「ヘッジファンドⅠ・Ⅱ 投資家たちの野望と興亡」 セバスチャン・マラビー(著)

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巨額の資金を縦横無尽に動かすヘッジファンド。ヘッジファンドの誕生から現在までを知ることができ、金融や投資の勉強にもなる本です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

ヘッジファンドに興味がある人。
トレード手法を知りたい人。

 

要約と注目ポイント

第二次世界大戦後に生まれた、数々のヘッジファンドとその創業者たちの物語である。

A.W.ジョーンズ

ヘッジファンドというシステムの原型を、初めて創り出した。

個別銘柄と市場との相関性の計測、銘柄ごとのボラティリティ、ポートフォリオ全体でのリターン追及とリスク管理、ロングショート戦略、利益に比例するファンドマネジャーの報酬など、画期的な概念を独自に生み出した。

M.スタインハルト

通貨量の分析と金利予測に基づくトレード。そしてなにより、大口取引の仲介業者として立場を確立することで、(インサイダー情報を利用し)巨額の利益を稼いだ。

1994年にグリーンスパンが金利を引き上げたとき、債券にレバレッジをかけ過ぎていて大損害を喫した。

コモディティズ・コーポレーション

計量経済学によるファンダメンタル分析にとどまらず、トレンド追随モデルを採用することで、商品市場と為替市場で大成功した。

G.ソロス

フィードバックループという再帰性理論を掲げて、プラザ合意前後のドル売りで大成功する。そしてブラックマンデー。

J.ロバートソン

独創性はなかったが、株式投資で大いに能力を発揮した。また自身の人間的魅力により、多くの有能なマネジャーやアナリストを集めた。

P.T.ジョーンズ

心理的な駆け引きと、制度的なアノマリーを見抜く観察眼に優れていた。トレンドに乗るのがうまく、ブラックマンデーの暴落と日本のバブル崩壊というチャンスを、完全にものにした。

G.ソロスとS.ドラッケンミラー

ソロスに似たスタイルのドラッケンミラーは、ソロスの実質的な後継者となり、1990年代に大成功した。冷戦終結後のドイツマルク買い、ポンド売りに勝利した。

しかし1997年のアジア通貨危機の際、ソロスはポンド売りのように通貨を売れば利益が明らかにもかかわらず、逆に通貨を買い、損失を出した。これは投機家ではなく慈善家であろうとした、ソロスの二面性によるものかもしれない。

LTCM

金融工学を駆使するクオンツたちは、債券の裁定取引と収斂取引により大きな利益をあげた。

彼らは後年批判されるように、リスクを軽視していたわけではない。むしろ詳細にリスクを検討し、最大損失額を計算していた。

だがそれでもすべてのリスクは想定できず、ロシアのデフォルトを機にポジションは逆回転を始めた。レバレッジもかけ過ぎだった。

LTCM破綻後も、複雑になるばかりの金融取引に当局の規制は対応できず、危機は繰り返されることになる。

ドットコムバブル

有力なヘッジファンドはハイテク株がバブルであることを見抜いていたが、市場は熱狂していた。

ある者はハイテク株を空売りし、またある者は途中からトレンドに飛び乗り、あるいはハイテク株を無視しオールドエコノミーの株を買った。しかし異常な急騰と突然の暴落により、ヘッジファンドは軒並み大打撃を受けた。

D.スウェンセンとT.ステイヤー

ヘッジファンドは自身の利益を追求するために生まれてきたが、社会的影響も大きくなった。機関投資家がヘッジファンドに投資するようにもなった。イェール大学はヘッジファンドの手法により、78億ドルを得た。

J.シモンズとD.E.ショー

超一流の数学者たちが、数学的アプローチで市場のシグナルとアノマリーの発見に挑んだ。経済学やウォール街とは無縁の、暗号解読や機械翻訳、人工知能の研究経験を持つ科学者たちが、従来のヘッジファンドを打ち負かした。

K.グリフィン

社会的影響力が増したヘッジファンド業界では、すべての投資戦略を機動的に統合する、規模の大きなマルチ戦略ファンドが台頭した。

破綻した巨大なヘッジファンドを、別の巨大なヘッジファンドが救済できるほどに、ヘッジファンドは力をつけていた。ヘッジファンドは、市場の営みを円滑にするような働きを持つようになった。

サブプライムローン危機

サブプライムローン市場がバブルであることに、世界中の巨大銀行や投資銀行は気付いていなかったが、ヘッジファンドは気付いていた。

逆張りを得意とするジョン・ポールソンは、モーゲージ証券の空売りとサブプライム債の保険購入で150億ドルの利益をあげた。

しかしクレジット市場の危機は、ヘッジファンドを巻き込んだ。そのあとに訪れたリーマン・ショックにより、ヘッジファンドも苦境に陥った。

第二次世界大戦後、ヘッジファンドという組織を創ったA.W.ジョーンズから、サブプライムローン危機までを概観します。金融取引がどんどん複雑化し、巨大化していく様子が見てとれます。

 

書評

ヘッジファンドは悪評がつきまとうことが多いのですが、本書では中立か、やや好意的に描かれています。ヘッジファンドは忌み嫌われるが、実際は市場に流動性をもたらし、市場を安定させる、という立場で記述されています。

サブプライムローン危機も、大きすぎて潰せない巨大金融機関がリスクをとりすぎたことを指摘しています。

国民の税金で救済されることがわかっている巨大金融機関の幹部たちは、リスクをとればとるほど得になるのでした。

リスクをとれるだけとって成功すれば、巨額の報酬は自分たちのもの。失敗したら報酬を受け取って退職し、金融機関の損失は税金で埋め合わせます。

ところがヘッジファンドの経営者たちは、救済されないことがわかっているからこそ、リスクを徹底して管理しています。

成功すれば利益は自分のものですが、失敗したなら損失はすべて自分が被ります。サブプライムローン危機の前、かけるレバレッジは巨大金融機関で高く、ヘッジファンドの方が低かったそうです。

ヘッジファンドの幹部たちというと、理数系の博士出身で、投資銀行の業務を経験したあと転職し、人を人と思わず傲慢で、莫大な報酬を受け取り、富をひけらかすような派手な生活をするイメージがあります。

確かにそういう男たち(本書には男しか出てきません。ヘッジファンド創業者は偏執で攻撃的な傾向の人が多いので、性別も偏るのかもしれません。)が多く出てきます。この手の人々はあまり好きになれません。

ただそれとは少しずれた人たちも存在し、人間性に興味を持ちました。それにしても本当に無数の人々が、莫大な富を求め、考えつくありとあらゆる方法で市場に勝とうとしてきたことがわかります。

投資の方法論がどのように進化してきたかを知る読み物としても使えます。
(書評2014/10/19)

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