「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」 橘玲(著)

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アベノミクスの結末は、国民にどのような影響を与えるのか?アベノミクス後を生きる一般的日本人の、生き残り術の考察です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

対象読者層

金融取引の経験が少ない保守的な人々、すなわちほとんどの日本人に向けて書いた。と著者自身が述べています。難易度は、入門書と初級者向けの間程度と思われます。

要約

・国家が財政破綻するとき、確実に起こることは金利上昇・通貨安・インフレの3つである。災害や戦争は何が起こるか予測不能なリスクだが、財政破綻は破綻後起こることが予測できるリスクである。生活者はこの3つに備えればよい。

・アベノミクスには賛否両論あるが、3通りの結末のいずれかに帰着する。
①金融緩和に成功し、日本経済が成長して税収は回復、財政も安定する。
②金融緩和に失敗し、デフレから脱却できず、現状の縮小均衡スパイラルが継続する。
③金融政策が失敗し、国家債務の制御が不能となり、財政破綻へ進む。

・財政破綻(上記③)も一夜にして発生することはない。第一段階の金利上昇、第二段階の円安・インフレ、第三段階の国家財政破綻と順を追って進む。進行状況に応じて対策をとればよい。

・上記①と②、および③の第一段階までは、庶民にとっては普通預金が最善の策。

・③の第一段階では、庶民は住宅ローンの返済に注意。③の第二段階以降が庶民にとっての試練である。

・③の第二段階の円安・インフレでは、簡単な対策は3つ。日本国債ベアファンドを買う、円預金を外貨預金(外貨MMF)にする、物価連動国債ファンドを買う。

・③の第三段階では、海外の金融機関(信用度の高いところ)に外貨預金をする。ニューヨーク市場に上場している日本国債ベアETF(ティッカーはJGBSとJGBDでレバレッジの異なる2種)を、海外の証券会社を使って買う。現在は日本の証券会社で取り扱いはない。

・金融資産だけでなく、不動産や年金、自分の人的資本までふくめて総合的に資産を考えたとき、どこまでリスクヘッジするべきかという投資戦略について。

・国家破綻時に、身を守るため勝負が必要な場合どうするか。FXと日本株売り、オプション取引について。

・そのほか、必要な金融や為替の事項が解説されている。日本のリスクから切り離して分散投資できる、MSCI世界指数に連動するETFの紹介もある。

書評

一般の日本人が、国家破産の被害の直撃を避けるにはどうすべきか、考察されています。とにかくなるべく簡単な方法で、知識のない人でも実行可能であるようにと、著者の苦慮が伝わってくる本です。

対策としては、まあ納得がいく内容でした。平時から海外にも投資しておけばいいのではと思いますが、そういうことができる人向けの本ではないし。

普段からお金のことを考えている人は、海外への分散投資などもしているでしょうから、本書の内容は既知のものも多いと思います。ただ日本人の、資産の円預金への偏りから考えると、資産運用を戦略として捉えている人はほとんどいないと思われます。

現在でも、円預金のみを抱えていて、経済情勢に何の関心もない人(危機感のない人)がやはり多数派でしょう。そうすると大多数は、本書などには全く興味を持たないでしょうから、もし財政危機と金融不安が急速に進展した場合、何の準備もないままほとんどの日本人に厄災が降りかかることになります。

本書は役に立つ本ですが、危機感がある人はもう対策をしているし、危機感がない人は対策をしないまま本番を迎えるので、本書が役立たないという皮肉があります。
橘玲氏の著作はそれなりに読んでいますが、本書はかなり悲観的なのが気になります。
(書評2013/04/07)

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