「投資手法」カテゴリーアーカイブ

「トレードシステムはどう作ればよいのか 2」 ジョージ・プルート(著)

 

さまざまなトレードシステムを、評価し分析します。「トレードシステムはどう作ればよいのか 1」の後編です。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

システムトレードを行う人。

 

要約と注目ポイント

本書は、先物や株式市場のアルゴリズム取引についての評価と分析を掲載する、「フューチャーズ・トゥルース誌」の記事をまとめたものである。2006年から2012年の記事となる。

さまざまなシステムの評価と分析

・ケリーの公式について。

・適応型システムについて。

・オープンレンジブレイクアウトの評価。

・有限状態マシンの解説。

・オシレーター系インディケーターの検討。

・S&P500のデイトレードの評価。

・エクセルのVBAによるシステムの検証とトレード。

・商品の買いのみのトレードを評価する。

・電子市場におけるトレードの注意点。

・システムテスター「ガジット」で、日中データを検証する。

・「アルゴリズムトレーディング入門」、「TradeStation Made Easy」、「Modeling Trading System Performance」、「Alpha Trading」の書評。

・タートルシステムの再考。

・固定比率ポジションサイジングの検討。

・ポートフォリオの構築。

・過去に作成したシステムの再考。

・トレードステーションのカスタマイズ。

・ラッセルデイトレードシステムでの改善。

・現在でもトレンドフォローは有効か。

・パターン認識について。

いろいろなアイデアや手法に基づくシステムを、徹底的に評価し分析します。ものすごいページ数なので、システムトレードを行う人には、参考になるシステムがあるかもしれません。

 

書評

本書は「トレードシステムはどう作ればよいのか 1」の後編です。前編と同様、はじめに申し上げますが、私はシステムトレードを行わないので、よくわかりません。おすすめは★5個の普通にしてあります。

この本のシステムトレードは、価格データのみに基づくためか、経済動向の記述は一切ありません。前編と後編で13年ほどカバーし、ITバブルにもサブプライムローン危機にもかかった時期ですが、全く無視です。ただひたすらボラティリティが高いか低いか、値動きがどうかを検討しています。

完全に価格データに集中し、経済を無視している姿は、清々しいほどです。ファンダメンタル的要素を加えたら、もう少しパフォーマンスが向上しそうな気もするのですが、余計なお世話でしょうか。
(書評2015/07/22)

「トレードシステムはどう作ればよいのか 1」 ジョージ・プルート(著)

 

世間に出回っている、さまざまな売買システムを検証します。売買システム分析のフューチャーズ・トゥルース誌の連載を、本にまとめています。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

システムトレードを行う人。

 

要約と注目ポイント

本書は、先物や株式市場のアルゴリズム取引についての評価と分析を掲載する、「フューチャーズ・トゥルース誌」の記事をまとめたものである。1999年から2005年の記事となる。

さまざまなシステムの評価と分析

・動的なブレイクアウトシステムの評価。

・各デイトレードシステムの評価。

・損切り手法の比較。

・先物市場のシステムを株式市場に移行した結果。

・ミニ先物でのシステムトレードを評価。

・S&P500とナスダック100。

・ボラティリティが高い市場での比較。(2000年のITバブル末期の時期と思われる。)

・ナンピンを続けるスケールトレードの評価。

・静的なマネーマネジメントストップと、動的なプロテクティブストップの比較。

・移動平均の検討。

・パターン認識の検討。

・大きな利益を目標とする長期システムにおいて、適切な利食いとは。

・通貨のオーバーナイトトレードでの、翌朝の寄り付きについての検討。

・勝てるトレードシステムの検討。

・賭けのサイズの検討。

・複数のシステムを使うとどうなるか。

・ゾーン分析の評価。

・トレンドフォローシステムについて。トレンドフォローシステムには、トレーリングストップを併用する。トレンドフォローシステムの改善。

・オープンレンジブレイクアウトについて。

・ボラティリティが低い市場での評価。

・資産曲線をトレードに応用することの是非。

・モンテカルロ法の適用。

・ギャップはトレードに利用できるか。

・S&P500のデイトレードで有効な方法。

・商品ポートフォリオの分散化。

・タートル・トレーディング・アプローチの評価。

いろいろなアイデアや手法に基づくシステムを、徹底的に評価し分析します。ものすごいページ数なので、システムトレードを行う人には、参考になるシステムがあるかもしれません。

 

書評

はじめに申し上げますが、本書の評価はよくわかりません。私はシステムトレードを行わないので、おすすめを★5個の普通にしてあります。システムトレードを実行される方には、参考になる本ではないでしょうか。

トレードを完全にシステマティックに実行して、その成果について評価と分析を行う本です。システムトレードでも、多少はファンダメンタル的な指標を入れる方法もあると思うのですが、本書はすべて価格データに基づいた手法のようです。

しかし、個人がデータを解析しトレード手法を開発したとして、プロやマーケットに勝てるのでしょうか。データ解析、評価、分析の能力。決められた通りのトレードを繰り返すにあたっての資金量。力勝負になると、個人がプロ組織に正面から勝つのは難しそうにも思えるのですが。実際はどうなのでしょう。

勝てるトレード方法を開発しても、勝ち続けられる期間はそう長くないようです。勝てなくなって、別のシステムに変更したり、新しい方法をまた開発しなければならないようです。厳しい話です。
(書評2015/07/22)

「バーンスタインのトレーダー入門」 ジェイク・バーンスタイン(著)

 

トレードの要点を、30日で速習できる本です。トレードで利益をあげるための技術を、順番に素早く学びます。

おすすめ

★★★★☆☆☆☆☆☆

 

対象読者層

アノマリーを利用するトレードや、システムトレードの手法を、さっと知りたい人。

 

要約と注目ポイント

個人投資家が短期トレードで利益をあげられるように、投資ツールを30日で学習する。

30日の学習プログラム

・1~2日目
トレーディングの枠組みとなる、3つの条件を知る。
①セットアップ
②トリガー
③フォロースルー
仕掛けと手仕舞い、利益を伸ばし損失を小さくするルールを決める。パフォーマンスを検証する。

・3~5日目
季節性に基づくセットアップと、それに有効なトリガー。ストップロスなどのフォロースルーについて。

・6~9日目
モメンタム手法について。

・10~11日目
移動平均チャネルを使うトレード。

・12~14日目
価格パターンについて。

・15日目
移動平均線を使うトレード。

・16~19日目
COTリポートの利用法。

・20~21日目
S&P500のブレイクアウト手法。

・22~24日目
ポートフォリオの管理法。

・25~27日目
トレード手法を分散し、パフォーマンスを安定させる。

・28日目
まとめ。

・29~30日目
心理のコントロール。

トレードの基本を身につけたあと、いろいろな手法を順番に学んでいきます。

 

書評

トレード手法のつくり方の一例を、知ることはできそうです。このような方法で著者は成功したのか、とは思うのですが、今の自分には役立ちそうにはありません。10年以上前のアメリカ先物市場のデータなので、ちょっと使いにくい感じです。

まあこのような方法を真似て、自分がトレードする市場のデータを分析すればいいのかもしれません。合う人には参考になるでしょう。私にはちょっと合わない方法でした。

本書の内容では、パフォーマンス安定化のために、投資対象銘柄、タイミング、トレード手法を分散させるというのは、確かにいいと思います。自分もやっています。それから、心理のコントロールの大切さを解説していますが、これも妥当と感じました。
(書評2015/07/12)

「日経平均トレーディング入門」 國宗利広(著)

 

30年間トレーダーとして過ごした著者が、日経平均の本質を語ります。日経平均とは何か、勉強できる本です。

 

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

今後の日本株式市場が気になる人。難易度は、初級者レベル以上。

 

要約と注目ポイント

日本株式市場を代表する指数といえば、日経平均。日本経済とも深く関係するように思われ、国民にも馴染みのある日経平均だが、その実態を知る人はとても少ない。

日本株に投資をするなら、日経平均についてもっと知るべきだ。

 

日経平均の特徴

ボラティリティが高い。

時価加重平均でもNYダウ式単純平均でもない、ハイブリッド指数である。

先物の売買シェアは、外国人が7割。外国人の動きで方向が決まる。

 

日経平均とアベノミクス

2012年末以降の日経平均は、株価をきわめて重視する安倍政権のリフレ政策アベノミクスと、日銀の異次元緩和の影響が大きい。

だが株価が上がるかどうかは、リフレ政策が理論的に正しいかどうかは関係なく、ヘッジファンドの投機的資金が集まるかどうかで決まる。(2兆ドル以上の資産にレバレッジがかかる。)

FRBが金融緩和を止めたあと、ヘッジファンドが日本の株を買うのか?

 

日経平均を動かす外国人の力は、非常に強いです。そして異次元緩和以降は、中央銀行相場ともなっています。これらの相互作用の結末はいかに?

 

日経平均とバブル

バブルは、壮大なテーマ、大きな投資主体、便乗する欲深い投資家の群れ、という要素の相互作用で発生する。

 

1980年代後半のバブル

テーマ:低金利と豊洲の再開発

投資主体:経験の浅い機関投資家と営業特金(事業法人の資金を証券会社が運用)とファントラ(信託銀行が運用)

バブル崩壊のきっかけ:不動産融資の総量規制と営業特金の廃止

 

現在進行形の相場

テーマ:デフレからの脱却

投資主体:外国人投資家

値動きの激しい日経平均先物は、外国人投資家の大好物となっている。歴史上、バブルは何度でも繰り返してきた。現在の相場も、バブルに至る可能性はある。

 

先進国の中央銀行が金融緩和を続けているため、資産価格にバブルの疑いがあります。

 

日経平均の歴史

日経平均株価指数、誕生から現在までの歴史を解説。

日経平均の性質は、銘柄入れ替えを境に変わった。

2000年に30銘柄の一斉入れ替えが行われた。このとき1週間の準備期間をおいたために、除外銘柄が極端に売られ、採用銘柄が極端に買われた。存続する195銘柄の合計株価より、新規30銘柄の合計株価の方が高かった。

このような歪みのため、入れ替え前後で日経平均は2000円下落し、存続銘柄の指数への寄与度はいきなり半減した。

2005年には、みなし額面方式へ移行した。これによって、分割銘柄の指数寄与度が上がり、除数も低下しなくなった。日経平均は上がりにくい、特殊な指数になってしまった。

 

日経平均には225も銘柄がありますが、指数に与える寄与度としては、一部の銘柄が突出しています。

 

日経平均の先物を理解する

(信用取引を含む)現物市場は株券が存在する有限の世界だが、先物市場は資金さえあれば無限に取引できる。

信用残は主体的な取引の結果なので分析の対象となるが、裁定残は裁定業者の受動的な結果なので分析の対象にはならない。

先物取引は短期トレードである。短期トレードで最も大切なのは、正しい思考法である。

『どちらに動くかわからないが、不定期にトレンドが発生するので、可能性があれば乗り、間違ったらすみやかに降りて、適切な期間トレンドに乗り続け、適切に資金管理を行う。』

はじめに身につけるべきは規律(損切り)。

 

日経平均先物で勝つ

短期トレーディングの鉄則は、弱いヤツを探し、彼らの行動を予測してその逆を行くこと。弱いヤツとは、決断が遅く行動が遅く、過去の実績やコンセンサスを求め、未来を見ず主体的に動けないため、窮地に陥っている人である。

外国人は素直にシンプルに考え、大胆に動く。市場を動かす外国人が大きく動き、弱いヤツが出遅れているときに、思い切って行動できるかが勝負だ。

市場パターンや外部環境の変化について経験を積み、機械的にトレードして規律を守りながらも、それらをすべて包括する直感を使うことが相場では必要。

先物市場では、時間枠で投機と実需を区別して考えるのが重要だ。反対売買できなかった投機が、新たな実需にぶつかるまで値が動く。需給を自分で見抜く力が要求される。

大口の投資家は、隠密に行動する(買い上げたり売り叩くことはない)。夜間は、裁定取引や国内機関投資家の実需が少なく、より投機で動く。

 

ゼロサムゲームの先物市場では、勝者と敗者がくっきりと分かれます。

 

市場に関する解説で、よくある誤り

裁定残が多いと要注意で、少ないと好需給。

金利が上昇すると、解消売り。

外資系の決算期末には、解消売り。

市場の急変動はアルゴが原因。(順張り系アルゴが連鎖することはあまりない。)

オプション建玉の多い方に、相場が動く。

幻のSQは、相場の転換点。

VIXで相場の流れがわかる。

大口の手口情報。

 

新聞やネットのよくありがちな解説記事を、うのみにするのはやめた方が良いかもしれません。

 

そのほかの解説事項

裁定取引やレバレッジETFなど。

 

書評

日経平均の知識を得るために読みましたが、面白かったです。金融市場の現場にいる人にありがちな、ちょっと斜に構えたような、皮肉っぽい表現も多いのですが、面白いし、知らなかったことがたくさんありました。日経平均指数の性質の解説は、勉強になりました。

とはいえ、実戦の先物短期トレーディングは私にはさっぱりわかりません。そのため、需給を読めとか、板から情報を読み取れと言われても、どうにもなりません。そういうものなのか、としか言えないので、おすすめ度は★5個の普通にしてあります。

著者は金融市場(トレード)の世界で30年やってこられたようなので、あらゆることを考え体験し、一周回ってきたという感じです。淡々と市場を冷めた視線で眺めているような印象です。
(書評2015/05/29)

「クオンツトレーディング入門」 リシ・K・ナラン(著)

 

アルゴリズム取引で市場を動かすクオンツ。クオンツのトレード手法とはどんなものか、理解に役立つ1冊です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

クオンツ戦略の概要を知りたい人。

 

要約と注目ポイント

本書では、ブラックボックスとされるクオンツトレーディングについて、正確に評価する枠組みを提示する。

アルファを追及する戦略に焦点を当てて解説する。

 

クオンツとは

クオンツトレーディングとは、徹底的な調査に基づいて人間が作成したトレーディング戦略を、コンピュータがシステマティックに実行することである。

リサーチ、データ収集とその編集や加工、投資対象の選定、戦略の決定は人間(クオンツ)が科学的に行っている。規律正しくクオンツ戦略を実行し、トレードを反復するのはコンピュータである。

市場において、クオンツのアルゴリズム取引の比率は高まってきており、その影響は大きい。

クオンツに必要な能力

クオンツはあらゆることを定義づけるために、深く掘り下げて考えなければならない。

この科学的思考が、クオンツの優位性である。大局的な視点、細部の厳密な思考はともに重要だ。

トレーダーには、リスクに対する正しい理解と測定が必要だ。間違ったリスク測定に過度に依存したとき、問題が生じる。

クオンツに学ぶべきは、規律正しい戦略実行である。人間(自由裁量のトレーダー)は感情に動かされやすい。

科学的思考により緻密に構築されたシステムを、規律正しく実行するのがクオンツです。

クオンツトレーディングシステムの基本的構造

アルファモデル:リターンを獲得するための将来予測モデル
リスクモデル:損失を限定させるためのモデル
取引コストモデル:ポートフォリオ変更にかかるコストを計算するモデル

これら3つのモデルの、利益追求、損失限定、コスト制約の要素がポートフォリオ構築モデルに取り込まれる。

ポートフォリオ構築モデルが最良のポートフォリオを決定する。それをめざして執行モデルがトレードする。

クオンツトレーディングシステムには、データとリサーチが不可欠である。システム構築後でも、多大なリサーチが必要となる。

 

アルファモデル

ベンチマークを超えるリターン部分、アルファは、ポートフォリオの選択とサイジングをいつ行うかというタイミングから得られる。

いつ売買するかというタイミングを図るためにクオンツが構築するのが、アルファモデルである。

アルファを追及する、核となるトレーディング戦略は多くない。しかしこれらの基本的戦略を実行する方法は多岐にわたる。

アルファモデルは、予測する対象、予測する期間、予測方法(資産そのものを評価するか、資産間の比較で評価するか)、戦略の適用対象、モデルの具体化(定義)、実行頻度で分類できる。

理論駆動型とデータ駆動型

クオンツは、理論駆動型とデータ駆動型に分かれる。

理論駆動型は、市場を観察して現象を説明できる一般化理論を考え、データで検証し理論の正誤を確かめる。

理論駆動型戦略には、トレンド、平均回帰、バリュー・利回り、グロース、質という5つの概念がある。これらは裁量トレーダーと全く同じである。

トレンドと平均回帰は価格データに基づく。バリュー・利回り、グロース、質はファンダメンタルデータに基づく。

データ駆動型は、市場を観察して正しく分析できれば(パターン認識できれば)、理論は必要ないとする。

データ駆動型戦略の特徴は、高度の数学を用い難しいことと、パターン認識が正しければ人間に理解できる理論は必要ないことである。この戦略では、利用するデータの選択と、データに含まれるノイズが問題となる。

アルファを追求する戦略でも、理論駆動型はわかります。売られ過ぎ、買われ過ぎを狙う平均回帰とか、割安株と割高株の裁定などは、素人でもその概念は理解できます。データ駆動型は、素人にはちょっと難しいかもしれません。

リスクモデル

リスク管理

リスク管理とは、リターンの質と安定性を向上させるために、エクスポージャーを意図的に選択して、望ましいエクスポージャーの大きさを管理し、望ましくないエクスポージャーの対処をすることである。

リスク管理の方法

リスクサイズを制限する。
1つのポジションの最大量を、ポートフォリオ全体の一定比率以下にする。
ボラティリティからリスクを測定する。
ポートフォリオ全体のレバレッジを管理する。
偶発的なエクスポージャーを排除する。
システマティックリスク(市場そのものからのリスクなど)を特定し低減する。

などの方法がある。

リスク管理の方法にも、個人投資家が学べるところはあります。1銘柄のポジションの最大量を抑えるとか、ポートフォリオ全体のレバレッジを抑えるなど、基本に思われます。

取引コストモデル

取引コストモデルは、任意のトレード(現在のポートフォリオから望ましいポートフォリオに変更するトレード)にかかるコストを計算する。

取引コストには、売買手数料、スリッページ、マーケットインパクトがある。

ポートフォリオ構築モデル

ポートフォリオ構築モデルが、アルファモデル、リスクモデル、取引コストモデルの3つを基にして、ポートフォリオを決定する。

ポートフォリオ構築には、ポジション均等加重、リスク均等加重、アルファ駆動型加重、決定木による加重の4タイプがある。

現代ポートフォリオ理論に基づいて、ポートフォリオは最適化される。期待リターン、期待ボラティリティ、資産の相関マトリックスが用いられる。クオンツによって、少しずつ異なる最適化手法がとられる。

執行モデル

目標ポートフォリオが決定したら、執行モデルに従いトレードされる。

注文執行のアルゴリズムでは、考慮する要素は多い。どれほど積極的に注文を出すか(成り行き注文、指値の価格、数量、頻度)、複数の市場への注文、他のトレーダーの注文状況、取引の執行状況などにより、高速で最適に処理されるようなアルゴリズムでなければならない。

アルファモデルによって、最適な執行モデルも変わってくる。最先端のテクノロジーと巨額の資金が投入され、競争は厳しい。

データ

データはきわめて重要である。クオンツトレーディングシステムは入出力モデルであるから、悪いデータが入力されれば、システム内部のモデルが優れていても、悪い結果が出力される。

データには、価格データとファンダメンタルデータがある。価格データに基づくトレーディング戦略は、ファンダメンタルデータによる戦略より、短期の高速トレーディングになりやすい。

データは一次資料供給源の生データのほか、データを使用しやすいようにまとめた二次データベンター、三次データベンターから入手する。

こうして入手したデータだが、欠損や間違い、データ発生時刻の記録のずれなどがある。そのため、データのクリーニングや保存が必要である。

リサーチ

クオンツはリサーチを科学的方法で行う。これにより論理と一貫性がもたらされ、クオンツトレーディングシステムは厳密性と規律を保つ。

また市場は変化し続けるので、継続的にリサーチは行われる。

リサーチの中核となるのが検証である。検証は複雑すぎても簡単すぎてもいけない。検証には、取引コストの推計や空売りが可能かといった仮説も必要となる。

個人投資家も、過去の取引の検証をして、反省をした方が良いと思います。

投資家とクオンツ戦略

モデルリスク

クオンツシステムのリスクのひとつに、モデルリスクがある。

これは現実世界を近似するモデル化に、エラーが存在したときに起こる。誤った適用や定式化、実装エラーなどがモデル化でのエラーの原因となる。

また、市場の振る舞いの変化や外因性ショックにより、モデルは打撃を受ける。

外因性ショックとは、9.11同時多発テロ、イラク戦争開始、ベア・スターンズ救済決定、サブプライムローン危機時の金融株空売り規制実施などであり、モデル化できないので自由裁量で対処することになる。

リスクの具体例は想像できなくても、空想レベルでは日頃からいろいろ考えておくと良いでしょう。

伝播リスク

クオンツシステムのリスクには、伝播リスクもある。

これはクオンツ戦略自体のリスクではない。多くの投資家が同じ戦略を選び、市場で同じ戦略に基づく巨大なポジションが形成されたときのリスクである。

リスク管理も同じようなモデルで行うので、何らかの理由でどこかのクオンツに損失が発生しロスカットが生じると、同じ戦略の他のクオンツの損失が拡大し、ポジションを縮小する動きが連鎖的に発生する。

このように、同時に同じ方向に損切りトレードが殺到すると、流動性が失われる。

流動性が失われたことにより、巨大な損失を埋めるために、他の無関係な戦略の流動性がある資産を投げ売りせざるをえなくなり、別の戦略のクオンツにも影響を及ぼす。

このクオンツのリスクイベントは、2007年8月に発生した。

大口の機関投資家などが、同じ戦略で同じ方向に投資していると、危険なことが起こります。投資対象が混雑しているときは、避けることが賢明です。

クオンツへの批判

クオンツは長年批判を浴びてきた。その批判には、妥当なものも不当なものもある。

市場の計量化の批判については、完璧はありえないが、かなりの精度を持たせることはできると考える。クオンツがリスクを過小評価しているという批判については、モデルの仮定に誤りがあると言える。

また、クオンツがボラティリティを高めているという批判は間違いだ。2008年の金融危機はクオンツが原因ではないし、クオンツは危機をうまく乗り切ったと言えるだろう。

クオンツはヒストリカルデータに依存するが、市場の急激な変化に全く対応できないわけではない。

クオンツは皆同じという批判は誤りで、非常に多様な戦略がある。

クオンツは、規模が大きい方が有利ということはない。データマイニングも、正しく行えば経験科学となる。

投資家がクオンツを評価するには

クオンツと信頼関係を築き、事前に一般的なクオンツ戦略を学習してからクオンツに質問する。質問から得た情報は整理して管理する。細部について質問することで、人間性やスキルを推測できる。

クオンツは、限定された資源で最大の利益を生む投資を求められる。そのため、ポートフォリオマネジャーやCEO、資源配分者と似た資質がある。

成功するクオンツは、非常に細かい部分で正しい判断ができ、さらにそれを改善していくタイプだ。

クオンツには優位性(エッジ)が必要だ。エッジの源は、投資プロセス、競争がないこと、構造的要素(規制や立場など)である。

クオンツに投資するときは、クオンツがとる戦略が分散するようにポートフォリオに組み込む。

 

書評

本書では、ファンダメンタルデータをもとにした長期的な運用のクオンツ手法、高頻度トレードなど短期の運用のクオンツ手法のどちらも扱っています。

市場が荒れると、ヘッジファンドやアルゴリズム取引のせいにされがちです。そういった要因もあるでしょうが、ヘッジファンドやクオンツも所詮は人間のやることです。

「ヘッジファンド投資ガイドブック 金融危機が明らかにした絶対リターン型資産運用の有効性」を読んだときも感じましたが、ヘッジファンドやクオンツの戦略自体は飛び抜けたものではないように思います。少なくとも人智を超えるような、神の行為ではありません。

クオンツと非クオンツを分けるものは何なのか、本書では説明があるのですが、具体例が面白かったです。

例えば、シェブロンとエクソンモービルは似た銘柄です。これらを比較したとき、一時的にシェブロンの株価が安くエクソンモービルが高ければ、シェブロンを買いエクソンモービルを売る裁定取引は誰でも思いつきます。

この戦略はクオンツでも非クオンツでも行います。戦略が違うのではなく、徹底して考えるかが違うのです。銘柄が「似ている」とはどういうことか、株価が「乖離」しているとはどういうことか、といったことを徹底して考えます。

もっと簡単な例ですと、安い株を見つける、というのは誰でも考える戦略です。クオンツの場合、システム化してコンピュータに自動取引をさせるため、すべてを定義づける必要があります。

そのため、深く掘り下げて考えることになります。「安い」とはどういう状態か、「株」とは何を指すのか、「見つける」とはどういうことか、すべてを定義づけられるまで考えます。そしてその戦略が妥当か、リサーチとデータ分析を極限まで突き詰めます。

この深い思考とリサーチの突き詰め方が、クオンツなのです。

本書の出版はサブプライムローン危機後なので、2007年8月に起きたクオンツの損失イベントや、2008年のリーマンショックも考慮されて書かれています。

これらの事象も踏まえて、実務者が冷静にクオンツ戦略を解説しているので、勉強になります。クオンツ戦略を、そのまま個人投資家が応用することはできません。ただトレードの戦略の立て方ということでは勉強できます。

本書の著者はクオンツトレーダーなので、非常に冷静で論理的なマーケットへの向き合い方を知ることができます。

市場に勝ってアルファを得る戦略とは何か。その戦略をとったときのリスクはどう計測され、どうすれば損失を抑えられるか。戦略を実行するときのコストはどれだけか。それらを総合的に判断した、最良のポートフォリオはどうなるか。現在のポートフォリオから最良のポートフォリオに移行するのには、どのようなトレードをするのが最善か。

これを論理的に精密に組み立てるのがクオンツです。合理的に戦略立案から取引執行まで行い、再びリサーチするという、この科学的思考は学ぶべきものかと思います。

ところで、「フラッシュ・ボーイズ」の主題となった高頻度取引ですが、本書の執行モデルの箇所で登場します。原著は2009年出版なので、そのころにはクオンツでは常識になっていたのでしょう。

クオンツが執行モデルについてもとことん考え抜いたら、他の発注者を出し抜く超高速取引に行き着いた、という印象も受けました。
(書評2015/04/11)

「3000円で30万円を目指す eワラント超入門」 eワラント投資研究会(編)

 

損失を限定し大きな利益を狙う手法、eワラントの入門本です。

 

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

eワラントをゼロから始める人。

 

要約と注目ポイント

 

eワラントとは

数千円という少額から投資でき、高レバレッジなので、投資額に対して大きな利益が狙える。

値上がり(コール)でも値下がり(プット)でも、儲けるチャンスがある。

損失は投資額に限定される(追い証はない)。

投資対象が多い(個別株や株価指数、商品、為替など)。

手数料がない(買値と売値に差額がある)。

プットで保有資産のリスクヘッジができる。

eワラントは申告分離課税。FXや先物取引との損益通算が可能。

 

損失限定で大きな利益を狙えるのが、eワラントの利点です。売りからでも始められます。

 

eワラントを始めるには

①eワラントを扱うネット証券で口座を開設する。(現在はSBI証券と楽天証券。)

②何に投資するか決める。(個別株、株価指数、為替、商品、バスケット。eワラント、ニアピン、トラッカー。満期日、権利行使価格。コール、プット。などの選択肢がある。)

③1000ワラントから買ってみよう。満期前に売るのもあり。

 

eワラントの基礎知識

 

コールとプットの説明

コールでは、満期日に参照原資産価格が権利行使価格を上回れば、利益になる。

プットはその逆となる。

満期日の受取金額 = (参照原資産価格と権利行使価格の差) × 保有ワラント数 × 1ワラント当たり原資産数

 

投資対象の説明

初めてなら、満期日が遠いレバレッジが低めな日経平均にしよう。

そのほかの例として、NYダウ、為替、日本企業、バスケット、商品。ランキングにも注目すべし。

 

先物取引やオプション取引と似ていますが、eワラントは多くの投資対象に、少額から投資できます。

 

用語の説明

原資産、ワラントレバレッジ、スプレッド、時間的価値、本源的価値、プレミアム、デルタについて。

 

ニアピンについて

日経平均株価もしくは米ドルの価格を予想する。日経平均は上下250円の範囲、米ドルは上下2円の範囲に収まればよい。

1ワラント当たりの満期の受取額は、

日経平均の場合 = 100円 - (ピン価格と原資産価格の差) × 0.4

米ドルの場合 = 100円 - (ピン価格と原資産価格の差) × 50

となる。

 

レバレッジトラッカーについて

中長期で原資産の値動きに連動するeワラント。

レバレッジトラッカーは、原資産の変動率ではなく変動幅に連動するので、原資産が上下を繰り返しても値動きから乖離しない。(レバレッジのかかったブルベア型ETFは変動率に連動する。)

1ワラント当たりの満期の受取額は、

プラス5倍トラッカーの場合 = 7円 + (原資産価格と権利行使価格の差) × 1ワラント当たり原資産数 × 5

マイナス3倍トラッカーの場合 = 5円 + (権利行使価格と原資産価格の差) × 1ワラント当たり原資産数 × 3

となる。

なお、1ワラント当たりのレバトラ価格が2円を下回ると新規販売停止になり、1円以下になると自動的にロスカットされる。

 

シミュレーターの使い方

シミュレーターの使い方について。

 

ニアピンやレバレッジトラッカーは、独特な金融商品です。

 

相場予測別のeワラント投資法

①強気 → コール型。

②やや強気 → インザマネーのコール型か、プラス5倍トラッカー。

③横ばい → ニアピン。

④やや弱気 → インザマネーのプット型か、マイナス3倍トラッカー。

⑤弱気 → プット型。

 

eワラントの投資法は、かなり研究する余地がありそうです。

 

書評

150ページほどの字数の少ないペラペラな本なので、それほどおすすめできませんが、eワラントの基本事項はわかります。

eワラントの本はあまりないので、買って損したとは思っていません。eワラントが初めての人には、とりあえず勉強になります。

本書ではeワラントを、少額から投資を始める初心者にも適した金融商品としています。また、難しいことがわからなくてもOK、相場の上下が予想できれば儲かります的な本です。

そういった解説はどうかと思いますが、まあいいです。私がeワラントに求めるのは投機(ギャンブル)であり、割り切ってやりますので。私もアベノミクスバブル崩壊前に、売りに賭けたい人間なので、同様の低いレベルです。

レバレッジトラッカーは、原資産の変動幅に連動するということを初めて知りました。レバレッジの効いた指数連動型ブルベアファンド(ETF)は、上下に振れると指数から乖離してきます。損になるので長くは持てないなと思っていたのですが、こういう商品もあったのですね。

eワラントには多くの商品がありますが、その裏にはオプションが埋め込まれています。私にはオプションは難しく、利益を出すには勉強と研究が必要になりそうです。
(書評2015/03/04)

「株式先物入門 第2版」 廣重勝彦(著)

 

株式先物についての入門書です。内容をまとめ、役立つか評価しました。

おすすめ

★★★★☆☆☆☆☆☆

 

対象読者層

株式先物に興味がある人。難易度は入門書レベルです。

 

要約と注目ポイント

・株式先物の基礎知識。

・テクニカル分析について。

・トレードの考え方について。

・資金管理について。

・先物を利用したヘッジについて。

・システムトレードについて。

株式先物についての簡単な説明です。日本の市場だけです。そのほかに、トレード方法もざっと説明しています。

 

書評

株式先物の超基本的知識を学べます。薄く基礎を勉強できました。ただ著者の考え方によると思われますが、先物入門の本なのに、チャートや資金管理、システムトレードの説明が大部分です。

約200ページの本で、先物の説明が60ページほどしかないのは、不満です。株式先物の基礎知識と、先物によるヘッジに60ページ。チャートやテクニカル分析の話で60ページ。資金管理で20ページ。システムトレードで50ページ。

同じ日経文庫にある、同じ著者の「デイトレード入門」の内容と、けっこう被っています。株式先物入門をタイトルに掲げる以上、先物に集中して解説してもらいたいと感じました。

先物だけを学びたい人には勧められません。いろいろなことを広く浅く知りたい、という読者にはいいでしょうが。
(書評2015/01/25)

「実務家のためのオプション取引入門」 佐藤茂(著)

 

素人がオプション取引を理解するのは難しい。これは否めない事実と思われます。優秀な現役オプショントレーダーが、一般投資家も対象に含めて書いた、かなり貴重な解説書です。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

オプション取引を勉強したい人。
難易度は中級者向けレベル。
高校数学程度の知識はあることが望ましい。

 

要約と注目ポイント

オプションとは何か。

単利、複利、無リスク金利について。

現在価値と割引率について。

プットコールパリティの解説(金利と配当なしの場合、一般形、アメリカン型の場合)。

オプション価格の決定要因(行使価格、原資産価格、満期までの期間、ボラティリティ、配当、金利)の解説。

どのようにオプション価格は計算されるか。
(ワンステップ二項分布モデル、マルチステップ二項分布モデル、ブラックショールズモデル、モンテカルロシミュレーション。)

ボラティリティの解説。
(ヒストリカルボラティリティ、インプライドボラティリティ、ボラティリティスマイル、タームストラクチャ、ボラティリティサーフィス。)

オプションを組み合わせた投資戦略をスプレッドと言う。
(ストラドル、ストラングル、コールスプレッド、プットスプレッド、バタフライ、バイライト、マリードプット、リスクリバーサル、コンボ、リバーサルコンバージョン、ボックス、カレンダースプレッド、ジェリーロール。)

オプションの価値の変化を表す指標をグリークと言う。
(デルタ、ガンマ、セータ、ベガなど。)

コールとプットの等価性の解説。

オプションの裁定取引の解説。

アメリカン型オプションの早期行使の解説。配当スプレッドと金利スプレッド。

オプショントレーダーの考え方。

VIXの解説。

本書の内容がすべて理解でき、使いこなせるようになったら、オプション取引の勉強はひと通り済んだ感じです。できたらですが。

 

書評

著者の執筆動機のひとつが、満足できるオプションの入門書がほとんどないことでした。

確かに私がオプションの勉強を始めたいと思って本屋に行っても、あまり適当な本がありません。胡散臭い儲かると称するトレード手法の類か、学術的な数理モデルの教科書がほとんどです。

本書はオプションの理論の正しい理解、そして実際の取引で利益を求めるにはどうすべきかという、重要なふたつの要素を扱います。

現役のオプショントレーダーが、理論と実践を同時に解説してくれる、とてもありがたい本です。

350ページを超える厚い本で、数式もそれなりに出てきます。

コールとは買う権利です、のようなところから1章はスタートするので、これは読みこなせるのでは?読み終わるときには、オプションが理解できているのでは?

と思うのですが、2章から普通に難しくなります。

ファイナンスの常識と高校レベルの数学知識がないと、解説文を読むのもきついかと思われます。著者はすごく丁寧に説明しているのですが。

オプションを理解して使いこなせると、とても幅広いトレードができるようです。

市場の動きに対して、かなり意表を突く方向から参加して、利益を狙ったりもできます。理解できるようになりたいものです。

しかし、まえがきに書かれていますが、証券会社や銀行のトレーダーでも、オプション知識に誤解がある人がいるそうです。

本当に難しいです。これで入門書ですか?という感じです。私も途中から、何が何やらわからなくなりました。

オプションの口座を開設して、本書を読み返しつつ、仮想のつもり取引を行って勉強したいと思います。
(書評2015/01/18)

「システムトレード基本と原則」 ブレント・ペンフォールド(著)

 

システムトレードの解説書です。本書は、心理よりも資金管理と売買ルールを重視します。

 

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

トレーディングで儲けたい人。

 

要約と注目ポイント

勝ち続けているトレーダーはわずかだが、彼らはトレーディングの普遍的な原則を守っている。

勝つために、自分の間違いを認めてうまく負けられるようになること。現在あなたが損をしているなら、それは今の売買ルールに問題がある。売買ルールの期待値を検証することが必要だ。

トレーディングで重要なのは、売買ルール、資金管理、心理の3つの要素である。特に勝敗を分けるのは、売買ルールと資金管理である。

すべてのアイデアを検証し、単純さ、パターン、確実性を探すこと。手順を重んじ、トレーディングでは規律と一貫性を保つ。控えめな期待値を設定する。プロの投資家のように行動せよ。

 

トレードで勝つためには、売買ルールを検証すること。そして売買ルールを規律を持って守り、資金管理を徹底すること。以上が本書の主張です。

 

トレードを成功させる6段階の原則

①準備。

②自己啓発。

③トレーディングスタイルをつくる。

④トレードを行う市場を選ぶ。

⑤売買ルール、資金管理、心理コントロールを確立する。

⑥トレーディング実行。

 

準備

マーケットはすべての参加者に、あらゆる困難や逆境をもたらす。この逆境が、常に大多数の弱者から少数の強者にお金を移すことを、最初に認めよ。マーケットに参加する間、いつも傷つき苦しむことを覚悟せよ。

非現実的な利益を目標としないように、感情をコントロールする。目標は控えめな期待値にすること。強欲がトレード回数を増やし、結果としてトレード計画を破綻させる。

勝つことを目標にすると負ける。最もうまく負けること。リスク管理を目標とせよ。

相場は基本的にランダムに動く。動きを予測するのではなく、どう反応すべきか考える。

資金の限度額を決める。失われる可能性のある金額の上限となる。

 

マーケットでトレードしても、思い通りにならないことが多いです。それでも最終的に勝てるシステムをめざします。

 

自己啓発

生き残ることに関心を持たねばならない。

トレードが続けられなくなる破産確率を考える。トレーディングにおいて、破産確率を考えることが最も重要である。

破産確率が0.5%未満でなければ、トレーディングしてはならない。また、破産確率が0.5%未満であっても、将来勝率や平均利益・平均損失が変化して、破産がありうることを認識せよ。

破産確率を下げるには、①一回当たりの取引額を低くし、②売買ルールの勝率を高め、③平均利益と平均損失の比を改善することだ。

トレーディングの聖杯とは、プラスの期待値で複数回トレードの機会がある売買ルールのことである。

トレーディングで生き残るために、期待値の高い売買ルールをつくること。取引機会も重要な要素である。期待値が高く、取引の機会も多い売買ルールを開発せよ。

売買ルールは単純なものが望ましい。自分の売買ルールにおける、単純な支持線と抵抗線の水準を見つけよ。

トレーダーの群れから離れて行動せよ。

売買ルールを開発したら、検証を行う。自分でつもり売買をしても、検証にはならない。繰り返し検証してプラスの期待値が得られれば、その売買ルールを信じてトレードできる。

 

破産確率と期待値の検証については、詳しく解説されています。

 

トレーディングスタイルをつくる

 

トレーディングの手法を選ぶ

トレンドにつくトレンドトレーディングと、逆張りのスイングトレーディングがある。またポジションを持つ時間枠には、1日、1週間以内、2~3週間、1カ月以上などがある。

一般に幅広いポートフォリオを長期でトレンドトレーディングする方が、多額の資金が要る。短期のスイングトレードは、必要資金が少ない。個人投資家は、期間の短いトレードの方が適している。

必要となる資金を考慮のうえ、トレードの期待値や機会を検証する。かなり確実にプラスの期待値が出せるトレーディングスタイルを選ぶ。

 

トレードを行う市場を選ぶ

筆者は、指数と通貨の市場が最適と考える。

 

トレードするのに適切な市場の条件

価格と出来高に透明性がある。
流動性が豊富で、24時間取引できる。
取引相手が信用できる。
(規制がなく)公正で効率的である。
取引費用が安い。

などなど‥‥

 

人によって、得意なトレーディングのスタイルや、取引する市場は違います。自分が勝つ見込みがあるトレードに徹します。

 

資金管理

トレーディングで最も重要な要素が、資金管理である。資金管理の2つの目的は、生き残ることと利益を増やすことである。負けたときにポジションを減らし、買ったときにポジションを増やすのが基本となる。

ケリーの公式とラリー・ウィリアムズの資金管理手法について。

資金管理戦略の比較。
固定リスク額、固定資金、固定比率、固定ユニット数、ウィリアムズの固定リスク率、定率、固定ボラティリティ。

いつトレードを中断するか、システムストップを考案する。

 

売買ルール

売買ルールは、セットアップとトレード計画という2つの要素からなる。

売買ルールは、単純で論理的であるべきだ。売買ルールを開発したら、期待値を検証し、破産確率を計算する。実行に移すときは、資金管理戦略を組み込む。

セットアップは、支持線と抵抗線の水準を見極める。その水準に適した逆指値をおく。トレンドに沿った順張りか、逆張りもしくはスイングトレードを考える。テクニカル分析では、変数の少ない単純で客観的な指標が良い。

トレード計画は、セットアップの利用の仕方である。どこで仕掛けて、どこに損切りの逆指値をおき、どこで手仕舞うか。

トレンドトレーディング、逆張り、スイングトレーディングの考察。

各指標の有効性の考察。

一般の個人トレーダーには、基本的なシステムのトレーディングが適している。

 

心理コントロール

心理は重要だが、適切な資金管理と売買ルールがさらに重要だ。心理では、希望と強欲と恐怖をコントロールすること。またマーケットは逆境なので、苦痛に耐え続けなければならない。

 

トレーディング実行

トレーディングを始めても、スリルや興奮ではなく、退屈や苦痛を感じるだろう。そう感じるようなら、売買ルールや資金管理が確立して、トレーディングがビジネスになったということだ。

トレーディングの手順は、
①セットアップが存在するか確認。
②仕掛け、損切り、手仕舞いの設定。
③トレード額と資金管理の確認。
となる。

そのほか、注文方法の説明。

 

トレードしても興奮せず退屈になったのなら、ビジネスになったときです。勝つシステムが構築されたので、規律正しく継続します。

 

書評

トレードにおいて大切と思えることを、いくつか指摘しています。そういう点は再確認として役立つかと感じます。ただこの類の本にありがちですが、話が長いというか、文章量が多いです。

ところで投資本を読むにあたり、長年巨額の利益をあげ生き残ってきた投資家や、伝説になった投資家の話は、素直に聞く気になります。

ただ本書の著者は、大成功した人という感じでもないので、参考になるところは勉強させてもらおう程度の気持ちになってしまいます。

個人的に参考になりそうな部分を挙げてみます。

取引を始める前に、まず売買ルールの検証や資金管理の手法を検討せよと述べています。これは取引を続けていると忘れそうになるので、大事なことかと思います。

多くの個人トレーダーは損を出すことがリスクと考えているが、真のリスクはうまくいっている売買ルールをいじることだ、との指摘。

確かに、ちょっとうまくいくとレバレッジを上げたくなりますが、控えめなトレードで成功しているならそれを続けるべきです。

破産を避けるための、資金管理手法の比較。とにかく生き残ることを第一にしており、この点は共感します。

しかし実際にシミュレーションしているのですが、どのような計算をしているのか、私にはあまり理解できませんでした。

とりあえず、1回トレード当たりの最大損失額を、総資金の一定比率以下に抑えること。勝っているときは資金量に応じてトレード額を増やし、負けているときはトレード額を下げるかトレードを中断すること。

このあたりは守ろうと思います。

なお巻末に、トレーダーのインタビュー集と破産確率シミュレーターがあります。
(書評2015/01/15)

「ヘッジファンド投資ガイドブック 金融危機が明らかにした絶対リターン型資産運用の有効性」 高橋誠/浅岡泰史(著)

 

投資対象としてヘッジファンドを検討する本です。さらに、自分の投資手法を再考したり、金融市場を理解するのにも役立つ1冊です。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

ヘッジファンドを投資対象として考えたい人。難易度は中級者向け。

 

要約

ヘッジファンドの特徴は、絶対リターンを獲得することと伝統的な資産との相関が低いこと、とされる。過剰な期待や根拠なき中傷を受けるヘッジファンドだが、その特性を理解し、投資意義を考えることが必要であろう。

・ヘッジファンドの代表的な戦略について。

 

ヘッジファンドと金融危機

・1949年にその原型が誕生してから、2007年に運用資産が約2兆ドルに至るまで、ヘッジファンドは順調に拡大してきた。2008年の金融危機は、ヘッジファンドにも最大の危機となった。
2007年、ベアー・スターンズ傘下のファンド破綻。BNPパリバ・ショック。クオンツ型ファンド(ロング・ショート戦略とマーケット・ニュートラル戦略)の虐殺。
2008年、ペロトン・パートナーズ破綻。ベアー・スターンズ破綻。リーマン・ブラザーズ破綻。

金融危機からの教訓。
リターンの源泉はどのようなファクターにあるか確認し、ファクターを分散することが必要である。
高いレバレッジをかけ、流動性の低い資産を保有し、資金調達を短期資金に頼っている場合、危機発生時の信用収縮で破綻する。
市場全体から得られるアルファの大きさには限度があるので、利益をあげるには規模としての限界(キャパシティ)がある。同じ戦略モデルで複数の投資家が同じポジションをとった場合、損失発生時に連鎖的な反応が起きる。
資産の価格変動リスクだけでなく、流動性リスクの評価がきわめて重要である。例えば、レラティブ・バリュー戦略ではレバレッジが高くなるが、ポジションを解消する出口まであらかじめ検討しておく必要がある(物価連動国債と国債に投資したファンドが破綻している)。プットオプションを売却するのと同様に、ファット・テールに弱い。
過去の平均から乖離した資産が、平均に回帰することに賭ける場合、いつ平均に収束するかは予測できない。
急激に資産価格が下がるときは、資産間の相関係数が1に近くなり、あらゆる資産が同時に下がる。
ヘッジファンドに投資するときは、解約条件とともに、投資対象の流動性に留意する(換金しやすいか)。

 

ファンド・オブ・ファンズ

・ファンド・オブ・ファンズの概要。

・ゲートキーパーの役割は、戦略別資産配分、ファンドの発掘とマネージャーの選択、ポートフォリオの構築とリスク管理、解約条件の検討など。

・マルチ・ストラテジー・ファンドとの違い。

 

ヘッジファンドの評価

・ヘッジファンドのインデックスは、明確に定義し時価評価することができない。そのため、相当な誤差があることを考慮しなければならない。

・純資産価格が過去最高水準の上にあるか下にあるかで、報酬率が大きく変わるので、リターンの評価にも影響を与える。また、マネージャーのインセンティブも左右するため、ファンドの成績もまた影響を受けると考えられる。

・ロング・ショート戦略について。日本におけるロング・ショート戦略の特徴。

・マドフ事件について。詐欺では、オペレーション上に問題があることが多い。この事件でも、運用者と事務管理会社と資産管理会社が一体だった。実際の運用者に直接会い、運用方法や運用成績を厳しく確認することが必要である。

・ヘッジファンドのインデックスは、すべてのファンドの情報を反映しておらず、正規分布として分析できるかもわからない。ただそれなりには正規分布に近い。最悪の事態となった2008年9月と10月をみると、ノン・ディレクショナル戦略群のヘッジファンドでは異常なマイナスのリターン(テール・リスクの出現)となったが、ディレクショナル戦略群のヘッジファンドや伝統的資産では、統計的に想定内だった。マネージャーの能力やリスク管理が、結果に現れたとも言える。

・ヘッジファンドのリターンの源泉を見ると、リターンの大部分を市場タイミングから獲得し、個別銘柄選択等の寄与は小さい。市場が活況のときに高いリターンを得るが、市場が下落するときに空売りを十分には活用できていない。「市場動向と無関係に絶対リターンを獲得し、伝統的資産と相関は小さい」というヘッジファンドの謳い文句はやや疑わしい。

・ヘッジファンドの運用成績の優劣を判断するのに、シャープ・レシオは目安程度には活用できる。

・ヘッジファンドのリターンは、かなりの部分が市場ファクター(ベータ)によることがわかった。そのため、ヘッジファンドの複製運用(リターン複製法、戦略複製法、統計複製法)が試みられている。

 

企業年金とヘッジファンド

・日本の企業年金の多くが、ヘッジファンドに投資している。その特徴は、欧米の年金よりヘッジファンドへの投資配分割合が高く、代替投資としての位置付けであり、投資先の大半がファンド・オブ・ファンズというものである。

・企業年金の運営と管理の考え方について。企業が想定する「最大年金コスト額」を超えないように運営し、さらにいかにコスト額を下げるかが、企業年金基金の役割である。

・企業年金の資産運用について。従来の4資産区分(国内外の株式と債券)という概念が有効かは疑問である。資産運用の基本戦略として、キャッシュフロー確保は国内債券投資、短中期戦略は絶対収益重視(ヘッジファンド投資も適する)、長期戦略は長期の高成長享受を目的とする買い持ちとなる。

・短中期戦略には、絶対リターン獲得を目指すノン・ディレクショナル戦略群(マーケット・ニュートラル戦略など)のヘッジファンドが適する。長期戦略には、長期での高リターンが期待できるディレクショナル戦略群(株式ロング・ショート戦略など)のヘッジファンドが適する。

・ヘッジファンドのデューデリジェンスについて。

 

書評

ヘッジファンドがどういう戦略をとっているのか興味があるのですが、全般的に解説した本があまりないので、本書は参考になります。一応なんとか自分の頭でも読めます。難しい数式がたくさん出てくることはないですが、やはり内容は難しいです。

ヘッジファンドについて、各種データを基に論じています。特に金融危機の際にどのようなことが起きたか、破綻を避けるにはどうしたらよいか、といったことは詳しく検討されています。自分に理解できる部分は限定的なのですが、本書は本物のプロが書いているという印象を受けました。金融関係の人が読んでも、満足できるのではないでしょうか。

ヘッジファンドは高いリターンが獲得できると宣伝されますが、本書を読むと、市場に勝つのはやはり難しいと感じます。市場に勝つ、アルファを求めるというのは、アートの領域でもあります。ヘッジファンドは一般的に、固定報酬が2%で成功報酬が20%となります。ファンド・オブ・ファンズだと、二重に報酬が発生します。これだけ高率の報酬を差し引いて、パッシブ運用に勝つのはかなりの難題ではないでしょうか。

個人投資家が優れたヘッジファンドを選んで投資するのは、あまり現実的ではありません。普通の人は、主要なインデックスをパッシブ運用する、コストの安いファンドやETFを選んで、長期投資するのが無難と思います。市場平均に追随すれば、まずまずでしょう。ただ著者は、企業年金運用ではパッシブ運用よりヘッジファンドが優れると述べています。パッシブ運用最高で終わらず、以下のような考え方があると、気に留めておくのもよいかもしれません。

企業年金の運用戦略で、著者は4資産区分の概念を不適切と批判しています。基本戦略は、キャッシュフローに対応する投資、短中期戦略、長期戦略であるべきと考えています。そして短中期戦略と長期戦略ともに、ヘッジファンドが中核になりうると主張します。このような主張はあまり聞いたことがなかったので、私には斬新でした。本書はヘッジファンドの本なので、ヘッジファンドの有用性を訴えるのもわかりますが、日本の年金でヘッジファンド的投資戦略が中心なところはないでしょう。これは誤った主張なのか、時代を先取りしているのか。いずれにせよ、投資戦略としてはこういう考え方もあるのだ、と勉強になりました。

また本書でも述べられていますが、ヘッジファンドが行うことは特別な投資戦略ではないようです。ヘッジファンドのリターンは市場やファクターの影響を受けるので、伝統的資産への投資に、空売りとレバレッジが加わっただけといいます。クオンツ的手法には数学者が必要ですが、ロング・ショート戦略やグローバル・マクロ戦略などは、理屈としては理解できる範囲内です。ヘッジファンドも、正体不明の恐ろしい存在ではないことがわかりました。
(書評2014/11/23)