「投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識」 ハワード・マークス(著)

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バフェットも推薦するこの本は、市場で生き残るための必携の1冊です。著者はオークツリー・キャピタル・マネジメントの会長で、大成功した投資家です。

 

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

 

対象読者層

市場に勝ちたい人。投資哲学を考えたい人。

 

要約と注目ポイント

投資を成功させるには、数多くの「一番大切なこと」に、同時に思慮深く注意を向ける必要がある。

本書はハウツー本ではなく、投資哲学の本である。投資は複雑である。本書では、投資家が適切な判断をして、重大な失敗を避けるための思考方法について論じる。

価値のある教訓は、厳しい時期に得られる。私はいくつもの異常事態に見舞われながら投資キャリアを重ね、実効性のある投資哲学を築いてきた。

 

投資に勝つための思考

平均的なパフォーマンスならば、インデックスファンドを買えば誰でも達成できる。市場平均に勝つことを成功と定義すれば、成功には幸運かすぐれた洞察力が必要である。

投資はアートの要素が強く、成功させる普遍的な法則などない。

鋭敏な思考(二次的思考)が必要で、他の投資家より正確に見極め、他の投資家とは違う思考方法をとらねばならない。

投資で成功するには、コンセンサスとは異なる正しい予測をしなければならない。しかし、コンセンサスと異なる予想をすること、それが正しいこと、その予想に基づいて行動することはとても難しい。

 

誰にでもできる、底の浅い単純な思考が一次的思考です。奥が深く、複雑で入り組んでいるのが二次的思考です。

 

「減益だから売ろう」というのが一次的思考で、「減益だがコンセンサスよりは減益幅が小さくなると予想され、決算発表後に株価が上昇するだろうから買いだ」というのが二次的思考になります。

本質的価値を見抜く

社会的にオープンで広く情報が公開され、多くの(優秀な)人が参加する市場は、効率的市場仮説に近い。

非効率的な市場の特徴として、情報やその分析にばらつきがあり価格が本質的価値から離れ、投資家の勝ち負けが分かれている。

また、資産のリスク調整後リターンが、他の資産のリスク調整後リターンと釣り合わない事態が起きている。

本質的価値を正しく推計することが不可欠である。投資の原則は、本質的価値より安く買い、本質的価値より高く売ることだ。

 

市場は完全に効率的でも非効率的でもなく、その間にあります。間違った価格が付けられることがありますが、それを利用して市場に勝つには、すぐれた洞察力が必要です。

 

バリュー投資で勝つ

テクニカル分析のみで投資をすることに、有効性は認められない。そのため、ファンダメンタルズに基づく2つのアプローチ、バリュー投資とグロース投資を検討する。

バリュー投資は、現在の本質的価値が現在の株価より高ければ(本質的価値が将来ほとんど増大しなくても)買う。

グロース投資は、将来的に十分な利益をあげるほど本質的価値が増大するならば(現在の本質的価値が現在の株価より低くても)買う。

一般にグロース投資は成功しにくいがリターンは大きく、バリュー投資は安定的だがリターンは小さい。本書ではバリュー投資を扱う。

 

バリュー投資で成功するには、本質的価値を正しく見ることと、本質的価値の見解を我慢強く保持することが求められます。

 

バリュー投資では、割安の資産を買っても、すぐに利益が出るわけではありません。

投資家心理を読む

本質的価値を正しく推計できるようになったとしたら、その資産の価格にも注意しなければならない。妥当(割安)な価格で買わなければならない。

価格は(特に短期的には)心理とテクニカル要因(需給要因など)に左右される。投資をしたい人がこの先増えるのか減るのか、投資家心理を知ることは重要だ。

 

最も危険なのは人気の絶頂にある資産を買うことで、最も安全で収益性が高いのは人気のない資産を買うことです。

 

リスクとは資金を失う可能性だ

未来はわからないため、投資ではリスクを理解し、認識し、コントロールしなければならない。投資を検討するときは、許容できるリスクを考え、潜在的なリターンと付属するリスクを考慮する。

投資成績を評価するときも、リターンのほか付属していたリスクを評価しなければならない。相場の上昇時には、リターンを高くするにはリスクを高くすればよいように感じるが、それは誤りである。

高リスク資産は不確実性が高く損失の可能性があり、高い期待リターンが本来は提示されるべきものである。

リスクはボラティリティで定義されるが、リスクとは資金を失う可能性と考えるのがよい。

損失リスクは脆弱なファンダメンタルズや悪いマクロ環境のためではなく、たいていは楽観的過ぎる心理と行き過ぎた価格から生じる。

 

本質的価値を大幅に下回る価格で買えば低リスク高リターンが期待でき、高すぎる価格で買えば高リスク低リターンとなります。

 

リスクに対処するには、本質的価値の安定性と信頼性、価格と本質的価値の関係性をもとに判断することが大切です。

リスクとリターン

投資家が過度に楽観的で、資産を高すぎる価格で買っていたと気付くところから、たいていリスクが認識され始める。

高リスクと低い期待リターンは表裏一体であり、追加的なリターンを得るためにはリスクプレミアムを要求すべきなのだ。「リスクがなくなった」という神話が、特に危険なリスクの根源となりうる。

リターンとリスクの関係では、無リスク資産の金利に、リスクに応じてリスクプレミアムが上乗せされる。

安全性が高い資産の期待リターンが低い、高リスクの資産のパフォーマンスがこのところ良い、大量の資金が流入している、融資基準が緩い、といった状況ではリスクプレミアムが低下する。

投資家がリスクを忘れ買いを集中させた資産は、期待リターンが低下しリスクが高くなる。誰もが不安を感じ買いたがらない資産は、リスクプレミアムが拡大しリスクは低くなる。

どんな価格で買うかが問題なのだ。

 

すぐれた投資家は、利益を得るためにきちんと理解したうえで、リスクをとっています。獲得するリターンに相応する水準よりも低いリスクをとるのが、すぐれた投資家です。

 

リスクは目に見えないため、悪い出来事が起きた時にはじめて、リスクコントロールがなされていたかわかるのです。

市場のサイクルを認識せよ

ほとんどの物事にはサイクルがある。多くの人がサイクルはなくなったと思い込んだときに、大きな利益や損失が生まれる機会が発生する。

人間に感情があることが、サイクルが存在する要因のひとつである。信用サイクルが典型的である。

好景気が訪れ、金融機関が融資を拡大し、投資に付随するリスクが低下したように見え、リスク回避志向が消える。

金融機関はシェア競争のため要求リターンを引き下げ、資本コストが資本収益率を上回る投資が行われ、資金が回収できなくなる。

サイクルは下降局面へ反転し、貸し手は融資をしなくなり、企業は資本不足に陥り、デフォルトや倒産が起きる。

景気後退を招き、ますますリスク回避志向となるが、行き過ぎたところでサイクルは再び反転する。

証券市場における地合いの動きは、振り子の振動に似ている。

振り子の軌道の中心点は平均的な位置だが、振り子がその位置に留まるのは一瞬である。振り子は軌道の一端から一端へと動き、一端に近づけばいずれ必ず中心点に向かい反転する。

強欲と恐怖のサイクルは、投資家のリスクに対する姿勢の変化によって起きる。

投資家のリスク許容度が高ければ、価格はリターンに見合うより大きなリスクを含んでいる可能性がある。投資家がリスク回避的だと、リスクに見合うより大きなリターンが得られる可能性がある。

 

相場が好調で価格が高騰すれば投資家は買いに殺到し、市場が混乱すると投資家は完全にリスク回避的になり売りに殺到します。

 

過ちを招く心理的要因

過ちを招く心理とは、強欲、恐怖、自己欺瞞、同調圧力、嫉妬、うぬぼれ、降伏である。

過ちを招く心理に対抗するためには、本質的価値を強く意識すること。そして過去のサイクルの教訓を思い出し、心理的要因が悪影響を及ぼすことを理解すること。

皆が楽観的過ぎるときは悲観的になり、皆が悲観的過ぎるときは楽観的になるという、懐疑的な目を持つこと。

 

多くの投資家が市場サイクルに押し流されたときは、反対の行動、逆張りが有効です。

 

ただし、価格が本質的価値から大きく乖離していることを察知する能力と、群衆に逆らう強固な意志が必要となります。

さらに、逆張りにふさわしい行き過ぎた相場はめったになく、行き過ぎた相場が何年も続くこともあります。

賢明なポートフォリオ

賢明なポートフォリオは、収益性が高い資産を買い、それを買うために収益性の劣る資産を売り、最も収益性の低い資産を避けることで構築される。

投資先候補から、リスクに対し特に潜在リターンが高いもの、特に割安感が強いものを探し出す。このような掘り出し物は、たいてい何らかの欠陥があり不人気な資産である。

人々が理解不足で、不適切とみなし、リターンが低迷し続けており、悪い印象を持っている資産に掘り出し物がある。

良いチャンスは常にあるわけではない。掘り出し物が出てくるのを我慢強く待つことが、最良の戦略である場合もある。

予想リターンがきわめて低い環境下で、リターンを追及するのは危険である。

 

危機時に投げ売りされた資産を買うことが、最高の投資になります。

 

投資家は守りを忘れるな

将来を正しく継続的に予測することは不可能だ。市場サイクルの期間やタイミングを予測することもできない。

しかし、できるだけ現在のサイクルや振り子の位置を見極めようとし、起こりそうな事態に備えるべきである。サイクルの頂点や谷底に達するときに備え、そのとき間違った群衆と行動をともにしないこと。

投資家は市場のランダム性を認識しなければならない。投資家は、儲けと損失回避の間でバランスをどうとるか、決めなければならない。投資は複雑なので、守りの要素が重要である。

守りでは、正しい行動をとるよりも、間違った行動をとらないことに重点を置く。

守りには2つの原則がある。

1つは損失を出す資産をポートフォリオに入れないことだ。これは調査、投資基準、低価格と安全域、楽観的な予想の排除によりなされる。

もう1つは暴落による市場崩壊のリスクがある時期を避けることである。

損失をもたらす過ちは、分析や知識の問題と、心理や感情の問題から起きる。投資は未来に対処することだが、想像力を欠くことも過ちとなる。

 

資金が過剰に供給されると、人々はリスクを軽視し、リスクが大きくなります。市場が熱狂すると、従来のモデルが通用しなくなることがあります。

 

そして、危機時には資産間の相関性が高まり、分散投資の効果が下がってしまいます。

レバレッジをかけず、サイクルを意識することが大切です。長期のパフォーマンスが良いことこそ、すぐれた投資家の証です。

書評

何らかの具体的な投資手法を教える本ではありません。長年にわたり成功してきた投資家が、投資行動の基本原則について考察した本です。

「敗者のゲーム」のような、味わい深い系の本でして、これを読んだからすぐに何かがどうにかなるということはありません。常に市場のことを考えていると、どうしても目先の損益が気になりだすのですが、やはりそういうやり方だと大成功はありえません。

まとめた要約を読み返すと、そんなことは当たり前だ、となります。でも、実行できないんだな、これが。要約だけでなく本文を読むと、大事なことが書かれているなとしみじみします。

再読して印象深かったのは、リスクがないと思って投資家が集まりある資産を買うと、リスクが高くなるという指摘です。リスクがなくリターンが簡単に得られると考え買うことで、期待リターンが小さくなり、リスクプレミアムが薄くなって、逆に損失の可能性が大きくなるのです。

資産の質が高いから安全と考えるのは誤りで、本質的価値から安い価格で買うことが安全なのだ、という指摘も教訓になります。優良資産も高すぎる価格で買えば危険です。これも覚えておこう。
(書評2014/07/18)

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