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「ヘッジファンド投資ガイドブック 金融危機が明らかにした絶対リターン型資産運用の有効性」 高橋誠/浅岡泰史(著)

 

投資対象としてヘッジファンドを検討する本です。さらに、自分の投資手法を再考したり、金融市場を理解するのにも役立つ1冊です。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

ヘッジファンドを投資対象として考えたい人。難易度は中級者向け。

 

要約

ヘッジファンドの特徴は、絶対リターンを獲得することと伝統的な資産との相関が低いこと、とされる。過剰な期待や根拠なき中傷を受けるヘッジファンドだが、その特性を理解し、投資意義を考えることが必要であろう。

・ヘッジファンドの代表的な戦略について。

 

ヘッジファンドと金融危機

・1949年にその原型が誕生してから、2007年に運用資産が約2兆ドルに至るまで、ヘッジファンドは順調に拡大してきた。2008年の金融危機は、ヘッジファンドにも最大の危機となった。
2007年、ベアー・スターンズ傘下のファンド破綻。BNPパリバ・ショック。クオンツ型ファンド(ロング・ショート戦略とマーケット・ニュートラル戦略)の虐殺。
2008年、ペロトン・パートナーズ破綻。ベアー・スターンズ破綻。リーマン・ブラザーズ破綻。

金融危機からの教訓。
リターンの源泉はどのようなファクターにあるか確認し、ファクターを分散することが必要である。
高いレバレッジをかけ、流動性の低い資産を保有し、資金調達を短期資金に頼っている場合、危機発生時の信用収縮で破綻する。
市場全体から得られるアルファの大きさには限度があるので、利益をあげるには規模としての限界(キャパシティ)がある。同じ戦略モデルで複数の投資家が同じポジションをとった場合、損失発生時に連鎖的な反応が起きる。
資産の価格変動リスクだけでなく、流動性リスクの評価がきわめて重要である。例えば、レラティブ・バリュー戦略ではレバレッジが高くなるが、ポジションを解消する出口まであらかじめ検討しておく必要がある(物価連動国債と国債に投資したファンドが破綻している)。プットオプションを売却するのと同様に、ファット・テールに弱い。
過去の平均から乖離した資産が、平均に回帰することに賭ける場合、いつ平均に収束するかは予測できない。
急激に資産価格が下がるときは、資産間の相関係数が1に近くなり、あらゆる資産が同時に下がる。
ヘッジファンドに投資するときは、解約条件とともに、投資対象の流動性に留意する(換金しやすいか)。

 

ファンド・オブ・ファンズ

・ファンド・オブ・ファンズの概要。

・ゲートキーパーの役割は、戦略別資産配分、ファンドの発掘とマネージャーの選択、ポートフォリオの構築とリスク管理、解約条件の検討など。

・マルチ・ストラテジー・ファンドとの違い。

 

ヘッジファンドの評価

・ヘッジファンドのインデックスは、明確に定義し時価評価することができない。そのため、相当な誤差があることを考慮しなければならない。

・純資産価格が過去最高水準の上にあるか下にあるかで、報酬率が大きく変わるので、リターンの評価にも影響を与える。また、マネージャーのインセンティブも左右するため、ファンドの成績もまた影響を受けると考えられる。

・ロング・ショート戦略について。日本におけるロング・ショート戦略の特徴。

・マドフ事件について。詐欺では、オペレーション上に問題があることが多い。この事件でも、運用者と事務管理会社と資産管理会社が一体だった。実際の運用者に直接会い、運用方法や運用成績を厳しく確認することが必要である。

・ヘッジファンドのインデックスは、すべてのファンドの情報を反映しておらず、正規分布として分析できるかもわからない。ただそれなりには正規分布に近い。最悪の事態となった2008年9月と10月をみると、ノン・ディレクショナル戦略群のヘッジファンドでは異常なマイナスのリターン(テール・リスクの出現)となったが、ディレクショナル戦略群のヘッジファンドや伝統的資産では、統計的に想定内だった。マネージャーの能力やリスク管理が、結果に現れたとも言える。

・ヘッジファンドのリターンの源泉を見ると、リターンの大部分を市場タイミングから獲得し、個別銘柄選択等の寄与は小さい。市場が活況のときに高いリターンを得るが、市場が下落するときに空売りを十分には活用できていない。「市場動向と無関係に絶対リターンを獲得し、伝統的資産と相関は小さい」というヘッジファンドの謳い文句はやや疑わしい。

・ヘッジファンドの運用成績の優劣を判断するのに、シャープ・レシオは目安程度には活用できる。

・ヘッジファンドのリターンは、かなりの部分が市場ファクター(ベータ)によることがわかった。そのため、ヘッジファンドの複製運用(リターン複製法、戦略複製法、統計複製法)が試みられている。

 

企業年金とヘッジファンド

・日本の企業年金の多くが、ヘッジファンドに投資している。その特徴は、欧米の年金よりヘッジファンドへの投資配分割合が高く、代替投資としての位置付けであり、投資先の大半がファンド・オブ・ファンズというものである。

・企業年金の運営と管理の考え方について。企業が想定する「最大年金コスト額」を超えないように運営し、さらにいかにコスト額を下げるかが、企業年金基金の役割である。

・企業年金の資産運用について。従来の4資産区分(国内外の株式と債券)という概念が有効かは疑問である。資産運用の基本戦略として、キャッシュフロー確保は国内債券投資、短中期戦略は絶対収益重視(ヘッジファンド投資も適する)、長期戦略は長期の高成長享受を目的とする買い持ちとなる。

・短中期戦略には、絶対リターン獲得を目指すノン・ディレクショナル戦略群(マーケット・ニュートラル戦略など)のヘッジファンドが適する。長期戦略には、長期での高リターンが期待できるディレクショナル戦略群(株式ロング・ショート戦略など)のヘッジファンドが適する。

・ヘッジファンドのデューデリジェンスについて。

 

書評

ヘッジファンドがどういう戦略をとっているのか興味があるのですが、全般的に解説した本があまりないので、本書は参考になります。一応なんとか自分の頭でも読めます。難しい数式がたくさん出てくることはないですが、やはり内容は難しいです。

ヘッジファンドについて、各種データを基に論じています。特に金融危機の際にどのようなことが起きたか、破綻を避けるにはどうしたらよいか、といったことは詳しく検討されています。自分に理解できる部分は限定的なのですが、本書は本物のプロが書いているという印象を受けました。金融関係の人が読んでも、満足できるのではないでしょうか。

ヘッジファンドは高いリターンが獲得できると宣伝されますが、本書を読むと、市場に勝つのはやはり難しいと感じます。市場に勝つ、アルファを求めるというのは、アートの領域でもあります。ヘッジファンドは一般的に、固定報酬が2%で成功報酬が20%となります。ファンド・オブ・ファンズだと、二重に報酬が発生します。これだけ高率の報酬を差し引いて、パッシブ運用に勝つのはかなりの難題ではないでしょうか。

個人投資家が優れたヘッジファンドを選んで投資するのは、あまり現実的ではありません。普通の人は、主要なインデックスをパッシブ運用する、コストの安いファンドやETFを選んで、長期投資するのが無難と思います。市場平均に追随すれば、まずまずでしょう。ただ著者は、企業年金運用ではパッシブ運用よりヘッジファンドが優れると述べています。パッシブ運用最高で終わらず、以下のような考え方があると、気に留めておくのもよいかもしれません。

企業年金の運用戦略で、著者は4資産区分の概念を不適切と批判しています。基本戦略は、キャッシュフローに対応する投資、短中期戦略、長期戦略であるべきと考えています。そして短中期戦略と長期戦略ともに、ヘッジファンドが中核になりうると主張します。このような主張はあまり聞いたことがなかったので、私には斬新でした。本書はヘッジファンドの本なので、ヘッジファンドの有用性を訴えるのもわかりますが、日本の年金でヘッジファンド的投資戦略が中心なところはないでしょう。これは誤った主張なのか、時代を先取りしているのか。いずれにせよ、投資戦略としてはこういう考え方もあるのだ、と勉強になりました。

また本書でも述べられていますが、ヘッジファンドが行うことは特別な投資戦略ではないようです。ヘッジファンドのリターンは市場やファクターの影響を受けるので、伝統的資産への投資に、空売りとレバレッジが加わっただけといいます。クオンツ的手法には数学者が必要ですが、ロング・ショート戦略やグローバル・マクロ戦略などは、理屈としては理解できる範囲内です。ヘッジファンドも、正体不明の恐ろしい存在ではないことがわかりました。
(書評2014/11/23)

「リスク・テイカーズ 相場を動かす8人のカリスマ投資家」 川上穣(著)

 

日経新聞の記者が、アメリカの旬な投資家8人を取材した本です。バフェットは旬ではないですが。投資手法や運用方針、投資家の人柄をまとめた読み物です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

アメリカの成功した投資家に興味がある人。

 

要約と注目ポイント

ダニエル・ローブ

サード・ポイントの創業者。投資先の経営改革を求めて派手に活動する、敵対的なアクティビスト。イベントに乗るイベント・ドリブン戦略を得意とする。

投資には、たくさんのことを知っているより、その時々で最も重要なことは何かを察知できる能力が必要、と語る。アベノミクスを契機に、ソニー、ソフトバンク、IHIに投資した。アクティビストにより、日本企業の体質も変化するか。

デイビット・テッパー

アパルーサ・マネジメントの創業者。倒産した、もしくは破綻寸前の企業の格安な株式や債券を買い、経営が持ち直したあとの高値で売るディストレスト戦略を好む。近年ヘッジファンド報酬ランキングでトップになっている。

数学や会計の能力も優れているが、今、最も大切なことは何か、という一点に集中し、本質を見抜くことができる。そしてリスクを取り、誰よりも早く行動できる。徹底した楽観主義者だが、好機をじっと待つことを厭わず、規律も重んじる。

デイビッド・アインホーン

グリーンライト・キャピタルの創業者。綿密な企業分析からの空売りが有名。サブプライムローン危機では、リーマン・ブラザーズの空売りを公言し利益をあげた。しかしバフェットを尊敬しており、株式市場は長期では上昇しやすいと考えているので、厳選した銘柄を買ってもいる。

日本のりそなホールディングスにも投資している。しかし日本そのものについては、将来的な金利上昇を不可避と見て、日本売りのポジションを取っている。

ビル・アックマン

パーシング・スクエア・キャピタルを率いるアクティビスト。経営者に強い圧力をかける、敵対的な手法を取る。大変な自信家で、株主が企業のオーナーであるべきとの信念を持つ。

多くの投資で成功するが、JCペニーへの投資では大きな失敗を犯す。またその個性の強烈さから、ハーバライフの投資をめぐって、有力なアクティビストのダニエル・ローブやカール・アイカーンと衝突した。

ジム・チェイノス

空売り専門のキニコス・アソシエイツを創設。証券会社のアナリストとして働き始めるが、初めて担当した企業に売り推奨を出した。この成功を機に、投資家に転身する。その後は着実に成功を重ねる。エンロンの不正会計にいち早く気付き、空売りで大きな利益をあげる。

空売りは買いより運用面で不利で、さらに人々から嫌われやすい。それでも空売りにこだわるのは、空売り投資家が企業の不正を最初に感知し、市場に警告を与える役割を果たすと考えるからだ。現在は中国の不動産バブルに対し、売りポジションをとっている。

レイ・ダリオ

世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者。グローバルマクロ戦略をとる。40年間成功を重ね、運用資産は1500億ドル規模に達した。その成功の秘訣として、経済は機械のように動く、と語る。知性を結集して歴史に学べば、規則的に動く経済を予測できると信じている。

独特の投資「原理」を確立し、ブリッジウォーター社員には「原理」を熟読することを求めている(「原理」はブリッジウォーターのホームページで誰でも読めるとのこと)。特異な社風を持つブリッジウォーターだが、世界中の大手機関投資家を顧客としており、その顧客向けレターはFRBも必読の資料だという。

カイル・バス

ヘイマン・キャピタル・マネジメントを創業。日本売りの急先鋒として有名。サブプライムローン危機を察知しての売り、さらにはそれに続く欧州債務危機での売りで成功する。

税収に占める国債の利払い負担が10%超で、公的債務の合計が歳入の5倍以上の国家は財政破綻のリスクがあると語り、次の標的を日本に定めている。

ウォーレン・バフェット

世界一のバリュー投資家である、バークシャー・ハザウェイのCEO。財務を徹底的に分析し、企業の本質的価値を見抜くことで、長期にわたり成功を続けている。バークシャー・ハザウェイは全米屈指の大企業となった。

オマハで開かれる祭典のような株主総会や、バフェットの人柄を慕う多くの人の姿は、米国のバリュー投資の深い伝統を感じさせる。バフェットの高い能力、そして投資への情熱と集中力は、常人の及ぶところではない。バフェット後のバークシャー・ハザウェイの進路はいかなるものになるか。

さまざまなタイプの投資家がいます。派手な要求をするアクティビスト、暴落の底で買うバリュー投資家、企業価値を分析しての空売り投資家、時代を読む投資家。
共通するのは、時代や市場の本質をとらえる、ずば抜けた能力です。個人投資家も、市場の表面的な動きに惑わされず、自分独自の投資の基準を守ることが大切です。

 

書評

とても深く掘り下げたという内容ではありませんが、いろいろな人を取材し集めた材料で構成されています。8人の著名な投資家の特徴がつかめる、読みやすい本です。ちょっと面白いエピソードも挿入されています。

個人的には、ジム・チェイノス氏が新米アナリストとしての最初の仕事で、売り推奨を出した話は笑いました。カイル・バス氏が5セント硬貨を集めている話(銅とニッケルの含有量から5セントより実質的に価値がある。デフレ・インフレ両方への対策だそうです。)も、そこまでするかという感じです。レイ・ダリオ氏の「経済は機械のように動く」という動画も紹介されています(ネット上で日本語版も視聴できます)。

読んで驚いたのは、レバレッジをかけない投資家が結構いることです。ダニエル・ローブ、デイビット・テッパーの各氏はレバレッジをかけていないそうです。バフェット氏もレバレッジをかけていないので、意外とレバレッジをかけずに投資で大成功する人がいるようです。

またジム・チェイノス氏は空売りしかしていないのですが、運用資産は60億ドルです。空売りだけで勝ち続けて、そこまで到達するというのは凄い。

ところで、レイ・ダリオ、ジョン・ポールソン、デイビット・アインホーン、カイル・バスなど、そうそうたる投資家たちが金(ゴールド)を買っているそうです。極端な金融緩和策を取る各国中央銀行に、それだけ不審を抱いているということです。緩和の出口でまた波乱があるかもしれません。

日本でヘッジファンドなど投資家の話をすると、いまだにバフェットやソロスといったところで終わってしまいます。日本の金融担当記者が、やや新しい世代の影響力のある投資家を取材し、良くまとまった著作に仕上げたことを、素直に歓迎したいと思いました。
(書評2014/11/19)

「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ」 橘玲(著)

 

2002年に出版され、ベストセラーとなった「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」の改訂版です。社会制度や投資環境の変化に合わせて、改訂となりました。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

経済的自立を達成したい人。難易度は入門書から初級者向け程度。

 

要約

黄金の羽根=制度の歪みから構造的に発生する利益。
現代は多くの情報が公開され、だれでも利用できる。このような知識社会では、適切に情報を入手し活用できる者が、目標へ近道できる。情報を活用して社会の制度や構造を理解し、そこに生じている歪みを見抜ければ、近道ができる。近道を自分で見つけられない者は、お金を払うか、回り道をすることになる。

制度や構造の歪みは、いつか必ず顕在化する。(出版業界を例として説明。)
日本は豊かな国だが、経済が成長する時代は終わり、多くの分野で市場が縮小している。人生においてお金がなければ、自由になれない。人生はさまざまな条件に制約されるが、経済的な土台は個人の努力で改善できる。経済合理的に選択することが大切だ。
市場経済の利益は、差異から発生する。この差異は、市場の歪みから生じている。個人がだれでも利用できる歪みに、社会制度上の歪みがある。それは「個人」と「法人」の人格を使い分けることだ。

お金持ちになる方法。
資産形成 = (収入 - 支出) + (資産 × 運用利回り)
であるから、お金持ちになる方法は次の3つに集約される。
①収入を増やす。
②支出を減らす。
③運用利回りを上げる。

収入を増やすには。
①働き手を増やす(共働きなど)。
②稼ぎが増えるような自分への投資をする(自分の人的資本を高める)。

支出を減らすには。
①浪費をしない。
②住宅コストを節約し、無駄な生命保険に入らない。
③所得にかかる税金を払わない(自営業者や企業経営者になる)。

運用利回りを上げるには。
①複利の効果を認識すること。
②十分な元本を用意する。(少額で運用しても効果は小さいが、投資の勉強にはなる。)
③手数料など、投資にかかるコストを安くする。

資産運用について。
①バブル崩壊以降、全く投資をしなかった人が最も得をした。
②企業の業績悪化に対し、従業員の給与は下がらなかった。国家の財政赤字拡大に対し、国民は公共事業や社会保障給付で恩恵を受けた。バブル崩壊後、日本人は豊かになった。
③日本人は大きなリスクを取ってきた(巨額のローンを組んで住宅を買ってきた)。資産のポートフォリオは大きく不動産に偏っており、住宅ローンで不動産を買った時点で、資産運用の余地はほとんどなくなる。
④長期投資が、いつの時代も成功するとは限らない。
⑤金融機関に雇われたアドバイザーの助言(アクティブ運用)は、パッシブ運用に劣る。
⑥経済学者の予測は当たらない。
⑦ファンダメンタルズ分析で適正株価は予測できない。チャート分析で株価の推移は予測できない。
⑧短期投資は、ギャンブルの中では最も有利だ。

不動産投資(住宅購入)は、経済合理性に基づいて行うべきだ。
①家を買うことは、投資を行うことである。不動産はリスク資産である。
②家の値段は、家賃から推計できる。
③マイホームは、帰属家賃の課税対象外となる分だけ有利とされる。
④住宅ローンは、株式の信用取引と同じ(レバレッジをかけた投資)だ。
⑤持ち家と賃貸住宅に、優劣はない。持ち家は、地価が上がれば得をし、地価が下がれば損をする。

生命保険は、不幸の宝くじである。
生命保険は、自分が死ぬと扶養すべき家族が資産もなく残されるときに必要なものだ。無駄な生命保険は損となる。医療保険の役割は、働けなくなった期間も生活を維持する所得補償にある。

・意識されにくいが、子育てコスト(教育費)は家計を強く圧迫する。

会社員は、国家に収奪されている。
国民年金の補填に、厚生年金の保険料が使われている。国民健康保険の補填に、組合健康保険の保険料が使われている。会社は社会保険料の半額を支払うが、これは実質的に人件費である。会社員は見かけ上、所得税と住民税という税負担は低いが、社会保険料を含めた実質税負担率は3割前後にもなる。

制度が歪んでいる場合、合法的な範囲で税金を払わず、合法的な範囲で多くの再分配を受けることが、合理的な行動となる。個人と法人には、税法上大きな格差が存在する。

個人が法人を利用して税コストを下げるには。
①所得税の発生しない範囲で給与を決める。
報酬を所得控除の範囲に抑える。課税所得をゼロにすることで、税負担を最小化する。社会保険料負担の最小化は、制度上困難になった。また個人事業主は、小規模企業共済に加入できる。個人型確定拠出年金と国民年金基金も利用できる。国民年金基金は、積立不足に注意。
②所得税の発生しない範囲で家族を雇用する。
家族の年収を、給与控除などの範囲に抑える。従業員を雇用すると、中小企業退職金共済に加入できる。
③生活費を法人の経費にする。
自宅を事務所とすることで、光熱費の半額を経費とする。ほかにも業務と関係があると説明できる費用は、法人の経費にする。経営セーフティ共済を使うと、法人の損益が調整できる。
④個人資産を法人名義で運用する。
自分の資産を赤字法人に貸し付けることで、運用益(利子・配当・有価証券の売却益など)を無税にできる。

公的融資制度には「黄金の羽根」が落ちている。
自治体には、地域の事業者向けのさまざまな融資制度がある。これらの融資制度は、金利などが破格の好条件である。この制度には税金が投入されているため、関係する機関(自治体・銀行・信用保証協会)がリスクを負うことはなく、審査も甘く金利も低くなる。そのため法人の借り手側(すなわち自分)が、奇跡的なファイナンスという「黄金の羽根」を拾うことができる。手続き上の書類を完備すること。期日までの返済を続け信用をつくることで、さらに多額の借入れも可能となる。

税金のお話。
節税と裏金、税務調査など。

知識社会では、仕事は以下の3種に分けられる。
マックジョブ(バックオフィス):マニュアル通りの仕事。低賃金だが責任も小さい。同一労働同一賃金。
スペシャリスト:高報酬だが責任も大きい。仕事量は、自分がこなせる量に限定される(拡張性がない)。
クリエイター:一部は大成功し莫大な富を得る(拡張性がある)。大半は鳴かず飛ばず。

・同一労働同一賃金の世界では、仕事はどの会社でも使える一般的技能として計る。日本のサラリーマンは、その会社でしか使えない企業特殊技能を身につけている。会社にしがみつかねば生きられない状況は悲惨である。これからは老後もずっと働かなければならない時代となるので、好きなことを仕事にするしかない。自分だけのニッチを見つけ、市場から富を得られるほどに人的資本の専門性を特化することが求められる。

経済的自立を果たすには、経済合理的に行動しなければならない。人生を最適に設計するため、国家を道具として使え。

 

書評

妥当な内容だと感じましたが、特別な発見や驚きはありませんでした。原著も多分読んでいますし、著者の本は複数読んでいるので、当然ではあります。おそらくは原著が出版された当時は、かなり先鋭だったのだろうと思います。2014年になった今では、割とありふれた話になっている印象はありますが、それでも十分に有意義な本です。

漫然と生きてきた私ですが、橘玲氏の本もひとつのきっかけとなり、お金については真剣に考えるようになりました。お金だけが人生ではありませんが、お金で人生は変えられます。本書は社会人2年目ぐらいの人が読むと、勉強になって良いような気がします。もちろんもっと勘の鋭い人は、高校生とか大学生の就職前に読んでおくと、周囲より早くスタートが切れそうです。

まあ年齢に関係なく、経済に興味がないような人は、お金のリテラシーを高めるためにも読んだ方が良いです。お金のリテラシーは自分を守ります。そろそろアベノミクスの雲行きも怪しくなってきましたし。

本書のテーマは2つあります。資産運用論と、個人が法人格を活用する方法です。法人格を利用することは、ガチガチのサラリーマンだと難しい部分も多いのですが、将来の自分の働き方(独立等を含めて)を考える際に、参考にはできるでしょう。

すぐに応用可能なのは資産運用論です。ここで指摘されている以下の超基本原則、
①お金持ちになる方法は、収入を増やすか支出を減らすか運用利回りを上げるか、これしかない。
②ローンで家を買うことは、レバレッジをかけた不動産投資だ。住宅ローンを組んだ時点で、資産運用はもうできない。
③大きな買い物となる生命保険や医療保険は、大部分が無駄だ。
④投資コストを安くすることがきわめて重要。
を知っているか知らないかで、人生の選択が変わります。もし知らないなら、これを理解するためだけでも読む価値があります。
(書評2014/11/16)

「ヘッジファンドⅠ・Ⅱ 投資家たちの野望と興亡」 セバスチャン・マラビー(著)

 

巨額の資金を縦横無尽に動かすヘッジファンド。ヘッジファンドの誕生から現在までを知ることができ、金融や投資の勉強にもなる本です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

ヘッジファンドに興味がある人。
トレード手法を知りたい人。

 

要約と注目ポイント

第二次世界大戦後に生まれた、数々のヘッジファンドとその創業者たちの物語である。

A.W.ジョーンズ

ヘッジファンドというシステムの原型を、初めて創り出した。

個別銘柄と市場との相関性の計測、銘柄ごとのボラティリティ、ポートフォリオ全体でのリターン追及とリスク管理、ロングショート戦略、利益に比例するファンドマネジャーの報酬など、画期的な概念を独自に生み出した。

M.スタインハルト

通貨量の分析と金利予測に基づくトレード。そしてなにより、大口取引の仲介業者として立場を確立することで、(インサイダー情報を利用し)巨額の利益を稼いだ。

1994年にグリーンスパンが金利を引き上げたとき、債券にレバレッジをかけ過ぎていて大損害を喫した。

コモディティズ・コーポレーション

計量経済学によるファンダメンタル分析にとどまらず、トレンド追随モデルを採用することで、商品市場と為替市場で大成功した。

G.ソロス

フィードバックループという再帰性理論を掲げて、プラザ合意前後のドル売りで大成功する。そしてブラックマンデー。

J.ロバートソン

独創性はなかったが、株式投資で大いに能力を発揮した。また自身の人間的魅力により、多くの有能なマネジャーやアナリストを集めた。

P.T.ジョーンズ

心理的な駆け引きと、制度的なアノマリーを見抜く観察眼に優れていた。トレンドに乗るのがうまく、ブラックマンデーの暴落と日本のバブル崩壊というチャンスを、完全にものにした。

G.ソロスとS.ドラッケンミラー

ソロスに似たスタイルのドラッケンミラーは、ソロスの実質的な後継者となり、1990年代に大成功した。冷戦終結後のドイツマルク買い、ポンド売りに勝利した。

しかし1997年のアジア通貨危機の際、ソロスはポンド売りのように通貨を売れば利益が明らかにもかかわらず、逆に通貨を買い、損失を出した。これは投機家ではなく慈善家であろうとした、ソロスの二面性によるものかもしれない。

LTCM

金融工学を駆使するクオンツたちは、債券の裁定取引と収斂取引により大きな利益をあげた。

彼らは後年批判されるように、リスクを軽視していたわけではない。むしろ詳細にリスクを検討し、最大損失額を計算していた。

だがそれでもすべてのリスクは想定できず、ロシアのデフォルトを機にポジションは逆回転を始めた。レバレッジもかけ過ぎだった。

LTCM破綻後も、複雑になるばかりの金融取引に当局の規制は対応できず、危機は繰り返されることになる。

ドットコムバブル

有力なヘッジファンドはハイテク株がバブルであることを見抜いていたが、市場は熱狂していた。

ある者はハイテク株を空売りし、またある者は途中からトレンドに飛び乗り、あるいはハイテク株を無視しオールドエコノミーの株を買った。しかし異常な急騰と突然の暴落により、ヘッジファンドは軒並み大打撃を受けた。

D.スウェンセンとT.ステイヤー

ヘッジファンドは自身の利益を追求するために生まれてきたが、社会的影響も大きくなった。機関投資家がヘッジファンドに投資するようにもなった。イェール大学はヘッジファンドの手法により、78億ドルを得た。

J.シモンズとD.E.ショー

超一流の数学者たちが、数学的アプローチで市場のシグナルとアノマリーの発見に挑んだ。経済学やウォール街とは無縁の、暗号解読や機械翻訳、人工知能の研究経験を持つ科学者たちが、従来のヘッジファンドを打ち負かした。

K.グリフィン

社会的影響力が増したヘッジファンド業界では、すべての投資戦略を機動的に統合する、規模の大きなマルチ戦略ファンドが台頭した。

破綻した巨大なヘッジファンドを、別の巨大なヘッジファンドが救済できるほどに、ヘッジファンドは力をつけていた。ヘッジファンドは、市場の営みを円滑にするような働きを持つようになった。

サブプライムローン危機

サブプライムローン市場がバブルであることに、世界中の巨大銀行や投資銀行は気付いていなかったが、ヘッジファンドは気付いていた。

逆張りを得意とするジョン・ポールソンは、モーゲージ証券の空売りとサブプライム債の保険購入で150億ドルの利益をあげた。

しかしクレジット市場の危機は、ヘッジファンドを巻き込んだ。そのあとに訪れたリーマン・ショックにより、ヘッジファンドも苦境に陥った。

第二次世界大戦後、ヘッジファンドという組織を創ったA.W.ジョーンズから、サブプライムローン危機までを概観します。金融取引がどんどん複雑化し、巨大化していく様子が見てとれます。

 

書評

ヘッジファンドは悪評がつきまとうことが多いのですが、本書では中立か、やや好意的に描かれています。ヘッジファンドは忌み嫌われるが、実際は市場に流動性をもたらし、市場を安定させる、という立場で記述されています。

サブプライムローン危機も、大きすぎて潰せない巨大金融機関がリスクをとりすぎたことを指摘しています。

国民の税金で救済されることがわかっている巨大金融機関の幹部たちは、リスクをとればとるほど得になるのでした。

リスクをとれるだけとって成功すれば、巨額の報酬は自分たちのもの。失敗したら報酬を受け取って退職し、金融機関の損失は税金で埋め合わせます。

ところがヘッジファンドの経営者たちは、救済されないことがわかっているからこそ、リスクを徹底して管理しています。

成功すれば利益は自分のものですが、失敗したなら損失はすべて自分が被ります。サブプライムローン危機の前、かけるレバレッジは巨大金融機関で高く、ヘッジファンドの方が低かったそうです。

ヘッジファンドの幹部たちというと、理数系の博士出身で、投資銀行の業務を経験したあと転職し、人を人と思わず傲慢で、莫大な報酬を受け取り、富をひけらかすような派手な生活をするイメージがあります。

確かにそういう男たち(本書には男しか出てきません。ヘッジファンド創業者は偏執で攻撃的な傾向の人が多いので、性別も偏るのかもしれません。)が多く出てきます。この手の人々はあまり好きになれません。

ただそれとは少しずれた人たちも存在し、人間性に興味を持ちました。それにしても本当に無数の人々が、莫大な富を求め、考えつくありとあらゆる方法で市場に勝とうとしてきたことがわかります。

投資の方法論がどのように進化してきたかを知る読み物としても使えます。
(書評2014/10/19)

「資産運用実践講座Ⅱ 株式投資と金融商品編」 山崎元(著)

 

前回紹介した「資産運用実践講座Ⅰ 投資理論と運用計画編」の続きです。上下巻の下巻にあたります。

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

 

対象読者層

正しい資産運用について勉強したい人。難易度は初級者から中級者あたりが適当です。

 

要約

株式投資

株式のリターンが債券のリターンより長期で見て高いとは、必ずしも言えない。過去のデータ(特に外国のデータ)を引いて、リターンでは株式が債券を上回るとする主張が多い。しかし過去のデータから、今後も絶対に株式が有利と断言はできない。ただ株式投資は、大きなリスクをとって生産活動に資本を提供する行為なので、一般論として大きなリターンを期待することはできる。

・株式の理論価格は、
現在の理論株価 = 現在の1株利益 ÷(投資家の要求リターン - 利益成長率)
であり、変形して、
投資家の要求リターン = 益利回り + 利益成長率
名目金利 + リスクプレミアム = 益利回り + 利益成長率
となる。
すなわち、実質利益成長率が実質金利より高ければ株式投資は有利であり、実質利益成長率が実質金利より低ければ株式投資は不利である。インフレ初期は株式投資が有利となり、インフレ後期は株式投資が不利となる可能性がある。しかし投資家の予想と現実がずれることもあり、株式でインフレヘッジできるかはわからない。

株式のリスクプレミアムは、直接測定することはできず、一致した学説もない。だいたい5~6%と考えられることが多かった。

チャート分析だけで儲けることはできないと考えるのが、学術研究と運用業界の主流である。チャート分析が有効であると考えて頻回に取引することは、個人投資家にとって弊害がある。

証券会社のアナリストの投資判断が、リターンを改善することはないだろう。

株価は、将来の利益を予想して形成される。利益予想の変化が株価に影響を与えるので、決算情報や、会社四季報などの業績予想の推移を調べることは有意義である。1回目の上方修正の段階では株価は割安(買い)で、3~4回上方修正が続くと株価は割高(売り)となっていることが多い。

PER、PBR、ROE、日経平均株価、TOPIXについて。

個別銘柄に投資する場合は、業績予想の変化(推移)はどうなっているか、株価は割安か割高か、流動性など取引の状況はどうか、を確認する。損失が許容できる範囲の金額で、業種の異なる3銘柄以上に分散投資を心掛けるのがよい。

時間を分散して株式を売買することに意味はない。取引回数が増えコストがかかることや、最適なポートフォリオをつくるのが遅れる機会損失がある。

成長株投資について。
成長株投資で高いリターンを上げるには、他人より早く高成長に気付き、自分が株を買い終わったころに他人が高成長を知ることが必要である。これはなかなか難しい。また、成長株は期待外れ(成長鈍化など)になると、株価を大きく下げる。

割安株投資について。
将来の利益の予測とPERから、またPBRから、割安か判断する。割安株は相対的に値動きが安定しており、銘柄選択基準もわかりやすいことから、割安株投資は個人投資家に向いている。

イベントドリブンについて。

株式を売却するときは、
①お金が必要になったとき。
②資産配分で、株式の比率が変わったとき。
③その銘柄のウェイトが大きくなり過ぎたとき。
④買った理由がなくなったとき。

議決権行使について。

 

投資信託

アクティブファンドは、市場平均に勝てない場合が多い。また、市場平均を上回る優良なアクティブファンドを、事前に見分けることはできない。手数料の差は、ファンドの優劣の大きな要因となる。

・パッシブファンドは、コストが低く個人投資家に適した金融商品だった。近年は、銘柄入れ替えなどに便乗する、コバンザメ投資や引値ギャランティといった現象が見られる。これらはパッシブファンドのリターンを低下させる。ただ現在でも、パッシブファンドはアクティブファンドより高いリターンを示す場合が多いので、パッシブファンドは優位性のある投資対象と考えられる

バランス型ファンドは、コストが高めで運用の中身が把握しにくいという欠点がある。ファンド・オブ・ファンズやライフサイクル型ファンドにも、同様の問題がある。本来は、投資家が資産配分を決定し、それぞれ適切な資産を組み合わせる方が望ましい。投資家自身が行うことで、コストが下がり、管理も容易となる。

毎月分配型ファンドは、課税のタイミングが早くなるので損である。インカムゲインに対する心理的満足のほかに、長所はない。

元本確保型商品は、投資家にとって利点はない。SRIファンドなどは投資の面で優位性はないので、投資家の価値観による。タクティカル・アセットアロケーションのシステム運用は、うまくいく時期といかない時期があり、また投資家がリスクの把握や管理をしにくくなるので勧められない。

トップダウンとボトムアップについて。定量評価と定性評価について。

シャープ・レシオとインフォメーション・レシオについて。

 

預金と債券

利回りが確定している預金や債券では、運用期間と信用リスクの2面から考慮して、利回りを比較するのが原則である。このとき、利回りは複利で比較する。銀行預金の場合は、銀行の格付けも参考にできる。社債を個人投資家がリスク評価することは難しい。

デフレで超低金利(ゼロ金利)の環境では、普通預金が安全で利便性もあるので良い。このような環境下では、運用期間や信用度に問題のある金融商品の利回りもゼロに近づくので、相対的に普通預金が優位となる。名目の利回りがゼロでも、普通預金が十分に有利である。

金利が変化するときの金融商品の比較では、以下の点を考慮する。
①名目金利ではなく、インフレ率を考慮した実質金利で損得をはかる。
②長短の金利差を見て、得な方を選ぶ。
③今後の金利動向も考える。長期の債券では、金利上昇でキャピタルロスの可能性がある。
10年満期の変動金利個人向け国債は、運用リスクが小さく、検討してみる価値はある。手数料の高い外貨預金や外国債券は、常に不利である。

・銀行預金にもさまざまな種類があるが、どれだけの期間でいくらになって戻ってくるかを具体的に確認すること。外貨建てである、オプションが組み込まれている、対象者や期間が限られている、手数料の高い商品と抱き合わせである、などの問題がある場合もみられる。

債券の解説。
①利回りが高くなれば、債券の価格は下がる。利回りが上がるということは、将来価値が不変ならば現在価値が下がるということである。
②インカムゲインとキャピタルゲインを両方合わせて、利回りを検討しなければならない。債券の期間が長いほど、価格が変動するリスクが大きくなる。
③利回りの比較は、複利で行う。
④デュレーションについて。
⑤債券の信用リスクは、格付け情報を参考にする。しかし個人投資家が債券の評価をするのは、極めて難しい。

物価連動国債について。

 

その他の金融商品

自分が理解できない金融商品は、購入してはならない。利益が出る仕組みや、売り手の取り分となる手数料、価格条件から見た損得などがわからないなら、理解できていない。

為替レートについて(購買力平価、需給、資本取引)。

外国株式、外国債券について。
その株式や債券がよい商品かと、その国の通貨がよいかは別々に考えるべきである。運用資産全体のうち、どの通貨をどれだけの比率で持つべきかを考える。外国の株式や債券でも、大半の為替リスクはヘッジできる。

・外国債券をどの通貨で運用しても、円建てでは円の金利と大きくは変わらない。基本的な期待リターンは自国通貨で運用した場合と同じだが、分散投資としての意味はある。

外国株式では、金利や利益成長率、求められるリスクプレミアムの水準が日本と異なることに注意する。

FXについて。

先物、オプションについて。

投機と投資とは。

 

書評

基本的には、1冊目と同じです。入門書のレベルは卒業した人が、もっと理論的に資産運用を独力で行うための本です。専門書まではいかない、中級者向けです。

これを通して読むと、投資の全範囲に目配りできるので本当に勉強になります。でも素人にはかなり難しいです。私も債券や為替のところは、厳しい箇所がありました。株式は興味があるので多少は勉強していて、本書もまあまあ理解できたのですが、債券と為替は勉強が必要です。

本書は合理的なので読むと納得するのですが、それでも他の良書とされる本と主張が異なる部分もあるので、投資とは方法論が確立していないものだと感じました。

「ウォール街のランダムウォーカー」「敗者のゲーム」では、長期の株式パッシブ運用こそ最高と主張します。私も長期の株式投資が有利と思っています。しかし本書で、過去のデータをもとに絶対に将来も株式が債券を上回るとは言えないとか、パッシブファンドに及ぶ悪影響などを読むと、確かにそういう視点もあると気付きます。(ただし本書も株式を期待できる投資としています。)

最近は、先進国経済が長期に停滞するとも言われています。ヨーロッパでは景気後退、さらにはデフレの可能性が出てきました。これまで外国では長期の株式投資が報われてきましたが、日本では20年間、株式投資にいいところはありませんでした。もし今後、先進国経済が、あるいは世界経済が日本のように停滞するなら、株式投資にも疑問が湧いてきます。

そうすると、ただ株式をパッシブ運用するだけでは、賢い投資法ではないかもしれない(平均レベルは期待できますが)。ならばタイミングを見て、不況のときに株式を多く買い、好況のときに投資を抑えたくなります。でも景気の波を正確に認識するのは、極めて難しい。自分が景気の波を捉えられないなら、どうすべきか。そもそも市場のタイミングを見極めるのが無理だと考えるのが、パッシブ運用です。するとパッシブ運用に戻ります。今のところ、答えが見つかりません。
(書評2014/10/16)

「資産運用実践講座Ⅰ 投資理論と運用計画編」 山崎元(著)

 

著者いわく、中級者のために書かれた本です。入門書では物足りない、資産運用を理詰めでしっかり勉強したいという人向けの本です。

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

 

対象読者層

正しい資産運用について勉強したい人。難易度は初級者から中級者あたりが適当です。

 

要約

本書は、投資の入門書では飽き足らない個人が、正しい理論を理解して、自分で資産運用を実践できるようになるための独習用テキストである。

 

資産運用計画作成の概略

①計画作成の前に、家計の状態を把握する。
②借金や年金の条件が現在どうなっているか、確認する。
③どれだけの損失まで許容できるかをつかみ、最大損失許容額を設定する。それに従い資産配分を決定する。
④決定した資産配分比率のそれぞれの資産に、どの金融商品をあてるか選ぶ。金融商品を選択したら、適切な窓口から購入する。
⑤年に1回程度、もしくは経済環境の急変時に、資産のリバランスなどのメンテナンスと運用計画の点検を行う。

 

資産運用計画の各論

投資計画をつくる前に、資産や借金、収入と支出など家計の状態を把握する。家計の状態を知るのに、簡易のバランスシートと損益計算書をつくってみる。
バランスシート:金融資産(時価)、実物資産(時価)、短期ローン、長期ローン、自己資本。
損益計算書:年間収入、年間支出。

短期ローン、長期ローン(住宅ローン)とも、すみやかに金融資産で返済するのが有利である。借金の返済は、リスクフリーで市場金利にスプレッドが乗った金利で運用しているのと同じである。

生活費の3カ月~2年分ぐらいを普通預金などで貯めてから、投資を始めるのが無難ではある。ただし個人の状況を考慮しつつ、少しずつリスク資産に投資するのも(勉強になるので)よい。

高齢者(年金生活者)の資産運用で注意すべきは、運用に失敗しても働いて損失分を埋めることが難しいことである。余命を長めにとって金融資産を取り崩す年数を決め、1年当たりの取り崩す額を概算する。以下のように計算する(すべて1年当たりの額。)
年金 + 取り崩し額 + (稼ぎ) - 生活費 = 余裕金
この余裕金から逆算して、とれるリスク資産の額が決まる。これは1年ごとに計算を仕直して調整する。なお、金利やインフレ率が大きく変化したら前提条件を変える。また資産家の高齢者は、よりリスクをとることが可能。

インカムゲインとキャピタルゲインは、区別して扱うべきではない。インカムゲインが高齢者に適しているという考えは誤り。

個人型の確定拠出年金に加入できるならば、税制上メリットが得られる。60歳まで引き出せないことに注意。運営管理機関と運用商品は、よく調べて適切なものを選ぶこと。運用する確定拠出年金は、資産運用全体のなかの一部として位置付ける。全体が最適化されるように資産を配分する。

資産の運用では、あらかじめ最悪の場合(最悪の損失額)を考えておくことが大切だ。期待リターンから2標準偏差を引いた額くらいを想定するのが普通(2.5%の確率で発生)。

資産配分を簡便にするには、リスク上限を決めて、その範囲内でリスクとリターンの組み合わせを選ぶのがよいだろう。リスク許容度が理解できるなら、最適化計算をする。資産配分は、リスクとリターンを同時に考えながら決める。先に運用の目標利回りを決めてはいけない。

簡易なアセットアロケーションの方法。
①1年間での許容損失額の上限を決める。
②リスク資産のリスクを、年率標準偏差X%と仮定する。
③マイナス2標準偏差を損失許容額の上限とし、とりうるリスク資産の割合を逆算する。
④リスク資産の期待収益率をY%、リスクフリーの期待収益率をZ%と仮定し、③の上限までの範囲内でリスク資産の割合を考える。
⑤上の④で決めたリスク資産を、さらに国内株式、外国株式、外国債券などに(機関投資家の運用計画を参考に)振り分ける。

運用パフォーマンスは、資産配分のやり方で9割程度決まる。資産分類内でどの程度アクティブリスクをとるかで、多少パフォーマンスは変化する。

資産ごとの期待リターンを決めるのは難しい。過去の平均値をそのまま使うのは、適当ではない。機関投資家の運用計画の数値は、参考にはなる。

アセットアロケーション全体のリスク、インプライドリターン、リスク拒否度、効用などの求め方。またこれらをもとにして、表計算ソフトでワークシートをつくり、最適化計算をする具体的手順の説明。

 

投資理論とマーケット

モダンポートフォリオ理論について。

ALMとは、資産と負債を一体としてリスク管理などを行う考え方。銀行や保険会社の経営、年金制度などにおいて重要となる。個人でも住宅ローンなどの借金を考えるときには、意味のある考え方。なお、個人が借りられるローンは、経済的にはきわめて不利な条件である。

生命保険は、加入者の人的資本の価値をヘッジする手段と考える。資産運用と生命保険は同時に考えるべきものであり、人的資本がこれらに与える影響は大きい。一般に人的資本が大きい方が、資産運用でとれるリスクは大きくなるし、生命保険の必要性も増すだろう。

行動ファイナンス、ギャンブル依存症について。

政府の株価対策について。年金や日銀などの株式買い入れ、政府保有株式の売却延期、空売り規制など需給面の対策は、短期的な効果にとどまる。法人税引き下げや配当への課税引き下げなどは、株式の理論価格を上げるので長期的な効果が期待できる。

・国家財政破綻などの話で脅かして対策を売る商売があるが、破綻シナリオの確率とその対策にかかるコストは冷静に考えるべきだ。危機が心配なら、国債消化における外国人の割合や経常収支、金利などの動向を日頃から見ておく。

中央銀行の金融政策について。

自社株買いや配当について。理論上は、株主の利益には中立的である。

企業買収、株式持ち合いについて。企業価値と時価総額について。

アノマリーについて。

 

実際の運用

長期投資では運用資産の価値の変動幅が大きくなるので、長期投資でリスクが小さくなるということはない。しかし、長期投資では期待値も大きくなるので、運用期間の長短はリスクに対して中立的となる。ただし長期の運用は取引コストを節約できるので、資産運用は長期で行うのが基本である。

・市場参加者が完全にリスクを認識していれば、ハイリスクのものはハイリターンとなるはずである。しかし、リスクが常に正確に知られているかは疑わしい。

ドルコスト平均法は、有利でも不利でもない。積立投資には向くが、ひとつの投資対象に資産が集中しやすい点はデメリットである。ナンピン買いも資産が集中するので、あまり勧められない。

株式投資において、売却目標株価(利食いや損切り)をあらかじめ決めておくのは誤りだ。値上がりや値下がりの理由を確認して、行動すべきである。

・複利効果は大きいが、運用商品の優劣はあくまで1年当たりの利回りによって決まる。若いうちに投資を始め、長期にわたり取引コストを節約することでパフォーマンスが向上する(=複利効果)と意識しよう。

資産がインフレやデフレに対抗できるかは、将来のキャッシュフローと割引率がどう変わるかによる。株式や不動産はインフレに強いと言われることが多いが、状況による。債券はインフレに不利で、デフレに有利である。短期預金はインフレにやや不利で、デフレにやや有利。借金は債券の逆になる。

金や商品への投資、不動産投資、オルタナティブ投資について。

変額年金保険、生命保険会社について。

金融商品取引法について。金融機関の担当者やアドバイザーとの付き合い方について。担当者やアドバイザーが、自身の利益に沿うような金融商品を勧める可能性があることを知っておくこと。運用計画を決めてから金融商品を選択するのが原則であり、その際は最も適切な金融商品を、コスト面や信頼性で最も適切な金融機関から購入するようにする。

 

書評

読み終わっての感想は、これで勉強したらもう十分だ、です。

投資で話題になるような事柄は、ほとんど網羅されているような感じです。資産運用を考えるときに、必要な内容はほぼ書かれているように思います。しかも内容はかなりレベルが高く、本書が理解できれば自分で資産運用ができるでしょう。

著者が中級者向けと述べているように、本書はなかなか手強いものでした。私は著者の山崎氏のコラムや著書をけっこう読んでいるので、本書の解説もだいたい予測がついて理解できました。山崎氏の本を初めて読む人は、難しく感じられそうです。

入門書をかなり読んでいて、自分で投資信託や株式のことを調べたことがあり、投資を理屈っぽくやりたいと思う人に適した本だと思われます。これより勉強したければ、もう専門書にいきましょう。本書は「資産運用実践講座Ⅱ 株式投資と金融商品編」と2冊組であり、(2冊目は未読ですが)これらを読み込んで理解し実践できるようになれば、一般人としては最強レベルの金融リテラシー保持者になりそうです。
(書評2014/10/12)

「信用取引の基本と儲け方ズバリ!  新取引ルール対応」 福永博之(著)

 

信用取引の入門書です。信用取引の基本的事項が、きっちり解説されています。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

信用取引をはじめから学びたい人。

 

要約と注目ポイント

信用取引とは

信用取引とは、委託保証金という担保を証券会社に差し入れ、証券会社から資金や株式を借りて売買する取引である。

信用取引の特徴は、自己資金の約3倍の取引ができることと、取引を売りから始められることである。

信用取引には手数料に加えて、管理費などのコストがかかる。ほかに買いでは金利がある。売りでは貸株料や品貸料(逆日歩)、配当相当額の支払いがある。

また、株主優待はもらえない。長期にわたって信用取引すると、コストの負担が大きくなることに注意。

信用取引は売りもできるし、レバレッジもかけられます。ただし、いろいろなコストに注意が必要です。

信用取引を始める

信用取引口座開設についての説明。

信用買い

売買のタイミングが合えば、自己資金以上の利益が得られる。

買付代金や金利などの費用を払えば、現物株として引き取ること(現引きによる決済)が可能。

信用売り

下落相場でも利益が出せる。

現物株を保有している場合は、信用売りでリスクヘッジできる。

市場で買い戻すかわりに、保有株で返済することもできる。

取引のルール

信用取引では、保有する株や投資信託、債券などを代用有価証券として担保にできる。

株は、前日終値に掛目という利率をかけたものが評価額となる。相場環境が良いときは掛目は低く、悪いときは掛目は高く設定される。

信用取引には、制度信用取引と一般信用取引がある。通常、信用取引とは制度信用取引を指す。

制度信用取引は取引所がルールを定めていて、6カ月以内で決済しなければならない。また、取引できる銘柄は取引所が決める。

一般信用取引は、個別の証券会社がルールや銘柄、期限を定めている。一般信用取引では金利が高く、売りができない場合が多い。

制度信用取引で、買いも売りもできる銘柄を貸借銘柄、買いだけの銘柄を信用銘柄という。貸借銘柄より信用銘柄の方が、株価が一方に動きやすい。

信用取引独特のルールも、わかりやすく説明されています。

信用取引で儲けるには

信用取引では、ロスカットなどのリスク管理がとても重要である。

委託保証金率は約定代金の30%、委託保証金維持率は約定代金の20%であるので、保証金には余裕が必要である。維持率を下回ると追加保証金が発生し、決済が強制されることもある。

信用取引の実例の解説。

デイトレードでの使い方。

クロス取引(現物買いと信用売り)について。

IPO銘柄について。

スイングトレードについて。

信用取引のやり方を、実例を通して学びます。

信用取引で知っておくべきこと

信用取引情報

東京証券取引所が、毎週第2営業日に信用取引残高を発表する。これにより、相場全体の買いと売りの残高がわかる。

信用評価損益率は、日経新聞が毎週第4営業日の朝刊で算出している。信用評価損益率がプラスに近づくと天井に近く、大きくマイナスになると底入れに近いと言われている。

東証は毎週第2営業日に、信用倍率を発表する。買い残の比率が低いと上昇しやすい。

日本証券金融株式会社では、毎日、融資(買い)と貸株(売り)の残高を発表している。信用倍率が1倍より低くなると、逆日歩が発生して買いが増えやすい。

逆日歩の銘柄は、日証金のホームページの品貸料率一覧表でわかる。

回転日数が5日より短くなると、過熱感がある。

ファンダメンタル分析とテクニカル分析について。

信用取引で注目しておくべき指標がわかります。

信用取引のポイント

まず含み益をつくり、利益はしっかり確定させる。ロスカットも重要。

銘柄の特徴を見てから売買する。

買いは、好需給の銘柄を選ぶ。

売りは、株価が下落しながら貸借倍率が大きくなっている銘柄を選ぶ。

信用銘柄の動きは、一方通行になりやすい。

逆日歩が発生したときは、踏み上げに注意。

2階建ては厳禁。

取引過熱時の規制強化(委託保証金率の変更など)に注意。

ETFの信用取引について。(リスクヘッジなどに利用。)

信用取引の特長を生かすトレードを解説します。レバレッジがかかっているので、資産管理がとても大切です。

 

書評

信用取引をはじめから学びたい人には、良い本だと思います。信用取引の基本事項が、わかりやすく説明されています。この本で信用取引のことは、一通り理解できるようになりそうです。

チャートをあげて取引の実例をいろいろ解説しているのですが、これらはすべてうまくいった例です。信用取引でどれだけ利益が得られたか、シミュレーションしています。

実際はそこまで思い通りに株価は動かないので、ちょっと出来過ぎ感はあります。

著者はレバレッジをかけて儲けることを想定していますが、私はレバレッジをかけるつもりはありません。

現物株を買うだけで十分リスクはとっています。ただ売りについては研究したいので、信用取引も勉強していくつもりです。

なお本書では、ETFを信用取引に使ってリスクヘッジしたり、サヤ取りについて触れたりしています。

売りを工夫して組み込めば、面白い取引手法をつくれたりするかもしれません。頭を使えば、自分の目的に合わせたトレードを開発できるかも。

信用取引にはいろいろと発展性も感じました。
(書評2014/10/07)

「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」 アンドリュー・ロス・ソーキン(著)

 

おそらく第二次世界大戦後で最も深刻だった、金融危機の話です。当時何が起こったのか、経済書としても読める一級のエンターテインメントです。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

2008年の世界的な金融危機に興味がある人。

 

要約と注目ポイント

サブプライムローン危機

サブプライムローン危機は、ベア・スターンズのヘッジファンド破綻とBNPパリバのマネー・マーケット・ファンドの返金凍結という形で、2007年8月に姿を現し始めた。

物語は、2008年3月のベア・スターンズ破綻とJPモルガン・チェースによる救済で幕を開ける。ウォール街には不穏な空気が漂っていた。

アメリカ5大投資銀行のうち、最小規模のベア・スターンズは退場した。市場の標的は、次に小さいリーマン・ブラザーズとみなされた。

本書はニューヨーク・タイムズの金融専門記者による、世界金融システムがまさに崩壊しようとしていた日々の記録である。綿密な取材により、危機に肉薄した当事者たちの行動と、極限状態へと追い込まれていくその感情をありありと描いている。

リーマンショック

市場に会社の存続を疑われ、株価が下落しているリーマン・ブラザーズでは、幹部たちが必死の、だが独善的な戦いを続けていた。戦況は一進一退だったが、しかし確実に敗色は濃くなっていった。

またリスクを忘れ巨額の利益を貪っていた巨大な金融機関、メリルリンチ、AIG、ファニーメイ、フレディマックにも猛火は迫っていた。

彼らは危機の直前まで、リスクのことはほとんど気にも留めていなかった。あるいは危険性に途中で気付いた者もいたが、もはや引き返せないところまで事態は進んでいた。

連日の株価下落で追い込まれたリーマンは、めぼしい金融機関すべてと交渉し、FRBにも掛け合い、金策に奔走する。部門売却、合併、買収、スピンオフ、ウォール街の主要金融機関による協調支援。しかし策の尽きたリーマンは、ついに2008年9月15日に破産申請する。

金融危機

すでに瀕死であったAIGにも、リーマンの破綻により審判のときが訪れた。流動性はきわめて逼迫し、残された時間はもうなかった。AIGが生き残るためには、翌日までに500億ドル以上を調達する必要があった。

恐るべきことに、AIGは世界中のクレジット・デフォルト・スワップを3000億ドル以上保護し、1.9兆ドルの生命保険証券を発行していた。市場は疑心と恐怖に包まれ、金融当局の介入は避けられなくなった。

一方、リーマンの次に市場に狙われることが明らかな投資銀行第3位のメリルリンチは、バンク・オブ・アメリカとの合併交渉を進めていた。メリルリンチとバンク・オブ・アメリカの経営者たちは、合併は有益で意味のある行動だと考えていた。

しかし功に逸り、交渉の詰めが甘くなった。帳簿の調べの不正確さは、バンク・オブ・アメリカを窮地に追い込むことになる。

5大投資銀行のうちすでに3行が消滅し、危機は第2位のモルガン・スタンレーにも飛び火した。金融システムが目詰まりし、資金を必要とするヘッジファンドがモルガン・スタンレーに償還を求めていた。モルガン・スタンレーは1800億ドルの資金を確保していたが、24時間で200億ドル以上も引き出された。

市場はモルガン・スタンレー、そしてゴールドマン・サックスの破綻をも想定し、動いていた。これらが実現すれば、金融システムは完全に崩壊し、世界大恐慌の再来となるだろう。

モルガン・スタンレーは最後の救済先と目される、中国の政府系ファンドCICとの交渉に臨んでいた。CICの提示した投資条件はきわめて不利なものであったが、すでに流動性残高は400億ドルとなっていた。そのとき、三菱UFJより接触があった。

介入

月曜早朝にリーマンが破綻した激動の一週間が終わろうとしていたが、事態は全く改善していなかった。

財務省と連銀は週末、力ずくでもモルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスをどこかの銀行と合併させ、銀行持株会社にして破綻を回避しようとしていた。そして恐慌を防ぐ最後の策として、不良債権を7000億ドルで買い上げる法案を準備した。

三菱UFJがモルガン・スタンレーに90億ドル、ウォーレン・バフェットがゴールドマン・サックスに50億ドル投資することで、2行の危機はひとまず遠ざかった。

しかし、ワシントン・ミューチュアルが破綻し3000億ドルの資産が差し押さえられ、ワコビアがウェルズ・ファーゴに買収されるなど、市場の動揺は続いた。そのようななか、財務省の法案が下院で否決され、株式市場は暴落する。

財務省の救済法案は修正され、取り込み工作で何とか成立したものの、株式市場は安定せず、なお下落していた。金融システムを維持するため、当局はついにすべての金融機関への強制的な資本注入を決断するのだった。

よくぞここまでと言うほど、しっかり取材されています。それでも、世界に波及した金融危機の全体を理解するのは、かなり難しいです。金融危機の歴史的評価も、これからです。

 

書評

精緻な取材と調査、読ませる構成力はさすがプロフェッショナルです。面白い。

私は経済のことは、よくわかりません。しかし2008年当時はさらにわかっておらず、リーマン・ショックで何が起こっているのかさっぱり理解できませんでした。ただひたすら社会の底が抜けたような、不安と興奮を感じていました。

あのころを思い起こすと、毎日、日経平均株価が1000円上下していたような気がします。もう少し正確に言うと、一歩進んで二歩下がる塩梅で、日経平均が15000円から7000円になっていました。

百年に一度の危機だと言われ、それはちょっと言い過ぎのようでもありましたが、現在も世界経済は低迷しています。

サマーズ元財務長官が主張するように、米国や先進国は長期停滞に陥っているのかもしれません。リーマン・ショック以前の、投資をすればするほど儲かるという感覚がもう夢のようです。

リーマン・ショックが歴史的転換を示したとすると、私たちはリーマン・ショック後の世界を生きることになります。それは、将来が今より豊かになることはないと考えながら、慎ましく生きる世界です。

ひっそり慎ましく、経済成長なく変化なく生きていく。と予想しつつも、金融危機の後始末はまだ終わっていないようにも思われます。

借金をしてレバレッジをかけて今を豊かに生きることは、将来につけを回していることと同義です。まだつけを払い終わっていないようです。

欧州にデフレが迫っていますが、これはユーロの構造的欠陥でしょう。中国の不動産バブルは、清算のときが近づいているようです。日本の財政は、現在の形では持続不可能です。

どれをとっても、巨大なショックをもたらす問題です。金融危機は去ったような空気もありますが、そう遠からず再び現れるのでしょう。
(書評2014/10/04)

「株が上がっても下がってもしっかり稼ぐ投資のルール バイ・アンド・ホールドを超えて」 太田忠(著)

 

なぜ、バイアンドホールドは通用しないのか?今の日本における投資戦略を論じた本です。アクティブ運用については、株式投資を論じています。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

資産運用の戦略を考えたい人。株式投資が好きな人。難易度は初級者向けあたりでしょうか。

 

要約

現在の株式投資では、過去の成長時代のバイ・アンド・ホールドとは異なる方法が必要だ。上昇局面、下落局面、横ばい局面、それぞれに適切な対応をする。

個人投資家は、機関投資家より有利である。投資資金が小さいのでどんな銘柄にも投資できるし、売買のタイミングも自由である。

はじめに、自分が投資をする目的をじっくり考えること。自分のなかで投資の目的がはっきりしたら、次に手持ちの金融資産を3つに分けてみる
①生活資金。(6カ月ほどの生活費。普通預金などで持つ。)
②安定運用資金。(予定されている支出を賄うための安全資産。あるいは保守的に運用する資産。定期預金など。)
③長期運用資金。(老後のためのような、10年単位での投資。)
①、②の順で貯めること。③は②まで貯めてから。③は複利効果を活かして運用していく。

アセットアロケーションが大切である。一般に言われるように、全資産を国内外の債券と株式で4等分しないこと。はじめて投資をするなら、リスク資産は10%まで(90%は現金)。勉強しながら、リスク資産の比率は上げていく。相場の変動に備えて現金は残し、時期をずらして金融資産を買え。リスク資産は自分の得意分野を多く持つようにする。自分の知らない(理解できない)金融資産は買わない。異なる分野で最低5銘柄以上に分散投資せよ。

リスク管理が最も大事で、リスク管理できないと生き残れない。システム障害に備えて、複数の証券会社を使う。長期運用資金で許容される損失は、マイナス5%まで。ポートフォリオ全体でマイナス5%になる前に損切りをする。機械的に損切りを行うため、逆指値注文は必須である。株価が上昇したら逆指値も上げていき、確実に利益を確定させる。持ち株を何回かに分けて売り、利益確定するのもよい。

含み益は実現させてはじめて利益が確定するもの。逆に含み損は、すでに発生した現実の損失である。

投資行動の記録をつけ、振り返って反省し今後の教訓とする。売買した銘柄と金額、騰落率、売買した理由、ポートフォリオへの寄与率など。

個別銘柄を選択する方法。
①会社四季報や日経会社情報を読み込む。
②目をつけた会社のホームページ、説明会資料(ビジネスモデル、戦略、将来性など)、決算短信をチェック。
③過去のトラックレコードのチェック。(過去の業績予想の修正はどうだったか。)
④疑問点を会社のIRに質問してみる。
⑤バリュエーションのチェック。(同業他社との比較、過去のバリュエーションとの比較。)

PER、PBR、ROEについて。

上昇相場で選ぶべき株。
しっかりした新規事業がある。
自社のビジネスと相乗効果があり、リターンが期待できるM&Aを行っている。
全国的、世界的に展開できる成長力がある。
景気拡大期における景気循環株。
商品の値上げができる力のある会社。
敗者復活してきた会社。
一貫してIRの姿勢がよい会社。
中小型株のアナリストが減っているので、見向きされず放置されている株。
新高値や上場来高値をつけた株。(新安値の株は避ける。)

・上昇相場では、PERもPBRも高くなる。

IPO企業の質は、上場社数が増えるほど低くなる傾向がある。裏付けのない初値がつくことも多い。目論見書を精読し、過去の業績をチェックする。大株主がベンチャーキャピタルである場合は避ける。上場目的は合理的か、真摯にIR活動をしているか、割高ではないか、時価総額は50億円以上か。

ほとんどの成長株は、期待に添う成長期間が3年未満である。成長している産業では、平均以上に成長しているか?成熟した業界なら、一人勝ちしているか?増益率が増収率を上回る、営業利益率が改善している会社は株価が上がりやすい。

下落局面では、信用取引の売りを活用する。また日経225miniの先物取引により、リスクヘッジもできる。ただし、レバレッジはかけてはならない。逆指値注文でリスク管理をすること。

買ってはいけない(売りの対象になる)株。
ビジネスモデルが崩壊した。
常に業績見通しが甘い。
無意味に多角化する。
何度も社名変更する。
過剰な増資やMSCBなどで、株主の利益を損なう。
好況やブームに便乗して上場しただけ。
経営者にとってIPOがゴール。
監査法人を(怪しげな監査法人に)変更する。
地方取引所に上場している。
経営者が自叙伝などを出版する。

株価は上昇より下落の方が速い。また、売られる株(新興市場など)はどこまでも売られる。時価総額が小さく、流動性が低い株は特に危険である。

株式投資で成功するには、心理の制御が必要となる。
恐怖を克服する。(損失をおそれて判断を誤る、利益を失うまいと手仕舞いが早くなりすぎる、他人の意見が気になって判断を誤る。)
市場の激変に対応し、自身の感性を変化させ投資パターンを修正することが求められる。
適切な投資行動がとれる。(慎重さ、計画性、投資ルールを守る、決断力、柔軟性。)
市場のトレンドに追随できる。
現実を直視し、自分で決断し一貫した行動をとれる。
確率的思考ができる。

業績予想が修正されたときの対処法。

アノマリーについて。

投資信託について。

税金について。

 

書評

著者の経歴の出発点が日本株アナリストなので、ほとんど株式投資(日本株)の話です。しかし、資産運用全体の戦略を考えるのにも使える本です。ポートフォリオ全体で許容できる損失比率を設定し、そこから各資産(各銘柄)で損切りするラインを逆算していくのはよい方法だと思いました。

儲ける話より(儲ける話もたくさんありますが)、とにかくリスク管理を説いているので良識的な本ではないでしょうか。下落局面に対応するための信用売りや先物取引でも、レバレッジを戒めています。投資が初めての人用ポートフォリオが、現金90%になっているのはちょっと面白いです(円グラフの90%が現金)。

他の株式投資本と共通する話もありますが、そのあたりは特に大切なことでしょう。投資を考え始めて1冊目にこの本を読むと、よくわからないと思われます。ある程度投資の勉強をして、自分で取引をした段階で読むと納得できるのではないでしょうか。取引の具体的なルールは書かれていないので、自分で自分の得意な手法を開発する必要があります。

本書でも新高値の銘柄を売ってはならないとあります。上場来高値は最高とも述べています。私は持ち株が新高値を何回かつけると、売って利益にしたくなるのですが、確かに利益は伸ばせるだけ伸ばすのが肝要です。上場来高値は含み損となっている人が誰もいないので、売ろうとする人はいないと考えるべきとあって、なるほどと思いました。
(書評2014/09/29)

「株式投資 第4版」 ジェレミー・シーゲル(著)

 

何十年にもわたる資産運用において最も有利な投資とは何か、ということを考える本です。200年分のデータ分析から見えてきた、最高の投資方法とは。

 

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

長期の資産運用について考えたい人。難易度は初級者向け以上かと思います。

 

要約と注目ポイント

1802~2006年の米国市場のデータを分析した。

 

長期で利回りの高い資産運用は株式投資

利息や配当、値上がり益すべてを再投資した実質トータルリターンでは、株式投資が最も利回りが高かった。株式投資は200年間を通して、ほぼ一貫して約7%の利回りを記録した。

長期債の利回りは株式より大きく劣り、短期債の利回りはさらに低かった。金(ゴールド)や預金では、実質トータルリターンはほとんどなかった。特に第二次世界大戦以降は、債券や預金のリターンは低くなり、預金はマイナスのリターンだった。

債券は株式より安全と思われることが多いが、金利やインフレ率の影響を受けやすく、債券は長期では利回りが悪くなる。米国以外の国のデータでも、株式投資が最も利回りが高かった。

20年程度より長い期間で投資をするなら、株式の利回りが債券の利回りを上回る。これはどの時代の期間を見ても、ほぼ当てはまる。

たとえ株価がピークのときに投資を始めても、20~30年の期間があれば株式の利回りは債券より大きくなる。債券をポートフォリオに入れることで、リスクを低減できる可能性がある。

 

歴史的なデータを見ると、長期では株式投資が最も利回りが高く、有利な資産運用です。平均すると、年7%ほどの利回りでした。

 

投資の基礎知識

株価指数(ダウ平均、S&P500、ナスダックなど)や、その構成銘柄についての解説。

上場投資信託、株価指数先物、オプションについての解説。

ブラックマンデーの教訓。

 

資産運用の考え方

資産の運用利回りを最大化するために、税金について考えることは重要である。税制面で債券投資は株式投資より不利で、債券投資のリターンを低下させる。株式の値上がり益に対する税は、売却するまでかからないためである。

しかし値上がり益は購入時と売却時の価格差なので、インフレ率が高いと税が大きくなり利回り低下の原因となる。

 

株式投資はインフレに強いと言えます。ただ猛烈なインフレが来ると、値上がり幅が大きくなり、売却した場合の税金が重くなります。

 
株式の価値は、企業の利益と配当に基づく。一般に株式、債券、不動産など資産の価値は、将来受け取ることが期待できるすべてのキャッシュフローを現在価値に割り引いた価格である。株価は、将来の配当総額の現在価値と等しい。

企業の利益は、本業からの利益をコアとみなすべきである。従業員のストックオプションを費用計上し、年金費用を調整し、本業と無関係なキャピタルゲインやのれん代の減損は除外されるべきだ。

PERの逆数である株価益回りは、将来の実質利回りの参考にできる。

経済成長率の高い国や成長率の高い時代の株式市場は、逆に株式利回りは低かった。これは高い経済成長には設備投資が必要で、借り入れや増資が行われたためと考えられる。

今後は経済の安定性が増し株式のリスクプレミアムが下がるので、PERが過去の平均値15倍より高い状態が続くだろう。

先進国の高齢化は、資産の買い手を減らし株価の下落要因となる。それを防ぐために、新興国と資本市場が統合されるべきだ。

GDPや株式資本のシェアは、先進国から新興国へと移っていく。米国株式市場だけでなく、他の先進国や新興国にも分散投資すべきだ。

投資先の国やセクターを分散させることで、ポートフォリオ全体のリスクを軽減できる。

 

経済成長率が高くても、株式利回りで有利になるとは限らないようです。そうなると、多くの国に分散投資することは、安定的にリターンを高めることに貢献しそうです。

 
過去のデータは効率的市場仮説に完全には合致せず、市場にはノイズがある。

PERの低い割安株は、高い利回りを示した。PBRの低い割安株も、利回りは高くなった。また高配当な銘柄群は、最終的な投資利回りが高くなった。小型株には大型株より利回りが高くなる時期があった。

ただし常に平均を上回る戦略は存在しないことを、投資家は認識すべきである。

 

長期のインデックス運用で、広く分散投資することが、資産運用の正解です。ただし、市場には歪みがあることは、認識しておくべきでしょう。

 

インフレと景気循環

金本位制からの離脱や通貨切り下げ、金利引き下げなどの金融緩和政策は、株価とインフレ率を上昇させる。マネーサプライを増加させれば、インフレ率が上昇する。

インフレに対し、短期ではどのような金融資産でもインフレヘッジの効果は低いが、長期では株式がインフレヘッジに最も優れている。

株価は企業の利益に左右され、企業の利益は景気循環に影響される。しかし景気循環を正確につかむことは極めて困難である。

そのため投資家は、景況感を後追いして売買してはならない。市場が楽観的なときに高値で買い、悲観的なときに安値で売ることになるからだ。

経済指標の発表は、景気循環やインフレ率、企業利益の予想を変化させる。また中央銀行の政策に影響を与える。これらは株価に影響するが、投資家は短期的に反応するより長期的な投資戦略に専念した方がよい。

 

長期的な視点で投資することが、最後には良いパフォーマンスを残すと考えられます。

 

すぐれた投資とは

株価の動きがランダムではなく、チャートに意味があるという主張は疑わしい。しかしトレンド・フォローやモメンタム投資といった方法で、利回りを改善できる可能性はある。

過去のデータによれば、アノマリーは存在する。1月は小型株の利回りがよい、9月は利回りが悪い、クリスマスから新年にかけては利回りがよい、月の前半が後半より利回りが高くなる、など。

将来もアノマリーが維持されるかは不明であるが、アノマリーを利用できるなら利用するのもよいだろう。

不利な投資行動を避けるため、投資の心理学(行動ファイナンス)について認識しておくべきだ。

アクティブ運用ファンドが市場平均に勝つのは難しい。長期投資家は、時価総額加重インデックスファンドのようなパッシブ運用がよい。

今後はファンダメンタル加重平均のインデックスファンドなど、バリュー重視のパッシブ運用も期待される。

株価が大きく動いた日に、その原因が重大なニュースにあった事例は実はあまり多くない。株価の先行きを予測することはほとんど不可能である。

長期投資で成功するには、感情を制御し、長期的な目標と決定した投資戦略を維持することが重要だ。

 

200年という長い期間のデータで、株式市場を分析しています。個人投資家が長期で資産運用するのに、とても貴重な教訓となります。

 

書評

資産運用を俯瞰的に、大枠から考える本です。個別銘柄やら投信やらを選ぶ前に、まずどういう考え方で投資するかを決めることが大切ですが、本書はそういう方向に役立ちます。

過去200年のデータを分析することで、有利と推測される投資行動を考察しています。そういった意味で、本書は「敗者のゲーム」「ウォール街のランダム・ウォーカー」と同じような位置付けかと思われます。

なお本文中に、税制面で株式投資は債券投資より有利とありますが、これは完全に米国に関する記述です。日本の税金については自分で考えないといけません。

本書の内容は、過去のデータ分析をもとにした投資戦略本と似ています。まとめると普通です。

『超長期で見れば、株式投資が最も利回りがよい。ファンダメンタル面で割安な株を選び、パッシブ運用など分散投資をして、取引コストを節約して長期で保有せよ。経済や株価の予想はほとんど当たらないと考えるべきで、市場心理に巻き込まれないこと。決めた投資のルールを長期で守ること。』

すごく普通なまとめですが、本書は効率的市場仮説に基づくパッシブ運用至上主義ではありません。トレンド・フォローの有効性に言及したり、アノマリーを認めたりしています。

市場に関する解説を読んでも、同意できるところがあります。このように市場は反応したり動いたりするよな、と実際に取引している感覚に近い解説です。

本書の知識を土台に、パッシブ運用を基本に据えながら、自分に合った長期投資戦略を考えてみてはいかがでしょうか。
(書評2014/09/23)