「敗者のゲーム」は、インデックス運用で長期投資を行う個人投資家にとってバイブルと言える本です。最新の第8版を読んでまとめました。
おすすめ
★★★★★★☆☆☆☆
対象読者層
一生を見据えた、数十年単位での長期投資について考えたい人。
要約と注目ポイント
プロの投資家が集まる市場では、長期間勝ち続けることはできない。1年以上の成績では7割のファンドが、市場平均に負ける。10年では8割、15年では9割のファンドが市場平均に負ける。
優秀なプロが集まり競争する市場では、ミスを減らすことが最も重要なのだ。長期にわたり市場に勝ち続けるファンドはほとんどないし、事前にそのファンドを見つけることもできない。
市場の参加者はほとんどが優秀なプロなので、勝つことよりコストを下げることが大切になる。(勝つために手数料の高いアクティブファンドを選ぶより、低コストのインデックスファンドを選ぶ方が、長期的な成績はずっと良くなる。)
市場に勝つことをめざすのではなく、長期投資の目的を設定し、目的達成のための合理的で現実的な投資政策を選ぶことに注力せよ。そしてその投資政策を、規律を持っていかなるときも守ることが重要だ。長期間の投資で成功したいなら、目的のために投資行動のルールを辛抱強く守り続けよう。
投資とは
ファンドの短期的な成績に目を奪われたり、勝てるはずのない市場に勝とうとしてはならない。長期的な視野を持て。
市場に勝つには、①タイミングの選択で勝つ、②投資対象(銘柄)の選択で勝つ、③資産配分の選択で勝つ、④長期間勝ち続ける投資戦略を開発する、のどれかが必要である。いずれもほぼ不可能だ。
株式市場はときどき大暴落するが、そのあと極めて短い期間で急上昇するタイミングがある。そのタイミングを逃がすと長期のパフォーマンスはとても悪くなる。しかし、その急上昇の期間を事前に知ることは不可能なので、常に市場にいなければならない。(いかなる状況でも投資を続けること。)
投資の基本原則は、いつお金が必要になるか考慮したうえで、長期の資産配分(株式・債券・不動産など)を決めることだ。投資対象は幅広く分散し、投資の方針を(暴落のときも)一貫して守ること。
一時的なマーケットの上下に一喜一憂せず、投資政策を遵守することが大切だ。マーケットの動きに惑わされないためには、歴史に学ぶこと。
インデックスファンドの利点
投資で成功したいなら、インデックスファンドを買おう。
①長期的に大半のアクティブファンドに勝つ。
②低コストである。
③運用目的や長期の投資方針という最重要事項に専念できる。
証券市場は、ほぼ効率的である。効率的な市場では、低コストで、すべての優秀な投資家の平均となるインデックスファンドが優れた結果をもたらす。
低コストで広く分散投資された株式のインデックスファンドは、長期投資に最適だ。
データから投資の方法を知る
個人投資家は人間なので、常に合理的な行動をとることはできない。感情的な売買による損失を防ぐには、インデックス投資が最適だ。
運用期間が長くなるほど、ポートフォリオ全体の実際の収益率は平均収益率に近づく。長期投資では、データが「平均への回帰」に従う。適切なポートフォリオを長期間保つことで、高いリターンが得られる。
普通株の価格の評価は、①将来の企業収益と配当金額、②割引率、というふたつの要素で決まる。長期投資家にとっては①が重要となる。
過去のデータでは、
平均収益率:普通株>債券>短期資産
収益率の変動幅:普通株>債券>短期資産
となる。
インフレ調整後の投資収益率は、
株式>債券>短期資産
となる。
予想インフレ率の変化は、投資収益率に大きな影響を及ぼす。予想インフレ率が上昇すれば株価は下落し、予想インフレ率が低下すれば株価は上昇する。
小さな投資収益率の差も、長期間にわたり複利で運用されると、非常に大きな差となる。長期間の投資では、株式に投資すべきである。インフレを考慮しても、株式投資が良い方法となる。
市場のリスクを引き受けることで、高いリターンを得られる。
長期投資家は、市場のリスクだけを負うべきである。個別株式や特定のセクター、市場セグメントのリスクを取っても、追加収益は得られない。
市場のリスクこそがポートフォリオの収益の源泉なので、市場リスクの管理が長期投資家にとって重要である。市場の極端な暴落期にどれだけ耐えられるかを、リスク許容度と考えること。
個人投資家へのアドバイス
個人投資家にとって問題となるのは、インフレと人生設計上の支出である。予定の決まっている支出と、非常時の支出に備えて貯蓄をする。貯蓄以外の資金は、株式に長期投資する。特に、株式市場の低迷期に投資を続ける。年金収入なども考慮し、インフレに耐えられる老後の計画を立てる。インフレは投資家にとって脅威となる。
長期投資家ならば、債券よりも株式に投資することを勧める。特に最近(本書出版時の2020~2021年ごろ)は、債券の利息がとても低く不利である。
株式市場が大暴落すると、投資方針が揺らぐ。だからこそ、運用の基本方針が大切となる。2020年や2008年の大暴落、またそれ以前の市場の歴史から学ぶこと。
投資に成功した後
投資計画を守りインデックス運用で成功したあとの、子や孫に対する贈与や遺産相続、寄付などについての話。
さらに大きく資産を築けた人のための、社会貢献や慈善活動についての話。資産管理団体や財団の活動や運営に関する話。
書評
「敗者のゲーム」は、インデックス運用を行って長期投資をするのが最良だ、と考える個人投資家たちに熱い支持を受けている本です。私も第5版と第6版を読みまして、それぞれ書評(第5版書評と第6版書評)を書きました。
本書は個人投資家にとって有益な本だと私も思います。ただし、本書を読む意義は少しずつ低下してきたかな、というのが正直な感想です。
本書の主張は、数十年~五十年・百年という超長期で見れば、市場から得られるリターンを完全に享受できる(株式の)インデックス運用が、最も良い結果を生むということです。目先の景気循環や経済ニュースに惑わされず、低コストで市場平均のリターンを得られるインデックス運用を続けろ、と訴えます。
これは普通の個人にとって良いアドバイスなので、しっかりと理解して実行すると、人生を通した資産運用で失敗を避けられると思います。低コストの(株式の)インデックスファンドに継続して投資することの意義を明らかにしたのは、本書の輝かしい業績でしょう。
しかし、本書の初版や「ウォール街のランダム・ウォーカー」の初版が出たころと、現在では投資の環境が変わってきました。本書の初版が出版された40年ほど前では、インデックス運用の素晴らしさはほとんど知られていませんでした。個人投資家も全くインデックス運用をしていませんでした。
現在では、個人投資家にもインデックス運用の有益性は浸透し、実際に継続的に投資する人は増えました。ですので、あえて今、日本人が「敗者のゲーム」を読む必要はないと思います。
敗者のゲームは歴史的に価値のある本です。ただアメリカの本なので、日本人には関係ない記述も多く(確定拠出型年金の401kなど)、日本の税制と違うので読み飛ばしてよいページもあります。逆に日本人の個人投資家にとって極めて重要な、iDeCoやNISAの効果的な利用法などはないので、それを知るには日本人が書いた投資本を読む必要があります。
結論としては、今の普通の日本人投資家はあまり読む必要がない本と思われます。投資に興味がある人には、1度読んでおくと良い本と言えるでしょう。(書評2022/7/27)