「長期投資の方法」カテゴリーアーカイブ

「貧乏人のデイトレ 金持ちのインベストメント」 北村慶(著)

 

表紙とタイトルは微妙ですが、まじめな長期投資を勧める入門書です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

長期での投資や資産形成を解説した本なので、長期投資を勉強したい人向けです。特に、年金不足のために自分で老後の生活資金を用意することを、主眼において記述しています。難易度は初級者ぐらいが適当かと。

 

要約

・ジニ係数でみると、日本の所得格差は拡大しつつあり、再分配後の所得格差も拡大する傾向がある。日本の財政事情から、今後は再分配機能が低下すると考えられる。

・小泉自民党や前原民主党はリバタリアニズムであり、経済的にも思想的にも小さな政府をめざす。リバタリアン政権下では、資産運用や老後資金の用意は自己責任。

・60代以上では年金で生活できるが、40代以下は年金だけでは老後は生活できない。
40代以下は、2000~3000万円ほど老後資金が不足する。

・投資とは、トレーディング(短期売買)ではなくインベストメント(長期投資)だ。

・資産運用で最初に考えることは、運用のゴールである。年金不足を補うための資産運用となる。そのため運用方針は、①20~35年の超長期で、②大負けはできないが、③途中での一時的な損失は許容でき、④インフレで目減りしない、となる。

・アセットアロケーションの解説。運用ポリシーを守り、ポートフォリオを維持し続けることで、期待した収益率が得られる。

・短期売買では数十年勝ち続けることはできないし、常に市場が気になって生活の質が低下する。長期投資では数十年継続することで、期待した収益率に近づく。

・株式の収益率は、次のように表される。
= 国債利回り(リスクフリーレート) + アルファ(銘柄独自の収益率) + ベータ(市場に対する銘柄の感応度) × 市場全体の収益率(マーケットリスクプレミアム)
負けない投資では、まずは市場全体の収益を享受できるよう、ベータに追随すること(下線部)を考えてパッシブ運用を行う。

・個人投資家の武器は、複利効果と時間分散投資である。機関投資家は年単位の決算に縛られるが、個人投資家は数十年後が重要なので、複利の効果を大きく受けられる。また給与から定時定額投資(ドルコスト平均法)ができるので、投資のタイミングも自然と分散できる。

・資産配分が運用成績のほとんどを決める。相関の少ない資産に分散投資すると、リスクとリターンが改善する。どれだけリスクがとれるか考え、ポートフォリオを作る。

・アルファを求めてアクティブ運用をするなら、業種の異なる10銘柄程度の株式で、自前ファンドを作ってみよう。

・家を買うことは、借金して不動産に投資することだ、という認識を持っておく。

・日本だけでなく、世界経済全体に分散投資しよう。

・個々人が自分の仕事をがんばることで、日本経済が成長し、その結果、個々人も市場の成長を享受できる。

 

書評

個人が投資を実践するにあたり、読むには価値のある本と感じます。出版が2006年のため、政治状況や経済的なデータがやや古く、世界的な金融危機や東日本大震災を考慮していないところが少し物足りないです。投資の基本を学ぶという点では問題はありませんが。
(書評2013/06/01)

「投資戦略の発想法2010」 木村剛(著)

 

シリーズ累計25万部の良質な投資本として、本書はときどき取り上げられています。現在は、街なかの本屋にはほとんど在庫はないようなので、通販での購入がおすすめです。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

投資の常識を身につけて、長期にわたる資産形成の計画を立てたい人。投資に取りかかる前に準備すべきことや、将来の資産を着実につくり、その価値を維持していくための考え方を学びたい人。難易度は入門書から初級者向け程度。

 

要約

・日本の社会は、資本主義を理解しておらず、資本主義の原則が通用しない。

・個人は、ゆっくりと確実に資産形成することを考えよ。派手に儲けることが投資ではない。

・保有資産と負債の現在の価値を、一覧表にして把握せよ。月に1回程度、定期的にモニタリングする。

・自分を制御し節約して、生活水準を収入以下に保つ。借金はまず返済する。マイホームへのこだわりは捨てる。

・最初に2年分の生活費を、生活防衛資金(失業などの非常時に備えるお金)として貯める。少なくとも1年分は貯めよう。とにかく節約し、給料の天引き預金などで、コツコツ貯金し複利で殖やすこと。このお金は、すぐに換金できる銀行預金や郵便貯金、MMFや短期国債などにしておく。

・まずは自分の仕事をがんばれ。自分の本業に全力で取り組み、自分の価値を向上させよ。あくまでも資産運用は副業である。

・金利、株価、物価、為替の基本原則を理解する。

・資本主義経済は、豊かになりたいという人間の欲望によって動かされ、拡大再生産されるシステムである。(長期的には市場は拡大し、投資すれば最終的に株式市場からリターンが得られる。)個人投資家は超長期の視点で、株式を中核に資産運用せよ。

・投資は、生活防衛資金を確保した上で、暴落しても動揺しない程度にとどめる。

・資産は分散して投資せよ。

・人間は合理的には判断できない。

・①銀行預金(生活防衛資金)、②日本株式、③外貨MMF、④外国ETF、⑤日本国債の5分割ポートフォリオをつくる。

・日本株式を運用の主力とし、自分が転職したいような、自分がオーナーになりたいような、優良企業20銘柄に投資する。(業種は分けて、銘柄ごとに投資額が偏らないよう均等に分散させる。難しければ、インデックスファンドやETFで良い。)タイミングを分散させて投資し、とにかく長期で保有する。デイトレードは厳禁。

・金融商品は、コストが低く、理解できる単純な仕組みで、流動性が高く換金しやすいものを選ぶ。

・金融詐欺に注意。異常に利回りが高いなど、うまい話はほとんどが詐欺。

 

書評

まともな内容なので、20~30年間かけて本書の教えを守り続ければ、それなりの資産が築けそうに思われます。読んで勉強にはなります。
著者はいろいろな体験をしたためか、本書では社会主義的な日本社会への不満・苛立ち・嫌悪感・怒りが爆発しています。もう少し冷静な記述の方が望ましいかとは思います。あと、500ページ以上あるので、読むのは結構大変です。
(書評2013/05/20)

「ウォール街のランダム・ウォーカー 原著第10版」 バートン・マルキール(著)

 

投資を考える上で外せない古典の紹介です。インデックス運用派の世界では、以前取り上げた「敗者のゲーム」と双璧をなす名著とされます。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

お金について長期の視点で考え、資産運用の堅実な計画を立てたい人。長期投資(特に株式投資)の基礎的な考え方を学びたい人。難易度は初級者以上が適当と思われます。

 

要約

・歴史的に、投資の考え方は2つあった。1つは「ファンダメンタル価値」学派で、将来予想される収益や配当から、投資対象の現在の価格が高いか安いかを評価するものである。もう1つは「砂上の楼閣」学派で、市場の心理的要素を重視し、これから価格が上昇するか下落するか、市場のコンセンサスをとらえて、利益を追求するものである。

・時代、国、地域、対象を問わず、バブル相場は繰り返されてきた。

・主要な株価分析法は、テクニカル分析とファンダメンタル分析である。

・基本的に、「砂上の楼閣」学派はテクニカル分析を、「ファンダメンタル価値」学派はファンダメンタル分析を論拠とする。

・テクニカル分析を用い、長期にわたり市場平均を上回り続けた例は過去に見つからない。過去の株価の推移から、有効な将来予測はできない。

・ファンダメンタル分析を試みても、将来の企業収益は正確に予測できない。そのため、現在の適正株価を想定しても正しいか判断できず、予測した将来の株価も的中しない。アナリストの業績予想は誤差が大きい。

・すべての投資信託のパフォーマンスを平均すると、インデックスファンドのそれを下回る。また、どの投資信託が高いパフォーマンスを示すか、購入前に知る方法はない。

・リスクについての考え方。リスクをとれば、リターンが期待できる。リスクは、適切なポートフォリオによって低減できる。

・行動ファイナンス理論について。

・個人のライフサイクルと投資戦略について。

 

書評

長年の株式市場研究の成果から、インデックス運用の有効性を強調しています。最近の効率的市場理論への批判を意識して、これに反論する記述の量が多いのですが、そのためやや要点がぼやける印象はあります。(まとまりを欠くと感じるのは、私の理解力が至らないせいでもありますが。)

結局のところ本書から、個人投資家は次のようなシンプルな主張を受け止めれば良いと思われます。
『自分の人生で必要なお金について考え、長期で計画を立てる。計画に従い、株式・債券・不動産・現金などのポートフォリオを組む。自国だけでなく世界に分散して投資する。
収益と分散の観点から、インデックス運用を行う。期待する収益率に近づけるため、できるだけ長期で継続的に投資する。』

なお、インデックス運用を主体としつつも、アクティブな運用を行う際のアドバイスも述べています。そのアドバイスは、
①今後5年以上、市場平均を上回る成長をすると予想される。
②まだあまり注目されておらず、それほどPERは高くなっていない。
③将来は市場の期待を集め、PERが高くなると考えられる。
④売買の頻度を減らし、コストを抑える。
という条件を満たす銘柄に投資せよ、です。

これは、言うのは易しいが行うのは極めて困難な内容です。自分の仕事や生活に時間をとられる個人投資家は、インデックス運用の利点を最大限に活かすべき、と考えることにしましょう。また、最後の『訳者あとがきに代えて』がとてもわかりやすいので、読まれることをおすすめします。
(書評2013/05/12)

「敗者のゲーム 原著第5版」 チャールズ・エリス(著)

 

著者は投資に対し、豊富な知識と経験を持っています。個人投資家が読むべき、長期投資の古典的名著です。

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

 

対象読者層

初級者以上。お題目ではなく、真に長期投資を志す人が対象となります。

長期(5年や10年のレベルではない)を見据えて、投資に取り組みたい人。

著者はすべての投資家(個人投資家に加え機関投資家も含む)に対して、語っています。しかし、皮肉なことですが、本書の内容はすべての投資家に受け入れられることはなく、人を選ぶでしょう。

どこまでも冷静に自分を見つめ、市場の熱狂から離れ、感情を制御し、自分の能力の限界を悟り、合理的精神と判断を尊ぶ人が、本書の対象となります。

 

要約と注目ポイント

要約し難い本です。この要旨の羅列ではなく、実際の本文に価値があるとご理解下さい。

10年を超えるような長期では、大半のファンドの成果は市場平均を下回る。また、市場平均を上回る少数のファンドを、事前に見出す方法はない。したがって、市場に勝つことではなく、投資目的の設定と最適な投資政策の遂行に注力せよ。

市場には勝てない。投資で考えるべきは、どれだけリスクを取れるかをふまえた上で、長期的な資産配分の決定をすることである。そして、暴騰や暴落時もその投資政策を維持できるか考えよ。

インデックスファンドを活用せよ。

運用期間が長くなるほど、実際の収益率は平均収益率に近づく。

平均収益率は、普通株>債券>短期資産。

インフレに対応できる投資対象は株式。

運用基本方針を設定する考え方。リスク管理と長期の投資政策を維持していく考え方。

遺産について。

財団等の基金運用について。

はじめに投資の目的を定め、その目的を達するための投資方針を立てる。そして決めた投資の方針は、市場が動揺しても何としても死守せよ。というのが主張です。人生を見すえて投資目的を規定し、目標達成に至る数十年の投資戦略を守ることの大切さを説いています。

 

書評

評価する前に2回読み返しましたが、内容を自分の血肉にしたとは言い切れないです。さすがに名著とされるだけあり、主張は簡潔ですが奥深く感じられます。

いかにインデックス運用以上の成果を得ることが難しいか、思い知らされます。特に数十年という期間では。(これはやり直せない人生の一回分に当たる期間となるわけです。)ですので、投資を始めるとき、運用方針を決定することに最大の注意を払い努力を尽くすべき、との主張は重いものです。

現実をすべて受け入れて、その中で合理的な最善の戦略を維持し続けることが、一個人が勝利に至る道であるという著者の投資哲学は、尊重すべきと思います。自分の人生を自分で守るしかない個人投資家は、教訓として胸に刻むべきと感じます。
(書評2013/03/30)

「内藤忍の資産設計塾 第3版」 内藤忍(著)

長期投資を考えている人が、投資の全体像を学ぶのに適した本です。

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

対象読者層

今後の人生のため、お金について考えてみたい人。
難易度は、入門書レベルよりは上です。
初級者が投資で一歩踏み出そうとするときに、読んでおくと良いと思います。

要約と注目ポイント

本書の価値は、本文の解説そのものにあります。そのため、この要約だけでは意味がありません。本書の内容紹介程度にとらえて下さい。

資産運用の前に

最初に人生の夢や目標を考え、いつまでにお金がどれだけ必要か想定する。

資産全体を俯瞰的に(経営者のような視点で)とらえる。変化に対応しながら、自分の頭で考えて決定する。

投資自体が目的ではない。投資は、人生の夢や目標をかなえる手段なので、冷静に長期的に考える。

投資の考え方

どれだけ損失が発生しても耐えられるか、初めに(リターンではなく)リスクを考える。

投資の成果を決定する、最大の要素はアセットアロケーション(資産配分)である。自分の目的に合わせて、配分を考える。

投資のタイミング、円と外貨、などを分散させてリスクを抑える。インデックス運用とアクティブ運用を使い分ける。

実際の資産運用の解説

投資信託ほか、各金融商品の解説。

アセットアロケーションの考え方、組み立て方、リバランス方法など。

そのほか個人投資家が知っておくべきこと。

投資に興味を持って、少し勉強を始めた人に向いていそうな本です。しっかりと資産運用の大枠を理解できます。

書評

一般の個人投資家が関係しそうな事柄は、すべて網羅されています。これらがとても良くまとまっていて、解説も手堅い印象です。

また投資すること自体が主目的ではなく、人生を充実させるために、市井に生きる社会人が知っておくべきお金のリテラシーを学ぼう、という健全な思考に基づいた本です。

本書1冊を熟読すれば、ぬるいマネー本10冊読む以上の価値があると思います。
(書評2013/03/24)