「投資」カテゴリーアーカイブ

「3000円で30万円を目指す eワラント超入門」 eワラント投資研究会(編)

 

損失を限定し大きな利益を狙う手法、eワラントの入門本です。

 

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

eワラントをゼロから始める人。

 

要約と注目ポイント

 

eワラントとは

数千円という少額から投資でき、高レバレッジなので、投資額に対して大きな利益が狙える。

値上がり(コール)でも値下がり(プット)でも、儲けるチャンスがある。

損失は投資額に限定される(追い証はない)。

投資対象が多い(個別株や株価指数、商品、為替など)。

手数料がない(買値と売値に差額がある)。

プットで保有資産のリスクヘッジができる。

eワラントは申告分離課税。FXや先物取引との損益通算が可能。

 

損失限定で大きな利益を狙えるのが、eワラントの利点です。売りからでも始められます。

 

eワラントを始めるには

①eワラントを扱うネット証券で口座を開設する。(現在はSBI証券と楽天証券。)

②何に投資するか決める。(個別株、株価指数、為替、商品、バスケット。eワラント、ニアピン、トラッカー。満期日、権利行使価格。コール、プット。などの選択肢がある。)

③1000ワラントから買ってみよう。満期前に売るのもあり。

 

eワラントの基礎知識

 

コールとプットの説明

コールでは、満期日に参照原資産価格が権利行使価格を上回れば、利益になる。

プットはその逆となる。

満期日の受取金額 = (参照原資産価格と権利行使価格の差) × 保有ワラント数 × 1ワラント当たり原資産数

 

投資対象の説明

初めてなら、満期日が遠いレバレッジが低めな日経平均にしよう。

そのほかの例として、NYダウ、為替、日本企業、バスケット、商品。ランキングにも注目すべし。

 

先物取引やオプション取引と似ていますが、eワラントは多くの投資対象に、少額から投資できます。

 

用語の説明

原資産、ワラントレバレッジ、スプレッド、時間的価値、本源的価値、プレミアム、デルタについて。

 

ニアピンについて

日経平均株価もしくは米ドルの価格を予想する。日経平均は上下250円の範囲、米ドルは上下2円の範囲に収まればよい。

1ワラント当たりの満期の受取額は、

日経平均の場合 = 100円 - (ピン価格と原資産価格の差) × 0.4

米ドルの場合 = 100円 - (ピン価格と原資産価格の差) × 50

となる。

 

レバレッジトラッカーについて

中長期で原資産の値動きに連動するeワラント。

レバレッジトラッカーは、原資産の変動率ではなく変動幅に連動するので、原資産が上下を繰り返しても値動きから乖離しない。(レバレッジのかかったブルベア型ETFは変動率に連動する。)

1ワラント当たりの満期の受取額は、

プラス5倍トラッカーの場合 = 7円 + (原資産価格と権利行使価格の差) × 1ワラント当たり原資産数 × 5

マイナス3倍トラッカーの場合 = 5円 + (権利行使価格と原資産価格の差) × 1ワラント当たり原資産数 × 3

となる。

なお、1ワラント当たりのレバトラ価格が2円を下回ると新規販売停止になり、1円以下になると自動的にロスカットされる。

 

シミュレーターの使い方

シミュレーターの使い方について。

 

ニアピンやレバレッジトラッカーは、独特な金融商品です。

 

相場予測別のeワラント投資法

①強気 → コール型。

②やや強気 → インザマネーのコール型か、プラス5倍トラッカー。

③横ばい → ニアピン。

④やや弱気 → インザマネーのプット型か、マイナス3倍トラッカー。

⑤弱気 → プット型。

 

eワラントの投資法は、かなり研究する余地がありそうです。

 

書評

150ページほどの字数の少ないペラペラな本なので、それほどおすすめできませんが、eワラントの基本事項はわかります。

eワラントの本はあまりないので、買って損したとは思っていません。eワラントが初めての人には、とりあえず勉強になります。

本書ではeワラントを、少額から投資を始める初心者にも適した金融商品としています。また、難しいことがわからなくてもOK、相場の上下が予想できれば儲かります的な本です。

そういった解説はどうかと思いますが、まあいいです。私がeワラントに求めるのは投機(ギャンブル)であり、割り切ってやりますので。私もアベノミクスバブル崩壊前に、売りに賭けたい人間なので、同様の低いレベルです。

レバレッジトラッカーは、原資産の変動幅に連動するということを初めて知りました。レバレッジの効いた指数連動型ブルベアファンド(ETF)は、上下に振れると指数から乖離してきます。損になるので長くは持てないなと思っていたのですが、こういう商品もあったのですね。

eワラントには多くの商品がありますが、その裏にはオプションが埋め込まれています。私にはオプションは難しく、利益を出すには勉強と研究が必要になりそうです。
(書評2015/03/04)

「敗者のゲーム 原著第6版」 チャールズ・エリス(著)

 

「敗者のゲーム」は、インデックス運用による長期投資派にとってバイブルと言える本ですが、その最新版です。本書と「ウォール街のランダム・ウォーカー」が、インデックス積立投資主義の二大聖典と思われます。インデックス投資の真髄をまとめました。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

一生を見据えた、数十年単位での長期投資について考えたい人。

 

要約と注目ポイント

プロの投資家が集まる市場では、長期間勝ち続けることはできない。年間成績では6割のファンドマネジャーが、市場平均に負ける。10年では7割、20年では8割のマネジャーが市場平均に負ける。

市場では、ミスを減らすことが最も重要なのだ。長期にわたり市場に勝ち続けるファンドはほとんどないし、事前にそのファンドを見つけることもできない。

市場に勝つことをめざすのではなく、長期投資の目的を設定し、目的達成のための合理的で現実的な投資政策を選ぶことに注力せよ。そしてその投資政策を、規律を持っていかなるときも守ることが重要だ。

長期間の投資で成功したいなら、目的のために投資行動のルールを守り続けることが大切です。

投資とは

市場に勝つには、①タイミングの選択で勝つ、②投資対象(銘柄)の選択で勝つ、③資産配分の選択で勝つ、④長期間勝ち続ける投資戦略を開発する、のどれかが必要である。いずれもほぼ不可能だ。

投資の基本原則は、いつお金が必要になるか考慮したうえで、長期の資産配分(株式・債券・不動産など)を決めることだ。投資対象は幅広く分散し、投資の方針を(暴落のときも)一貫して守ること。

一時的なマーケットの上下に一喜一憂せず、投資政策を遵守することが大切だ。マーケットの動きに惑わされないためには、歴史に学ぶこと。

投資が成功するかは、投資家の知的能力(情報収集と活用、分析力、判断力)と情緒的能力(暴騰・暴落時に冷静かつ合理的に行動する)に依存する。

長期投資家は、市場に勝つことをめざすべきではありません。いかなるときも冷静さを保つことが重要です。

インデックスファンドの利点

①8割のアクティブファンドに勝つ。
②低コスト。
③運用目的や長期投資方針という最重要事項に専念できる。

証券市場は、ほぼ効率的である。効率的な市場では、投入する労力やコストに対し、インデックスファンドが優れた結果をもたらす。

低コストで広く分散投資されたインデックスファンドは、長期投資に最適です。

データから投資の方法を知る

運用期間が長くなるほど、ポートフォリオ全体の実際の収益率は平均収益率に近づく。長期投資では、データが「平均への回帰」に従う。

普通株の価格の評価は、①将来の企業収益と配当金額、②割引率、というふたつの要素で決まる。長期投資家にとっては①が重要となる。

過去のデータでは、
平均収益率:普通株>債券>短期資産
収益率の変動幅:普通株>債券>短期資産
となる。

インフレ調整後の投資収益率は、
株式>債券>短期資産
となる。

予想インフレ率の変化は、投資収益率に大きな影響を及ぼす。予想インフレ率が上昇すれば株価は下落し、予想インフレ率が低下すれば株価は上昇する。

小さな投資収益率の差も、長期間にわたり複利で運用されると、非常に大きな差となる。

長期間の投資では、株式に投資すべきとなります。インフレを考慮しても、株式投資が良い方法です。

ポートフォリオ

長期投資家は、マーケットリスクだけを負うべきである。個別株式や特定のセクター、市場セグメントのリスクを取っても、追加収益は得られない。

マーケットリスクこそがポートフォリオの収益の源泉なので、マーケットリスクの管理が長期投資家にとって重要である。市場の極端な暴落期にどれだけ耐えられるかを、リスク許容度と考えること。

ポートフォリオを管理する目的は、意図した水準のマーケットリスクを引き受け、期待リターンを最大化することである。

長期に投資を続けるなら、投資対象をいろいろ探すより、暴落時に耐えられる資産管理を最優先にします。

個人投資家へのアドバイス

個人投資家にとって問題となるのは、インフレと人生設計上の支出である。予定の決まっている支出と、非常時の支出に備えて貯蓄をする。貯蓄以外の資金は、株式に長期投資する。特に、株式市場の低迷期に投資を続ける。年金収入なども考慮し、インフレに耐えられる老後の計画を立てる。

2008年の大暴落も、限界を超えた借り入れと過剰な楽観のために発生した。長期投資家は、直近の経験にとらわれ過ぎないように注意すべきだ。

個人は貯金をつくって非常時に備え、それ以外のお金は株式に長期投資するのが良い。という結論です。

 

書評

本書の主張は、数十年という超長期で見れば、市場の成長を完全に享受できるインデックス運用が、最も良い結果を生むということです。目先の景気循環や経済ニュースに踊らされず、低コストで市場平均のリターンを得られるインデックス運用を続けろ、と訴えます。

確かに、日々の情報に惑わされて、すぐに売ったり買ったりするのは避けた方がよいです。売買手数料がかさんで、利回りを低下させます。また、高値で売って安値で買うという、正しいタイミングでのトレードをずっと続けるのも困難です。

安いところで渋々売り、高くなったところで焦って買うのもよくあることで、これも利回り低下の原因です。勝ち組プロ投資家並のトレードはできないので、インデックス資産を我慢して保有し続けるのも一理あります。

ただひとつ気になるのは、本当に世界がこれから、それなりに高いレベルで経済成長を長く続けられるのかということです。

現在の日本人に長期投資を勧める理屈としては、次のようなものがあります。

『バブル崩壊以後の1990年から日本の株式に投資していたら、確かに報われなかった。例えば、1990年から日経平均やTOPIXに連動するインデックス投信に、ドルコスト平均法で積立投資していたら、元本割れしている期間の方が長かった。でもそれは、日本に集中投資していたからだ。1990年以降に、アメリカやその他先進国の株価は何倍にもなっている。世界全体では経済成長してきたので、世界に分散投資した株式投信をずっと保有していたら、資産はとても順調に増えていた。だから日本人も、預金ではなくインデックス運用による長期の積立投資をするべきだ。』

この理屈は、過去のデータを見れば正しいです。でも将来はどうなのか?最近はサマーズ元財務長官などが、米国(先進国)長期停滞説を主張しています。これをどう考えるか。

このような長期停滞説も単なる目先のノイズと処理して、インデックス投信をドルコスト平均法で積み上げていくのもひとつの投資戦略です。あらゆる情報を気にせず積立投資するという姿勢こそ、この戦略の核心ですから。

世界は経済成長を続けるという原理を信じる人が、この戦略をとることができます。そのため、何があっても長い目で見れば世界経済は成長する、という原理に疑念を持つ人は、この戦略に手を入れる必要があるでしょう。

どんなことがあっても長期的には世界は経済成長を続ける、という原理に、最近私は若干の疑念を持っています。「ウォール街のランダム・ウォーカー第10版」の最後に、2000~2010年にかけて米国株式のインデックス投信に投資した場合、元本割れしたと書かれています。

そのあとで、債券・米国株・先進国株・新興国株・不動産すべてにインデックス投信で分散投資していれば、資産は大きく増えていた。めでたしめでたし。インデックス分散投資は不滅だ。と続くのですが、ちょっと待てよ、とも思います。

1990年以降、日本の株式に分散投資しても報われないのは、米国株や他の先進国株まで分散しなかったのが悪い、ということでした。2000年代、米国の株式に分散投資しても元本割れしたのは、世界全体の株式や債券、不動産にまで分散しなかったのが悪い、となりました。

これからはどうなのでしょう。米国経済はそこそこですが、日本と欧州は低成長になりそうです。すると、先進国株すべてに分散投資しても、報われないかもしれません。ほかに加えられる資産は、債券と新興国(あるいはフロンティアという範囲の国々)、不動産などです。

債券は、金利がゼロに近い状態です。新興国には、資源安と中国減速の問題があります。不動産は、金利がゼロから上昇したときどうなるか。ヘッジファンドの成績もずっと悪いですし、コモディティも値下がりしています。保有し続ければリターンが確実に期待できる資産があるのか、よくわからなくなってきました。

大恐慌から第二次世界大戦終了までの20年弱、あるいは1970年代の10年、アメリカの株式は値上がりしませんでした。10年単位で株価が低迷することは、ありうることです。

先進国の株式がこれから10年や20年の間、値上がりしなかったらどうでしょう。がっつり働いて掛け金を払っている期間のうち、10年単位で株価が低迷したら最終的な運用成績はどうなるのか。退職して資産を取り崩し始める時期に、株価がどん底に低迷していたら受取額はどうなるのか。

要するに、バブル崩壊以降の日本株式のように、低迷期の安値で買い、景気が良くなったような気がする高値では買わない、という手法が望ましいのではないでしょうか。

「自分でやさしく殖やせる確定拠出年金最良の運用術」で紹介されていた、バリュー平均法のような考え方も取り入れた方がよいかもしれません。長期で積立投資はするのですが、安値や押し目で大きく買い、高値ではほとんど買わない(あるいは全く買わない、さらには少し売ってしまう)方法です。

これは、市場変動のタイミングに合わせて買いを調節しようという考えです。本書の主張は、市場の変動は無視せよ(タイミングは個人投資家には見極められない)というものです。どちらの立場をとるかは、投資家の自己責任です。世界経済の将来の見方で、立場が決まるでしょう。

運用について理解し、自分にとっての運用目的を認識し、基本方針を自分で決め、どのような市場環境でも適切な投資政策を堅持することが重要だという、本書の主張には同意します。ドルコスト平均法によるインデックス運用が最高なのか、変更の余地があるかを決めるのは投資家です。
(書評2015/02/01)

「ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる」 マイケル・ルイス(著)

 

リーマンショック以降、ヨーロッパは新たな金融危機の震源地とみなされています。ギリシャを筆頭として、ヨーロッパの抱える危険性を感じられる本です。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

欧州経済に関心のある人。金融危機に興味がある人。

 

要約と注目ポイント

カイル・バスの警告

サブプライムローン危機で大きく儲けたヘッジファンド経営者のカイル・バスは、金融危機はまだ終わっていないと言った。先進国の信用力によって、一時的に覆い隠されただけだと。2000年以降の先進国の経済成長は実はまやかしで、返済能力のない人が借金をして起きた現象に過ぎない。

債務を返済することが不可能な主要国が、いくつかある(候補はギリシャ、アイルランド、イタリア、スイス、ポルトガル、スペイン、フランス、日本)。問題は、先進国の債務不履行が起きるのが、いつなのかだ。

アイスランド

2008年10月にアイスランドは破綻した。累積債務は対GDP比で850%、銀行の損失1000億ドルを人口30万人で負うことになった。

アイスランドは漁業で成り立つ孤立した大家族のような島国だったが、2000年代前半のアメリカ型金融に倣い、極端なレバレッジと軽率な借り入れによる買収に明け暮れた。その原因は、男性的で冒険主義的な国民性(漁師そのもの)にあったのかもしれない。

ギリシャ危機

ギリシャの国家予算は、使途が不明瞭きわまりなかった。無駄な支出、公務員の高い給与と賄賂、公共部門の非効率。歳入にも問題があった。徴税されることがなく、国民も納税する気がなかった。

財政が破綻しかけたのも無理はない。そもそもユーロ参加のため帳簿を細工し、ドイツ並みの金利で借金できるようになったことが、間違いのもとだった。

腐敗はギリシャ人相互の不信を生み、相互不信がギリシャ人に利己的行動をとらせ、ますます腐敗は深刻になった。腐敗の象徴となった修道院には共同体が存在したが、ギリシャ国民の中には共同体への意識は存在しないようだ。

アイルランド

アイルランドもアイスランド同様に、謎の急激な経済成長と、極端な金融危機を体験した。アイルランドでは、自国の不動産への過剰な投資が行われた。分別のない融資により、1000億ユーロ前後の不良債権が発生した。

思わず大金を手にしたり、あるいはその大金を失ったときにこそ、国民性が表れるようだ。奇妙なことに、アイルランドの銀行債務を政府は補償することに決めた。

ギリシャ人とは異なり、1000億ユーロの負債をアイルランド人はまるごと背負うことにした。何も言わず黙ったまま。

ドイツ

ドイツ人は糞や肛門に執着するが、それは清潔な体裁と汚い実情という二面性を示しているようだ。ギリシャのような破綻国家を救えるのはドイツだけだが、実施には救済される国が支出削減と構造改革に努めることが条件である。堅実なドイツでは信用バブルは発生せず、バブルに熱狂した国々に規律を強いるが、ギリシャでは反発も強い。

ただ、国内ではバブルは生じなかったが、諸外国にバブルを生むような金を貸したのは、ドイツの銀行である。ルールに従って、リスクの高い資産にも粛々と融資し、莫大な不良債権を築き上げた。ここにドイツの二面性がある。

アメリカ

アメリカの地方自治体には、債務が積み上がっていた。住民たちが公共サービスを求めつつ、その対価の支払いを拒否してきた結果だった。公務員の高給と年金が、税収と全く釣り合わなかった結果でもある。長期の利益を犠牲にして目先の利益を欲する、アメリカ人の姿がそこにあった。

2010年ごろから、ユーロ圏では高失業率と低成長、累積する政府債務がくすぶっています。決定的な破局は避けながら、かといって抜本的に解決するわけでもなく、ずっと先送りで取り繕っています。最後には、何か大きなことが起こりそうなのですが。

 

書評

マイケル・ルイス氏の本は読むのが楽しく、これも面白い本でしたが、本当にこんなことがあるのか、となります。

ギリシャでは誰も(国民も企業も)税金を払わないとか。国会議員全員が自宅の固定資産税を払っていないのもすごいですが、企業が(税金を払わないために)まず法人として登録されていないというところで笑いました。ドイツ人もキレますね。

同氏の著作「世紀の空売り」「フラッシュ・ボーイズ」に比べると、本書は馬鹿馬鹿しさが高濃度なので、へらへらしながら読めます。

それにしても欧州の経済は一向に改善せず、再びECBが金融緩和を始めましたが、解決するのでしょうか。異なる経済状況の国々が、同一の通貨を使い、同一の金融政策をとるというのは、やはり持続不可能なのでしょうか。

世界の大きなリスクに、欧州経済があげられます。欧州経済の不振は、欧州に社会不安をもたらすので、経済だけでなく政治面でも影響が大きいです。2015年も欧州経済は要注目です。
(書評2015/01/28)

「株式先物入門 第2版」 廣重勝彦(著)

 

株式先物についての入門書です。内容をまとめ、役立つか評価しました。

おすすめ

★★★★☆☆☆☆☆☆

 

対象読者層

株式先物に興味がある人。難易度は入門書レベルです。

 

要約と注目ポイント

・株式先物の基礎知識。

・テクニカル分析について。

・トレードの考え方について。

・資金管理について。

・先物を利用したヘッジについて。

・システムトレードについて。

株式先物についての簡単な説明です。日本の市場だけです。そのほかに、トレード方法もざっと説明しています。

 

書評

株式先物の超基本的知識を学べます。薄く基礎を勉強できました。ただ著者の考え方によると思われますが、先物入門の本なのに、チャートや資金管理、システムトレードの説明が大部分です。

約200ページの本で、先物の説明が60ページほどしかないのは、不満です。株式先物の基礎知識と、先物によるヘッジに60ページ。チャートやテクニカル分析の話で60ページ。資金管理で20ページ。システムトレードで50ページ。

同じ日経文庫にある、同じ著者の「デイトレード入門」の内容と、けっこう被っています。株式先物入門をタイトルに掲げる以上、先物に集中して解説してもらいたいと感じました。

先物だけを学びたい人には勧められません。いろいろなことを広く浅く知りたい、という読者にはいいでしょうが。
(書評2015/01/25)

「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」 マイケル・ルイス(著)

 

超高速取引では不正が行われている!
大スキャンダルを告発した経済書にとどまらず、娯楽読み物としても高いクオリティを持つ本です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

超高速取引に関心がある人。市場の取引の実態に関心のある人。

 

要約と注目ポイント

超高速取引の幕開け

2009年夏、ゴールドマン・サックスに勤務していたロシア人プログラマーがFBIに逮捕された。それと同じころ、シカゴ・マーカンタイル取引所のデータセンターと、ニュージャージー州カーテレットのナスダック証券取引所データセンターをケーブルで一直線につなぐため、秘密裏にトンネルが掘られていた。

2008年、ひとりの男が、回り道をする既存の通信回線を使わず、直線でマーカンタイルとナスダックを繋げば、すべての裁定取引で利益をあげられると閃いた。男は協力者を募り、2010年にケーブル工事を完成させた。

完成直前に、ウォール街にこのプロジェクトは売り込まれた。裁定取引を行う業者は400社。ケーブルの容量は200社分のみ。さらに契約には、ケーブル利用に際し自己勘定取引はできるが、ブローカー業務を行う顧客とはケーブルを共有できないという制限事項が盛り込まれていた。

自ら超高速取引を行う会社のみが、利益を得られる構図になります。

カナダ人株式トレーダー登場

株式市場の取引は、今では人間ではなくコンピュータが遂行している。2007年ごろより、ブラッドという名のカナダ人株式トレーダーが、市場で提示されているはずの価格で約定できないという問題を抱えていた。また取引所の数が増え、同じ銘柄を異なる手数料の体系で売買するようになっていた。

不可解な損失が続いていたそのころ、大手ブローカーによるダークプール(私設取引所)が数十も生まれていた。ダークプール内の売買取引は、公表されていなかった。2009年5月、証券取引所が、手数料を払う超高速取引業者に、他の業者より早く取引情報を知らせていることが明らかになった。

ブラッドはチームを組んで、調査を開始した。調べていくと、数々の謎がつながりだした。約定しない原因は、注文がそれぞれの取引所までに届く所要時間の差によるものだった。ミリ秒単位の差であった。

その差を利用し、超高速取引業者は他者の売買注文の先回りをしていた。誰かの買い注文を察知すると先回りして買い、そのあとで注文者に高く売りつけるのだ。

2000年代半ばより、超高速取引業者や大手投資銀行、ヘッジファンド、無名のプロップ・ショップ(自己勘定取引を行う会社)までが、取引所要時間を短くすることに血眼になった。金融業界への野心を秘めたひとりの技術者が、引っ張りだこでその仕事にあたっていた。

しかし技術職としてこき使われることに飽き飽きしていたその男、ローナンは、超高速取引の専門家を探していたブラッドに引き抜かれる。取引に通じたブラッドと、業界の通信システムを知り尽くしたローナンが出会ったことで、超高速取引業者の手口が明らかになった。

顧客の注文を処理するブローカーは、複数ある取引所にどのような順序でどれだけ発注されるか、普通は気にしない。そのため取引の際に、手数料を払うのではなく、報奨金(!)がもらえる、超高速取引業者が設立したダークプールに誘い込まれる。

その餌場であるダークプールで、ブローカーの注文の全体像を超高速取引業者は読み取る。他の取引所に先回りして該当する株式などを買い占め、直後にブローカーに高く売り渡す。

ひとりの株式トレーダーが、私設取引所の秘密を解き明かしていきます。超高速取引業者は、トレードしているすべての機関投資家や個人投資家から、広く薄くお金を巻き上げていました。

反撃

ブラッドは、投資家たちにこの現実を説明して回った。資産運用や投資信託の大手、フィデリティやバンガード、T・ロウ・プライスやジャナス・キャピタル、有名ヘッジファンド経営者のデイヴィッド・アインホーンやダン・ローブ、ビル・アックマンといったプロの投資家たちも、超高速取引で食い物にされていることを知らなかった。

2010年5月6日にフラッシュ・クラッシュが起こると、投資家たちの疑念はますます深まった。ダークプール内部での取引は、いっさい投資家に明かされていない。ダークプール内で、いったい何が行われているのか?

フラッシュ・クラッシュの数か月後、再び市場で奇妙な動きが始まった。その裏に、スプレッド・ネットワークスという会社が存在した。マーカンタイル取引所とナスダック取引所をケーブルで結んだ、あのプロジェクトの会社である。

そもそも、なぜこのような先回りの取引が認められるようになったのか。原因は、2007年に施行された全米市場システム規約にあった。ブローカーが顧客の利益を守るため、最も有利な価格を提示している取引所から順に、注文を送る義務を負うようになった。

だが、通常の投資家と、超高速取引業者が認識できる市場価格は異なっている。超高速取引業者はマイクロ秒単位の価格がわかるので、秒単位の価格を見て行動する投資家には常に勝てる。

超高速取引業者のやり方を知ったブラッドのチームは、対抗できる注文システムをつくった。どの取引所にも時間差なく発注するシステムで、ソーと呼ばれた。すでに投資銀行と超高速取引業者は、共犯関係になっていた。

大手投資銀行が支配する世界で、どうやって顧客の利益を守るのか。証券取引委員会、メディア、世論の動向を見ながら、ブラッドはひとつの結論に達した。投資家のために存在する取引所を、自分たちで設立する。

私設取引所が数多く設立されたことが、超高速取引を生みました。実態に合わない金融規制が、超高速取引業者を跋扈させます。

新取引所と弱肉強食の世界

内向的なロシア人プログラマー、セルゲイがゴールドマン・サックスに採用されたのは、2007年だった。超高速取引が巨大市場となったにもかかわらず、ゴールドマンはあまり稼げていなかった。ゴールドマンのシステムが、古臭かったためだ。

2年間、セルゲイはつぎはぎだらけのシステムの改善に従事した。退職時に、自分が取り組んだソース・コードを自分あてにメールで送信した。

ブラッドは銀行を辞め、取引所設立の準備を始めた。出資を募るため投資家を回り、人材集めに奔走した。集まった人材はそれぞれの知恵を出し合って、いかさまができない公正な取引所の構築に力を尽くした。

だがそもそも、市場の取引の7割を占める大手投資銀行が、示し合わせて新しい取引所に注文を送らなければ、開設した取引所は失敗に終わる。超高速取引とダークプールで巨額の利益をあげる投資銀行が、顧客のために利益の見込めない取引所へ注文を送るだろうか?

新取引所設立前、そして設立後も嫌がらせは続いたが、驚きの反応もあった。ゴールドマンが、新取引所に好意的だったのだ。ゴールドマンは、超高速取引とダークプールの分野で、従来の株式市場ほどの力を発揮できないことに気付いていた。また、超高速取引とダークプールが、資本市場そのものを不安定にするのではないかとも心配していた。2013年12月19日、ゴールドマンが初めて大口の注文を流してきた。新取引所の未来が垣間見えた瞬間だった。

セルゲイの持ちだしたコードは、転職先では全く役に立たないものだった。用途もプログラミング言語もまるで違っていた。コードを転送した動機は、彼自身の言う通り、コードへの習慣的な興味のためとも思われた。コンピュータおたくが、自分の関心ごとだけを大事にするように。ではなぜ、ゴールドマンは急いでFBIに通報する必要があったのだろうか?

マイクロ波の信号は、光ファイバーの通信より1.5倍ほど速い。スプレッド・ネットワークス社が通した一直線の光ファイバー・ケーブルに沿って、今、38基の電波塔が立っている。

公正な取引所は、多くの人たちに恩恵をもたらします。しかし、強欲に支配された金融市場の性質は、簡単に変わるものでもありません。

 

書評

「世紀の空売り」を読んで、マイケル・ルイス氏の本は面白いなと思っていました。本作も面白いです。でも、読んだ後に少し嫌な気持ちにもなります。本当にこんなことが起こったのでしょうか。今はどうなのでしょうか。ウォール街では何でもありか、と思います。俺のものは俺のもの。顧客の利益も俺のもの。損失は顧客だけのもの。というジャイアニズムを感じます。

本書を読んで、超高速取引のフロントランニングという問題が、実は社会に重大な影響を与えているとわかりました。しかし、事態はかなり複雑です。私は全くの門外漢ですが、金融に相当興味を持っています。そのように興味のある人間でも、読んでいてなかなか事情が理解できませんでした。金融や経済に関心のない人は、本書の内容は全然わからないでしょう。

経済に興味がない大部分の国民は、超高速取引などどうでもいいと感じます。ところが、超高速取引業者が食い物にしているのは、大手の機関投資家です。大手の機関投資家というのは、年金や保険です。結局、一般国民の小口の掛け金や積立金の運用から、超高速取引業者は利益をあげていることになります。

超高速取引業者の必勝法は、だいたい以下のようなものらしいです。

公設の取引所に手数料を払い、普通の投資家より早く、売買注文や価格といった情報を入手します。投資銀行や証券会社に金をつかませ、彼らの顧客の注文を引き受けたり、情報を得たりします。さらに自身でダークプールを設立し、金で釣って注文を引きつけて情報をとります。こうして投資家の注文内容を推測すると、先回りして注文をします。投資家の買いの前に株を買い占め、差をつけて高く売りつけたり、投資家の売りの前に株を売り、安く買い戻します。

2014年に東京証券取引所が、大型株の呼値の単位を細かくしました。大義名分は、流動性を増やすことです。本書で指摘されていますが、超高速取引を正当化する最大の看板が、流動性の増加です。超高速取引業者は、呼値の単位が細かくなるほど喜びます。本来の投資家同士の売買に、割り込みやすくなるためです。東証の件が超高速取引と関係があるのか、よくわかりませんが。

ほとんどの人が関心を持たず、ほとんどの人に理解できない巨大システムが存在したとします。そのシステムに欠陥があり、その穴にシロアリが集った場合、永遠に巨大システムに寄生し続けます。

現代の社会はあまりに高度化し、複雑になったので、いろいろな分野で巨大なシステムが発生しました。それぞれのシステムが、それぞれの内部にいるほんのひと握りの人にしか理解できなくなっているのも、無理のないことです。システムの穴が塞がれるのは、シロアリ自身が改心して自浄作用を発揮するか、システム自体が崩壊するときだけでしょう。

アメリカ市場では、やることも非常にえげつないですが、自浄作用も内部から生じました。日本に存在する、多くの硬直したシステムではどうでしょう。巨大なシステムも、内部の一個人の行動から変えられると信じるかが、鍵のように思います。
(書評2015/01/25)

「実務家のためのオプション取引入門」 佐藤茂(著)

 

素人がオプション取引を理解するのは難しい。これは否めない事実と思われます。優秀な現役オプショントレーダーが、一般投資家も対象に含めて書いた、かなり貴重な解説書です。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

オプション取引を勉強したい人。
難易度は中級者向けレベル。
高校数学程度の知識はあることが望ましい。

 

要約と注目ポイント

オプションとは何か。

単利、複利、無リスク金利について。

現在価値と割引率について。

プットコールパリティの解説(金利と配当なしの場合、一般形、アメリカン型の場合)。

オプション価格の決定要因(行使価格、原資産価格、満期までの期間、ボラティリティ、配当、金利)の解説。

どのようにオプション価格は計算されるか。
(ワンステップ二項分布モデル、マルチステップ二項分布モデル、ブラックショールズモデル、モンテカルロシミュレーション。)

ボラティリティの解説。
(ヒストリカルボラティリティ、インプライドボラティリティ、ボラティリティスマイル、タームストラクチャ、ボラティリティサーフィス。)

オプションを組み合わせた投資戦略をスプレッドと言う。
(ストラドル、ストラングル、コールスプレッド、プットスプレッド、バタフライ、バイライト、マリードプット、リスクリバーサル、コンボ、リバーサルコンバージョン、ボックス、カレンダースプレッド、ジェリーロール。)

オプションの価値の変化を表す指標をグリークと言う。
(デルタ、ガンマ、セータ、ベガなど。)

コールとプットの等価性の解説。

オプションの裁定取引の解説。

アメリカン型オプションの早期行使の解説。配当スプレッドと金利スプレッド。

オプショントレーダーの考え方。

VIXの解説。

本書の内容がすべて理解でき、使いこなせるようになったら、オプション取引の勉強はひと通り済んだ感じです。できたらですが。

 

書評

著者の執筆動機のひとつが、満足できるオプションの入門書がほとんどないことでした。

確かに私がオプションの勉強を始めたいと思って本屋に行っても、あまり適当な本がありません。胡散臭い儲かると称するトレード手法の類か、学術的な数理モデルの教科書がほとんどです。

本書はオプションの理論の正しい理解、そして実際の取引で利益を求めるにはどうすべきかという、重要なふたつの要素を扱います。

現役のオプショントレーダーが、理論と実践を同時に解説してくれる、とてもありがたい本です。

350ページを超える厚い本で、数式もそれなりに出てきます。

コールとは買う権利です、のようなところから1章はスタートするので、これは読みこなせるのでは?読み終わるときには、オプションが理解できているのでは?

と思うのですが、2章から普通に難しくなります。

ファイナンスの常識と高校レベルの数学知識がないと、解説文を読むのもきついかと思われます。著者はすごく丁寧に説明しているのですが。

オプションを理解して使いこなせると、とても幅広いトレードができるようです。

市場の動きに対して、かなり意表を突く方向から参加して、利益を狙ったりもできます。理解できるようになりたいものです。

しかし、まえがきに書かれていますが、証券会社や銀行のトレーダーでも、オプション知識に誤解がある人がいるそうです。

本当に難しいです。これで入門書ですか?という感じです。私も途中から、何が何やらわからなくなりました。

オプションの口座を開設して、本書を読み返しつつ、仮想のつもり取引を行って勉強したいと思います。
(書評2015/01/18)

「システムトレード基本と原則」 ブレント・ペンフォールド(著)

 

システムトレードの解説書です。本書は、心理よりも資金管理と売買ルールを重視します。

 

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

トレーディングで儲けたい人。

 

要約と注目ポイント

勝ち続けているトレーダーはわずかだが、彼らはトレーディングの普遍的な原則を守っている。

勝つために、自分の間違いを認めてうまく負けられるようになること。現在あなたが損をしているなら、それは今の売買ルールに問題がある。売買ルールの期待値を検証することが必要だ。

トレーディングで重要なのは、売買ルール、資金管理、心理の3つの要素である。特に勝敗を分けるのは、売買ルールと資金管理である。

すべてのアイデアを検証し、単純さ、パターン、確実性を探すこと。手順を重んじ、トレーディングでは規律と一貫性を保つ。控えめな期待値を設定する。プロの投資家のように行動せよ。

 

トレードで勝つためには、売買ルールを検証すること。そして売買ルールを規律を持って守り、資金管理を徹底すること。以上が本書の主張です。

 

トレードを成功させる6段階の原則

①準備。

②自己啓発。

③トレーディングスタイルをつくる。

④トレードを行う市場を選ぶ。

⑤売買ルール、資金管理、心理コントロールを確立する。

⑥トレーディング実行。

 

準備

マーケットはすべての参加者に、あらゆる困難や逆境をもたらす。この逆境が、常に大多数の弱者から少数の強者にお金を移すことを、最初に認めよ。マーケットに参加する間、いつも傷つき苦しむことを覚悟せよ。

非現実的な利益を目標としないように、感情をコントロールする。目標は控えめな期待値にすること。強欲がトレード回数を増やし、結果としてトレード計画を破綻させる。

勝つことを目標にすると負ける。最もうまく負けること。リスク管理を目標とせよ。

相場は基本的にランダムに動く。動きを予測するのではなく、どう反応すべきか考える。

資金の限度額を決める。失われる可能性のある金額の上限となる。

 

マーケットでトレードしても、思い通りにならないことが多いです。それでも最終的に勝てるシステムをめざします。

 

自己啓発

生き残ることに関心を持たねばならない。

トレードが続けられなくなる破産確率を考える。トレーディングにおいて、破産確率を考えることが最も重要である。

破産確率が0.5%未満でなければ、トレーディングしてはならない。また、破産確率が0.5%未満であっても、将来勝率や平均利益・平均損失が変化して、破産がありうることを認識せよ。

破産確率を下げるには、①一回当たりの取引額を低くし、②売買ルールの勝率を高め、③平均利益と平均損失の比を改善することだ。

トレーディングの聖杯とは、プラスの期待値で複数回トレードの機会がある売買ルールのことである。

トレーディングで生き残るために、期待値の高い売買ルールをつくること。取引機会も重要な要素である。期待値が高く、取引の機会も多い売買ルールを開発せよ。

売買ルールは単純なものが望ましい。自分の売買ルールにおける、単純な支持線と抵抗線の水準を見つけよ。

トレーダーの群れから離れて行動せよ。

売買ルールを開発したら、検証を行う。自分でつもり売買をしても、検証にはならない。繰り返し検証してプラスの期待値が得られれば、その売買ルールを信じてトレードできる。

 

破産確率と期待値の検証については、詳しく解説されています。

 

トレーディングスタイルをつくる

 

トレーディングの手法を選ぶ

トレンドにつくトレンドトレーディングと、逆張りのスイングトレーディングがある。またポジションを持つ時間枠には、1日、1週間以内、2~3週間、1カ月以上などがある。

一般に幅広いポートフォリオを長期でトレンドトレーディングする方が、多額の資金が要る。短期のスイングトレードは、必要資金が少ない。個人投資家は、期間の短いトレードの方が適している。

必要となる資金を考慮のうえ、トレードの期待値や機会を検証する。かなり確実にプラスの期待値が出せるトレーディングスタイルを選ぶ。

 

トレードを行う市場を選ぶ

筆者は、指数と通貨の市場が最適と考える。

 

トレードするのに適切な市場の条件

価格と出来高に透明性がある。
流動性が豊富で、24時間取引できる。
取引相手が信用できる。
(規制がなく)公正で効率的である。
取引費用が安い。

などなど‥‥

 

人によって、得意なトレーディングのスタイルや、取引する市場は違います。自分が勝つ見込みがあるトレードに徹します。

 

資金管理

トレーディングで最も重要な要素が、資金管理である。資金管理の2つの目的は、生き残ることと利益を増やすことである。負けたときにポジションを減らし、買ったときにポジションを増やすのが基本となる。

ケリーの公式とラリー・ウィリアムズの資金管理手法について。

資金管理戦略の比較。
固定リスク額、固定資金、固定比率、固定ユニット数、ウィリアムズの固定リスク率、定率、固定ボラティリティ。

いつトレードを中断するか、システムストップを考案する。

 

売買ルール

売買ルールは、セットアップとトレード計画という2つの要素からなる。

売買ルールは、単純で論理的であるべきだ。売買ルールを開発したら、期待値を検証し、破産確率を計算する。実行に移すときは、資金管理戦略を組み込む。

セットアップは、支持線と抵抗線の水準を見極める。その水準に適した逆指値をおく。トレンドに沿った順張りか、逆張りもしくはスイングトレードを考える。テクニカル分析では、変数の少ない単純で客観的な指標が良い。

トレード計画は、セットアップの利用の仕方である。どこで仕掛けて、どこに損切りの逆指値をおき、どこで手仕舞うか。

トレンドトレーディング、逆張り、スイングトレーディングの考察。

各指標の有効性の考察。

一般の個人トレーダーには、基本的なシステムのトレーディングが適している。

 

心理コントロール

心理は重要だが、適切な資金管理と売買ルールがさらに重要だ。心理では、希望と強欲と恐怖をコントロールすること。またマーケットは逆境なので、苦痛に耐え続けなければならない。

 

トレーディング実行

トレーディングを始めても、スリルや興奮ではなく、退屈や苦痛を感じるだろう。そう感じるようなら、売買ルールや資金管理が確立して、トレーディングがビジネスになったということだ。

トレーディングの手順は、
①セットアップが存在するか確認。
②仕掛け、損切り、手仕舞いの設定。
③トレード額と資金管理の確認。
となる。

そのほか、注文方法の説明。

 

トレードしても興奮せず退屈になったのなら、ビジネスになったときです。勝つシステムが構築されたので、規律正しく継続します。

 

書評

トレードにおいて大切と思えることを、いくつか指摘しています。そういう点は再確認として役立つかと感じます。ただこの類の本にありがちですが、話が長いというか、文章量が多いです。

ところで投資本を読むにあたり、長年巨額の利益をあげ生き残ってきた投資家や、伝説になった投資家の話は、素直に聞く気になります。

ただ本書の著者は、大成功した人という感じでもないので、参考になるところは勉強させてもらおう程度の気持ちになってしまいます。

個人的に参考になりそうな部分を挙げてみます。

取引を始める前に、まず売買ルールの検証や資金管理の手法を検討せよと述べています。これは取引を続けていると忘れそうになるので、大事なことかと思います。

多くの個人トレーダーは損を出すことがリスクと考えているが、真のリスクはうまくいっている売買ルールをいじることだ、との指摘。

確かに、ちょっとうまくいくとレバレッジを上げたくなりますが、控えめなトレードで成功しているならそれを続けるべきです。

破産を避けるための、資金管理手法の比較。とにかく生き残ることを第一にしており、この点は共感します。

しかし実際にシミュレーションしているのですが、どのような計算をしているのか、私にはあまり理解できませんでした。

とりあえず、1回トレード当たりの最大損失額を、総資金の一定比率以下に抑えること。勝っているときは資金量に応じてトレード額を増やし、負けているときはトレード額を下げるかトレードを中断すること。

このあたりは守ろうと思います。

なお巻末に、トレーダーのインタビュー集と破産確率シミュレーターがあります。
(書評2015/01/15)

「最新版! 税金がタダになる、おトクな「NISA」活用入門」 竹川美奈子(著)

 

税制上とても有利なNISAの入門書です。特に投資をはじめた人におすすめなNISAですが、そのやさしい解説書です。なお、本書は2014年7月末時点のデータに基づきます。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

NISAのことを知りたい人。難易度は入門書から初級者向けレベル。

 

要約

2014年1月から、少額投資非課税制度(NISA)が始まった。年間100万円までなら、購入した株式や(公社債を除く)投資信託の、値上がり益・配当・分配金などが非課税になる。制度には複雑なところもあるので、本書ではわかりやすく解説と活用法を述べる。

 

NISAの解説

年100万円まで(合計500万円まで)、
リスク商品への投資が(上場株式・外国上場株式・株式投資信託・外国籍株式投資信託・ETF・外国ETF・リートなど)、
5年間非課税(譲渡益・配当・分配金)になる。

日本に住む満20歳以上なら、2014~2023年の10年は口座を開設できる。途中売却はできるが、売却額分の再利用はできない。

預金・MMF・国債・公社債投資信託などは対象外だが、株式に投資できる設定の投資信託なら利用できる(バランス型投信など)。

NISA口座は新規購入分が対象なので、いま保有している資産はNISA口座に移せない。またNISA口座の使い残した枠を、翌年に持ち越すこともできない。

・2014~2023年までの10回、それぞれ100万円まで投資できる枠がある。1つの枠は5年間非課税なので同時に保有できる枠は5つとなり、最大で500万円が非課税となる。

5年間資産を保有し続けたあとは、以下の2通りの方法がある。
①新しいNISA口座に移管する。
このとき、新規にNISA口座をつくったときの値段が取得価格になる。100万円を超えた場合は超過分が課税口座に移る。移管時よりさらに値上がりしたときだけ、税金がかかる。
値上がり例
開始100万円→5年後120万円→NISA口座100万円と課税口座20万円になる
1)その後150万円に値上がり→差額の30万円に税金がかかる
2)その後105万円に値下がり→税金はかからない
値下がり例
開始100万円→5年後80万円→NISA口座80万円
②課税口座に移管する。
移管時より値上がりした分に税金がかかる。
値上がり例
開始100万円→5年後120万円→課税口座120万円
1)その後150万円に値上がり→差額の30万円に税金がかかる
2)その後105万円に値下がり→税金はかからない
値下がり例
開始100万円→5年後80万円→課税口座80万円
1)その後150万円に値上がり→差額の70万円に税金がかかる
2)その後90万円になる→差額の10万円に税金がかかる
3)その後50万円に値下がり→税金はかからない

・上の例のように、非課税期間が終わったときに値下がりしている場合は、NISA口座へ移管(ロールオーバー)した方がよい

複数年にわたり同じ商品を購入した場合(積み立て購入など)、通算して平均取得価格が表示されることが多い(金融機関で異なる)。

金融機関は1年単位で変えられるが、ひとつの金融機関にまとめた方がよい。変える手続きが煩雑である、資産管理が面倒になる、NISA口座の資産を別の金融機関に移せない(ロールオーバーもできない)、などの問題がある。

NISA口座の損失は、他の課税口座の利益と相殺できない。

NISA口座の配当や分配金は、株式数比例配分方式でのみ非課税となる。

 

資産運用のやり方

①家庭で保有する、金融資産全体を把握する。
②資産配分を考える。株式、債券、不動産などの比率を決める(それぞれに日本や先進国、新興国といった対象がある)。
③投資をするのに有利な税制度がある。自分や家族が利用できる制度を探す。NISAのほか、個人型と企業型の確定拠出年金、国民年金基金、小規模企業共済などがある。確定拠出年金は、掛け金が所得控除となり節税できるし、運用中や受け取り時も優遇される(NISAにない利点)。
④年金やNISA、課税口座それぞれで、どのような資産に投資すれば有利か、最適な割り振りを検討する。

 

NISAの活用法

非課税のメリットが最大になるように、期待リターンの高い資産をNISAに割り振るのが基本である。ただし最長5年という制約があるうえ、制度は流動的なので、柔軟に対応する必要がある。

初めて投資をするような人は、NISAでリスクの低い商品を少額から買っていくのがよいだろう。
低リスク・低コストで、購入しやすい投資信託の例
バランス型:eMAXISバランス<8資産均等型>、SBI資産設計オープン<資産成長型>、世界経済インデックスファンド
日本債券:SMT国内債券インデックス・オープン、eMAXIS国内債券インデックス
外国債券:SMTグローバル債券インデックス・オープン、インデックスファンド海外債券(ヘッジあり)1年決算型

投資経験者は、自身の目的に合わせて活用する。
①ハイリスク・ハイリターンを狙い、5年以内に利益を確定させる。
②現在のポートフォリオで足りない資産を購入する。
③現在のポートフォリオの一部を充てる(積立投資の一部、債券ファンドの一部など)。

5年後の出口を考えてから始める。
①100万円未満の少額積み立てなら、5年後にNISA口座へのロールオーバーでよい。
②購入時より値下がりしていたら、ロールオーバーする。
③値上がりしたら、5年後を待たずに売却したり課税口座に移すのも手である。(途中で課税口座に移せるかは、金融機関によって異なる。)

 

金融機関の選び方、口座開設から取引まで

口座開設前に、金融機関ごとに次の点を調べて比較する。
①NISA対象になる商品。
②手数料の体系。
③サービス内容。
④利便性。

現状では、特にSBI証券と楽天証券が優れている。

口座開設の流れ。
①金融機関にNISA口座開設の資料請求。
②申請書兼届出書と、住民票の写しを金融機関へ送る。
③金融機関が税務署に申請し、税務署が重複申請を確認する。
④金融機関から口座開設完了の通知がある。

NISA口座変更の流れ。
①NISA口座を開設している金融機関に届出書を提出。
②金融機関が税務署に連絡。
③金融機関から通知書が届く。
④新たにNISA口座を開設する金融機関に、届出書を送る。
⑤金融機関が税務署に申請し、税務署が重複申請を確認する。
⑥金融機関から口座開設完了の通知がある。

取引の注意点。
①商品を購入するときは、NISA口座を指定する。
②譲渡益や投資信託の分配金は、確定申告の必要なし。
③株式の配当金やETFの分配金は、株式数比例配分方式で受け取ること。

 

書評

これで竹川氏の本を読むのは3~4冊目ですが、やはりわかりやすいです。簡潔に重要なポイントを説明している印象です。おかげでだいたいNISAのことは理解できましたが、面倒だという感覚はあまり変わりませんでした。有利であることは確かなので、やってみようかとも思いますが、使いどころは考える必要があります。

一度売却すると再利用できない、損益の通算ができないなどは、実際やりにくいです。NISAで買って大きく値下がりしたあと、課税口座に移って少し値を戻すと税金がかかるというのは、やりきれません。100万円で買って50万円に下がり、そのあと70万で売ったら20万円分課税されたなんてことが現実に起きたら、相当腹が立つと思います。

NISAの非課税メリットを最大限に活かすため、長期で値上がり幅が大きくなることを期待して、株式インデックス投信を買うのが基本かと思われます。個別銘柄に投資し、もっと大きな上昇に賭けるのもいいでしょう。ただし5年後にぴったり最高値になるわけではないので、それなりに利益が出たら途中で割り切って売ってしまうのもひとつの方法です。

それにしても投資の制度はよく変更があるので、常に情報を更新しておかなければいけません。本書は2014年7月での制度をもとに書かれていますが、そのあとNISAを年120万円までにするだの、贈与で子供向けにするだの言い出しています。確定拠出年金も、公務員や主婦も加入を認めるとか、70歳まで掛け金をかけられるなどの話が出てきました。

口座開設や変更の流れも本書で知りましたが、なぜこれほど煩雑なのか。制度を細かく変更し、例外を年々増やしていきます。官僚機構というのは、放っておくとどんどん仕事を増やして肥大化するのだと、つくづく思います。

国民の資産が預金に偏っているので、投資に振り向け経済成長に貢献させる。国家に国民の老後をみる余裕がなくなったので、老後は自己責任でやってもらう。政権を維持するため、株価を釣り上げる。そんなような狙いがあるのだと思いますが、国民に投資をさせる政策が多くなっています。

本書はNISAの基本が学べるとともに、資産運用の考え方も説明されているので、投資を始める人に有用な一冊です。資産運用、投資信託、確定拠出年金など各分野の入門書も紹介されており、この本から発展して勉強できます。自衛のために、お金のリテラシーが必要な時代のようです。本書も役立つはずです。
(書評2015/01/11)

「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」 マイケル・ルイス(著)

 

世界経済を崩壊の瀬戸際にまで追い込んだリーマンショック。しかし、その危機を事前に予測していた者たちがいました。常識に反し、巨大な金融機関に歯向かった人々のお話です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

サブプライムローン危機に興味がある人。
金融システムに関心がある人。

 

要約と注目ポイント

危機の芽

1990年代に、アメリカの下位中流層に利益をもたらすものとして、サブプライム金融は誕生した。(高利の住宅ローンやクレジットカードローンの負担を、より金利の低いモーゲージ債へと誘導する仕組みをつくった。)

しかしこの初期のサブプライム金融は、ずさんな融資と高い延滞率、次々に発生する債務不履行により、1990年代後半に破綻した。

2002年、大手消費者金融業者によるサブプライムローン詐欺が発生した。しかし当局は動かず、事件は示談で終結する。ウォール街が貧困層と下位中流層を食いものにする事態はより深刻になっていく。

2000年代に入るとすぐに、サブプライム金融は膨張を始めていた。前回破綻時よりはるかに巨額のモーゲージ債が、より焦げつきやすい不明瞭な形でつくられ(前回のサブプライムローンは固定金利だったが、今回のサブプライムローンは変動金利で、返済額が借り手にもわかっていなかった)、バラバラに切り刻まれ組み直されて、大手投資銀行によって投資家に売り捌かれた。

危機を察知した投資家

サブプライム金融の規模が急拡大する後を追って、サブプライム・モーゲージ債を対象としたCDS市場が成立した。もっともこれは、サブプライム金融の破綻を確信した投資家が、まだ危険を察知していない大手投資銀行を焚き付けてつくったものだった。

投資銀行が気前よくサブプライム・モーゲージ債のCDSを売る間に、サブプライム金融の破綻に賭けた投資家たちは大量にCDSを買った。2005年後半から、サブプライム・モーゲージ債は焦げつき始める。

債務不履行の確率が高いトリプルBのモーゲージ債でも、それらの断片を組み合わせる操作を経ると、トリプルAになった。格付け機関の評価モデルには欠陥があり、投資銀行のトレーダーにとって、その穴を突くのは容易だった。

サブプライム・モーゲージ債のCDSは、トリプルA格を持つAIGが引き取っていた。AIGは格安の利率で、これらのCDSを売っていた。

投資銀行は、CDSを量産してAIGに売らせ、逆にCDSを自ら保有するかサブプライム・モーゲージ債をショートしたい投資家に買わせれば、巨額の利益が発生することに気付いた。

住宅バブルは終わりの始まり

2006年に住宅価格は天井に達し、下落を始めた。サブプライム・モーゲージ債の危険性に気付く人が少しずつ増えてきたが、それでも大胆に市場の破滅に賭ける投資家はほとんどいなかった。

CDSは実質的に金融オプションだが、オプションの基本はブラック=ショールズ方程式にある。ところがブラック=ショールズのモデルには、長期のオプションの価格設定に難点があった。

長期の不合理なオプション価格を収益源としていた投資家も、サブプライム金融の崩壊直前に、サブプライム・モーゲージ債のCDSに接近してきた。

2007年1月になると、投資銀行がCDSの販売を渋るようになる。市場参加者が危険を感じ、徐々に逃げ始めていた。

サブプライム・モーゲージ債の闇の深さは不明だったが、投資家のショートの標的は、モーゲージ・オリジネーターと住宅建設会社、格付け機関、そして巨大投資銀行へと広がった。

バブル崩壊

経営者も把握していなかったが、大手投資銀行はサブプライム・モーゲージ債に裏付けされた巨額のCDOを保有していた。

2007年後半から、大手投資銀行は数十億ドル、数百億ドル規模の損失を次々に発生させ、連鎖的に沈んでいった。アメリカ、そして世界の金融システムを、崩壊の瀬戸際にまで追いやる事態に進展した。

その原因の芽は、どのような手段を用いても巨利を求め、利益はすべて自分のものとし、損失は社会という他者に押し付ける、ウォール街の行動規範にあった。

繰り返されるバブルの構図です。貸してはいけない人たちに、大量に融資をする。住宅市場や株式市場が高騰する。強欲な投資家が殺到し、リスク資産の価格がさらに上昇する。持続不可能な価格水準でバブルが破裂し、借金をした人や投資家が破産する。金融危機が発生する。人間は痛い記憶をすぐに忘れるので、定期的にバブルしてしまいます。

 

書評

サブプライムローン危機で大儲けした人と言えば、ジョン・ポールソン氏やデイビッド・アインホーン氏などが有名です。本書でもそういう人が出てくるのかと思っていたら、違いました。

名声を高めた彼らよりさらに早くサブプライム金融の破綻を予測した、よりアウトローで一匹狼の投資家たちが存在しました。本書では、無名ですが、金融エリートに先駆けて孤立無援な戦いを始めた人々を、一級のノンフィクションとして描いています。

まず驚いたのが、1990年代にすでにサブプライム金融が存在し、2000年代の失敗と同じ原因で破綻していたという事実です。1990年代後半に破綻するのですが、数年後に全く同じモデルで、はるかに巨額のモーゲージ債を再び売り始めます。結末はリーマン・ショックでした。

なぜそんなバカなことが起きるのかと思いますが、それはウォール街のビジネスの仕組みにあったわけです。

ウォール街の当事者にとって、リスクを取れるだけ取って取引をすると、成功した場合は莫大な成功報酬が得られます。失敗した場合は、損失を投資家に押し付けるだけです。ですから、成否がどうかを考えるよりは、リスクを極限まで取ることにインセンティブが働くことになります。

しかしその強欲のために損失が大きくなり過ぎ、危うく世界恐慌になりかけました。合理性に欠ける取引が行われていても、すぐには発覚しないことが被害を大きくしました。

これは意図的に隠蔽したためでもありますが、複雑すぎて当事者もリスクを認識していなかったこと、融資から債務不履行まで時間差があったことなども原因です。

サブプライムローン危機は100年に1度の危機と表現されましたが、表向き嵐は去ったように見えます。しかしまだ、その影響は残っています。恐慌回避のため、世界中の中央銀行が超金融緩和策をとっているので、金融市場が歪んできています。異常な低金利とディスインフレが常態化しつつあります。

市場に歪みが生じても、それが表面化するまでは、ほとんどの人は異常を感じません。サブプライムローン市場に尋常ではない(米国の巨大投資銀行をすべて消滅させたほどの)歪みが蓄積していても、発覚するまでは皆平然としていました。

本書を読んだ理由は、アベノミクスの最期のときに参考になることはないか、と思ったためです。GDP500兆円の国で、中央銀行が国債を200兆円買い、さらに毎年80兆円買い増していったら、最後はただでは済まないと感じます。とはいえ、とんでもないことになりそうですが、正直、何が起こるかはわかりません。

素直に考えれば、円安、株安、債券安です。しかし私が考えることは皆も考えるでしょうから、予想がつきません。日頃からの情報収集と準備が必要になりそうです。
(書評2014/12/30)

「自分でやさしく殖やせる確定拠出年金最良の運用術」 岡本和久(著)

 

自分は将来、本当に年金を受け取れるのか?そんな不安が漂う、現在の日本です。しかし自分の年金を守るとても有利な制度、確定拠出年金があります。確定拠出年金をわかりやすく教えてくれる1冊です。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

確定拠出年金に加入できる人。年金について考えたい人。

 

要約

・日本は高齢化が進むため、今後は現役世代が高齢者を支えることができなくなり、社会保障制度の削減が予想される。また政府は国策として、インフレ政策をとった。そのため、預金だけでは老後の準備は足りない。将来の自分を支えるのは今の自分、という時代になった。しかし日本人は現在、投資をほとんどしていない。
自分で将来の資産をつくらなければならない。資産運用の目標は、最低限インフレに負けず購買力を維持すること。そしてできれば、安全にさらに殖やすことである。ただ幸いなことに、世界全体で見ると人口は増え、経済成長は続く。グローバルに分散した長期投資で、良いリターンが実現できる。

年金制度の説明。
国民年金、厚生年金、国民年金基金、企業年金について。
確定給付年金と確定拠出年金とは。
確定拠出年金には、個人型と企業型がある。
NISAと確定拠出年金の比較。
資産運用にとって、確定拠出年金は有利な制度だ。

投機と投資、資産運用について。
資産運用では、資産全体がどうなっているか、長期的に目的とする水準まで安全に殖やせるかが重要である。就業中に資産形成をし、退職後に資産活用して生活していくが、これらをまとめて資産運用と考える。投資は自己責任でリスクを取り、応援したい企業を自分で選ぶ、社会を良くする行為である。

リスクとリターンについて。
リスクとは将来の不確実性のこと。
期待リターンとポートフォリオの説明。
時価総額の比率に従い、株式投資は日本10%、先進国80%、新興国10%とする。

長期投資について。
長期の投資により、複利の効果が活きる。
投資の成果の90%は、アセット・アロケーション(資産配分)で決まる。
年齢が上がれば、リスク資産の割合を減らす。(50代半ばまでは株式8割債券2割、50代半ばから70歳は株式5割債券5割、70歳以降は株式2割債券8割など。)
投資先は、グローバルに分散されたインデックス運用がよい。
コストの低い投資信託を選ぶ。

・マイルドなインフレを起こしながら金利を抑圧することが、国策となった。これは実質金利がマイナスの状態に長くとどまることを意味する。インフレに強いと考えられる資産は、株式、物価連動国債、不動産や商品のような実物資産、外貨である。

税制上有利な口座で、どう運用するかを考えるのが、アセット・ロケーションである。一般の課税口座、確定拠出年金、NISA、財形貯蓄がある。
退職後資金:確定拠出年金、NISA、課税口座で運用。
5~10年以内の支出:NISA、定期預金で運用。
5年以内の支出:定期預金、普通預金で運用。
生活費と予備費:普通預金。

資産運用計画のつくり方。
①投資環境の把握。
②アセット・アロケーションとアセット・ロケーションを決める。
③投資対象の金融商品を選ぶ。
④取引。
⑤モニタリングとリバランス。

個人投資家は、積立投資が基本となる。
毎月(毎年)同じ金額を投資するのが、ドルコスト平均法。より効率的な積立をめざすのが、バリュー平均法。

バリュー平均法の説明。
バリュー経路とは、積立の目標累計金額。毎回、バリュー経路に達するように買い増す。時価残高がバリュー経路を上回ったら、超過分を売る。
今回の追加積立額 = バリュー経路 - 現在の時価残高

 

書評

丁寧でわかりやすい、確定拠出年金の解説本です。気になるのでちょっと年金のことを調べているが、でもどうすべきかまだわからない、といったあたりの人に適当な本と思われます。本書は、個人型か企業型の確定拠出年金に加入できる人向けに書かれています。確定拠出年金は有利な制度なので、加入資格のある人はとりあえず読んで勉強してみるのがお得です。投資の基本的な説明もあるので、投資初心者でも読めます。

今の日本人で将来が安泰なのは、とても能力がありガンガン稼ぎ続けられる人や、大企業や役所に長く務めて、資産と手厚い年金を準備済みの人でしょうか。普通の日本人というカテゴリーに括られる程度の人は、自分の身を守る方法を考えた方がよさそうです。

身を守るには、稼ぐ能力である人的資本を高めることと、資産を用意することにつきます。人的資本については、現在の仕事を頑張りつつも、仕事の延長や趣味・特技といった方向で副業を考えるのもいいと思います。副業から将来の独立に至ることもありますし、リスクの少ない状態で稼ぐ手段に関し試行錯誤しておくと、いろいろ勉強になります。

資産に関しても、早めに動き始めることが大切です。少額からでも投資を始めることが勉強になると、本書で述べられていますが、実際その通りです。60歳近くで年金のことを考え始めても、資金の積み立てという点からも遅すぎますし、金融リテラシーの基礎知識を持たなかったために人生で相当損をしています。

確定拠出年金は、国民年金しかない自営業者や、年金制度を用意していない企業の従業員のためにあります。つまり公的な社会保障制度が薄い人々のためのものです。自衛が必要な人向けの、かなり有利な制度です。本書や「金融機関がぜったい教えたくない 年利15%でふやす資産運用術」などを読んで自分で考え、自分に合った形で利用し倒しましょう。
(書評2014/12/25)