「敗者のゲーム」は、インデックス運用による長期投資派にとってバイブルと言える本ですが、その最新版です。本書と「ウォール街のランダム・ウォーカー」が、インデックス積立投資主義の二大聖典と思われます。インデックス投資の真髄をまとめました。
おすすめ
★★★★★★★☆☆☆
対象読者層
一生を見据えた、数十年単位での長期投資について考えたい人。
要約と注目ポイント
プロの投資家が集まる市場では、長期間勝ち続けることはできない。年間成績では6割のファンドマネジャーが、市場平均に負ける。10年では7割、20年では8割のマネジャーが市場平均に負ける。
市場では、ミスを減らすことが最も重要なのだ。長期にわたり市場に勝ち続けるファンドはほとんどないし、事前にそのファンドを見つけることもできない。
市場に勝つことをめざすのではなく、長期投資の目的を設定し、目的達成のための合理的で現実的な投資政策を選ぶことに注力せよ。そしてその投資政策を、規律を持っていかなるときも守ることが重要だ。
投資とは
市場に勝つには、①タイミングの選択で勝つ、②投資対象(銘柄)の選択で勝つ、③資産配分の選択で勝つ、④長期間勝ち続ける投資戦略を開発する、のどれかが必要である。いずれもほぼ不可能だ。
投資の基本原則は、いつお金が必要になるか考慮したうえで、長期の資産配分(株式・債券・不動産など)を決めることだ。投資対象は幅広く分散し、投資の方針を(暴落のときも)一貫して守ること。
一時的なマーケットの上下に一喜一憂せず、投資政策を遵守することが大切だ。マーケットの動きに惑わされないためには、歴史に学ぶこと。
投資が成功するかは、投資家の知的能力(情報収集と活用、分析力、判断力)と情緒的能力(暴騰・暴落時に冷静かつ合理的に行動する)に依存する。
インデックスファンドの利点
①8割のアクティブファンドに勝つ。
②低コスト。
③運用目的や長期投資方針という最重要事項に専念できる。
証券市場は、ほぼ効率的である。効率的な市場では、投入する労力やコストに対し、インデックスファンドが優れた結果をもたらす。
データから投資の方法を知る
運用期間が長くなるほど、ポートフォリオ全体の実際の収益率は平均収益率に近づく。長期投資では、データが「平均への回帰」に従う。
普通株の価格の評価は、①将来の企業収益と配当金額、②割引率、というふたつの要素で決まる。長期投資家にとっては①が重要となる。
過去のデータでは、
平均収益率:普通株>債券>短期資産
収益率の変動幅:普通株>債券>短期資産
となる。
インフレ調整後の投資収益率は、
株式>債券>短期資産
となる。
予想インフレ率の変化は、投資収益率に大きな影響を及ぼす。予想インフレ率が上昇すれば株価は下落し、予想インフレ率が低下すれば株価は上昇する。
小さな投資収益率の差も、長期間にわたり複利で運用されると、非常に大きな差となる。
ポートフォリオ
長期投資家は、マーケットリスクだけを負うべきである。個別株式や特定のセクター、市場セグメントのリスクを取っても、追加収益は得られない。
マーケットリスクこそがポートフォリオの収益の源泉なので、マーケットリスクの管理が長期投資家にとって重要である。市場の極端な暴落期にどれだけ耐えられるかを、リスク許容度と考えること。
ポートフォリオを管理する目的は、意図した水準のマーケットリスクを引き受け、期待リターンを最大化することである。
個人投資家へのアドバイス
個人投資家にとって問題となるのは、インフレと人生設計上の支出である。予定の決まっている支出と、非常時の支出に備えて貯蓄をする。貯蓄以外の資金は、株式に長期投資する。特に、株式市場の低迷期に投資を続ける。年金収入なども考慮し、インフレに耐えられる老後の計画を立てる。
2008年の大暴落も、限界を超えた借り入れと過剰な楽観のために発生した。長期投資家は、直近の経験にとらわれ過ぎないように注意すべきだ。
書評
本書の主張は、数十年という超長期で見れば、市場の成長を完全に享受できるインデックス運用が、最も良い結果を生むということです。目先の景気循環や経済ニュースに踊らされず、低コストで市場平均のリターンを得られるインデックス運用を続けろ、と訴えます。
確かに、日々の情報に惑わされて、すぐに売ったり買ったりするのは避けた方がよいです。売買手数料がかさんで、利回りを低下させます。また、高値で売って安値で買うという、正しいタイミングでのトレードをずっと続けるのも困難です。
安いところで渋々売り、高くなったところで焦って買うのもよくあることで、これも利回り低下の原因です。勝ち組プロ投資家並のトレードはできないので、インデックス資産を我慢して保有し続けるのも一理あります。
ただひとつ気になるのは、本当に世界がこれから、それなりに高いレベルで経済成長を長く続けられるのかということです。
現在の日本人に長期投資を勧める理屈としては、次のようなものがあります。
『バブル崩壊以後の1990年から日本の株式に投資していたら、確かに報われなかった。例えば、1990年から日経平均やTOPIXに連動するインデックス投信に、ドルコスト平均法で積立投資していたら、元本割れしている期間の方が長かった。でもそれは、日本に集中投資していたからだ。1990年以降に、アメリカやその他先進国の株価は何倍にもなっている。世界全体では経済成長してきたので、世界に分散投資した株式投信をずっと保有していたら、資産はとても順調に増えていた。だから日本人も、預金ではなくインデックス運用による長期の積立投資をするべきだ。』
この理屈は、過去のデータを見れば正しいです。でも将来はどうなのか?最近はサマーズ元財務長官などが、米国(先進国)長期停滞説を主張しています。これをどう考えるか。
このような長期停滞説も単なる目先のノイズと処理して、インデックス投信をドルコスト平均法で積み上げていくのもひとつの投資戦略です。あらゆる情報を気にせず積立投資するという姿勢こそ、この戦略の核心ですから。
世界は経済成長を続けるという原理を信じる人が、この戦略をとることができます。そのため、何があっても長い目で見れば世界経済は成長する、という原理に疑念を持つ人は、この戦略に手を入れる必要があるでしょう。
どんなことがあっても長期的には世界は経済成長を続ける、という原理に、最近私は若干の疑念を持っています。「ウォール街のランダム・ウォーカー第10版」の最後に、2000~2010年にかけて米国株式のインデックス投信に投資した場合、元本割れしたと書かれています。
そのあとで、債券・米国株・先進国株・新興国株・不動産すべてにインデックス投信で分散投資していれば、資産は大きく増えていた。めでたしめでたし。インデックス分散投資は不滅だ。と続くのですが、ちょっと待てよ、とも思います。
1990年以降、日本の株式に分散投資しても報われないのは、米国株や他の先進国株まで分散しなかったのが悪い、ということでした。2000年代、米国の株式に分散投資しても元本割れしたのは、世界全体の株式や債券、不動産にまで分散しなかったのが悪い、となりました。
これからはどうなのでしょう。米国経済はそこそこですが、日本と欧州は低成長になりそうです。すると、先進国株すべてに分散投資しても、報われないかもしれません。ほかに加えられる資産は、債券と新興国(あるいはフロンティアという範囲の国々)、不動産などです。
債券は、金利がゼロに近い状態です。新興国には、資源安と中国減速の問題があります。不動産は、金利がゼロから上昇したときどうなるか。ヘッジファンドの成績もずっと悪いですし、コモディティも値下がりしています。保有し続ければリターンが確実に期待できる資産があるのか、よくわからなくなってきました。
大恐慌から第二次世界大戦終了までの20年弱、あるいは1970年代の10年、アメリカの株式は値上がりしませんでした。10年単位で株価が低迷することは、ありうることです。
先進国の株式がこれから10年や20年の間、値上がりしなかったらどうでしょう。がっつり働いて掛け金を払っている期間のうち、10年単位で株価が低迷したら最終的な運用成績はどうなるのか。退職して資産を取り崩し始める時期に、株価がどん底に低迷していたら受取額はどうなるのか。
要するに、バブル崩壊以降の日本株式のように、低迷期の安値で買い、景気が良くなったような気がする高値では買わない、という手法が望ましいのではないでしょうか。
「自分でやさしく殖やせる確定拠出年金最良の運用術」で紹介されていた、バリュー平均法のような考え方も取り入れた方がよいかもしれません。長期で積立投資はするのですが、安値や押し目で大きく買い、高値ではほとんど買わない(あるいは全く買わない、さらには少し売ってしまう)方法です。
これは、市場変動のタイミングに合わせて買いを調節しようという考えです。本書の主張は、市場の変動は無視せよ(タイミングは個人投資家には見極められない)というものです。どちらの立場をとるかは、投資家の自己責任です。世界経済の将来の見方で、立場が決まるでしょう。
運用について理解し、自分にとっての運用目的を認識し、基本方針を自分で決め、どのような市場環境でも適切な投資政策を堅持することが重要だという、本書の主張には同意します。ドルコスト平均法によるインデックス運用が最高なのか、変更の余地があるかを決めるのは投資家です。
(書評2015/02/01)