税制上とても有利なNISAの入門書です。特に投資をはじめた人におすすめなNISAですが、そのやさしい解説書です。なお、本書は2014年7月末時点のデータに基づきます。
おすすめ
★★★★★★★☆☆☆
対象読者層
NISAのことを知りたい人。難易度は入門書から初級者向けレベル。
要約
・2014年1月から、少額投資非課税制度(NISA)が始まった。年間100万円までなら、購入した株式や(公社債を除く)投資信託の、値上がり益・配当・分配金などが非課税になる。制度には複雑なところもあるので、本書ではわかりやすく解説と活用法を述べる。
NISAの解説
・年100万円まで(合計500万円まで)、
リスク商品への投資が(上場株式・外国上場株式・株式投資信託・外国籍株式投資信託・ETF・外国ETF・リートなど)、
5年間非課税(譲渡益・配当・分配金)になる。
・日本に住む満20歳以上なら、2014~2023年の10年は口座を開設できる。途中売却はできるが、売却額分の再利用はできない。
・預金・MMF・国債・公社債投資信託などは対象外だが、株式に投資できる設定の投資信託なら利用できる(バランス型投信など)。
・NISA口座は新規購入分が対象なので、いま保有している資産はNISA口座に移せない。またNISA口座の使い残した枠を、翌年に持ち越すこともできない。
・2014~2023年までの10回、それぞれ100万円まで投資できる枠がある。1つの枠は5年間非課税なので同時に保有できる枠は5つとなり、最大で500万円が非課税となる。
・5年間資産を保有し続けたあとは、以下の2通りの方法がある。
①新しいNISA口座に移管する。
このとき、新規にNISA口座をつくったときの値段が取得価格になる。100万円を超えた場合は超過分が課税口座に移る。移管時よりさらに値上がりしたときだけ、税金がかかる。
値上がり例
開始100万円→5年後120万円→NISA口座100万円と課税口座20万円になる
1)その後150万円に値上がり→差額の30万円に税金がかかる
2)その後105万円に値下がり→税金はかからない
値下がり例
開始100万円→5年後80万円→NISA口座80万円
②課税口座に移管する。
移管時より値上がりした分に税金がかかる。
値上がり例
開始100万円→5年後120万円→課税口座120万円
1)その後150万円に値上がり→差額の30万円に税金がかかる
2)その後105万円に値下がり→税金はかからない
値下がり例
開始100万円→5年後80万円→課税口座80万円
1)その後150万円に値上がり→差額の70万円に税金がかかる
2)その後90万円になる→差額の10万円に税金がかかる
3)その後50万円に値下がり→税金はかからない
・上の例のように、非課税期間が終わったときに値下がりしている場合は、NISA口座へ移管(ロールオーバー)した方がよい。
・複数年にわたり同じ商品を購入した場合(積み立て購入など)、通算して平均取得価格が表示されることが多い(金融機関で異なる)。
・金融機関は1年単位で変えられるが、ひとつの金融機関にまとめた方がよい。変える手続きが煩雑である、資産管理が面倒になる、NISA口座の資産を別の金融機関に移せない(ロールオーバーもできない)、などの問題がある。
・NISA口座の損失は、他の課税口座の利益と相殺できない。
・NISA口座の配当や分配金は、株式数比例配分方式でのみ非課税となる。
資産運用のやり方
①家庭で保有する、金融資産全体を把握する。
②資産配分を考える。株式、債券、不動産などの比率を決める(それぞれに日本や先進国、新興国といった対象がある)。
③投資をするのに有利な税制度がある。自分や家族が利用できる制度を探す。NISAのほか、個人型と企業型の確定拠出年金、国民年金基金、小規模企業共済などがある。確定拠出年金は、掛け金が所得控除となり節税できるし、運用中や受け取り時も優遇される(NISAにない利点)。
④年金やNISA、課税口座それぞれで、どのような資産に投資すれば有利か、最適な割り振りを検討する。
NISAの活用法
・非課税のメリットが最大になるように、期待リターンの高い資産をNISAに割り振るのが基本である。ただし最長5年という制約があるうえ、制度は流動的なので、柔軟に対応する必要がある。
・初めて投資をするような人は、NISAでリスクの低い商品を少額から買っていくのがよいだろう。
低リスク・低コストで、購入しやすい投資信託の例
バランス型:eMAXISバランス<8資産均等型>、SBI資産設計オープン<資産成長型>、世界経済インデックスファンド
日本債券:SMT国内債券インデックス・オープン、eMAXIS国内債券インデックス
外国債券:SMTグローバル債券インデックス・オープン、インデックスファンド海外債券(ヘッジあり)1年決算型
・投資経験者は、自身の目的に合わせて活用する。
①ハイリスク・ハイリターンを狙い、5年以内に利益を確定させる。
②現在のポートフォリオで足りない資産を購入する。
③現在のポートフォリオの一部を充てる(積立投資の一部、債券ファンドの一部など)。
・5年後の出口を考えてから始める。
①100万円未満の少額積み立てなら、5年後にNISA口座へのロールオーバーでよい。
②購入時より値下がりしていたら、ロールオーバーする。
③値上がりしたら、5年後を待たずに売却したり課税口座に移すのも手である。(途中で課税口座に移せるかは、金融機関によって異なる。)
金融機関の選び方、口座開設から取引まで
・口座開設前に、金融機関ごとに次の点を調べて比較する。
①NISA対象になる商品。
②手数料の体系。
③サービス内容。
④利便性。
現状では、特にSBI証券と楽天証券が優れている。
・口座開設の流れ。
①金融機関にNISA口座開設の資料請求。
②申請書兼届出書と、住民票の写しを金融機関へ送る。
③金融機関が税務署に申請し、税務署が重複申請を確認する。
④金融機関から口座開設完了の通知がある。
・NISA口座変更の流れ。
①NISA口座を開設している金融機関に届出書を提出。
②金融機関が税務署に連絡。
③金融機関から通知書が届く。
④新たにNISA口座を開設する金融機関に、届出書を送る。
⑤金融機関が税務署に申請し、税務署が重複申請を確認する。
⑥金融機関から口座開設完了の通知がある。
・取引の注意点。
①商品を購入するときは、NISA口座を指定する。
②譲渡益や投資信託の分配金は、確定申告の必要なし。
③株式の配当金やETFの分配金は、株式数比例配分方式で受け取ること。
書評
これで竹川氏の本を読むのは3~4冊目ですが、やはりわかりやすいです。簡潔に重要なポイントを説明している印象です。おかげでだいたいNISAのことは理解できましたが、面倒だという感覚はあまり変わりませんでした。有利であることは確かなので、やってみようかとも思いますが、使いどころは考える必要があります。
一度売却すると再利用できない、損益の通算ができないなどは、実際やりにくいです。NISAで買って大きく値下がりしたあと、課税口座に移って少し値を戻すと税金がかかるというのは、やりきれません。100万円で買って50万円に下がり、そのあと70万で売ったら20万円分課税されたなんてことが現実に起きたら、相当腹が立つと思います。
NISAの非課税メリットを最大限に活かすため、長期で値上がり幅が大きくなることを期待して、株式インデックス投信を買うのが基本かと思われます。個別銘柄に投資し、もっと大きな上昇に賭けるのもいいでしょう。ただし5年後にぴったり最高値になるわけではないので、それなりに利益が出たら途中で割り切って売ってしまうのもひとつの方法です。
それにしても投資の制度はよく変更があるので、常に情報を更新しておかなければいけません。本書は2014年7月での制度をもとに書かれていますが、そのあとNISAを年120万円までにするだの、贈与で子供向けにするだの言い出しています。確定拠出年金も、公務員や主婦も加入を認めるとか、70歳まで掛け金をかけられるなどの話が出てきました。
口座開設や変更の流れも本書で知りましたが、なぜこれほど煩雑なのか。制度を細かく変更し、例外を年々増やしていきます。官僚機構というのは、放っておくとどんどん仕事を増やして肥大化するのだと、つくづく思います。
国民の資産が預金に偏っているので、投資に振り向け経済成長に貢献させる。国家に国民の老後をみる余裕がなくなったので、老後は自己責任でやってもらう。政権を維持するため、株価を釣り上げる。そんなような狙いがあるのだと思いますが、国民に投資をさせる政策が多くなっています。
本書はNISAの基本が学べるとともに、資産運用の考え方も説明されているので、投資を始める人に有用な一冊です。資産運用、投資信託、確定拠出年金など各分野の入門書も紹介されており、この本から発展して勉強できます。自衛のために、お金のリテラシーが必要な時代のようです。本書も役立つはずです。
(書評2015/01/11)