振り返って反省し今後の教訓とする。売買した銘柄と金額、騰落率、売買した理由、ポートフォリオへの寄与率など。

個別銘柄を選択する方法。
①会社四季報や日経会社情報を読み込む。
②目をつけた会社のホームページ、説明会資料(ビジネスモデル、戦略、将来性など)、決算短信をチェック。
③過去のトラックレコードのチェック。(過去の業績予想の修正はどうだったか。)
④疑問点を会社のIRに質問してみる。
⑤バリュエーションのチェック。(同業他社との比較、過去のバリュエーションとの比較。)

PER、PBR、ROEについて。

上昇相場で選ぶべき株。
しっかりした新規事業がある。
自社のビジネスと相乗効果があり、リターンが期待できるM&Aを行っている。
全国的、世界的に展開できる成長力がある。
景気拡大期における景気循環株。
商品の値上げができる力のある会社。
敗者復活してきた会社。
一貫してIRの姿勢がよい会社。
中小型株のアナリストが減っているので、見向きされず放置されている株。
新高値や上場来高値をつけた株。(新安値の株は避ける。)

・上昇相場では、PERもPBRも高くなる。

IPO企業の質は、上場社数が増えるほど低くなる傾向がある。裏付けのない初値がつくことも多い。目論見書を精読し、過去の業績をチェックする。大株主がベンチャーキャピタルである場合は避ける。上場目的は合理的か、真摯にIR活動をしているか、割高ではないか、時価総額は50億円以上か。

ほとんどの成長株は、期待に添う成長期間が3年未満である。成長している産業では、平均以上に成長しているか?成熟した業界なら、一人勝ちしているか?増益率が増収率を上回る、営業利益率が改善している会社は株価が上がりやすい。

下落局面では、信用取引の売りを活用する。また日経225miniの先物取引により、リスクヘッジもできる。ただし、レバレッジはかけてはならない。逆指値注文でリスク管理をすること。

買ってはいけない(売りの対象になる)株。
ビジネスモデルが崩壊した。
常に業績見通しが甘い。
無意味に多角化する。
何度も社名変更する。
過剰な増資やMSCBなどで、株主の利益を損なう。
好況やブームに便乗して上場しただけ。
経営者にとってIPOがゴール。
監査法人を(怪しげな監査法人に)変更する。
地方取引所に上場している。
経営者が自叙伝などを出版する。

株価は上昇より下落の方が速い。また、売られる株(新興市場など)はどこまでも売られる。時価総額が小さく、流動性が低い株は特に危険である。

株式投資で成功するには、心理の制御が必要となる。
恐怖を克服する。(損失をおそれて判断を誤る、利益を失うまいと手仕舞いが早くなりすぎる、他人の意見が気になって判断を誤る。)
市場の激変に対応し、自身の感性を変化させ投資パターンを修正することが求められる。
適切な投資行動がとれる。(慎重さ、計画性、投資ルールを守る、決断力、柔軟性。)
市場のトレンドに追随できる。
現実を直視し、自分で決断し一貫した行動をとれる。
確率的思考ができる。

業績予想が修正されたときの対処法。

アノマリーについて。

投資信託について。

税金について。

 

書評

著者の経歴の出発点が日本株アナリストなので、ほとんど株式投資(日本株)の話です。しかし、資産運用全体の戦略を考えるのにも使える本です。ポートフォリオ全体で許容できる損失比率を設定し、そこから各資産(各銘柄)で損切りするラインを逆算していくのはよい方法だと思いました。

儲ける話より(儲ける話もたくさんありますが)、とにかくリスク管理を説いているので良識的な本ではないでしょうか。下落局面に対応するための信用売りや先物取引でも、レバレッジを戒めています。投資が初めての人用ポートフォリオが、現金90%になっているのはちょっと面白いです(円グラフの90%が現金)。

他の株式投資本と共通する話もありますが、そのあたりは特に大切なことでしょう。投資を考え始めて1冊目にこの本を読むと、よくわからないと思われます。ある程度投資の勉強をして、自分で取引をした段階で読むと納得できるのではないでしょうか。取引の具体的なルールは書かれていないので、自分で自分の得意な手法を開発する必要があります。

本書でも新高値の銘柄を売ってはならないとあります。上場来高値は最高とも述べています。私は持ち株が新高値を何回かつけると、売って利益にしたくなるのですが、確かに利益は伸ばせるだけ伸ばすのが肝要です。上場来高値は含み損となっている人が誰もいないので、売ろうとする人はいないと考えるべきとあって、なるほどと思いました。
(書評2014/09/29)

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