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「投資家のための金融マーケット予測ハンドブック 第5版」 三井住友信託銀行マーケット事業(著)

 

金融市場全般を解説する、教科書的な本です。銀行員が執筆しているので、基本の知識や理論を堅く勉強できます。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

金融業界(特にマーケット)で仕事をして、メシを食っていこうと考えている新入社員や学生あたりかと思われます。現役のプロにとっては、常識に相当する内容でしょうか。難易度は初級~中級者以上が適当と思います。

フツーのお金のリテラシーを身につけて、健全に暮らそうという一般市民は読む必要はありません。一般人には詳しすぎます。市場と向き合う覚悟を持った人が、勉強のために読む本です。

 

要約と注目ポイント

本書は教科書のようなつくりの解説本なので、要約は書けません。読んでもらうしかないです。内容の項目だけ挙げます。

解説事項

日本の経済概要、経済統計、財政、金融政策、金融統計、金融市場の解説。

米国の経済統計、財政、金融政策、金融市場の解説。

ユーロ圏の経済概要、金融政策の解説。

英国とオセアニアおよび新興国各国の、経済と金融政策の解説。

商品市場の解説。

為替市場と各国の為替政策の解説。

テクニカル分析の解説。

金融マーケットのスタンダードな基礎知識を、きっちりと勉強できます。

 

書評

一応、私自身は初級者レベルと考えているのですが、知らないことがとても多くて、本書の解説は勉強になりました。正直、細かい部分は解説を読んでも理解できないところもありました。一般市民が読むレベルではないです。

本書の主題は、金融市場(金利と為替)です。これを予測するため、各国の経済状況や金融政策、統計資料の評価、為替理論、商品市場、金融史などなど解説しています。

教科書・統計集風味な本なので、読み物的な面白さはゼロです。(テクニカル分析のところはちょっと面白い。)市場に参加している複数の現役銀行員が書いているので、とにかく堅くて真面目です。500ページ弱あるので、結構骨が折れます。図表も多いけど。
(書評2013/05/04)

「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」 橘玲(著)

アベノミクスの結末は、国民にどのような影響を与えるのか?アベノミクス後を生きる一般的日本人の、生き残り術の考察です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

対象読者層

金融取引の経験が少ない保守的な人々、すなわちほとんどの日本人に向けて書いた。と著者自身が述べています。難易度は、入門書と初級者向けの間程度と思われます。

要約

・国家が財政破綻するとき、確実に起こることは金利上昇・通貨安・インフレの3つである。災害や戦争は何が起こるか予測不能なリスクだが、財政破綻は破綻後起こることが予測できるリスクである。生活者はこの3つに備えればよい。

・アベノミクスには賛否両論あるが、3通りの結末のいずれかに帰着する。
①金融緩和に成功し、日本経済が成長して税収は回復、財政も安定する。
②金融緩和に失敗し、デフレから脱却できず、現状の縮小均衡スパイラルが継続する。
③金融政策が失敗し、国家債務の制御が不能となり、財政破綻へ進む。

・財政破綻(上記③)も一夜にして発生することはない。第一段階の金利上昇、第二段階の円安・インフレ、第三段階の国家財政破綻と順を追って進む。進行状況に応じて対策をとればよい。

・上記①と②、および③の第一段階までは、庶民にとっては普通預金が最善の策。

・③の第一段階では、庶民は住宅ローンの返済に注意。③の第二段階以降が庶民にとっての試練である。

・③の第二段階の円安・インフレでは、簡単な対策は3つ。日本国債ベアファンドを買う、円預金を外貨預金(外貨MMF)にする、物価連動国債ファンドを買う。

・③の第三段階では、海外の金融機関(信用度の高いところ)に外貨預金をする。ニューヨーク市場に上場している日本国債ベアETF(ティッカーはJGBSとJGBDでレバレッジの異なる2種)を、海外の証券会社を使って買う。現在は日本の証券会社で取り扱いはない。

・金融資産だけでなく、不動産や年金、自分の人的資本までふくめて総合的に資産を考えたとき、どこまでリスクヘッジするべきかという投資戦略について。

・国家破綻時に、身を守るため勝負が必要な場合どうするか。FXと日本株売り、オプション取引について。

・そのほか、必要な金融や為替の事項が解説されている。日本のリスクから切り離して分散投資できる、MSCI世界指数に連動するETFの紹介もある。

書評

一般の日本人が、国家破産の被害の直撃を避けるにはどうすべきか、考察されています。とにかくなるべく簡単な方法で、知識のない人でも実行可能であるようにと、著者の苦慮が伝わってくる本です。

対策としては、まあ納得がいく内容でした。平時から海外にも投資しておけばいいのではと思いますが、そういうことができる人向けの本ではないし。

普段からお金のことを考えている人は、海外への分散投資などもしているでしょうから、本書の内容は既知のものも多いと思います。ただ日本人の、資産の円預金への偏りから考えると、資産運用を戦略として捉えている人はほとんどいないと思われます。

現在でも、円預金のみを抱えていて、経済情勢に何の関心もない人(危機感のない人)がやはり多数派でしょう。そうすると大多数は、本書などには全く興味を持たないでしょうから、もし財政危機と金融不安が急速に進展した場合、何の準備もないままほとんどの日本人に厄災が降りかかることになります。

本書は役に立つ本ですが、危機感がある人はもう対策をしているし、危機感がない人は対策をしないまま本番を迎えるので、本書が役立たないという皮肉があります。
橘玲氏の著作はそれなりに読んでいますが、本書はかなり悲観的なのが気になります。
(書評2013/04/07)

「敗者のゲーム 原著第5版」 チャールズ・エリス(著)

 

著者は投資に対し、豊富な知識と経験を持っています。個人投資家が読むべき、長期投資の古典的名著です。

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

 

対象読者層

初級者以上。お題目ではなく、真に長期投資を志す人が対象となります。

長期(5年や10年のレベルではない)を見据えて、投資に取り組みたい人。

著者はすべての投資家(個人投資家に加え機関投資家も含む)に対して、語っています。しかし、皮肉なことですが、本書の内容はすべての投資家に受け入れられることはなく、人を選ぶでしょう。

どこまでも冷静に自分を見つめ、市場の熱狂から離れ、感情を制御し、自分の能力の限界を悟り、合理的精神と判断を尊ぶ人が、本書の対象となります。

 

要約と注目ポイント

要約し難い本です。この要旨の羅列ではなく、実際の本文に価値があるとご理解下さい。

10年を超えるような長期では、大半のファンドの成果は市場平均を下回る。また、市場平均を上回る少数のファンドを、事前に見出す方法はない。したがって、市場に勝つことではなく、投資目的の設定と最適な投資政策の遂行に注力せよ。

市場には勝てない。投資で考えるべきは、どれだけリスクを取れるかをふまえた上で、長期的な資産配分の決定をすることである。そして、暴騰や暴落時もその投資政策を維持できるか考えよ。

インデックスファンドを活用せよ。

運用期間が長くなるほど、実際の収益率は平均収益率に近づく。

平均収益率は、普通株>債券>短期資産。

インフレに対応できる投資対象は株式。

運用基本方針を設定する考え方。リスク管理と長期の投資政策を維持していく考え方。

遺産について。

財団等の基金運用について。

はじめに投資の目的を定め、その目的を達するための投資方針を立てる。そして決めた投資の方針は、市場が動揺しても何としても死守せよ。というのが主張です。人生を見すえて投資目的を規定し、目標達成に至る数十年の投資戦略を守ることの大切さを説いています。

 

書評

評価する前に2回読み返しましたが、内容を自分の血肉にしたとは言い切れないです。さすがに名著とされるだけあり、主張は簡潔ですが奥深く感じられます。

いかにインデックス運用以上の成果を得ることが難しいか、思い知らされます。特に数十年という期間では。(これはやり直せない人生の一回分に当たる期間となるわけです。)ですので、投資を始めるとき、運用方針を決定することに最大の注意を払い努力を尽くすべき、との主張は重いものです。

現実をすべて受け入れて、その中で合理的な最善の戦略を維持し続けることが、一個人が勝利に至る道であるという著者の投資哲学は、尊重すべきと思います。自分の人生を自分で守るしかない個人投資家は、教訓として胸に刻むべきと感じます。
(書評2013/03/30)

「内藤忍の資産設計塾 第3版」 内藤忍(著)

長期投資を考えている人が、投資の全体像を学ぶのに適した本です。

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

対象読者層

今後の人生のため、お金について考えてみたい人。
難易度は、入門書レベルよりは上です。
初級者が投資で一歩踏み出そうとするときに、読んでおくと良いと思います。

要約と注目ポイント

本書の価値は、本文の解説そのものにあります。そのため、この要約だけでは意味がありません。本書の内容紹介程度にとらえて下さい。

資産運用の前に

最初に人生の夢や目標を考え、いつまでにお金がどれだけ必要か想定する。

資産全体を俯瞰的に(経営者のような視点で)とらえる。変化に対応しながら、自分の頭で考えて決定する。

投資自体が目的ではない。投資は、人生の夢や目標をかなえる手段なので、冷静に長期的に考える。

投資の考え方

どれだけ損失が発生しても耐えられるか、初めに(リターンではなく)リスクを考える。

投資の成果を決定する、最大の要素はアセットアロケーション(資産配分)である。自分の目的に合わせて、配分を考える。

投資のタイミング、円と外貨、などを分散させてリスクを抑える。インデックス運用とアクティブ運用を使い分ける。

実際の資産運用の解説

投資信託ほか、各金融商品の解説。

アセットアロケーションの考え方、組み立て方、リバランス方法など。

そのほか個人投資家が知っておくべきこと。

投資に興味を持って、少し勉強を始めた人に向いていそうな本です。しっかりと資産運用の大枠を理解できます。

書評

一般の個人投資家が関係しそうな事柄は、すべて網羅されています。これらがとても良くまとまっていて、解説も手堅い印象です。

また投資すること自体が主目的ではなく、人生を充実させるために、市井に生きる社会人が知っておくべきお金のリテラシーを学ぼう、という健全な思考に基づいた本です。

本書1冊を熟読すれば、ぬるいマネー本10冊読む以上の価値があると思います。
(書評2013/03/24)

「金融のプロに騙されるな」 後田亨/渋澤健(著)

 

金融機関の社員にすすめられるまま、金融商品を買うことの危険性を指摘する本です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

入門書レベルと思います。すでに保険や投信を始めているが、よくわかっていない人。これから保険に加入したり投信を買いたい人。将来、保険や投信にお金を使うかなと思われる人。

 

要約

本書は、保険と投信の2編に分かれています。

保険編

・保険を勧めてくる営業担当者や販売員の給与は、販売手数料の利益から出ていることをまず考えよう。売り手側に都合が良い商品が、勧められている可能性がある。保険商品は不透明で、手数料や経費、支払い実績などが明らかではない。

・無料で情報がもらえて当然、と考える日本人が多いのも問題かも?専門家が良識的立場でアドバイスするときは、相談料が発生するのは当たり前と考えるべきでは?メディアにも誤った情報はあるので、自分でもよく考える。

・公的な保険制度や勤務先の福利厚生制度で、使えるものは多い。(高額療養費制度など)それらをまず調べて考えるべきで、重複する保険は無駄。

・保険はそもそも、確率的に低いが起こると重大なイベントに備えるもの。(若くて健康で小さな子どもがいる世帯主の急死など)一生涯の死亡保障や高齢での医療保険などは、低い掛け金で手厚く保障することが原理的に困難。

・確定拠出年金は良い。ほか、いくつか具体的な保険の紹介。

 

投信編

・売れる投信イコール良い投信ではない。売れている投信は、営業担当者が熱心に売る投信であり、手数料が高いなど問題がある。

・毎月分配型や通貨選択型のように、目先の利回りが優先されたり仕組みが分かりにくい投信は避ける。どういうリスクがあり、どのようにリターンを得るのか、自分で理解できる投信を選ぶべき。

・テレビ、新聞、雑誌などメディアの情報も正確でないことがある。運用成績やリターンも、着目する期間によって大きく変わるので、都合のよいデータを示されることがある。

・純資産が増え続けているような投信が良い。信託報酬はインデックスなら0.3~0.5%、アクティブなら1~1.5%が目安。販売手数料は2~3%以下で。そのほか、投信を選ぶ考え方を簡単に。

 

書評

初心者の私が偉そうに批評するのは、気が引けますが。一から勉強を始める人は、まず、やさしい標準的なマネー本を、複数読んだほうがいいと思います。大まかに分かってきて、金融商品である実際の保険や投信を買いたくなったら、本当にそれでいいのか!って自分につっこみを入れるのが、本書の役割かと。入門書を複数読む内の1冊に加えてみると、効果的だと思われます。
(書評2013/03/06)