本書では、株式や為替での損失について確率論的に考えます。デイトレードのような短期取引も、長期保有の投資も扱います。
おすすめ
★★★★★★☆☆☆☆
対象読者層
投資の損失を限定させたい人、金融商品のリスクを知りたい人。難易度は初級者向け以上。高校数学程度の確率を習っていれば、なお良いかと思います。
要約
・本書では、漠然としか認識されていない金融商品の危険性を、確率・統計を根拠に具体的な数字として捉える。金融機関は確率に基づくリスク把握ツールを用いているが、個人投資家も確率思考で大まかにリスクをとらえておくべき。
・変化率の標準偏差がボラティリティである。ボラティリティの大きさは、損失や利益の大きさを示す。
・二項モデルの説明。世の中にはいろいろな行動パターンの人がいて、そのような場合、確率分布はベルの形に近づく。
・ボラティリティから想定しておくべき下落率がわかる。投資期間が長くなればボラティリティも高まり、損失は大きくなる可能性がある。(塩漬けは危険。)
・オプション価格は、将来のボラティリティについての予想を表す。実際には、金融の専門家でも過去の変動に反応して将来を予想している(インプライドボラティリティはヒストリカルボラティリティの変化に反応している)。
・リスク指標にはボラティリティだけでなく、元本損失の確率などもある。
・リスクは予想される損益のバラツキ(標準偏差)、リターンは予想される損益の確率的な平均(期待値)である。リスクとリターンを確率から考えることが重要。(ハイリスク・ハイリターンという表現は確率を考慮しない誤用が多い。)
・個人投資家はインフレに負けない、手数料・コスト・税の低い金融商品を選び、実質のリターンが得られるように考えるべき。
・仕組債や仕組預金の説明(オプション取引の説明)。オプションを売却してもリターンは高まらないが、これらの金融商品は販売する金融機関が利益の一部を抜いているので、マイナスリターンとなる。
・ボラティリティは、データ収集の期間、価格変化率をみる期間、基準の単位をとる期間をそれぞれどう設定するかで変わる。中長期で資産運用するなら、変化率は長い期間(年次変化率)もみるべき。
・バブルの発生と崩壊があれば、ボラティリティは日次変化率より年次変化率が高くなる。平均回帰の性質があれば、ボラティリティは年次変化率より日次変化率が高くなる。
・想定最大損失VaRの説明。投資期間が長いほど、想定最大損失でみたリスクは高くなる。
・実際の金融リスクは、正規分布(対数正規分布)よりテールが厚くなる。また暴落時にボラティリティが高まると、リスク管理を徹底することでさらにボラティリティが高まる。
・金融商品のリスク計算では、モンテカルロ法とヒストリカル法が使われる。モンテカルロ法では、確率分布の形、平均(リターン)、標準偏差(ボラティリティ)の設定により結果が決まる。ヒストリカル法では、過去のデータを開始期間をずらしながら集めていく。
・金融の世界では、複利が基本である(金利や配当だけでなく株価の変動でも)。対数正規分布では、当初の株価を運用後の株価が下回る投資家が多数となる。
・簡易な中長期の金融リスクのシミュレーション(株式投資の場合、早期償還条項やノックイン条項がある場合)。プットオプションの売却を組み込み早期償還条項がついているデリバティブ商品では、メリットは最初の早期償還判定がある時点までの金利に限定される。
・早期償還条項とノックイン条項が両方ついている場合、早期償還条項の方がより重要である。
・金融機関が巨額の損失を発生させた事例(リーマンショックや欧州債務危機)は、リスクの過小評価が根本の原因である。
書評
儲かる方法ではなく、あくまでも確率・統計的に投資を考える本です。特にどこまで損失を想定しなければいけないか、ということを考えています。投資やトレードの本では、損失を限定させることを絶対必要なルールと強調することが多いですが、なかなかできないことです。本書のように、投資を始める前から確率的に損失を想定しておくのは大切でしょう。
投資期間が長ければボラティリティが大きくなるので、損失も拡大する可能性があると繰り返し解説してあります。長期投資でリスクを抑えられると解説する投資本は多いですが、それは間違いのようです。山崎元氏も指摘しています(楽天証券でのレポート)。ファイナンシャルプランナーや金融機関出身の人が書く、よくある解説本とは異なる視点で本書は書かれているので役に立ちます。
(書評2014/06/16)