「インフレ貧乏にならないための資産防衛術」 村上尚己(著)

 

アベノミクスによりデフレがインフレに転換したあとの、資産運用方法について論じた本です。本当にインフレになったら、参考になるかもしれません。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

インフレになったときの資産運用を考えたい人。
難易度は、新聞の経済面を読んでいる人ならスラスラ読めるレベル?

 

要約と注目ポイント

本書は、アベノミクスの成功によりインフレ時代が到来したとき、一般投資家はどのように資産運用すればよいか論じている。20年に及ぶデフレ環境に慣れた日本人に、インフレ時代の資産防衛や運用の基本的な考え方を提示する。

アベノミクス

アベノミクスは正しい金融政策であり、停滞していた日本経済は好転した。

民主党政権はデフレを自然現象のように考えていた。しかし安倍政権の金融緩和政策により、円安と株高が進んだ。

安倍政権下、脱デフレを掲げる黒田総裁・岩田副総裁の日銀人事が決定される。安倍政権は、脱デフレにおける日銀の重要性を正しく認識していた。

アベノミクスによりマーケットに劇的な変化(大幅な円安と株高)が起きた。これが示すのは、個人投資家は金融政策や経済政策を理解することが重要だということである。

アベノミクスが成功すればデフレから脱却し、日本経済の状況は大きく変化する。

アベノミクス批判への反論

以下の典型的なアベノミクス批判は、いずれも的外れである。

①インフレは危険。
⇒デフレ下で豊かに生活できる環境の人たち、あるいはデフレに適応した意識を持つメディアの意見に過ぎない。

②インフレで生活が苦しくなる。
⇒一般物価水準と個別価格を混同している。生活必需品より、サービス価格や賃金の上昇は遅れる。

③資産バブルや投機を生む。
⇒金融緩和政策は、どの国でも行われている経済安定化の政策である。

インフレの実現

日本は供給が需要を上回るデフレの状態にあった。中央銀行がマネーの量を増やせば、物価と賃金が上がり、インフレ期待が生まれる。

インフレ期待が生まれると、企業は投資をし家計は消費活動をするので、インフレは実現する。インフレが実現すれば総需要が底上げされ、失業などの問題が解消し、日本経済は回復する。

2013年5~6月の株価の乱高下は、日本経済の状況が大きく変わるときに、投資家の期待が揺れ動いたために起きた調整に過ぎない。

著者は時々メディアにも寄稿していますが、完全無欠のリフレ派という印象です。

今後のアベノミクス

アベノミクスには、3本の矢の政策が正しく行われていないという危うさもある。

最も重要なのが第1の矢(金融政策)である。

第2の矢(財政政策)は、脱デフレのサポートに徹するべきだ。非効率的な公共投資よりは、民間にお金が渡り総需要を上げる減税などが行われるべきだった。消費税増税は悪影響がある。

第3の矢(成長戦略)は総供給を増やす政策なので、脱デフレが達成された後に効果が出る。規制緩和が第3の矢にあたる。

デフレ脱却で日本の問題は解決する

脱デフレが達成されれば、日本の問題は解決へ向かう。

デフレから脱すれば、税収が増加して財政問題は改善する。金利が上昇すれば政府の国債利払い負担も増えるが、名目金利が上昇するときは経済成長率やインフレ率も高まっていて、税収も増えるので問題ない。

また、中央銀行が名目金利を抑えることも可能である。インフレ率が高まれば失業率が低下する。若年層の失業率が低下し、非正規雇用の比率も下がり、若年層の所得が改善して出生率が上昇する。

金融政策の力は無限大という感じです。

2014~15年の日本経済見通し

当面は、日本の株価はアメリカの株価と連動する。

2014年度の日本の実質GDP成長率は消費税増税のため1%程度まで低迷するが、2014年後半はアメリカをはじめとする先進国経済が回復し、日本経済を下支えする。

輸出と企業の設備投資が増加すると予測される。個人消費と企業の設備投資が拡大し、インフレ期待が広がるという好循環が実現する。日銀は追加の金融緩和もできる。

2015年には日経平均株価は2万円に近づく。2014年にアメリカは、実質GDP成長率が3%程度でインフレ率が2%程度となるだろう。アメリカが先に政策金利を引き上げるので、1ドル110円台まで円安が進み、さらに脱デフレは推進される。

日本経済が安定成長し、インフレ目標が実現するので、2014年末には長期金利は1%台半ばまで上昇する。2016年までには、長期金利は2%の大台を超える可能性がある。

インフレ対策を考えた資産運用

デフレでは預貯金が合理的だったが、インフレ転換後にはデフレ時代の資産運用は機能しない。

脱デフレで日本経済が安定成長するようになれば、資産運用の中核は日本株となる。また円高が終焉することで、外貨建て金融資産もリスクに見合った本来のリターンが期待できる。

脱デフレで為替と株価の連動性が低下すると考えられるので、長期分散投資が機能する。日本株と日本債券、外国株と外国債券という4大資産を基本とする。これらのインデックス型投資信託などで、長期分散投資することが有効となる。

インフレは不動産ブームとは別の現象なので、住宅購入はあくまでも物件や個人の事情を慎重に考慮して決めるべき。

脱デフレと経済正常化が達成すれば、社会保障制度改革が次の政策課題となる。高齢化の進展に伴い、税と社会保険料の負担が大きくなるだろう。インフレ時代に対応した資産運用が必要となる。

資産運用は、日本と海外のリスク資産に分散投資しよう、という結論です。

 

書評

次期日銀総裁に望ましいのは誰かという市場関係者アンケートで、著者の村上氏は岩田規久男氏(当時は大学教授で現副総裁)と回答したと本文中にあります。

岩田氏をあげたのは村上氏ひとりだけだったそうで、村上氏はバリバリのリフレ派だなと思いましたが、実際に本書も金融緩和強化を是とするリフレ派な内容です。

以前に岩田氏の著作を一冊だけ読んだことがありますが、自身の主張に自信満々でした。村上氏も、本書の中で自説に絶対の自信を見せています。

というか、自分の分析や予測が外れる未来を全く想像していないかのようです。よくわかりませんが、あまりに自信に満ちあふれている様子を見ると、それはそれで大丈夫かとこちら側は不安になります。

本書はリフレ派の人が考える正しい資産運用の解説書です。安倍政権はリフレ派の考え方で行動しているので、個人投資家が対策を考えるのには、それなりに参考になるかなと思います。

各章のはじめに要点がまとめてあるのはわかりやすく、親切設定です。
(書評2014/07/25)

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