「資産運用実践講座Ⅰ 投資理論と運用計画編」 山崎元(著)

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著者いわく、中級者のために書かれた本です。入門書では物足りない、資産運用を理詰めでしっかり勉強したいという人向けの本です。

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

 

対象読者層

正しい資産運用について勉強したい人。難易度は初級者から中級者あたりが適当です。

 

要約

本書は、投資の入門書では飽き足らない個人が、正しい理論を理解して、自分で資産運用を実践できるようになるための独習用テキストである。

 

資産運用計画作成の概略

①計画作成の前に、家計の状態を把握する。
②借金や年金の条件が現在どうなっているか、確認する。
③どれだけの損失まで許容できるかをつかみ、最大損失許容額を設定する。それに従い資産配分を決定する。
④決定した資産配分比率のそれぞれの資産に、どの金融商品をあてるか選ぶ。金融商品を選択したら、適切な窓口から購入する。
⑤年に1回程度、もしくは経済環境の急変時に、資産のリバランスなどのメンテナンスと運用計画の点検を行う。

 

資産運用計画の各論

投資計画をつくる前に、資産や借金、収入と支出など家計の状態を把握する。家計の状態を知るのに、簡易のバランスシートと損益計算書をつくってみる。
バランスシート:金融資産(時価)、実物資産(時価)、短期ローン、長期ローン、自己資本。
損益計算書:年間収入、年間支出。

短期ローン、長期ローン(住宅ローン)とも、すみやかに金融資産で返済するのが有利である。借金の返済は、リスクフリーで市場金利にスプレッドが乗った金利で運用しているのと同じである。

生活費の3カ月~2年分ぐらいを普通預金などで貯めてから、投資を始めるのが無難ではある。ただし個人の状況を考慮しつつ、少しずつリスク資産に投資するのも(勉強になるので)よい。

高齢者(年金生活者)の資産運用で注意すべきは、運用に失敗しても働いて損失分を埋めることが難しいことである。余命を長めにとって金融資産を取り崩す年数を決め、1年当たりの取り崩す額を概算する。以下のように計算する(すべて1年当たりの額。)
年金 + 取り崩し額 + (稼ぎ) - 生活費 = 余裕金
この余裕金から逆算して、とれるリスク資産の額が決まる。これは1年ごとに計算を仕直して調整する。なお、金利やインフレ率が大きく変化したら前提条件を変える。また資産家の高齢者は、よりリスクをとることが可能。

インカムゲインとキャピタルゲインは、区別して扱うべきではない。インカムゲインが高齢者に適しているという考えは誤り。

個人型の確定拠出年金に加入できるならば、税制上メリットが得られる。60歳まで引き出せないことに注意。運営管理機関と運用商品は、よく調べて適切なものを選ぶこと。運用する確定拠出年金は、資産運用全体のなかの一部として位置付ける。全体が最適化されるように資産を配分する。

資産の運用では、あらかじめ最悪の場合(最悪の損失額)を考えておくことが大切だ。期待リターンから2標準偏差を引いた額くらいを想定するのが普通(2.5%の確率で発生)。

資産配分を簡便にするには、リスク上限を決めて、その範囲内でリスクとリターンの組み合わせを選ぶのがよいだろう。リスク許容度が理解できるなら、最適化計算をする。資産配分は、リスクとリターンを同時に考えながら決める。先に運用の目標利回りを決めてはいけない。

簡易なアセットアロケーションの方法。
①1年間での許容損失額の上限を決める。
②リスク資産のリスクを、年率標準偏差X%と仮定する。
③マイナス2標準偏差を損失許容額の上限とし、とりうるリスク資産の割合を逆算する。
④リスク資産の期待収益率をY%、リスクフリーの期待収益率をZ%と仮定し、③の上限までの範囲内でリスク資産の割合を考える。
⑤上の④で決めたリスク資産を、さらに国内株式、外国株式、外国債券などに(機関投資家の運用計画を参考に)振り分ける。

運用パフォーマンスは、資産配分のやり方で9割程度決まる。資産分類内でどの程度アクティブリスクをとるかで、多少パフォーマンスは変化する。

資産ごとの期待リターンを決めるのは難しい。過去の平均値をそのまま使うのは、適当ではない。機関投資家の運用計画の数値は、参考にはなる。

アセットアロケーション全体のリスク、インプライドリターン、リスク拒否度、効用などの求め方。またこれらをもとにして、表計算ソフトでワークシートをつくり、最適化計算をする具体的手順の説明。

 

投資理論とマーケット

モダンポートフォリオ理論について。

ALMとは、資産と負債を一体としてリスク管理などを行う考え方。銀行や保険会社の経営、年金制度などにおいて重要となる。個人でも住宅ローンなどの借金を考えるときには、意味のある考え方。なお、個人が借りられるローンは、経済的にはきわめて不利な条件である。

生命保険は、加入者の人的資本の価値をヘッジする手段と考える。資産運用と生命保険は同時に考えるべきものであり、人的資本がこれらに与える影響は大きい。一般に人的資本が大きい方が、資産運用でとれるリスクは大きくなるし、生命保険の必要性も増すだろう。

行動ファイナンス、ギャンブル依存症について。

政府の株価対策について。年金や日銀などの株式買い入れ、政府保有株式の売却延期、空売り規制など需給面の対策は、短期的な効果にとどまる。法人税引き下げや配当への課税引き下げなどは、株式の理論価格を上げるので長期的な効果が期待できる。

・国家財政破綻などの話で脅かして対策を売る商売があるが、破綻シナリオの確率とその対策にかかるコストは冷静に考えるべきだ。危機が心配なら、国債消化における外国人の割合や経常収支、金利などの動向を日頃から見ておく。

中央銀行の金融政策について。

自社株買いや配当について。理論上は、株主の利益には中立的である。

企業買収、株式持ち合いについて。企業価値と時価総額について。

アノマリーについて。

 

実際の運用

長期投資では運用資産の価値の変動幅が大きくなるので、長期投資でリスクが小さくなるということはない。しかし、長期投資では期待値も大きくなるので、運用期間の長短はリスクに対して中立的となる。ただし長期の運用は取引コストを節約できるので、資産運用は長期で行うのが基本である。

・市場参加者が完全にリスクを認識していれば、ハイリスクのものはハイリターンとなるはずである。しかし、リスクが常に正確に知られているかは疑わしい。

ドルコスト平均法は、有利でも不利でもない。積立投資には向くが、ひとつの投資対象に資産が集中しやすい点はデメリットである。ナンピン買いも資産が集中するので、あまり勧められない。

株式投資において、売却目標株価(利食いや損切り)をあらかじめ決めておくのは誤りだ。値上がりや値下がりの理由を確認して、行動すべきである。

・複利効果は大きいが、運用商品の優劣はあくまで1年当たりの利回りによって決まる。若いうちに投資を始め、長期にわたり取引コストを節約することでパフォーマンスが向上する(=複利効果)と意識しよう。

資産がインフレやデフレに対抗できるかは、将来のキャッシュフローと割引率がどう変わるかによる。株式や不動産はインフレに強いと言われることが多いが、状況による。債券はインフレに不利で、デフレに有利である。短期預金はインフレにやや不利で、デフレにやや有利。借金は債券の逆になる。

金や商品への投資、不動産投資、オルタナティブ投資について。

変額年金保険、生命保険会社について。

金融商品取引法について。金融機関の担当者やアドバイザーとの付き合い方について。担当者やアドバイザーが、自身の利益に沿うような金融商品を勧める可能性があることを知っておくこと。運用計画を決めてから金融商品を選択するのが原則であり、その際は最も適切な金融商品を、コスト面や信頼性で最も適切な金融機関から購入するようにする。

 

書評

読み終わっての感想は、これで勉強したらもう十分だ、です。

投資で話題になるような事柄は、ほとんど網羅されているような感じです。資産運用を考えるときに、必要な内容はほぼ書かれているように思います。しかも内容はかなりレベルが高く、本書が理解できれば自分で資産運用ができるでしょう。

著者が中級者向けと述べているように、本書はなかなか手強いものでした。私は著者の山崎氏のコラムや著書をけっこう読んでいるので、本書の解説もだいたい予測がついて理解できました。山崎氏の本を初めて読む人は、難しく感じられそうです。

入門書をかなり読んでいて、自分で投資信託や株式のことを調べたことがあり、投資を理屈っぽくやりたいと思う人に適した本だと思われます。これより勉強したければ、もう専門書にいきましょう。本書は「資産運用実践講座Ⅱ 株式投資と金融商品編」と2冊組であり、(2冊目は未読ですが)これらを読み込んで理解し実践できるようになれば、一般人としては最強レベルの金融リテラシー保持者になりそうです。
(書評2014/10/12)

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