「投資一般」カテゴリーアーカイブ

「インフレ貧乏にならないための資産防衛術」 村上尚己(著)

 

アベノミクスによりデフレがインフレに転換したあとの、資産運用方法について論じた本です。本当にインフレになったら、参考になるかもしれません。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

インフレになったときの資産運用を考えたい人。
難易度は、新聞の経済面を読んでいる人ならスラスラ読めるレベル?

 

要約と注目ポイント

本書は、アベノミクスの成功によりインフレ時代が到来したとき、一般投資家はどのように資産運用すればよいか論じている。20年に及ぶデフレ環境に慣れた日本人に、インフレ時代の資産防衛や運用の基本的な考え方を提示する。

アベノミクス

アベノミクスは正しい金融政策であり、停滞していた日本経済は好転した。

民主党政権はデフレを自然現象のように考えていた。しかし安倍政権の金融緩和政策により、円安と株高が進んだ。

安倍政権下、脱デフレを掲げる黒田総裁・岩田副総裁の日銀人事が決定される。安倍政権は、脱デフレにおける日銀の重要性を正しく認識していた。

アベノミクスによりマーケットに劇的な変化(大幅な円安と株高)が起きた。これが示すのは、個人投資家は金融政策や経済政策を理解することが重要だということである。

アベノミクスが成功すればデフレから脱却し、日本経済の状況は大きく変化する。

アベノミクス批判への反論

以下の典型的なアベノミクス批判は、いずれも的外れである。

①インフレは危険。
⇒デフレ下で豊かに生活できる環境の人たち、あるいはデフレに適応した意識を持つメディアの意見に過ぎない。

②インフレで生活が苦しくなる。
⇒一般物価水準と個別価格を混同している。生活必需品より、サービス価格や賃金の上昇は遅れる。

③資産バブルや投機を生む。
⇒金融緩和政策は、どの国でも行われている経済安定化の政策である。

インフレの実現

日本は供給が需要を上回るデフレの状態にあった。中央銀行がマネーの量を増やせば、物価と賃金が上がり、インフレ期待が生まれる。

インフレ期待が生まれると、企業は投資をし家計は消費活動をするので、インフレは実現する。インフレが実現すれば総需要が底上げされ、失業などの問題が解消し、日本経済は回復する。

2013年5~6月の株価の乱高下は、日本経済の状況が大きく変わるときに、投資家の期待が揺れ動いたために起きた調整に過ぎない。

著者は時々メディアにも寄稿していますが、完全無欠のリフレ派という印象です。

今後のアベノミクス

アベノミクスには、3本の矢の政策が正しく行われていないという危うさもある。

最も重要なのが第1の矢(金融政策)である。

第2の矢(財政政策)は、脱デフレのサポートに徹するべきだ。非効率的な公共投資よりは、民間にお金が渡り総需要を上げる減税などが行われるべきだった。消費税増税は悪影響がある。

第3の矢(成長戦略)は総供給を増やす政策なので、脱デフレが達成された後に効果が出る。規制緩和が第3の矢にあたる。

デフレ脱却で日本の問題は解決する

脱デフレが達成されれば、日本の問題は解決へ向かう。

デフレから脱すれば、税収が増加して財政問題は改善する。金利が上昇すれば政府の国債利払い負担も増えるが、名目金利が上昇するときは経済成長率やインフレ率も高まっていて、税収も増えるので問題ない。

また、中央銀行が名目金利を抑えることも可能である。インフレ率が高まれば失業率が低下する。若年層の失業率が低下し、非正規雇用の比率も下がり、若年層の所得が改善して出生率が上昇する。

金融政策の力は無限大という感じです。

2014~15年の日本経済見通し

当面は、日本の株価はアメリカの株価と連動する。

2014年度の日本の実質GDP成長率は消費税増税のため1%程度まで低迷するが、2014年後半はアメリカをはじめとする先進国経済が回復し、日本経済を下支えする。

輸出と企業の設備投資が増加すると予測される。個人消費と企業の設備投資が拡大し、インフレ期待が広がるという好循環が実現する。日銀は追加の金融緩和もできる。

2015年には日経平均株価は2万円に近づく。2014年にアメリカは、実質GDP成長率が3%程度でインフレ率が2%程度となるだろう。アメリカが先に政策金利を引き上げるので、1ドル110円台まで円安が進み、さらに脱デフレは推進される。

日本経済が安定成長し、インフレ目標が実現するので、2014年末には長期金利は1%台半ばまで上昇する。2016年までには、長期金利は2%の大台を超える可能性がある。

インフレ対策を考えた資産運用

デフレでは預貯金が合理的だったが、インフレ転換後にはデフレ時代の資産運用は機能しない。

脱デフレで日本経済が安定成長するようになれば、資産運用の中核は日本株となる。また円高が終焉することで、外貨建て金融資産もリスクに見合った本来のリターンが期待できる。

脱デフレで為替と株価の連動性が低下すると考えられるので、長期分散投資が機能する。日本株と日本債券、外国株と外国債券という4大資産を基本とする。これらのインデックス型投資信託などで、長期分散投資することが有効となる。

インフレは不動産ブームとは別の現象なので、住宅購入はあくまでも物件や個人の事情を慎重に考慮して決めるべき。

脱デフレと経済正常化が達成すれば、社会保障制度改革が次の政策課題となる。高齢化の進展に伴い、税と社会保険料の負担が大きくなるだろう。インフレ時代に対応した資産運用が必要となる。

資産運用は、日本と海外のリスク資産に分散投資しよう、という結論です。

 

書評

次期日銀総裁に望ましいのは誰かという市場関係者アンケートで、著者の村上氏は岩田規久男氏(当時は大学教授で現副総裁)と回答したと本文中にあります。

岩田氏をあげたのは村上氏ひとりだけだったそうで、村上氏はバリバリのリフレ派だなと思いましたが、実際に本書も金融緩和強化を是とするリフレ派な内容です。

以前に岩田氏の著作を一冊だけ読んだことがありますが、自身の主張に自信満々でした。村上氏も、本書の中で自説に絶対の自信を見せています。

というか、自分の分析や予測が外れる未来を全く想像していないかのようです。よくわかりませんが、あまりに自信に満ちあふれている様子を見ると、それはそれで大丈夫かとこちら側は不安になります。

本書はリフレ派の人が考える正しい資産運用の解説書です。安倍政権はリフレ派の考え方で行動しているので、個人投資家が対策を考えるのには、それなりに参考になるかなと思います。

各章のはじめに要点がまとめてあるのはわかりやすく、親切設定です。
(書評2014/07/25)

「投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識」 ハワード・マークス(著)

 

バフェットも推薦するこの本は、市場で生き残るための必携の1冊です。著者はオークツリー・キャピタル・マネジメントの会長で、大成功した投資家です。

 

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

 

対象読者層

市場に勝ちたい人。投資哲学を考えたい人。

 

要約と注目ポイント

投資を成功させるには、数多くの「一番大切なこと」に、同時に思慮深く注意を向ける必要がある。

本書はハウツー本ではなく、投資哲学の本である。投資は複雑である。本書では、投資家が適切な判断をして、重大な失敗を避けるための思考方法について論じる。

価値のある教訓は、厳しい時期に得られる。私はいくつもの異常事態に見舞われながら投資キャリアを重ね、実効性のある投資哲学を築いてきた。

 

投資に勝つための思考

平均的なパフォーマンスならば、インデックスファンドを買えば誰でも達成できる。市場平均に勝つことを成功と定義すれば、成功には幸運かすぐれた洞察力が必要である。

投資はアートの要素が強く、成功させる普遍的な法則などない。

鋭敏な思考(二次的思考)が必要で、他の投資家より正確に見極め、他の投資家とは違う思考方法をとらねばならない。

投資で成功するには、コンセンサスとは異なる正しい予測をしなければならない。しかし、コンセンサスと異なる予想をすること、それが正しいこと、その予想に基づいて行動することはとても難しい。

 

誰にでもできる、底の浅い単純な思考が一次的思考です。奥が深く、複雑で入り組んでいるのが二次的思考です。

 

「減益だから売ろう」というのが一次的思考で、「減益だがコンセンサスよりは減益幅が小さくなると予想され、決算発表後に株価が上昇するだろうから買いだ」というのが二次的思考になります。

本質的価値を見抜く

社会的にオープンで広く情報が公開され、多くの(優秀な)人が参加する市場は、効率的市場仮説に近い。

非効率的な市場の特徴として、情報やその分析にばらつきがあり価格が本質的価値から離れ、投資家の勝ち負けが分かれている。

また、資産のリスク調整後リターンが、他の資産のリスク調整後リターンと釣り合わない事態が起きている。

本質的価値を正しく推計することが不可欠である。投資の原則は、本質的価値より安く買い、本質的価値より高く売ることだ。

 

市場は完全に効率的でも非効率的でもなく、その間にあります。間違った価格が付けられることがありますが、それを利用して市場に勝つには、すぐれた洞察力が必要です。

 

バリュー投資で勝つ

テクニカル分析のみで投資をすることに、有効性は認められない。そのため、ファンダメンタルズに基づく2つのアプローチ、バリュー投資とグロース投資を検討する。

バリュー投資は、現在の本質的価値が現在の株価より高ければ(本質的価値が将来ほとんど増大しなくても)買う。

グロース投資は、将来的に十分な利益をあげるほど本質的価値が増大するならば(現在の本質的価値が現在の株価より低くても)買う。

一般にグロース投資は成功しにくいがリターンは大きく、バリュー投資は安定的だがリターンは小さい。本書ではバリュー投資を扱う。

 

バリュー投資で成功するには、本質的価値を正しく見ることと、本質的価値の見解を我慢強く保持することが求められます。

 

バリュー投資では、割安の資産を買っても、すぐに利益が出るわけではありません。

投資家心理を読む

本質的価値を正しく推計できるようになったとしたら、その資産の価格にも注意しなければならない。妥当(割安)な価格で買わなければならない。

価格は(特に短期的には)心理とテクニカル要因(需給要因など)に左右される。投資をしたい人がこの先増えるのか減るのか、投資家心理を知ることは重要だ。

 

最も危険なのは人気の絶頂にある資産を買うことで、最も安全で収益性が高いのは人気のない資産を買うことです。

 

リスクとは資金を失う可能性だ

未来はわからないため、投資ではリスクを理解し、認識し、コントロールしなければならない。投資を検討するときは、許容できるリスクを考え、潜在的なリターンと付属するリスクを考慮する。

投資成績を評価するときも、リターンのほか付属していたリスクを評価しなければならない。相場の上昇時には、リターンを高くするにはリスクを高くすればよいように感じるが、それは誤りである。

高リスク資産は不確実性が高く損失の可能性があり、高い期待リターンが本来は提示されるべきものである。

リスクはボラティリティで定義されるが、リスクとは資金を失う可能性と考えるのがよい。

損失リスクは脆弱なファンダメンタルズや悪いマクロ環境のためではなく、たいていは楽観的過ぎる心理と行き過ぎた価格から生じる。

 

本質的価値を大幅に下回る価格で買えば低リスク高リターンが期待でき、高すぎる価格で買えば高リスク低リターンとなります。

 

リスクに対処するには、本質的価値の安定性と信頼性、価格と本質的価値の関係性をもとに判断することが大切です。

リスクとリターン

投資家が過度に楽観的で、資産を高すぎる価格で買っていたと気付くところから、たいていリスクが認識され始める。

高リスクと低い期待リターンは表裏一体であり、追加的なリターンを得るためにはリスクプレミアムを要求すべきなのだ。「リスクがなくなった」という神話が、特に危険なリスクの根源となりうる。

リターンとリスクの関係では、無リスク資産の金利に、リスクに応じてリスクプレミアムが上乗せされる。

安全性が高い資産の期待リターンが低い、高リスクの資産のパフォーマンスがこのところ良い、大量の資金が流入している、融資基準が緩い、といった状況ではリスクプレミアムが低下する。

投資家がリスクを忘れ買いを集中させた資産は、期待リターンが低下しリスクが高くなる。誰もが不安を感じ買いたがらない資産は、リスクプレミアムが拡大しリスクは低くなる。

どんな価格で買うかが問題なのだ。

 

すぐれた投資家は、利益を得るためにきちんと理解したうえで、リスクをとっています。獲得するリターンに相応する水準よりも低いリスクをとるのが、すぐれた投資家です。

 

リスクは目に見えないため、悪い出来事が起きた時にはじめて、リスクコントロールがなされていたかわかるのです。

市場のサイクルを認識せよ

ほとんどの物事にはサイクルがある。多くの人がサイクルはなくなったと思い込んだときに、大きな利益や損失が生まれる機会が発生する。

人間に感情があることが、サイクルが存在する要因のひとつである。信用サイクルが典型的である。

好景気が訪れ、金融機関が融資を拡大し、投資に付随するリスクが低下したように見え、リスク回避志向が消える。

金融機関はシェア競争のため要求リターンを引き下げ、資本コストが資本収益率を上回る投資が行われ、資金が回収できなくなる。

サイクルは下降局面へ反転し、貸し手は融資をしなくなり、企業は資本不足に陥り、デフォルトや倒産が起きる。

景気後退を招き、ますますリスク回避志向となるが、行き過ぎたところでサイクルは再び反転する。

証券市場における地合いの動きは、振り子の振動に似ている。

振り子の軌道の中心点は平均的な位置だが、振り子がその位置に留まるのは一瞬である。振り子は軌道の一端から一端へと動き、一端に近づけばいずれ必ず中心点に向かい反転する。

強欲と恐怖のサイクルは、投資家のリスクに対する姿勢の変化によって起きる。

投資家のリスク許容度が高ければ、価格はリターンに見合うより大きなリスクを含んでいる可能性がある。投資家がリスク回避的だと、リスクに見合うより大きなリターンが得られる可能性がある。

 

相場が好調で価格が高騰すれば投資家は買いに殺到し、市場が混乱すると投資家は完全にリスク回避的になり売りに殺到します。

 

過ちを招く心理的要因

過ちを招く心理とは、強欲、恐怖、自己欺瞞、同調圧力、嫉妬、うぬぼれ、降伏である。

過ちを招く心理に対抗するためには、本質的価値を強く意識すること。そして過去のサイクルの教訓を思い出し、心理的要因が悪影響を及ぼすことを理解すること。

皆が楽観的過ぎるときは悲観的になり、皆が悲観的過ぎるときは楽観的になるという、懐疑的な目を持つこと。

 

多くの投資家が市場サイクルに押し流されたときは、反対の行動、逆張りが有効です。

 

ただし、価格が本質的価値から大きく乖離していることを察知する能力と、群衆に逆らう強固な意志が必要となります。

さらに、逆張りにふさわしい行き過ぎた相場はめったになく、行き過ぎた相場が何年も続くこともあります。

賢明なポートフォリオ

賢明なポートフォリオは、収益性が高い資産を買い、それを買うために収益性の劣る資産を売り、最も収益性の低い資産を避けることで構築される。

投資先候補から、リスクに対し特に潜在リターンが高いもの、特に割安感が強いものを探し出す。このような掘り出し物は、たいてい何らかの欠陥があり不人気な資産である。

人々が理解不足で、不適切とみなし、リターンが低迷し続けており、悪い印象を持っている資産に掘り出し物がある。

良いチャンスは常にあるわけではない。掘り出し物が出てくるのを我慢強く待つことが、最良の戦略である場合もある。

予想リターンがきわめて低い環境下で、リターンを追及するのは危険である。

 

危機時に投げ売りされた資産を買うことが、最高の投資になります。

 

投資家は守りを忘れるな

将来を正しく継続的に予測することは不可能だ。市場サイクルの期間やタイミングを予測することもできない。

しかし、できるだけ現在のサイクルや振り子の位置を見極めようとし、起こりそうな事態に備えるべきである。サイクルの頂点や谷底に達するときに備え、そのとき間違った群衆と行動をともにしないこと。

投資家は市場のランダム性を認識しなければならない。投資家は、儲けと損失回避の間でバランスをどうとるか、決めなければならない。投資は複雑なので、守りの要素が重要である。

守りでは、正しい行動をとるよりも、間違った行動をとらないことに重点を置く。

守りには2つの原則がある。

1つは損失を出す資産をポートフォリオに入れないことだ。これは調査、投資基準、低価格と安全域、楽観的な予想の排除によりなされる。

もう1つは暴落による市場崩壊のリスクがある時期を避けることである。

損失をもたらす過ちは、分析や知識の問題と、心理や感情の問題から起きる。投資は未来に対処することだが、想像力を欠くことも過ちとなる。

 

資金が過剰に供給されると、人々はリスクを軽視し、リスクが大きくなります。市場が熱狂すると、従来のモデルが通用しなくなることがあります。

 

そして、危機時には資産間の相関性が高まり、分散投資の効果が下がってしまいます。

レバレッジをかけず、サイクルを意識することが大切です。長期のパフォーマンスが良いことこそ、すぐれた投資家の証です。

書評

何らかの具体的な投資手法を教える本ではありません。長年にわたり成功してきた投資家が、投資行動の基本原則について考察した本です。

「敗者のゲーム」のような、味わい深い系の本でして、これを読んだからすぐに何かがどうにかなるということはありません。常に市場のことを考えていると、どうしても目先の損益が気になりだすのですが、やはりそういうやり方だと大成功はありえません。

まとめた要約を読み返すと、そんなことは当たり前だ、となります。でも、実行できないんだな、これが。要約だけでなく本文を読むと、大事なことが書かれているなとしみじみします。

再読して印象深かったのは、リスクがないと思って投資家が集まりある資産を買うと、リスクが高くなるという指摘です。リスクがなくリターンが簡単に得られると考え買うことで、期待リターンが小さくなり、リスクプレミアムが薄くなって、逆に損失の可能性が大きくなるのです。

資産の質が高いから安全と考えるのは誤りで、本質的価値から安い価格で買うことが安全なのだ、という指摘も教訓になります。優良資産も高すぎる価格で買えば危険です。これも覚えておこう。
(書評2014/07/18)

「臆病者のための億万長者入門」 橘玲(著)

 

橘玲氏は文春新書で「臆病者の~」という著書を何冊か書かれています。タイトル的にも、本書は投資戦略の入門書という位置づけになると思います。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

投資、というか将来の人生設計(経済面)について考え始めた人。難易度は入門書と初級者向けの間ぐらいか。

 

要約

・金融(株式投資)は確率のゲームである。資産運用とは目先の金儲けではなく、人生における経済的リスクを管理することである。

お金持ちになるには、次の3つの方法の組み合わせしかない。
①収入を増やす。
②支出を減らす。
③資産を上手に運用する。

資産運用は部分でなく全体で考えること。
総資本 = 人的資本 + 金融資本
金融資本 = 金融資産 + 不動産 + 年金資産 + 相続資産など
労働者としてのスキルを高めたり、定年後も勤めて働く期間を延ばすことで、人的資本は大きくなる。金融資本は総合的に最適な形で運用する。最適な運用とは、各資産のバランスをとり、リスクは最小化しリターンを最大化し、かかるコストを最低にすることである。

金融商品は心理的な錯覚にだまされないよう、確率的に考えること。
生命保険は、最もコストが安く必要最低限なものを、必要な期間だけ契約する。医療保険は、公的健康保険制度で補えず不安があるときだけ利用する(勤労者が長期入院したときの所得保障ぐらいしか想定できない)。

資産運用で最も大切なのは、だまされないこと。
絶対に儲かる話はない。他人が自分のお金のことを真剣に考えてくれることはない。誰かが助けてくれることはない。自分で守ること。

株価は、将来の一株あたりの利益の総額を、現在価値に換算したものである。
株式投資の益回り = 長期金利 + リスクプレミアム
市場全体の株価が長期的に見て高いか安いかは、PERから大まかに判断できる。

・株式市場は複雑系の世界なので、将来予測はできない。アクティブファンドよりインデックスファンドが優位である。世界経済はずっと成長してきたが、2000年代以降、経済成長が鈍化した可能性がある(株価の上昇率が低い)。以上より個人の投資戦略をまとめると、市場が暴落するのを待って、分散投資(世界株式インデックスファンドなど)で株価が回復するまでドルコスト平均法で買い続けろ

外貨の為替リスクは中立的である。
購買力平価説によれば、インフレなら通貨は下落しデフレなら通貨は上昇する。金利平衡説によれば、高金利の通貨は下落し低金利の通貨は上昇する。長期的に見れば、通貨に有利不利はない。(中期的には金利が上がれば通貨は上がるので、歪みが生じることもある。)国内の資産にこだわらず、海外に分散投資すべきだ。

・市場が十分に効率的ならば、マイホームは所有でも賃貸でも損得は変わらない。マイホームを借金して買うことは、レバレッジをかけて不動産投資をすることだと自覚すること。日本は将来的には空き家が増えることを認識すべき。不動産市場には情報の非対称性があり、インサイダーマーケットに近いので素人は損をする。(株式市場はオープンマーケットに近い。)

将来はほとんど予測できないが、人口構成と年金財政は予測しやすい。国民年金は自発的に納付することと、収支が明らかなので比較的有利な金融商品である。国民年金のツケは厚生年金が払っている。(厚生年金は強制加入で、保険料率は上がり、利回りは実質マイナス。)

・日本は社会保障費と国債の費用で歳出の5割を占めるが、その利益を享受しているのも国民である。国民が既得権益を手放すような画期的な政策はとれないので、増税と社会保障水準の切り下げが徐々に進むだろう

・アベノミクスは、実質金利をマイナスにしようという政策である。マイルドなインフレをめざす金融政策の結末は、どうなるかわからない。急激なインフレと円安が起こる可能性はないわけではない。個人でリスクをヘッジすることを考えておくべきだ。

現在の日本人は、資産を分散できていない。マイホームという不動産にほとんど集中投資している。また、資産はほぼ円に限られている。日本で働き、円で給与を受け取る以上、人的資本も円で換算される。

アベノミクスが失敗したときのリスクヘッジ。
①お金は普通預金で運用する。
②金利が上昇し円安が進みだしたら、運用を普通預金から変更する。
国債ベアファンドを買う。外貨預金にする。物価連動国債を買う。
「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」に詳細がある。)

 

書評

人生において経済的に困窮しないように金融リテラシーを身につけよう、というのが本書の趣旨です。難易度はやさしめですが、用語の説明などはありません。資産運用を考え始めた人が、基本的な入門書を何冊か読んだ後に読むとよいでしょう。若干変化球的な内容です。

私にとっては聞いたことがある話が多かったので、橘玲氏の過去の著作やコラムを読んでいる人には本書は必要ないかと思います。今までの総まとめのような本です。新規に加わっているのは、世界経済がこれから長期に停滞した場合の対策ぐらいです。
(書評2014/06/25)

「確率・統計でわかる「金融リスク」のからくり 「想定外の損失」をどう避けるか」 吉本佳生(著)

 

本書では、株式や為替での損失について確率論的に考えます。デイトレードのような短期取引も、長期保有の投資も扱います。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

投資の損失を限定させたい人、金融商品のリスクを知りたい人。難易度は初級者向け以上。高校数学程度の確率を習っていれば、なお良いかと思います。

 

要約

・本書では、漠然としか認識されていない金融商品の危険性を、確率・統計を根拠に具体的な数字として捉える。金融機関は確率に基づくリスク把握ツールを用いているが、個人投資家も確率思考で大まかにリスクをとらえておくべき

変化率の標準偏差がボラティリティである。ボラティリティの大きさは、損失や利益の大きさを示す。

二項モデルの説明。世の中にはいろいろな行動パターンの人がいて、そのような場合、確率分布はベルの形に近づく。

ボラティリティから想定しておくべき下落率がわかる。投資期間が長くなればボラティリティも高まり、損失は大きくなる可能性がある。(塩漬けは危険。)

・オプション価格は、将来のボラティリティについての予想を表す。実際には、金融の専門家でも過去の変動に反応して将来を予想している(インプライドボラティリティはヒストリカルボラティリティの変化に反応している)。

・リスク指標にはボラティリティだけでなく、元本損失の確率などもある。

リスクは予想される損益のバラツキ(標準偏差)、リターンは予想される損益の確率的な平均(期待値)である。リスクとリターンを確率から考えることが重要。(ハイリスク・ハイリターンという表現は確率を考慮しない誤用が多い。)

・個人投資家はインフレに負けない、手数料・コスト・税の低い金融商品を選び、実質のリターンが得られるように考えるべき。

仕組債や仕組預金の説明(オプション取引の説明)。オプションを売却してもリターンは高まらないが、これらの金融商品は販売する金融機関が利益の一部を抜いているので、マイナスリターンとなる。

ボラティリティは、データ収集の期間、価格変化率をみる期間、基準の単位をとる期間をそれぞれどう設定するかで変わる。中長期で資産運用するなら、変化率は長い期間(年次変化率)もみるべき。

・バブルの発生と崩壊があれば、ボラティリティは日次変化率より年次変化率が高くなる。平均回帰の性質があれば、ボラティリティは年次変化率より日次変化率が高くなる。

想定最大損失VaRの説明。投資期間が長いほど、想定最大損失でみたリスクは高くなる。

実際の金融リスクは、正規分布(対数正規分布)よりテールが厚くなる。また暴落時にボラティリティが高まると、リスク管理を徹底することでさらにボラティリティが高まる。

金融商品のリスク計算では、モンテカルロ法とヒストリカル法が使われる。モンテカルロ法では、確率分布の形、平均(リターン)、標準偏差(ボラティリティ)の設定により結果が決まる。ヒストリカル法では、過去のデータを開始期間をずらしながら集めていく。

金融の世界では、複利が基本である(金利や配当だけでなく株価の変動でも)。対数正規分布では、当初の株価を運用後の株価が下回る投資家が多数となる。

簡易な中長期の金融リスクのシミュレーション(株式投資の場合、早期償還条項やノックイン条項がある場合)。プットオプションの売却を組み込み早期償還条項がついているデリバティブ商品では、メリットは最初の早期償還判定がある時点までの金利に限定される。

早期償還条項とノックイン条項が両方ついている場合、早期償還条項の方がより重要である。

・金融機関が巨額の損失を発生させた事例(リーマンショックや欧州債務危機)は、リスクの過小評価が根本の原因である。

 

書評

儲かる方法ではなく、あくまでも確率・統計的に投資を考える本です。特にどこまで損失を想定しなければいけないか、ということを考えています。投資やトレードの本では、損失を限定させることを絶対必要なルールと強調することが多いですが、なかなかできないことです。本書のように、投資を始める前から確率的に損失を想定しておくのは大切でしょう。

投資期間が長ければボラティリティが大きくなるので、損失も拡大する可能性があると繰り返し解説してあります。長期投資でリスクを抑えられると解説する投資本は多いですが、それは間違いのようです。山崎元氏も指摘しています(楽天証券でのレポート)。ファイナンシャルプランナーや金融機関出身の人が書く、よくある解説本とは異なる視点で本書は書かれているので役に立ちます。
(書評2014/06/16)

「全面改訂 超簡単 お金の運用術」 山崎元(著)

 

投資の初心者でも簡単にできる、おすすめの資産運用の解説本「超簡単 お金の運用術」が全面改訂されました。最新の情報にバージョンアップしています。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

手間をかけず資産運用したい人。
合理的な運用方法を知りたい人。
難易度は入門書~初級者向けレベル。

 

要約と注目ポイント

本書の目的は、極めて簡単で現実的にベストに近く無難なお金の運用方法を、伝えることである。

合理的な資産運用を、手間をかけないという面から極限まで追求します。

「超簡単 お金の運用術」からの進化

本書(全面改訂版)では前回版以上に、お金の運用方法をシンプルなものとした。

超簡単 お金の運用術

①当座の生活に必要なお金(生活費3か月分程度)を、銀行の普通預金に確保する。

②残ったお金を、リスク運用マネーと無リスク運用マネーに分ける。
(リスク運用マネーは、無リスク運用マネーより5%利回りが高いが、最悪の場合1年で3分の1が失われる可能性があると想定。無リスク運用マネーは、元本割れはないとする。)

③リスク運用マネーは、「TOPIX連動型上場投資信託 コード番号1306」と「SMTグローバル株式インデックス・オープン」に半々に投資する。

④無リスク運用マネーは、「個人向け国債 10年満期タイプ」かまたは「MRF」に投資する。1行1000万円未満なら銀行預金でもよい。

⑤大きなお金が必要になったら、リスク運用マネーまたは無リスク運用マネーを、躊躇なく部分解約する。

⑥NISAと確定拠出年金を最大限に利用する。

非常用の貯金を確保します。そして、暴落に巻き込まれたら嫌なお金は預金しておいて、残りは全額インデックス投資をするということです。

お金で困らないために大切なこと(数字は重要な順)

①仕事の稼ぎ。

②節約と貯蓄の習慣。

③不動産で失敗しない。

④生命保険に入らない。必要なら掛け捨ての定期保険に入る。

⑤都市部で生活するなら、自動車を持たない。

⑥お金の運用(本書の内容)。

毎日資産運用のことを考えるよりは、しっかり働いて、高額の買い物に注意し節約することが大切です。

投資の基本

投資対象の各金融商品の解説。

自分で理解できない金融商品は買わない。他人から勧められた儲かる話にはのらない。

借金を避けること。

外貨預金、FX取引、外国債券、コモディティ(商品)は、長期投資には適当ではない。

資産運用では、自分の人的資本(将来の稼ぎ)と今後必要となるお金も考慮する。

そのほか、資産運用全般の解説。

基本の知識があれば、お金について冷静に考えられるようになります。

NISAの正しい利用法。

①NISA枠は最大限使う。

②リターンの高い資産の運用にあてる。

③長期間持ち続けられるよう、分散投資している商品を選ぶ。

④コストの低い商品を選ぶ。

具体的には、本書で推奨する株式の投資信託やETFを買うのがよいだろう。NISA枠はあくまでも運用の一部分として位置付け、資産全体の運用を最適化させる。

確定拠出年金の運用の考え方。

①運用益非課税のメリットを活かすため、期待収益率の高い商品を選ぶ(日本または海外の株式インデックスファンドが妥当であろう)。

②通常の運用商品より手数料が安い場合があるので利用する。

③一資産に投資する商品を選ぶ(株式と債券のバランスファンドなどは避ける)。

④同じリスク内容なら低コストの商品を選ぶ。

確定拠出年金は資産運用の一部であり、資産全体の運用計画を最適な形にする。

NISAと確定拠出年金は、資産全体の中の一部として考えます。全体でバランスのとれた形にします。

 

書評

運用の基本的な方針は、前著から変更はありません。ただ、さらにシンプルになっています。

また、前著はリーマンショックの嵐の時期だったので、金融危機について触れていました。本書ではそれに代わり、アベノミクスとNISAおよび確定拠出年金について解説が加えられています。

全面改訂されていますが、基本的な考え方は揺るがないので、前著と重なる部分も多くあります。コラム等も重複しているものがあります。前著を読まれた方は、日本と海外の株式配分比率が50%ずつになったところと、アベノミクスとNISAおよび確定拠出年金の該当部分を読めばよろしいかと思います。

前著を読まれていない方は、どちらか1冊読めばよいでしょう。まあ情報も新しい方がよいので、本書をおすすめします。
(書評2013/10/31)

「ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド」 山崎元/水瀬ケンイチ(著)

 

個人投資家には、インデックス投資がいいよ。と教えてくれる本です。投資の理論編を山崎氏が、実践編を水瀬氏が担当して執筆しています。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

投資にはそれほど興味はないが、将来のためコツコツお金を貯めていきたい、と考えている人。難易度は初級者向け程度。

 

要約

理論編

インデックス投資の長所は、①明快、②安価、③負けない、の3点。

①投資の価値が指数でわかるので、理解しやすい。リスクや収益率、ポートフォリオなどを検討し、運用の計画と実行において一貫性を保つことができる。

②インデックスファンドは、販売手数料や信託報酬が安価。

③アクティブファンドは手数料が割高となるので、インデックスファンドに勝つのは難しい。また、勝つアクティブファンドを事前に知ることはできない。インデックス投資は平均に負けない。

・株価指数には、TOPIXのような時価総額ウエイトと、日経平均のような株価ウエイトがある。資産運用のポートフォリオには、時価総額ウエイトの方が適する。

・インデックスファンドでは、銘柄入れ替えや銘柄ウエイトの変更、浮動株の調整がある場合、少し損失が生じることがある。

運用計画は、自分が理解できる範囲で自分がつくること。金融商品の販売者に、助言を求めるのは危険。

資産運用の基本は、
①家計の財務状態の把握。
②資産配分計画を考える。
③個々のアセットクラスに、どの運用商品を充てるか考える。
④どの金融機関で投資するか考える。
⑤ときどきメンテナンス。

運用では、金融資産と人的資本(将来の稼ぎ)、負債を考慮する。

・確定拠出年金やNISAでは、自分の運用資産全体が最適になるように、これらの中身を選ぶ。

・資産配分(アセットアロケーション)についての解説。

 

実践編

・個別株投資は、いつも株のことが気になって、生活の質を落としてしまう。また銘柄を厳選しても、市場全体の下落につられて値下がりする。
人にもよるが、インデックス投資だと、心と時間にゆとりが持てる。しかも、手間をかけず、資産運用をしっかり継続できる

インデックス投資の始め方。
ネット証券や銀行などの選び方。インデックスファンドやETFの解説。積み立て投資のやり方。リバランスについて。高騰や暴落したときの心構え。

 

その他

・代表的なインデックスファンドとETFを評価している。

・インデックスファンドマネジャーへのインタビュー。

 

書評

インデックス投資について、基本的なことをきっちり解説している印象です。専門家による理論的な解説と、個人投資家による実際の投資法の説明があります。ふたつの視点からの説明なので、よりわかりやすいかもしれません。
そのほか、インデックスファンドマネジャーとの対談などもあり、特色があります。通常の解説本をすでに読んでいる人でも、勉強になるかも。
(書評2013/08/03)

「超簡単 お金の運用術」 山崎元(著)

 

一般人が手間をかけずに、でも合理的に投資をする方法とは?投資をしない普通の日本人でも、楽に資産運用ができる本です。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

投資に関心がなく、面倒なことは嫌な一般人。
合理的に資産運用したい人。
難易度は、運用方法については入門書から初級者レベル、その理由の解説は初級者レベルと思われます。

 

要約と注目ポイント

一般人にとって、資産運用は仕事でも趣味でもない。普通の人のための、極めて簡単で、現実的にはベストに近く、かつ無難な運用方法を提示する。

超簡単 お金の運用法

①当座の生活に必要なお金を、普通預金で持つ。

②残りの全額で、株式に投資するETFを、日本株4割と外国株6割の比率で買う。
(③全額株式が怖ければ、リスクをとることに気が進まない分のお金を、10年満期タイプ個人向け国債かMRFに投資する。)

④大きなお金が必要になったら、②または③を躊躇なく部分解約する。

⑤健康保険・国民年金・(必要なら自動車保険・火災保険)に必ず入る。

⑥必要なら、安い死亡保障の生命保険(定期保険)に入る。

⑦確定拠出年金は利用する。

非常用のお金を残します。そして全額をインデックス投資します。保険は見直して、節約します。

運用法の解説

買うETFは、日本がTOPIX連動型上場投資信託(コード1306)か上場インデックスファンドTOPIX(コード1308)、外国がiShares MSCI KOKUSAI Index(ティッカーTOK)。

コストが高くつくので、借金はしない。①の普通預金は借金を避けるため。

長期投資では、株式が有利だ。②の比率だと、リスクが小さくなる。

ペイオフを考慮して、③では国債とMRFとした。1000万円以下なら、銀行預金も保護される。

④の通り、解約は躊躇するな。現在の判断が重要で、過去の買値は関係ない。

保険は付加保険料(手数料に該当)が非常に高い。不要な保険には入らない。高額療養費制度があるので、健康保険には入る。自動車を運転するなら自動車保険、自分が火元になることを考えるなら火災保険にも入る。

税金からも保険料が払われることや、確定拠出年金利用の条件でもあるので、国民年金にも入る。(⑤と⑥)

確定拠出年金には、非課税のメリットがある。運用資産全体のうちの一部として考え、手数料も考慮して選ぶ。(⑦)

そのほか、投資の考え方のポイントや注意点など。

解説を読むことで、なぜそのように資産運用するのか、運用法の理由がわかります。

 

書評

さすがという内容。読後感はすっきり感です。なんかすっきりします。

投資に興味がなく手間もかけたくない一般人が、実行可能で、かつ、並み以上のパフォーマンスも期待できる手法を考察しています。ほかに、投資にまつわる注意事項も、簡潔で分かりやすく解説しています。

しかし逆説的ですが、投資について自分で勉強して、試行錯誤しながら実行した経験(少し損もしたりとか)を持つ人でないと、本書のシンプルさの凄みが実感できないという。
(書評2013/06/09)

「貧乏人のデイトレ 金持ちのインベストメント」 北村慶(著)

 

表紙とタイトルは微妙ですが、まじめな長期投資を勧める入門書です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

長期での投資や資産形成を解説した本なので、長期投資を勉強したい人向けです。特に、年金不足のために自分で老後の生活資金を用意することを、主眼において記述しています。難易度は初級者ぐらいが適当かと。

 

要約

・ジニ係数でみると、日本の所得格差は拡大しつつあり、再分配後の所得格差も拡大する傾向がある。日本の財政事情から、今後は再分配機能が低下すると考えられる。

・小泉自民党や前原民主党はリバタリアニズムであり、経済的にも思想的にも小さな政府をめざす。リバタリアン政権下では、資産運用や老後資金の用意は自己責任。

・60代以上では年金で生活できるが、40代以下は年金だけでは老後は生活できない。
40代以下は、2000~3000万円ほど老後資金が不足する。

・投資とは、トレーディング(短期売買)ではなくインベストメント(長期投資)だ。

・資産運用で最初に考えることは、運用のゴールである。年金不足を補うための資産運用となる。そのため運用方針は、①20~35年の超長期で、②大負けはできないが、③途中での一時的な損失は許容でき、④インフレで目減りしない、となる。

・アセットアロケーションの解説。運用ポリシーを守り、ポートフォリオを維持し続けることで、期待した収益率が得られる。

・短期売買では数十年勝ち続けることはできないし、常に市場が気になって生活の質が低下する。長期投資では数十年継続することで、期待した収益率に近づく。

・株式の収益率は、次のように表される。
= 国債利回り(リスクフリーレート) + アルファ(銘柄独自の収益率) + ベータ(市場に対する銘柄の感応度) × 市場全体の収益率(マーケットリスクプレミアム)
負けない投資では、まずは市場全体の収益を享受できるよう、ベータに追随すること(下線部)を考えてパッシブ運用を行う。

・個人投資家の武器は、複利効果と時間分散投資である。機関投資家は年単位の決算に縛られるが、個人投資家は数十年後が重要なので、複利の効果を大きく受けられる。また給与から定時定額投資(ドルコスト平均法)ができるので、投資のタイミングも自然と分散できる。

・資産配分が運用成績のほとんどを決める。相関の少ない資産に分散投資すると、リスクとリターンが改善する。どれだけリスクがとれるか考え、ポートフォリオを作る。

・アルファを求めてアクティブ運用をするなら、業種の異なる10銘柄程度の株式で、自前ファンドを作ってみよう。

・家を買うことは、借金して不動産に投資することだ、という認識を持っておく。

・日本だけでなく、世界経済全体に分散投資しよう。

・個々人が自分の仕事をがんばることで、日本経済が成長し、その結果、個々人も市場の成長を享受できる。

 

書評

個人が投資を実践するにあたり、読むには価値のある本と感じます。出版が2006年のため、政治状況や経済的なデータがやや古く、世界的な金融危機や東日本大震災を考慮していないところが少し物足りないです。投資の基本を学ぶという点では問題はありませんが。
(書評2013/06/01)

「投資戦略の発想法2010」 木村剛(著)

 

シリーズ累計25万部の良質な投資本として、本書はときどき取り上げられています。現在は、街なかの本屋にはほとんど在庫はないようなので、通販での購入がおすすめです。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

投資の常識を身につけて、長期にわたる資産形成の計画を立てたい人。投資に取りかかる前に準備すべきことや、将来の資産を着実につくり、その価値を維持していくための考え方を学びたい人。難易度は入門書から初級者向け程度。

 

要約

・日本の社会は、資本主義を理解しておらず、資本主義の原則が通用しない。

・個人は、ゆっくりと確実に資産形成することを考えよ。派手に儲けることが投資ではない。

・保有資産と負債の現在の価値を、一覧表にして把握せよ。月に1回程度、定期的にモニタリングする。

・自分を制御し節約して、生活水準を収入以下に保つ。借金はまず返済する。マイホームへのこだわりは捨てる。

・最初に2年分の生活費を、生活防衛資金(失業などの非常時に備えるお金)として貯める。少なくとも1年分は貯めよう。とにかく節約し、給料の天引き預金などで、コツコツ貯金し複利で殖やすこと。このお金は、すぐに換金できる銀行預金や郵便貯金、MMFや短期国債などにしておく。

・まずは自分の仕事をがんばれ。自分の本業に全力で取り組み、自分の価値を向上させよ。あくまでも資産運用は副業である。

・金利、株価、物価、為替の基本原則を理解する。

・資本主義経済は、豊かになりたいという人間の欲望によって動かされ、拡大再生産されるシステムである。(長期的には市場は拡大し、投資すれば最終的に株式市場からリターンが得られる。)個人投資家は超長期の視点で、株式を中核に資産運用せよ。

・投資は、生活防衛資金を確保した上で、暴落しても動揺しない程度にとどめる。

・資産は分散して投資せよ。

・人間は合理的には判断できない。

・①銀行預金(生活防衛資金)、②日本株式、③外貨MMF、④外国ETF、⑤日本国債の5分割ポートフォリオをつくる。

・日本株式を運用の主力とし、自分が転職したいような、自分がオーナーになりたいような、優良企業20銘柄に投資する。(業種は分けて、銘柄ごとに投資額が偏らないよう均等に分散させる。難しければ、インデックスファンドやETFで良い。)タイミングを分散させて投資し、とにかく長期で保有する。デイトレードは厳禁。

・金融商品は、コストが低く、理解できる単純な仕組みで、流動性が高く換金しやすいものを選ぶ。

・金融詐欺に注意。異常に利回りが高いなど、うまい話はほとんどが詐欺。

 

書評

まともな内容なので、20~30年間かけて本書の教えを守り続ければ、それなりの資産が築けそうに思われます。読んで勉強にはなります。
著者はいろいろな体験をしたためか、本書では社会主義的な日本社会への不満・苛立ち・嫌悪感・怒りが爆発しています。もう少し冷静な記述の方が望ましいかとは思います。あと、500ページ以上あるので、読むのは結構大変です。
(書評2013/05/20)

「ウォール街のランダム・ウォーカー 原著第10版」 バートン・マルキール(著)

 

投資を考える上で外せない古典の紹介です。インデックス運用派の世界では、以前取り上げた「敗者のゲーム」と双璧をなす名著とされます。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

お金について長期の視点で考え、資産運用の堅実な計画を立てたい人。長期投資(特に株式投資)の基礎的な考え方を学びたい人。難易度は初級者以上が適当と思われます。

 

要約

・歴史的に、投資の考え方は2つあった。1つは「ファンダメンタル価値」学派で、将来予想される収益や配当から、投資対象の現在の価格が高いか安いかを評価するものである。もう1つは「砂上の楼閣」学派で、市場の心理的要素を重視し、これから価格が上昇するか下落するか、市場のコンセンサスをとらえて、利益を追求するものである。

・時代、国、地域、対象を問わず、バブル相場は繰り返されてきた。

・主要な株価分析法は、テクニカル分析とファンダメンタル分析である。

・基本的に、「砂上の楼閣」学派はテクニカル分析を、「ファンダメンタル価値」学派はファンダメンタル分析を論拠とする。

・テクニカル分析を用い、長期にわたり市場平均を上回り続けた例は過去に見つからない。過去の株価の推移から、有効な将来予測はできない。

・ファンダメンタル分析を試みても、将来の企業収益は正確に予測できない。そのため、現在の適正株価を想定しても正しいか判断できず、予測した将来の株価も的中しない。アナリストの業績予想は誤差が大きい。

・すべての投資信託のパフォーマンスを平均すると、インデックスファンドのそれを下回る。また、どの投資信託が高いパフォーマンスを示すか、購入前に知る方法はない。

・リスクについての考え方。リスクをとれば、リターンが期待できる。リスクは、適切なポートフォリオによって低減できる。

・行動ファイナンス理論について。

・個人のライフサイクルと投資戦略について。

 

書評

長年の株式市場研究の成果から、インデックス運用の有効性を強調しています。最近の効率的市場理論への批判を意識して、これに反論する記述の量が多いのですが、そのためやや要点がぼやける印象はあります。(まとまりを欠くと感じるのは、私の理解力が至らないせいでもありますが。)

結局のところ本書から、個人投資家は次のようなシンプルな主張を受け止めれば良いと思われます。
『自分の人生で必要なお金について考え、長期で計画を立てる。計画に従い、株式・債券・不動産・現金などのポートフォリオを組む。自国だけでなく世界に分散して投資する。
収益と分散の観点から、インデックス運用を行う。期待する収益率に近づけるため、できるだけ長期で継続的に投資する。』

なお、インデックス運用を主体としつつも、アクティブな運用を行う際のアドバイスも述べています。そのアドバイスは、
①今後5年以上、市場平均を上回る成長をすると予想される。
②まだあまり注目されておらず、それほどPERは高くなっていない。
③将来は市場の期待を集め、PERが高くなると考えられる。
④売買の頻度を減らし、コストを抑える。
という条件を満たす銘柄に投資せよ、です。

これは、言うのは易しいが行うのは極めて困難な内容です。自分の仕事や生活に時間をとられる個人投資家は、インデックス運用の利点を最大限に活かすべき、と考えることにしましょう。また、最後の『訳者あとがきに代えて』がとてもわかりやすいので、読まれることをおすすめします。
(書評2013/05/12)