「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」 マイケル・ルイス(著)

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世界経済を崩壊の瀬戸際にまで追い込んだリーマンショック。しかし、その危機を事前に予測していた者たちがいました。常識に反し、巨大な金融機関に歯向かった人々のお話です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

サブプライムローン危機に興味がある人。
金融システムに関心がある人。

 

要約と注目ポイント

危機の芽

1990年代に、アメリカの下位中流層に利益をもたらすものとして、サブプライム金融は誕生した。(高利の住宅ローンやクレジットカードローンの負担を、より金利の低いモーゲージ債へと誘導する仕組みをつくった。)

しかしこの初期のサブプライム金融は、ずさんな融資と高い延滞率、次々に発生する債務不履行により、1990年代後半に破綻した。

2002年、大手消費者金融業者によるサブプライムローン詐欺が発生した。しかし当局は動かず、事件は示談で終結する。ウォール街が貧困層と下位中流層を食いものにする事態はより深刻になっていく。

2000年代に入るとすぐに、サブプライム金融は膨張を始めていた。前回破綻時よりはるかに巨額のモーゲージ債が、より焦げつきやすい不明瞭な形でつくられ(前回のサブプライムローンは固定金利だったが、今回のサブプライムローンは変動金利で、返済額が借り手にもわかっていなかった)、バラバラに切り刻まれ組み直されて、大手投資銀行によって投資家に売り捌かれた。

危機を察知した投資家

サブプライム金融の規模が急拡大する後を追って、サブプライム・モーゲージ債を対象としたCDS市場が成立した。もっともこれは、サブプライム金融の破綻を確信した投資家が、まだ危険を察知していない大手投資銀行を焚き付けてつくったものだった。

投資銀行が気前よくサブプライム・モーゲージ債のCDSを売る間に、サブプライム金融の破綻に賭けた投資家たちは大量にCDSを買った。2005年後半から、サブプライム・モーゲージ債は焦げつき始める。

債務不履行の確率が高いトリプルBのモーゲージ債でも、それらの断片を組み合わせる操作を経ると、トリプルAになった。格付け機関の評価モデルには欠陥があり、投資銀行のトレーダーにとって、その穴を突くのは容易だった。

サブプライム・モーゲージ債のCDSは、トリプルA格を持つAIGが引き取っていた。AIGは格安の利率で、これらのCDSを売っていた。

投資銀行は、CDSを量産してAIGに売らせ、逆にCDSを自ら保有するかサブプライム・モーゲージ債をショートしたい投資家に買わせれば、巨額の利益が発生することに気付いた。

住宅バブルは終わりの始まり

2006年に住宅価格は天井に達し、下落を始めた。サブプライム・モーゲージ債の危険性に気付く人が少しずつ増えてきたが、それでも大胆に市場の破滅に賭ける投資家はほとんどいなかった。

CDSは実質的に金融オプションだが、オプションの基本はブラック=ショールズ方程式にある。ところがブラック=ショールズのモデルには、長期のオプションの価格設定に難点があった。

長期の不合理なオプション価格を収益源としていた投資家も、サブプライム金融の崩壊直前に、サブプライム・モーゲージ債のCDSに接近してきた。

2007年1月になると、投資銀行がCDSの販売を渋るようになる。市場参加者が危険を感じ、徐々に逃げ始めていた。

サブプライム・モーゲージ債の闇の深さは不明だったが、投資家のショートの標的は、モーゲージ・オリジネーターと住宅建設会社、格付け機関、そして巨大投資銀行へと広がった。

バブル崩壊

経営者も把握していなかったが、大手投資銀行はサブプライム・モーゲージ債に裏付けされた巨額のCDOを保有していた。

2007年後半から、大手投資銀行は数十億ドル、数百億ドル規模の損失を次々に発生させ、連鎖的に沈んでいった。アメリカ、そして世界の金融システムを、崩壊の瀬戸際にまで追いやる事態に進展した。

その原因の芽は、どのような手段を用いても巨利を求め、利益はすべて自分のものとし、損失は社会という他者に押し付ける、ウォール街の行動規範にあった。

繰り返されるバブルの構図です。貸してはいけない人たちに、大量に融資をする。住宅市場や株式市場が高騰する。強欲な投資家が殺到し、リスク資産の価格がさらに上昇する。持続不可能な価格水準でバブルが破裂し、借金をした人や投資家が破産する。金融危機が発生する。人間は痛い記憶をすぐに忘れるので、定期的にバブルしてしまいます。

 

書評

サブプライムローン危機で大儲けした人と言えば、ジョン・ポールソン氏やデイビッド・アインホーン氏などが有名です。本書でもそういう人が出てくるのかと思っていたら、違いました。

名声を高めた彼らよりさらに早くサブプライム金融の破綻を予測した、よりアウトローで一匹狼の投資家たちが存在しました。本書では、無名ですが、金融エリートに先駆けて孤立無援な戦いを始めた人々を、一級のノンフィクションとして描いています。

まず驚いたのが、1990年代にすでにサブプライム金融が存在し、2000年代の失敗と同じ原因で破綻していたという事実です。1990年代後半に破綻するのですが、数年後に全く同じモデルで、はるかに巨額のモーゲージ債を再び売り始めます。結末はリーマン・ショックでした。

なぜそんなバカなことが起きるのかと思いますが、それはウォール街のビジネスの仕組みにあったわけです。

ウォール街の当事者にとって、リスクを取れるだけ取って取引をすると、成功した場合は莫大な成功報酬が得られます。失敗した場合は、損失を投資家に押し付けるだけです。ですから、成否がどうかを考えるよりは、リスクを極限まで取ることにインセンティブが働くことになります。

しかしその強欲のために損失が大きくなり過ぎ、危うく世界恐慌になりかけました。合理性に欠ける取引が行われていても、すぐには発覚しないことが被害を大きくしました。

これは意図的に隠蔽したためでもありますが、複雑すぎて当事者もリスクを認識していなかったこと、融資から債務不履行まで時間差があったことなども原因です。

サブプライムローン危機は100年に1度の危機と表現されましたが、表向き嵐は去ったように見えます。しかしまだ、その影響は残っています。恐慌回避のため、世界中の中央銀行が超金融緩和策をとっているので、金融市場が歪んできています。異常な低金利とディスインフレが常態化しつつあります。

市場に歪みが生じても、それが表面化するまでは、ほとんどの人は異常を感じません。サブプライムローン市場に尋常ではない(米国の巨大投資銀行をすべて消滅させたほどの)歪みが蓄積していても、発覚するまでは皆平然としていました。

本書を読んだ理由は、アベノミクスの最期のときに参考になることはないか、と思ったためです。GDP500兆円の国で、中央銀行が国債を200兆円買い、さらに毎年80兆円買い増していったら、最後はただでは済まないと感じます。とはいえ、とんでもないことになりそうですが、正直、何が起こるかはわかりません。

素直に考えれば、円安、株安、債券安です。しかし私が考えることは皆も考えるでしょうから、予想がつきません。日頃からの情報収集と準備が必要になりそうです。
(書評2014/12/30)

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