何十年にもわたる資産運用において最も有利な投資とは何か、ということを考える本です。200年分のデータ分析から見えてきた、最高の投資方法とは。
おすすめ
★★★★★★★☆☆☆
対象読者層
長期の資産運用について考えたい人。難易度は初級者向け以上かと思います。
要約と注目ポイント
1802~2006年の米国市場のデータを分析した。
長期で利回りの高い資産運用は株式投資
利息や配当、値上がり益すべてを再投資した実質トータルリターンでは、株式投資が最も利回りが高かった。株式投資は200年間を通して、ほぼ一貫して約7%の利回りを記録した。
長期債の利回りは株式より大きく劣り、短期債の利回りはさらに低かった。金(ゴールド)や預金では、実質トータルリターンはほとんどなかった。特に第二次世界大戦以降は、債券や預金のリターンは低くなり、預金はマイナスのリターンだった。
債券は株式より安全と思われることが多いが、金利やインフレ率の影響を受けやすく、債券は長期では利回りが悪くなる。米国以外の国のデータでも、株式投資が最も利回りが高かった。
20年程度より長い期間で投資をするなら、株式の利回りが債券の利回りを上回る。これはどの時代の期間を見ても、ほぼ当てはまる。
たとえ株価がピークのときに投資を始めても、20~30年の期間があれば株式の利回りは債券より大きくなる。債券をポートフォリオに入れることで、リスクを低減できる可能性がある。
投資の基礎知識
株価指数(ダウ平均、S&P500、ナスダックなど)や、その構成銘柄についての解説。
上場投資信託、株価指数先物、オプションについての解説。
ブラックマンデーの教訓。
資産運用の考え方
資産の運用利回りを最大化するために、税金について考えることは重要である。税制面で債券投資は株式投資より不利で、債券投資のリターンを低下させる。株式の値上がり益に対する税は、売却するまでかからないためである。
しかし値上がり益は購入時と売却時の価格差なので、インフレ率が高いと税が大きくなり利回り低下の原因となる。
株式の価値は、企業の利益と配当に基づく。一般に株式、債券、不動産など資産の価値は、将来受け取ることが期待できるすべてのキャッシュフローを現在価値に割り引いた価格である。株価は、将来の配当総額の現在価値と等しい。
企業の利益は、本業からの利益をコアとみなすべきである。従業員のストックオプションを費用計上し、年金費用を調整し、本業と無関係なキャピタルゲインやのれん代の減損は除外されるべきだ。
PERの逆数である株価益回りは、将来の実質利回りの参考にできる。
経済成長率の高い国や成長率の高い時代の株式市場は、逆に株式利回りは低かった。これは高い経済成長には設備投資が必要で、借り入れや増資が行われたためと考えられる。
今後は経済の安定性が増し株式のリスクプレミアムが下がるので、PERが過去の平均値15倍より高い状態が続くだろう。
先進国の高齢化は、資産の買い手を減らし株価の下落要因となる。それを防ぐために、新興国と資本市場が統合されるべきだ。
GDPや株式資本のシェアは、先進国から新興国へと移っていく。米国株式市場だけでなく、他の先進国や新興国にも分散投資すべきだ。
投資先の国やセクターを分散させることで、ポートフォリオ全体のリスクを軽減できる。
過去のデータは効率的市場仮説に完全には合致せず、市場にはノイズがある。
PERの低い割安株は、高い利回りを示した。PBRの低い割安株も、利回りは高くなった。また高配当な銘柄群は、最終的な投資利回りが高くなった。小型株には大型株より利回りが高くなる時期があった。
ただし常に平均を上回る戦略は存在しないことを、投資家は認識すべきである。
インフレと景気循環
金本位制からの離脱や通貨切り下げ、金利引き下げなどの金融緩和政策は、株価とインフレ率を上昇させる。マネーサプライを増加させれば、インフレ率が上昇する。
インフレに対し、短期ではどのような金融資産でもインフレヘッジの効果は低いが、長期では株式がインフレヘッジに最も優れている。
株価は企業の利益に左右され、企業の利益は景気循環に影響される。しかし景気循環を正確につかむことは極めて困難である。
そのため投資家は、景況感を後追いして売買してはならない。市場が楽観的なときに高値で買い、悲観的なときに安値で売ることになるからだ。
経済指標の発表は、景気循環やインフレ率、企業利益の予想を変化させる。また中央銀行の政策に影響を与える。これらは株価に影響するが、投資家は短期的に反応するより長期的な投資戦略に専念した方がよい。
すぐれた投資とは
株価の動きがランダムではなく、チャートに意味があるという主張は疑わしい。しかしトレンド・フォローやモメンタム投資といった方法で、利回りを改善できる可能性はある。
過去のデータによれば、アノマリーは存在する。1月は小型株の利回りがよい、9月は利回りが悪い、クリスマスから新年にかけては利回りがよい、月の前半が後半より利回りが高くなる、など。
将来もアノマリーが維持されるかは不明であるが、アノマリーを利用できるなら利用するのもよいだろう。
不利な投資行動を避けるため、投資の心理学(行動ファイナンス)について認識しておくべきだ。
アクティブ運用ファンドが市場平均に勝つのは難しい。長期投資家は、時価総額加重インデックスファンドのようなパッシブ運用がよい。
今後はファンダメンタル加重平均のインデックスファンドなど、バリュー重視のパッシブ運用も期待される。
株価が大きく動いた日に、その原因が重大なニュースにあった事例は実はあまり多くない。株価の先行きを予測することはほとんど不可能である。
長期投資で成功するには、感情を制御し、長期的な目標と決定した投資戦略を維持することが重要だ。
書評
資産運用を俯瞰的に、大枠から考える本です。個別銘柄やら投信やらを選ぶ前に、まずどういう考え方で投資するかを決めることが大切ですが、本書はそういう方向に役立ちます。
過去200年のデータを分析することで、有利と推測される投資行動を考察しています。そういった意味で、本書は「敗者のゲーム」や「ウォール街のランダム・ウォーカー」と同じような位置付けかと思われます。
なお本文中に、税制面で株式投資は債券投資より有利とありますが、これは完全に米国に関する記述です。日本の税金については自分で考えないといけません。
本書の内容は、過去のデータ分析をもとにした投資戦略本と似ています。まとめると普通です。
『超長期で見れば、株式投資が最も利回りがよい。ファンダメンタル面で割安な株を選び、パッシブ運用など分散投資をして、取引コストを節約して長期で保有せよ。経済や株価の予想はほとんど当たらないと考えるべきで、市場心理に巻き込まれないこと。決めた投資のルールを長期で守ること。』
すごく普通なまとめですが、本書は効率的市場仮説に基づくパッシブ運用至上主義ではありません。トレンド・フォローの有効性に言及したり、アノマリーを認めたりしています。
市場に関する解説を読んでも、同意できるところがあります。このように市場は反応したり動いたりするよな、と実際に取引している感覚に近い解説です。
本書の知識を土台に、パッシブ運用を基本に据えながら、自分に合った長期投資戦略を考えてみてはいかがでしょうか。
(書評2014/09/23)