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「新クリエイティブ資本論」 リチャード・フロリダ(著)

 

新しく台頭する階層を描き、大反響を巻き起こした「クリエイティブ資本論」を、10年ぶりに全面改訂!

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

現在の経済で主役となる階層に、興味がある人。

 

要約と注目ポイント

・経済や文化を変化させる、長期的かつ潜在的な力は何か。それは経済を成長させる力をもつクリエイティビティと、新たな社会階層「クリエイティブ・クラス」である。

・クリエイティブ・クラスにより、カジュアルなスタイル、柔軟な勤務体系、個人志向、多様性の尊重、実力主義といった価値観が社会に広まった。都市に求められる価値も、快適な居住性、清潔さ、緑の豊かさ、持続可能性などに変わった。

・本書の主張は、
「誰もがクリエイティブである。すべての人が持つクリエイティブな力を引き出そう。ひとりひとりのクリエイティビティを尊重し、育成する社会を構築しよう。それは開放性と多様性に満ちた社会だ。」
である。

クリエイティブな人々が、新たな階層として台頭してきました。これらの人々が、経済の形を変え、社会を革新します。

クリエイティブとは

クリエイティビティとは、役に立つ、意義のある、機能する、(それが作られるまで明確ではないが)何か新しい形態を作り出す能力である。多様なクリエイティビティを育成するには、それに適した多様性のある社会的・経済的環境が必要となる。クリエイティブな人材が集まることが大切なので、ビジネスではどの場所(都市)を選ぶかが大きな意味を持つ。

・報酬を何から得ているかで、階層が分かれる。(労働力比率と報酬比率はアメリカのデータ)
「クリエイティブ・クラス」は労働力の30%強で、知的および社会的スキルを使う頭脳労働で報酬を得る。賃金総額の半分以上を占め、他の2つの階層の倍近く稼いでいる。
「ワーキング・クラス」(労働力の約20%)と「サービス・クラス」(労働力の45%強)は、決まりきった仕事や肉体労働で報酬を得る。

クリエイティブ・クラスは、3つのTがある、大都市圏か中小規模の大学都市に集まる。3つのTは、技術(technology)、才能(talent)、寛容性(tolerance)である。

・クリエイティビティとは、知性も当然含むが、統合する能力のことである。また(他人の批判にへこたれないように)自信リスクをとる能力も含む。
多面的で経験的なものなので、長い時間をかけ修練し、集中し、多大な努力をする必要がある。協力者も要るので、他人をまとめて組織的に取り組む能力も含まれる。

・クリエイティビティは、収穫逓増の性質がある。誰かのクリエイティビティに手を加え改良し、新しい形態のクリエイティビティが複数生まれ、さらに蓄積されていく。

新しく価値のあるものを生み出す能力が、クリエイティビティです。クリエイティブ・クラスは頭脳労働者で、都市部に集まります。

 

クリエイティブ・クラスの特徴

・クリエイティブ・クラスと人的資本(学位)に相関関係はあるが、一致しているわけではない。クリエイティブ・クラスは賃金が高く、失業率は低い。またクリエイティブ・クラスが多く住む地域も、失業率が低くなる。

・ワーキング・クラスは減少している。退屈で単純な作業や、機械で制御された作業を行い、賃金は低めである例が多い。失業率は高く、景気後退局面で特に高くなる。サービス・クラスの労働人口は一貫して増加しているが、賃金は一番低い。失業率は高めである。

・クリエイティブ・クラスと、ワーキング・クラスおよびサービス・クラスとの間には、収入や経済的保障の格差だけでなく、ライフスタイルといった面でも差異があり、固定化している。

・政治学者のイングルハートは、世界的に価値観が、経済成長からライフスタイルを重視する方向へ変化していることを指摘した。このように変化した価値観は、クリエイティブ・クラスと共通するものである。クリエイティブ・クラスは、体制の内側にいる、社会の主流派なのだ。

・クリエイティブな人々の働く意欲をかきたてるのは、クリエイティブな仕事からの内発的報酬である。

クリエイティブ・クラスは増えており、収入も高いです。生活の質を大切にする価値観を持ちます。

 

クリエイティブな仕事への変化

労働者は、フリーエージェント化が進んでいる。良い面としては、労働の自由度が増し、時間帯や条件を選んで、充足感が得られる仕事に専念できる。悪い面としては、やりたいと思う仕事は競争が激しく、収入が低くて安定しない。

・非正規社員や派遣社員などの比率が上がり、会社は社員の人生のリスクを引き受けなくなってきている。今日の労働者は、自分の仕事や生活に、より自分で責任を負うようになった。

・クリエイティブな頭脳労働者には、カジュアルなドレスコード、柔軟な働き方、大学の学生寮のような楽しそうで相互作用的な空間、を用意することが求められる。
オフィス環境としては、共通の知識や関心を土台としながら、互いに異なる見解を提示できる人々が、相互に接触しやすい構造が望ましい。

・クリエイティブな労働者は、内発的報酬で動くので、長時間労働となりやすい。常に、新しく効果的な方法を迅速に考案し実行しようという、過酷なストレスがかかる。

クリエイティブ・クラスは、自由な働き方を望み、相互作用から成果が生まれます。ただし、何事も自己責任で、過重労働になりがちです。

 

高濃度な時間と経験を求める

・テクノロジーが進歩するほど、時間を管理しようとする圧力を受けやすい。高い技能を備え高収入の人ほど、忙しく時間に追われる感覚を持つ。時間を濃縮して過ごそうとする(商品を消費することから、経験を消費することへの移行)。

・クリエイティブ・クラスは、濃密でクオリティの高い、心がときめくさまざまな経験を求めている。自分で体を動かす、アクティブで本格的な経験を楽しむ。選択肢を自分でつくったり、幅広く選択できる本物の経験を、クリエイティブ・クラスは好む。

・クリエイティブ・クラスは、その土地に根を張った、その土地特有の有機的に発展してきた文化を好む。このようなストリート文化は、無数の小さな文化の集まりで、多種多様な人々が行き交い、多くの要素が折衷的である。クリエイティビティとは多くのものを合成する営みであり、ストリート文化の多様性、相互性、折衷主義がクリエイティブを刺激する。

クリエイティブ・クラスは、時間を有効に使おうとします。そのため、濃厚で質の高い経験を求めます。

 

クリエイティブ・クラスの考え方

・クリエイティブ・クラスでは、プロテスタントの労働倫理とボヘミアンの倫理が混じり合っている
近代工業社会が成立して以降、この2つの倫理は対立してきた。プロテスタントの倫理は、合理的で実利主義であり、保守的で勤勉を尊ぶ。ボヘミアンは仕事ではなくライフスタイルに基準を置く。
クリエイティブ・クラスは、勉強も仕事も一生懸命であり、遊びも一生懸命である。組織や規律と、自己や快楽とは両立している。

・資本主義社会では、経済面でブルジョアジーとプロレタリアートが対立し、文化面でブルジョアジーとボヘミアンが対立していた。ブルジョアジーはプロテスタント倫理を徹底することで、資本家階級となり、権力を握った。プロテスタント倫理では、人間の感受性や自由な行為、肉体的快楽の可能性を抑圧するので、ボヘミアンは反抗した。

・だがボヘミアンの価値観が存続できるのは、持続可能な経済的基盤があるときだけだ。シリコンバレーが開拓したクリエイティブ精神は、経済力を生む仕事世界と、自由と多様性を求めるボヘミアン的生活世界を、2つとも巻き込み混合させた。2つの倫理を同時に持つクリエイティブ・クラスが、今後の社会の方向性を決めていく。

クリエイティブ・クラスは勤勉かつ、開放的に遊びます。

経済成長とクリエイティブ・クラス

・クリエイティブ・クラスは、寛容で多様性があり、質の高い生活や経験が得られ、自分のクリエイティビティが発揮できて、クリエイティブ・クラスが集まっている場所に住みたがる。
知識主導型のイノベーション経済では、クリエイティブな人々が集まると、相乗効果が生まれる。集積により生産性が高まり、発展し繁栄していく。

・経済的に見ると、クリエイティブ・クラスが集まる地域は繁栄し、ワーキング・クラスが集まる地域は停滞し、サービス・クラスが中心となる地域は、人口と仕事が増えても低賃金のまま、という傾向がある。

・労働者のスキルには、身体的スキル、認知能力のスキル、目標達成のために人と協力する社会的スキルがあり、最後のものが一番大切である。認知能力を使って分析でき、社会的スキルを行使できる労働者は、高賃金が得られる。

・都市の真の経済成長は、人口の増加ではなく、生産性の向上によってもたらされる。人口の規模や密度ではなく、クリエイティブ・クラスの人口比率が高い場合、経済成長も高まる。すなわち、クリエイティブ・クラスにより生産性が高まっている。

・クリエイティブ・クラスを惹きつける場所は、3つのTのほか、4つめのT(territory)がある。これは、仕事や生活をするのにクリエイティブな環境であり、多様でクリエイティブな人々がいて開放的なので自分も参入しやすく、クリエイティブな活動が日々行われている場所である。場所の質が高いと言える。

クリエイティビティが経済を成長させます。場所の質が高いと、クリエイティビティが発揮されます。

都市環境と社会の絆

・従来のコミュニティ(社会資本)は弱体化している。教会、町会、政治団体、同好会などへの参加は減っている。だが今日では、これらの団体に参加したくないと考える人が増えている。
今日では、弱い絆の重要性が増している。強い絆はいくつかなら維持できるが、数が多くなると負担になる。弱い絆はたくさん持てるし、状況で使い分けられ、クリエイティビティにとって有効である。

場所の質が高いと、クリエイティブな人々という多様な労働力と、それを探す企業の厚みのある労働市場という、両方が存在する。良質のライフスタイルも得られる。場所では、多様性、その土地らしさ、シーンも重要。どこに住むかが、人のアイデンティティにもなっている。

・住民がその場所に愛着を持つのは、寛容性があり、社会からさまざまなものが豊富に提供され、建築物や緑地が美しいときである。

・クリエイティブ経済により、人口は都市へと回帰し、都心部へ向かう。郊外では、歩きやすい街が好まれる。快適性や安全性、自転車専用道路や公園など歩きやすさ、公共交通機関へのアクセス、エネルギー効率の良さといった点が望まれるようになった。

・クリエイティブ・クラス、ワーキング・クラス、サービス・クラスは、それぞれ非常に異なる種類の場所に住み、極めて異なる人生を生きる。働き方によって、日常生活の大部分は決まっている。階層間の対立、住む地域同士の対立が目立ち始めた。

・幸福度は、収入やクリエイティブ・クラスの比率と正の相関があり、ワーキング・クラスの比率と負の相関がある。喫煙や肥満などでみると、クリエイティブ・クラスが多く人的資本のレベルが高い都市が健康で、ワーキング・クラスが多い都市が不健康だった。銃による死亡率、歯科受診率などでも相関があった。

・アメリカでは、仕事の種類、収入、教育レベル、政治や文化、健康、幸福というすべての面で分断化され、不平等な社会になっている。貧困や不平等、階層間の分裂を解決するため、新しい制度が必要である。

・すべての人がクリエイティビティを発揮でき、クリエイティブ経済が実現するような、新しい社会契約を構築しなければならない。

経済格差と、それによる社会の分裂をどう解決するのか。アメリカだけではない、世界の深刻な問題です。

 

書評

ビジネス書だと思って読み始めたら、実際は社会学寄りの本でした。典型例で言うと、シリコンバレーで働き高収入を得るような人たちを、ビジネス的に分析する本と思っていました。確かにそういう人たちを扱っていますが、それらの人々が生まれた歴史的背景や社会的位置付け、社会への影響、価値観の変遷、階層としての特徴などを考察しています。

原著は2002年ごろに書かれており、この内容ならば出版時には衝撃的と思われます。反響は大きかったようです。本書は、それから10年後の改訂版です。本文中で著者も述べていますが、今読むと驚きはありません。細部はともかく全体としては、まあこのようなものだろうという印象を受けます。

高賃金で社会的地位の高い層に、本書で指摘するクリエイティブ・クラスが増えているのは事実でしょう。社会的影響力を持つ層では、主流派になりつつあるかもしれません。クリエイティブという概念は理解しにくいのですが、多様性のある都市部を好む、カジュアルなドレスコード、ゲイが住みやすい都市に多い、といった具体例の方が察しやすい感じです。これらの例だと、急成長するIT企業の活動的な社員というイメージです。

ですが本文では、意外と工場労働者の創意工夫みたいなものも、クリエイティビティとしています。ここはけっこう違和感がありまして、こういう工場で製品の改良に熱心に取り組む人たちって、都市部に住むか?という印象です。むしろ町工場的メンタリティじゃないですかね、これ。

思うに、経済格差があまりにひどくなったことを、著者が意識しているのではないでしょうか。クリエイティビティはすべての労働者が持っているし、それを発揮することで賃金も上がり、生活水準も上げられる、という結論に何としても持っていきたい意欲を感じます。

工場労働者でもクリエイティビティが発揮できるとしても、それは期間労働者のような人たちではないでしょう。高度経済成長期のブルーカラーのように、終身雇用でその職場にずっといて、職場に忠誠心もある人です。仕事が人生とかなり一体化しており、仕事の創意工夫に励む感じです。そして仕事に打ち込むことで、人生が報われることがかなり期待できた時代の話です。著者がクリエイティブな工場労働者の例として、一生懸命語るのも、1960年代の著者の父の話です。

しかし本書でワーキング・クラスの衰退を指摘しているように、現在の工場労働者は身分の安定したブルーカラーは少ないように思います。期間労働者ではクリエイティビティを発揮する機会もなく、報酬も得られません。

工場のカイゼン運動を例に挙げ、末端の労働でもクリエイティブだと述べます。しかし、その末端労働者がクリエイティビティを発揮したとして、それに十分な報酬を与えることができるのでしょうか。

著者は、末端の労働者階級からもクリエイティビティを引き出し、適切な報酬を与えてクリエイティブ経済に組み込め、と主張するのですが。その報酬の与える体系がよくわかりません。

本書は現在の経済構造、その上部に位置する階層を知る本として、有意義だと思います。クリエイティブな人々により、新たなビジネスが生まれ、経済成長するというのも納得します。クリエイティブ・クラスの価値観や生活スタイルも、こういう人々だろうなとうなずけるものです。

しかしそこから、すべての労働者がクリエイティブになれるし、格差を小さくできるという主張は、やはり相当楽観的と考えざるをえません。格差を縮小する方策や、労働者からクリエイティビティを引き出す方法を述べていますが、実現はかなり難しいと思います。

途中でよくわからない議論もありました。賃金格差は、クリエイティビティや教育、技能の有無が原因となる。しかしそれは収入格差に直結しないので、ワーキング・クラスやサービス・クラスの労働者も、クリエイティブ・クラスが集中する地域に住めば暮らしが良くなる、と述べていますが、これはちょっと理解できない主張です。

このように、クリエイティブ・クラスを通して、今日の経済構造、社会構造を考えるには有益な本です。その先どうするか。例えば経済格差の解消や、階層間の断絶を解決するにはどうすればよいのか、本書の分析や主張では不十分かと思われます。
(書評2015/10/23)

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「国家は破綻する」 カーメン・M・ラインハート/ケネス・S・ロゴフ(著)

 

過去800年間に世界で起こった金融危機を、徹底的にデータを集めることで分析します。世界の歴史で繰り返される金融危機は、驚くほど似通っていることを示します。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

金融危機の歴史を学びたい人。

 

要約

歴史上、世界で繰り返される金融危機は、似た特徴がある。
債務が過剰に積み上がると、金融システムが不安定化する。そのあと発生する金融危機は、次のようなものである。
①政府の債務不履行
②銀行危機
③通貨危機
④インフレ危機
⑤通貨の品位低下

 

危機の定義など

・国ごと、時代ごとにより、さまざまな危機が発生する。比較のため、定量的に定義する
政府の債務不履行は、政府が期日に元本や金利を返済しない、対外債務のデフォルトを伴う危機とする。また、国内債務のデフォルトも同様に含める。国内債務のデフォルトでは、銀行預金の凍結や、外貨預金の自国通貨への強制交換を伴うことがある。
銀行危機は、銀行の閉鎖や国有化につながる取り付け騒ぎが発生した場合とする。また、重要な金融機関の閉鎖、合併、政府による救済が発生した場合も含める。
通貨危機は、基軸通貨に対し年15%を超えて下落した場合とする。
インフレ危機は、インフレ率が年20%以上の場合とする。
通貨の品位低下は、金銀含有量が5%以上減った場合とする。また、現行通貨と新通貨の強制交換により、現行通貨が大幅に減価した場合も含める。

危機のたびに、「今回はちがう」シンドロームが生じている。
「今回はちがう」シンドロームとは、金融危機は我々以外のところで発生するもので、我々のファンダメンタルズは健全で、適切な政策や制度を実行しており、現在の好景気も技術革新や構造改革が進んだ結果であり、経済の安定はずっと持続する、と考えること。

国ごとに、債務への耐性は異なる。その国の返済実績とインフレの履歴が重要となる。過去の成績が悪い国は、債務への耐性が低い。ある国が繰り返しデフォルトするようになると、何十年、何百年と債務不耐性の状態が続きやすい。
国の債務不耐性を比較検討するため、インスティテューショナル・インベスター誌によるソブリン格付け(IIR)と、対外債務の対GNP比(または対輸出比)を指標とした。

金融データの情報源、資料元、収集、データベース構築などの説明。
物価、為替レート、通貨の金属含有率、実質GDP、名目GDP、輸出、政府財政、公的国内債務、対外債務、グローバル変数(国際商品価格や基軸通貨の政策金利など)。標本国66カ国について、これらのデータを収集した。

 

対外債務危機

・超国家的な法的枠組みがないので、債権者が債務国から取り立てる力には限界がある。債務国がデフォルトするかは、その返済能力より返済する意志があるかの方が重要である。デフォルトという選択もあるのに、たいていの債務国が返済しようとする理由は、以下のように考えられる。
政府は、継続的に資本市場にアクセスしたい。
債権者に国外の資産を差し押さえられるおそれがある。
貿易に支障を来す。
海外直接投資を受けにくくなる。
国家の評判を落とし、国際関係を悪化させる。
国内債務を継続して返済していると、戦費など巨額の資金を調達しやすい。
政府が税収を平準化し、信用市場の流動性を維持するために、公的債務は必要である。そのような社会契約の信頼を守りたい。

公的対外債務のデフォルトは、1800年以降で見ても常に発生している。デフォルトの少ない期間は10~20年間ほどしか続かない、凪の期間である。大きな戦争(ナポレオン戦争、第1次世界大戦、第2次世界大戦)の前後で、デフォルトは集中しやすい。

銀行危機と公的対外債務危機は、同時期に多く発生しやすい。国際商品価格や基軸通貨の金利も、デフォルトに影響する。商品価格サイクルは資本フローのサイクルと連動し、商品価格が下落すると新興国のデフォルトが増える。

・1800~1945年に発生したデフォルトの継続期間より、1945年以降に発生したデフォルトの継続期間は短い。第2次世界大戦後は、早く債務再編がなされ、すぐに次の借り入れを始めるようになった。

・過去800年間の歴史を調べると、ほとんどの国は新興国であった時期に、複数回デフォルトを経験している。1800年以降の66カ国の対外債務デフォルトをまとめて提示する。

 

国内債務のデフォルト

残されている公的国内債務のデータは乏しく、公的国内債務の研究はきわめて少ない。

・公的債務総額に占める国内債務の比率は、先進国では高い。新興国や開発途上国も、1914~1959年のデータでは長期債務で借り入れていた。1928~1946年のデータでは、国内で発行した国債と国外で発行した国債の金利はかなり近い。(金融抑圧はそれほど強くなかった。)外貨に連動する内国債のデータも確認できた。外貨建て債務への依存度が高い国は、脆弱である。

・国内債務をデフォルトする理由。
インフレで解決するより、銀行システムと金融部門に打撃を与える場合。
恐慌期のように、デフレの場合。

対外債務をデフォルトする前後で、国内債務も急増している例が多い。対外債務が対GDP比で低い段階で、新興国がデフォルトする理由のひとつになると考えられる。

政府がインフレを容認するのは、通貨発行益の最大化より、国内債務の大きさが重要な要因となっていると考えられる。

・国内債務デフォルト前の産出高は、対外債務デフォルト前の産出高と比べて、顕著に減少している。国内債務デフォルト前後のインフレ率は、対外債務デフォルト前後のインフレ率と比べて、かなり高い。国内債務デフォルトは、マクロ経済状況が相当に悪化したときに発生すると考えられる。

・国内債務デフォルトと高インフレにより国内の債権者が損害を受けるか、対外債務デフォルトにより外国の債権者が損害を受けるかは、時代により異なる。

・これまで公的国内債務のデータはほとんど整備されず、研究もされてこなかった。投資家が妥当なリスクプレミアムを求めることもできない。今後は公的債務統計の透明性を高め、学問的研究や政策研究で取り上げることを期待する。

 

銀行危機

銀行危機の発生率は、先進国、新興国、開発途上国いずれでも大差ない。先進国は公的債務の頻繁なデフォルトや高インフレは起こさなくなったが、銀行危機は発生させている。銀行危機前後では、不動産価格のサイクルが存在する。

銀行危機では、銀行救済コストより政府財政への悪影響の方がはるかに大きい。これは税収の急減、景気刺激策、リスクプレミアムの上昇などのためである。

・開発途上国や一部の新興国では、厳重な金融抑圧が徴税手段となっている。これらの国で銀行危機が発生すると、実質的な国内債務デフォルトとなる。

・先進国や新興国では、銀行は短期の預金を長期のローンとして貸し出している。このため銀行は、取り付け騒ぎにきわめて脆弱である。預金保険や銀行間の資金プールは防衛手段だが、一国の大半の銀行に波及すれば、金融システム危機となる。現代の金融システムでは、短期借り入れを高いレバレッジで運用していれば、銀行以外の金融機関でも金融システム危機をもたらす

・資本が国境を越えて自由に移動すると、国際的な銀行危機が発生する。金融自由化も、銀行危機を誘発させる。銀行危機の前に、資本流入がかなりの期間にわたり増加する。

・金融危機後には、住宅価格の低迷が長く続く。また、危機後に中央政府の債務が激増する。システミックな銀行危機は、長く深刻な不況を伴い、莫大なコストを必要とする。

 

通貨の品位低下

・紙幣が広まる20世紀より前は、統治者が貨幣の金属含有率を低下させて、通貨発行益を得ていた。中世から、王たちは戦費調達などのために、通貨の銀含有率を減らし続けている。インフレとデフォルトは、歴史的にありふれた現象だった。通貨の改鋳による品位低下は、紙幣の普及によるインフレへと形を変えた。

 

インフレ危機

・高インフレと為替レートの暴落は、高い関連性がある。これは政府の通貨発行権の濫用に、原因がある場合が多い。紙幣印刷機の普及により、20世紀に入りインフレ率が上昇する。ほとんどの国で、過去に高インフレを経験している。

 

通貨危機

・インフレ危機と通貨危機は、相関している。特に慢性的インフレが続く国では、為替レートの変化は顕著に物価に転嫁される。

・ナポレオン戦争期(1799~1815年)に、為替レートはきわめて不安定となった。第2次世界大戦後も、通貨暴落の発生率は高くなっている。

・高インフレが続いた国では、取引・価値の表示・価値の保存の手段に、ドルなどの強い外国通貨が使われるようになる。いったん外国通貨が使われると、高インフレが終わったあともその状態が続きやすい。

 

サブプライム危機と大収縮

・2007年から始まるサブプライム危機と大収縮は、大恐慌につぐ規模となった。アメリカへの資本の大量流入、金融規制の緩和、蓄積した家計部門の債務、住宅価格の異常な上昇。これらを原因として、グローバル金融危機に発展した。歴史の例にもれず、危機の前には「今回はちがう」という声が充満していた。

・過去の大きな金融危機では、危機後に住宅価格は20~50%程度は下落し、低迷は5~6年と長く続いた。株価は40~70%程度は下落し、下落期間は2~5年ほど続いた。失業率は数%~十数%上昇し、上昇した期間は3~6年ほどだった。実質GDPは7%~20%強下落し、下落した期間は1~3年ほどだった。中央政府の財政赤字は激増し、国債の格付けは低下した。

・金融危機が国境を越え伝播していくとき、即刻伝染する激烈な影響と、徐々に波及する影響とに分けて検討できる。直接的なエクスポージャーの結びつきのほか、各国で同様の資本流入による信用ブームが同時期に発生していることが原因となる。多数の借り手が、同じ貸し手から借りていることもショックを大きくする。先進国の需要減少、出稼ぎ労働者の本国送金の減少、商品価格の暴落は、新興国経済に徐々に波及する。

・債務危機、銀行危機、通貨危機、インフレ危機を総合して判定すると、第2次世界大戦前には深刻な危機が頻発していたことが示される。第2次世界大戦後は、(先進国には)戦前ほど重大な危機は起こらず、1980年代からはボラティリティの低下した平穏な時代になった。2007年からのグローバル金融危機は、戦前に匹敵する深刻な危機となっている。

・大恐慌と今回の大収縮(サブプライム危機)を、株価、実質GDP、貿易、輸出、住宅建設、失業率、の推移で比較する。

・典型的な危機は、次のように進展する。
金融の自由化が進むと、そののち株式市場と不動産市場の暴落が発生、景気が低迷する。銀行危機に発展し、通貨暴落、インフレ率が上昇する。対外債務と国内債務のデフォルトが発生する。

 

金融危機への対策

・各国の債務など、長期的なデータを収集し、研究する必要がある。特に中立的な国際機関がデータを収集し、国際的なルールづくりに貢献すべきである。

・銀行危機の早期予測には、住宅価格の動向を調べるのが有効である。IIRを見ることで、経済的な安定性を推測できるかもしれない。

・「今回はちがう」シンドロームは繰り返されるので危機対応は難しいが、政府債務の全容の把握、現実的なシナリオに基づく分析、危機長期化の想定、慢心しないこと、が肝要である。

 

書評

本書は、出版時期がサブプライムローン危機と重なったため、大きな話題となりました。データ量が大変多い、大著です。サブプライムローン危機後の論評で引用されることも多く、影響力の大きな本でした。

本書と関連する事項として、2010年に発表された著者らの論文で、データ処理に誤りがあることが指摘されました。政府債務が対GDP比で90%を超えると、経済成長率が劇的に減速するという部分が、誤っていたそうです。そのため、本書の評価も落ちた印象です。

この本が発行された時期は、2010年のギリシャ問題と絡み、世界的に緊縮財政の動きが強かったです。本書は、財政再建派の人たちの拠り所となりました。

その後2013年に著者らの論文の誤りが判明し、また緊縮策ではまったく経済成長せず不満も高まったので、財政刺激派が盛り返しました。日本でもアベノミクスの序盤が好調だったため、リフレ派や上げ潮派の人たちが形勢を逆転しました。

ネット上の書評でも、それがうかがえます。出版直後は、本書を称賛したうえで、財政再建は大切という意見の人が多いです。2013年以降は、データ処理の誤りにアベノミクスの勢いが加わり、緊縮財政は愚策という意見が多くなります。

ところで本書を読みますと、とりあえず誤りのあった論文とは無関係です。本書のデータ処理が正しいのかは不明ですが、本書は金融危機の歴史的データをひたすら掘り下げています。

金融危機の前後でどういったことが起こるのか、歴史を学ぶには良い本だと思います。著者らは本文で、「金融危機の古典的名著は存在するが、それらは物語的である。本書は、金融危機を定量的に分析したのが特長である。」というようなことを述べています。

データ処理でケチがついたので、「定量的」というところも微妙になりました。しかし、物語的に読めば、本書は金融危機の分析として有益です。ただし物語的にとらえると、「金融が緩和的になって信用ブームが起こり、リスク資産が高騰したあと暴落し、不良債権が積み重なり連鎖的に金融危機が起こる。危機の前は、今回はちがうと言ってリスクを忘れる。」という、既知で普通の教訓で終わってしまうのですが。

物語的に読めば、金融史の勉強になります。金融危機の教訓としても妥当です。定量的にデータ重視で読むなら、まあこういう研究もあるのかと、受け止めればよいのではないでしょうか。私には経済学の研究はよくわかりませんので。ただし、収集し読み取った世界中の歴史データは、とんでもない莫大な量です。この研究に費やした労力と熱意には、敬意を覚えます。
(書評2015/10/08)

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「さっさと不況を終わらせろ」 ポール・クルーグマン(著)

 

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

停滞した世界経済を再び成長させるにはどうするべきか、考えたい人。

 

要約

本書では、金融危機のあとの不況から、どうすれば抜け出せるかを論じる。緊縮政策をやめ、政府支出を増やし、拡張的な雇用創出政策をとるべきだ。

 

誤った政策で続く不況による悪影響

・失業は人生にとって悲惨だ。
収入が激減して生活できなくなり、健康保険はなくなり、自尊心を失う。長期失業で、労働者としての技能や技術は低下する。若者の失業は、一生のキャリアに悪影響を及ぼす。

・不況が続いたことで、過去の平均成長で見込まれる水準より、低い成長軌道になった。二度と取り戻せない、失われた産出の累積損失は数兆ドルになる。将来に対する設備投資も不足している。

 

正しい政策(経済学)

・正しい政策がとられれば、現在の苦しい不況は発生しなかった。不況の悲惨さは大きいが、不況の原因自体はたいしたことではない。大きな需要不足が原因であり、その調整に失敗したことも原因だ。

・需要不足や調整の失敗が原因なら、お金の供給を増やすことで解決できる。だが今回は成功しなかった。流動性の罠にはまったためだ。ゼロ金利でも十分ではなかった。

・今の労働者の技能と、今の仕事で必要とされる技能にミスマッチがあるという説は誤りだ。政府が大量支出すれば、好況になる。

・ケインズの政府支出による雇用創出という政策は、正しいのにもかかわらず、政治的右派の人たちの敵意を受ける。金融危機に際しても、自由放任主義者、効率的市場仮説信奉者が誤った主張を行った。

・金融危機直後の金融政策は、おおむね肯定できる。FRBの政策により、金融システムの崩壊は回避できた。ただし、実体経済に対する財政刺激策は、方向性は正しいが、まったく不十分だった。その不十分さのために、財政刺激策に効果はないと、政治的右派から非難された。

・財政政策が不十分なのに、2010年ごろには追加の刺激策ではなく、財政赤字の抑制が議論されていた。財政赤字のせいで経済が危ないと言われたが、経済が低迷する限り金利が上昇することはないのだ。財政赤字に関しては、負債の実質価値が一定に収まるように注意すればよい。財政支出削減をすると、経済を縮小させ、長期的な債務負担能力を低下させる可能性がある。

・財政赤字と金融緩和により、激しいインフレが発生すると懸念する人たちがいる。しかし、インフレにはなっていない。好況にならなければインフレにならない。インフレ率が年4%のように今より高ければ、実質金利も下げられるし、負債の実質価値も圧縮できる。

・ユーロは、加盟国が共通通貨を使う。そのため、不況の国が通貨を切り下げられない。労働者が国を越えて移動することは少なく、財政統合されていない。制度に大きな問題がある。そのため不動産バブルが崩壊した南欧諸国などでは、長いデフレと低迷から抜けられない。国債の借り換えでも金利が高くなる。解決には、ECBがユーロ諸国の国債を買い、ドイツが財政刺激策をとってインフレ率を上げる必要がある。

・ユーロの失敗は、不況の原因が放漫財政だと信じていることにある。過去の贅沢で財政赤字が生じ、不況という罰を現在受けている、と道徳的に解釈する。2010年ごろから、緊縮財政によって経済は成長するという、奇妙な妄想が(前ECB総裁トリシェなど)エリート層に突然広がった。彼らは、経済が停滞し高失業で低インフレなときでも、金利を上げたがる。

・エリート層が、逆効果なのに緊縮策を好む理由は、おそらく心情的なものだろう。一般人には理解できないという知的優越性、緊縮による悲惨な事態を経ないと改善はないという道徳性、格差を是認する資本家の支持、を感じることができる。

 

金融危機の原因

・金融危機後に、忘れられていた非主流派の経済学者、ミンスキーのことを皆が評価するようになった。経済安定期には、資産や所得に対し負債が増え、レバレッジが高まる。しかしレバレッジの上昇は、そのあと経済を不安定にする。

・不況(恐慌)では、借り手が負債圧縮のため、資産を売ったり支出を減らす。するとデフレになって、経済は縮小し、さらに債務負担は重くなる。これを防ぐには、政府が支出を増やさなければならない。

・金融イノベーションや金融システムの規制緩和が、負債を増大させてリスクを高め、危機を招いた。規制緩和により、金融業界はリスクを極大にして利益を最大化し、損失が出れば顧客や納税者に押し付けるようになった。政治的右派は、危機の原因が規制緩和とは認めていない。

・アメリカでは1980年以降、所得がトップ1%の人たちと、それ以外の人たちの格差が急激に広がった。金融システムの規制緩和は、所得が最上位の人たちが推し進め、彼らの利益につながった。お金持ちは影響力が強い。お金持ちや政治家は、イデオロギー、経済的利益、人脈などの面から、問題のある現在の金融システムを維持しようとする。

 

不況の解決策

・政府支出を増やして雇用を創出し、経済を成長させ実質GDPを増大させる。セーフティネット整備などの困窮者対策を行う。

・中央銀行は過激なまでの決意をもって、次の政策を行う。長期債や民間債権を買う。減税分の国債を買う。金利を一定以下にすると宣言する。通貨価値を切り下げる。高めのインフレ目標を設定する。

・住宅購入者の債務負担を軽減する。

・現在の悲惨な停滞は、本書でここまで述べてきた、昔ながらの経済学の原理で解決できる。私たちは現実を知的にとらえ、政治的な意志を持ち、政策を実現させて不況を終わらせるべきだ。

 

書評

著者のクルーグマンは、ノーベル経済学賞を受賞した著名な経済学者です。私も有名な学者であると知っていましたが、主張(個性?)が強烈なので、ファンキーなニューヨークタイムズのコラムニストという印象でした。そのため少し敬遠していたのですが、売れた本でもあり、本書を読んでみました。

2012年に書かれた本で、現在が2015年10月なので、やや古いですが、それほど違和感のない主張のように感じました。実にリベラル派と言える内容ですが、2008年の金融危機についてよくまとまっています。世界経済を論じた本としては、くだけた文章でわかりやすく書かれています。内容は、実は易しくないですけど。

今思うと、中央銀行の超金融緩和策はまあ妥当で、破局を避けることができました。ただ、金融緩和だけでは限界があります。確かバーナンキ前FRB議長が、QE3が終わったころに、「金融緩和の効果は期待したほどではなかった(特に後半)」のようなことを言っていた気がします。

「シフト&ショック」などを読むと、金融緩和で恐慌を避けたあと、政府支出を拡大して生産性を高め、実体経済の成長率を高める努力をしておけばよかったのか、と感じます。本書でも、政府支出で教育投資やインフラ投資をしろと述べています。政府支出はさまざまな反対も出るし、金融緩和をやらせておくのが楽なので、政策として超金融緩和のみになってしまいました。「シフト&ショック」は2015年の本ですが、だいたい同じような分析と政策提言を、2012年の段階で述べています。クルーグマンさすがです。

あとちょっと意外だったのが、サマーズ元財務長官が2008年12月時点で、大きな財政刺激策に反対する経済的な助言を、オバマ次期大統領にしていることです。サマーズは現在、長期停滞論を唱え、インフラ投資など財政政策を行うよう主張しています。すごく頭のよい人でも、景気を見通すことは容易ではないのでしょう。

私個人はひたすら、株価や為替だけに関心があります。クルーグマンは中央銀行の政策も提言していますが、今の日銀とそっくりです。日銀の金融緩和策がかなり限界に近くなってきて、日本株も微妙になっています。これからどうなるのか、一生懸命考えているのですが、よくわかりません。クルーグマン的にはどうなのでしょう、金融緩和が不十分ということなのか?インフレ目標が2%では低く、4%ないと足りないのか?
(書評2015/10/04)

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「とてつもない特権 君臨する基軸通貨ドルの不安」 バリー・アイケングリーン(著)

 

基軸通貨ドルの力と、その未来を考察します。世界は多極化したと言われますが、経済を考えるとき、まず見るのはアメリカです。アメリカの経済、金融、通貨、市場が世界を動かします。国際通貨を理解するために役立つ1冊です。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

為替や通貨に興味がある人。

 

要約

ドルが国際通貨であることで、アメリカはとても大きな利益を得ている。
これは、アメリカが国際政治の主役になるパワーを持ったので、ドルが国際通貨の地位についた。その逆ではない。(ドルが国際通貨だからアメリカが国際政治のパワーを持つようになったのではない。)今後の国際金融市場は、ドルだけでなく他の通貨(ユーロや人民元)も国際通貨になっていく。

・19世紀末まで、ドルに国際通貨としての存在感はなかった。第1次世界大戦前後に、国際通貨としての役割は、ポンドからドルへと移行していった。しかし1930年代の大恐慌で、その動きは妨げられた。

第2次世界大戦後、国際通貨はドルであることが明白となった。
アメリカ以外の中央銀行では、外貨準備はすなわちドルとなった。アメリカの国際収支赤字は、アメリカにとって何の問題にもならなかった。アメリカは無から資金をつくって、外国の資産を買えたので、フランス財務相は「ドルのとてつもない特権」を非難した。

・アメリカがドルを他国に無制限に供給すれば、金とドルを固定価格で交換するという約束が疑わしくなる。だがドルの供給を拒めば決済通貨が不足し、貿易は停滞し世界経済は成長できなくなる。金ドル本位制は、崩壊する運命にあった。ニクソンは、ドルと金の交換を中止した。

ドル切り下げと変動相場制移行のあとも、ドルが外貨準備に占める割合は低下しなかった。産油国がドルを貯め込んだためだった。FRB議長ボルガ―が金利を引き上げると、ドルは持ち直した。ドイツのマルク、フランスのフラン、イギリスのポンド、日本の円、どの他国の通貨も、国際通貨のトップになるには力不足だった。

ドルと拮抗する通貨の候補は、ユーロである。ユーロは、歴史的・政治的な要請から生まれた通貨同盟であり、それが強みでも弱みでもある。ユーロがドルに並ぶには、ユーロ圏の統合を進める必要がある。

・サブプライムローン問題は、大恐慌以来の世界的な金融危機となった。規制のないデリバティブ取引が、危機を招いた。FRBの緩和的な金融政策も、投資家に過剰な自信を持たせ、過大なリスクをとらせて危機を拡大した。また新興国が外貨準備として、流動性のあるアメリカの国債を大量に購入し、アメリカの金利を低下させたことも一因になった。

・金融危機は、ドルが価値を保ち続けるのか、投資家や他国の中央銀行に疑念を生じさせた。しかし現在も、国際通貨はドルである。中国は、世界の準備金をIMFの特別引出権(SDR)に置き換えることを主張している。中国の実際の野望は、人民元を国際通貨にすることだ。将来、人民元は地域的準備通貨や補助的準備通貨になるだろう。だがすぐに、ドルに代わる支配的な準備通貨になることは考えにくい。

・ドルが準備通貨であり、それに続く候補はユーロ、人民元となる。ドルが急落し、基軸通貨の地位を失うシナリオはどのようなものか。
まず、米中の政治的紛争が考えられる。中国がアメリカ国債を売り、金融面から攻撃する。しかしこれは、中国にも多大な損害を発生させる。
財政赤字が制御不能となり、ドル急落と金利急騰の可能性もある。このようなシナリオは、突然発生するのが特徴である。

・ドルが支配的な国際通貨の地位を維持するためには、アメリカ経済が好調で成長を続け、財政が健全であるかにかかっている。

 

書評

国際金融について書かれた真面目な本ですが、割とくだけたところもあります。トリビア的な、豆知識的な話も出てきます。ドルの歴史的な経緯から始まりまして、17世紀に北米に入植してきたときは貝殻が通貨だったとか、ドル記号$は、スペインのコインのペソに由来するとか。

しかし全体は、国際金融通史の説明です。特にドル支配の移り変わりの解説なので、金融史の勉強になります。金融が好きな人は楽しめますが、興味がないと読みにくいかもしれません。

アメリカの威信が傷つき、中国や新興国の威勢がよかった2011年に書かれた本なので、論考も若干そういう傾向にあります。ただ解説自体は古びていないので、国際金融や通貨を勉強するのには役立ちます。

私は特に直近の金融事情に関心があるので、金融危機後の国際金融の部分が面白く感じました。中国は明らかにアメリカの覇権に挑戦しているので、アメリカ国債を売ってくるという事態も考えていました。そうなったらどうなるのか。

ですが意外にも、2015年8月に実現しました。中国がドル攻撃ではなく、人民元防衛のため、為替市場に介入してアメリカ国債を売りました。私はこのニュースを聞いて、かなりビビったのですが、ひとまず市場は落ち着いたようです。

ドルが急落するシナリオは、財政赤字の拡大も指摘しています。あと私が考えるのは、再度の金融危機です。危機ではドルが売られるのではなく、買われる気もしますが。2015年9月、FRBは利上げを再び先送りしました。何となく、量的緩和からの出口戦略に失敗するような、嫌な雰囲気が漂ってきました。量的緩和政策から抜ける前に、アメリカの景気循環が後退局面に入りそうな気がします。金融緩和全開で、緩和余地のない状態で景気後退が始まると、どうなるのでしょう。

そのほか、中国経済は元気がよい前提で書かれていますが、2015年9月の今、かなりヤバいです。「中国は為替市場への介入やドル負債を抱えた銀行への資金注入に、外貨準備の大半を使う必要があるとは考えにくい」と本文で述べていますが、今後、外貨準備を使って介入や銀行への資金注入が行われることもありえます。

日米欧の中央銀行が発生させた金融緩和バブルと、中国経済のバブルの行く末が、これからの世界の進路を決めそうに思います。
(書評2015/09/19)

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「シフト&ショック 次なる金融危機をいかに防ぐか」 マーティン・ウルフ(著)

 

世界的な金融危機は、再び起こるのか?
答えはイエス。
フィナンシャル・タイムズ論説主幹である著者が、2008年に起きた金融危機の原因を明らかにします。金融危機の再発、そしてそれを防ぐ金融システムについて、大局的な視点で考察します。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

2007年から始まった金融危機について考えたい人。金融システムに関心がある人。金融知識がないと、かなり難しい本です。

 

要約

・1970年代、1980年代から現在まで、金融の自由化とグローバル化が進んできた。それにより、経済は成長したが、金融危機も繰り返し発生するようになった

・主流派の経済学者は、その理論に基づいて行動すれば経済は安定し、外的ショック以外の理由では不況にならないと考える。
これは誤りである。安定な状況が、不安定を生む。資本主義経済において、不況は普通に起こる現象だ。不況は外的ショックだけでなく、システム内部から生まれる現象だと理解すべきだ。

・今も変わらず、市場経済は個人の自由を守るために必要なシステムである。現在問題なのは、金融と経済の不安定化、大量失業、格差の拡大だ。金融資本主義の暴走を正して、これらの問題に対処しなければならない。

今回の金融危機のポイント。
現在の金融システムの限界が露呈した。
これまでの経済理論や経済政策は続けられない。
銀行を国家が救済したので、金融自由化の時代は終わった。
金融危機後にとられた財政刺激策は正しかったので、大恐慌は回避できた。
負債を圧縮するため民間支出、消費、企業活動が急低下したので、それを補う政府の財政刺激策は正しい。
財政刺激策を2010年に財政緊縮策に変えたのは早過ぎた。
早過ぎる緊縮策で、失業と経済停滞が生じた。

ユーロ圏危機のポイント。
ギリシャのような国とドイツのような国を同列に扱う、制度設計に無理があった。
ユーロ圏の通貨同盟では、裁量的に通貨を管理できず、銀行同盟もなく、労働者の移動も不完全である。
共通の政策金利が適用される単一金融政策をとれば、財政赤字の国が生じるのは避けがたい。
ユーロ圏の支配者は債権国ドイツで、ドイツは自由競争と財政緊縮策に固執している。
景気が悪い過剰債務国は財政刺激策をとれないので、いつまでも景気後退が続く。
通貨同盟内の赤字国は、資金流入が突然止まると、経済危機に直結する。
黒字国から赤字国の中央銀行への信用供給が止まれば、赤字国はユーロ離脱に追い込まれかねない。
一国でもユーロから離脱すると、ユーロ圏崩壊という深刻な危機に至る可能性がある。
ユーロ圏危機の原因は経常収支の大きな不均衡であり、黒字国と赤字国の両方の調整が必要である。
黒字国(ドイツ)は、ユーロ圏危機の原因は財政収支にある、と誤った認識をしている。

新興国経済のポイント。
金融危機後も、新興国は堅調に経済成長し、中国をはじめとする新興国は大きく台頭した。
新興国が成長を続けられたのは、金融政策、公的債務、財政、外貨準備、経常収支黒字など、基礎的条件が良好だったおかげである。
新興国の成長は減速しつつある。その理由は、資本流入への依存、信用の膨張、コモディティブームの終焉、(特に中国で見られる)莫大な質の悪い投資などである。
高所得国(アメリカ)の金融政策が正常化すると、新興国から資本が流出し、通貨安となり、ドル建て債務の負担は重くなる。大量に発行された新興国債券を保有する投資家に、損失が生じる。
中国は、金融危機前は輸出で、金融危機直後は投資で成長した。これから生産能力は過剰となり、投資需要は急減し、拡大した信用には損失が発生するので、中国経済は減速する。
中国の需要によるコモディティブームは終わり、コモディティ輸出国は大打撃を受ける。

なぜ金融危機が繰り返されるのか。
銀行は、リスクをとって信用を創造し、利益を追求する事業者である。
1970年代後半から、金融の規制が撤廃され、自由化されてきた。
銀行が経済のマネーと信用の大部分を供給しているため、銀行が安全でなくなると、金融システムが崩壊する。
バブルが始まると、人々は借金、投資、消費の規模を拡大させ、リスクを忘れ慢心する。
金融の自由化は、政府より市場が正しいという風潮をもたらした。
経済のグローバル化により、資金調達の規模はグローバル化し、銀行の大きさもグローバル化した。
金融工学の発達により複雑な金融商品が開発され、そのリスクを理解しない世界中の投資家が、巨額の資金で購入した。
規制のかからないシャドーバンキングが、さまざまな資産を証券化して、従来の銀行システム以上に資金を供給した。
シャドーバンキング経由の投資には、極めて大きいレバレッジがかかっていた。
シャドーバンキングは不透明で、そのうえ相互の結びつきが強く、パニックが発生するとすぐにシステム全体に波及した。
金融機関は、誤ったリスクモデルでリスクを計算していた。
金融機関では単年の業績で評価され報酬を得ていたので、インセンティブが短期志向になった。加えて、有限責任会社ではダウンサイド・リスクに下限があるので、経営者や社員は最大までリスクをとりにいき、その結果発生した損失は納税者の負担になった。
規制当局は規制を緩めすぎて、金融機関が過剰なリスクをとるのを放置した。
中央銀行は、インフレが安定すれば経済が安定するという、誤った考えを持っていた。

金融危機の原因となった、マクロ経済の問題は何か。
経済収支の不均衡は、金融危機前までに拡大していた。大幅な資本純輸出国は、①中国とアジア新興国、②高齢化の進む高所得国(日本とドイツ)、③産油国。資本純輸入国は、アメリカとヨーロッパ周縁国。
経済収支の不均衡は、マクロ経済を不安定にする。
金融危機の根本原因は、世界的な貯蓄過剰(投資不足)にあった。
世界の需要不足をアメリカが引き受けたので、金融緩和政策をとる必要が生じた。
貯蓄が過剰であれば、利子率か生産・所得を通じて調整される。
不況になると消費と貯蓄が減少し、貯蓄意欲が高まり、経済は縮小し続ける。
実質金利の低下は、経済の長期の実質リターンが低下する前兆であり、はじめに長期資産の価格が上昇する。
実質金利が低下すると、短期的には資産価格が上がり、中期的には信用ブームが起こり、長期的には住宅価格が暴落して金融危機となる。
多くの高所得国で家計の負債が膨張しており、民間の負債の焦げ付きは、公的債務危機を発生させる。

なぜ経済学は間違ったのか。
新古典派経済学は、金融抜きのマクロ経済理論を構築した。金融論は、マクロ経済学抜きのファイナンス理論を構築した。マクロ経済とマネーの相互作用を理解しなかった。
これまでの理論では、信用の拡張は中央銀行が利上げで防ぐ。しかし、資産価格の上昇と信用の拡張がインフレと密接な関係になければ、中央銀行は信用危機を防げなかった。
ケインジアン、ポストケインズ派、オーストリア学派、シカゴ学派、それぞれの理論の検証。

金融の規制改革。
これまでの金融の規制では、危機は繰り返し起こる。現在検討されている規制改革案は、既存のシステムの延命策である。そのため、大規模な金融ショックを予防することはできない。
レバレッジの上限を定めることと、自己資本を大幅に積み増すことを、銀行に強制する必要がある。
裁量の余地の小さい、自動的に実施されるようなマクロプルーデンス政策が必要である。

マクロ経済の持続可能な均衡を取り戻すには。
危機後の停滞した経済を成長の軌道に乗せることと、民間の貯蓄過剰を解消することが必要となる。
2010年に緊縮財政策へ転換したのは早過ぎた。財政政策の比重を高め、金融政策の比重を下げた方が良かった。高所得国は需要不足により、停滞に陥っている。
過剰な負債に対処するため、需要を拡大し、金利を下げ、負債の再編・削減をする戦略が求められる。
金融の自由化で格差が拡大し、多くの人の実質所得が下がり、そのため需要不足が生じた。需要不足は信用ブームで代替したが、信用ブームは崩壊し、政府が最後の支出者となり、公的債務が積み上がった。これらは、経常収支の不均衡と関係している。
資本輸出国が為替レートに介入して、経常収支が不均衡となっている。純貯蓄が黒字国から新興国・途上国に流れるように、グローバルな改革が必要である。
高所得国の構造的な需要不足には、政府が通貨を創造し、刷るお金の量を中央銀行が制御するという、財政ファイナンスも戦略として検討できる。

 

書評

インフレ率を低く抑えて、金融を自由化すれば、経済は永続的にうまくいく。
著者はこのような主張を、本書で批判します。この主張は、今までの経済学者や当局者の主流でした。揺らいではきましたが、現在でも、主流派に位置しているようです。

1997~1998年のアジア金融危機などを見ると、主流派は金融危機の起こった国に対して、厳しい態度をとります。金融危機で資金が流出するなど、経済が厳しくなった国に、緊縮政策をとって財政を黒字化するよう求めたりします。金融危機の続くギリシャに対するドイツのように。ギリシャへのIMFの対応を見ると、最近は少し変わってきたのかもしれませんが。

金融危機が起きている国に、個別の事情を考えず、一律に金融引き締めを求める。金融危機が発生したのは、経済水準をはるかに上回る身の程知らずな生活を、借金によって続けてきたからだ。
あらゆる国に、個別の事情や経済の成長段階を考慮せず、金融の自由化を求める。すべての国が金融を自由化し、グローバルに結合すれば、すべての国が経済成長する。
金融自由化が達成され、中央銀行がインフレ率を低く維持できれば、経済はずっと安定し成長を続ける。

これまでの経済学の主流派は、このようなかなり傲慢で独善的な理論で、政策を進めてきました。効率的市場仮説も、この流れにあるのかと思います。市場に任せると、すべてのことがうまくいく。

私は統制経済がうまくいくとは思いません。
しかし、ITバブル崩壊のショックから回復するため金融緩和し、そのためサブプライムローンのバブルが発生しました。サブプライムローンなどの不動産バブルは、世界的な金融危機に発展しました。この金融危機から回復するため、世界中の中央銀行が、歴史上例のない、超金融緩和を続けました。そして今、超金融緩和を少しだけ減速する(FRBのみが1回利上げする)動きだけで、世界経済は相当ふらついています。(運の悪いことに、ちょうど同じころに、20年以上続いた壮大な中国のバブルも崩れそうです。)

金融自由化とグローバル化で、莫大な投機的資金が過剰なリスクテイクをし、巨大なバブルをつくったあと崩壊し、金融危機が起こり、危機対応で金融緩和する。
過剰な資金 → バブル発生 → 崩壊 → 金融危機(社会不安) → 金融緩和 → 過剰な資金 → バブル発生 …
これまでの経済学者と当局の主流派は、5~10年で回転する、バブルの無限ループを回してきたわけです。それも、だんだん危機の規模が大きくなっているという。

本書はこのような認識で、これまでの金融政策と、これからあるべき金融システムを考察します。本書の特徴としては、フィナンシャル・タイムズ論説主幹という、これまでの主流派に属する人が、謙虚に反省しながら書いています。もともと資本主義を憎んでいた左派のような人が、資本主義は終わりだ、のように書いていないので、建設的です。

私が読みたいなと思いつつ、大著なので読んでいない、「国家は破綻する」「21世紀の資本」などのような、最近の押さえておくべき本は、すべて内容に反映されています。(参考文献になっています。)
著者の分析や考察、提案、主張がすべて正しいかはよくわかりませんが、穏健な内容と広い目配りの本です。本書1冊で、2000年あたりから現在までの金融の動向を考えることができるので、コストパフォーマンスに優れているともいえます。ただ、かなり難しめではあります。金融に興味はあるものの単なる素人である私には、難しかったです。(勉強になりますが、真面目な本なので眠くなりました。)金融に詳しい人は簡単に読め、価値のある本といえるでしょう。
(書評2015/08/27)

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「貨幣という謎 金と日銀券とビットコイン」 西部忠(著)

 

貨幣について深く考察した1冊です。ビットコインについても学べます。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

貨幣、市場、価格、ビットコイン、資本主義などに興味のある人。

 

要約

・経済は数字でカッチリと形が決まるようなものではなく、人間の認識や行動を通じて生じる、動きのあるシステムである。進化するシステムである経済を理解するため、貨幣について考える。

貨幣は「もの」なのか「こと」なのか。硬貨や紙幣のような「もの」であり、プリペイドカード利用時のデータ信号のような「もの」でもあり、クレジットカード利用時のお金を借りる信用通貨のような「こと」でもある。

・現在、価格の決まり方は新古典派経済学の「一般均衡理論」を根拠としている。これは貨幣の存在を無視し、すべての需要と供給のギャップが解消されるようにあらかじめ価格を完全に調整してから、全参加者が全取引を一度に行うような市場を想定している。
このようなすべてに一物一価が成立し、すべての取引が同時に瞬間的に行われるという仮定は現実的ではない本書では、貨幣の存在する現実の市場を考察する。

・市場には、需要と供給により価格が決定される「伸縮価格市場」と、生産者や当局が価格を決める「固定価格市場」がある。「伸縮価格市場」は、「組織化された市場(競り市場)」と「組織化されない市場(商人媒介市場)」とわけられる。
現在は、いくつかの分野に「競り市場」がみられるが、大部分は「固定価格市場」である。本書では、一般均衡理論に基づく市場を「集中的市場」、「組織化されない市場」と「固定価格市場」を合わせて「分散的市場」と呼ぶことにする。

現実の市場のほとんどは、相対取引が集積した「分散的市場」である。オークションのみ、「集中的市場」に似ている。株式市場は競争の要素はあるが、無数の相対取引の集合である。一般消費財もほとんどが定価販売であり、需要の短期的変動には、生産者は価格調整ではなく数量調整で対応する。また、一物多価が成立している。売り手は適切な価格が市場で決められてから売買するのではなく、自ら定価を提示し、短期的には数量調整を、長期的には価格調整をする。

現実の世界では、貨幣が存在して市場が成立する。貨幣が存在するから物が商品となり、商品が売買される場が市場となる。

・物々交換の際、多くの人に欲しがられるものが交換に便利なので貨幣となった(貨幣商品説)。そして、貨幣は他者が欲しがるから自分も欲しいという、欲求の模倣によって制度が強化される。したがってどんなものでも貨幣になりうる。

貨幣の動態と人間の欲望は循環構造にあり、市場経済を考察するのに貨幣を無視してはならない。経済の本質が、所与の目的を達成するために希少な資源を最適に配分することならば、経済に貨幣は必要ない。だが多くの独立した個人が分業する社会では、貨幣なくして市場は存在しない。

・市場は共同体の外にあるが、経済は共同体の中にもある。経済(エコノミー)の語源は家政術(オイコノミア)である。市場原理は、共同体の原理(贈与原理や互酬原理)を脅かす。

貨幣の機能。
①交換手段。
②価値尺度、購買手段。(貨幣で物は買えるが、物で貨幣は買えない。)
③蓄積手段。
④支払手段。(「信用」は貨幣を節約するための仕組み。)
貨幣の機能は、貨幣に購買力があると皆が信じるか予想するために、観念が自己実現することで支えられている。

・観念の自己実現は、昨日と同じように今日も貨幣が使えると慣習的に考えることで成り立つ。あるいは、次に貨幣を受け取る人がいると予想することで成り立つ。大多数の慣習的思考と予想が崩れると、観念の自己実現は失われる。

ビットコインについて。その成り立ち、仕組み、特徴。公開性やP2Pという、自由主義的で非中央集権的な設計思想に基づく。マイニングは、通貨発行や管理業務を行うインセンティブをユーザーに与え、ユーザーを増やすことに寄与する。
集権性の国家通貨に対し、P2P型分散的ネットワークの民間通貨が競合する世界が、フィクションではなくなってきた。(ハイエクの「貨幣の脱国営化論」。)

・貨幣は、穀物や家畜から貴金属、鋳貨、紙幣、手形、電子マネーと変化し、「もの」から「こと」へと近づいてきた。また、鋳貨から兌換銀行券、不換銀行券と、信用貨幣へと変化した
通貨には、市中に存在する現金通貨と、銀行に預けられている預金通貨がある。民間銀行は、要求払預金の一部を支払の準備として残すほかは、貸付で信用創造することができる。

貨幣が信用貨幣化していることは、現代の貨幣の本質が、価値の移転や債務を記録する債務証書であることを示す。市場は、無数の売り手と買い手が貨幣という価値情報を媒介にして、相対取引を行う分散的ネットワークである。

・手っ取り早く儲けたい、自分だけ乗り遅れたくない、という心理から資産価格が異常に高騰するバブルは、歴史上繰り返し発生してきた。バブルには、価格が上がると皆が信じることによって実際に価格が上昇するという、観念の自己実現の性質がある。

・ジョージ・ソロスは、バブルを「再帰性」という概念で説明した。人間は自分の生きる世界を理解しようとする(認知機能)と同時に、世界に影響を与え自分に都合よく変えようとする(操作機能)。
認知機能と操作機能は同時に干渉し合いながら社会現象に作用するので、参加者の思考と社会現象の間には双方向性が生じる。ソロスはこの双方向性を「再帰性」と呼んだ。

ソロスによれば、「支配的トレンド」と「支配的バイアス」によってポジティブフィードバックループが作動してバブルが生成し、転換点でループが逆回転するとバブルは崩壊する。
「支配的トレンド」とは、ある時代において支配的な世界への働きかけの方法、すなわち操作機能である。「支配的バイアス」とは、ある時代において支配的な認識の方法、すなわち認知機能である。

ソロスのバブル8段階説。
①初期:支配的トレンドは認識されていない。
②加速期:支配的トレンドが広く認識され、支配的バイアスにより強化される。株価は上昇。
③試練期:株価が一時的に下落。
④確立期:試練期を越え、支配的トレンドと支配的バイアスは強化される。株価は著しく上昇。
⑤正念場期:高騰した株価に現実が追い付かなくなる。
⑥黄昏期:危険に気付きながら参加者はゲームを続ける。
⑦転換期:支配的トレンドと支配的バイアスが一気に逆転する。
⑧暴落期:破局に至る。

・貨幣がなくては市場や信用といった制度は存在せず、市場や信用がなければバブルも発生しない。資本主義市場経済の長所は、競争により価格が下がり消費者の利益になること、イノベーションが促されること、契約や売買の自由は政治的自由の基盤となることである。短所には、景気の変動が大きくなること、社会環境や自然環境への悪影響に歯止めがかからないこと、人間関係や共同体を弱体化させることがあげられる。現在は、資本主義市場経済の短所が大きく現れている。

・グローバル資本主義には、貧富の格差という問題がある。だがそれ以上に重大な問題は、個人には自己責任が厳しく問われるのに、巨大な企業や金融機関は危機に陥っても金融システム維持の大義名分で救われ、経営者や富裕層が責任を逃れることにある。資本主義の競争原理や自己責任原則というルールが実は失われており、グローバル資本主義は根本的に不公正であるということが、広く認識されつつあるようだ。
現在行われているインフレ目標を伴う金融緩和政策は、失敗したとしても次の手段はない。今の金融政策は貨幣の量の視点のみで、質に注目することはない。新たな思想に基づく質の高い貨幣の出現が望まれる。

 

書評

貨幣について考えたことなどなかったので、新しい視点を勉強することができました。貨幣がなければ市場は存在しない。需要と供給の均衡から価格が決まるのではなく、市場は無数の相対取引の集積である。などなど。著者は新古典派経済学に批判的なので、こういった主張は主流ではないらしいですが。

貨幣はそのものに価値があるのではなく、皆が価値があると信じるから貨幣になるということは知っていましたが、順序立てて解説されるとよくわかりました。将来も貨幣が使われると慣習的に考えることと、次に別の人が受け取ると予想することが貨幣を成立させるようです。

個人的には株式市場に関心が高いので、ジョージ・ソロスの再帰説は興味深く読めました。ソロス自身の著作も読んだことがありますが、あの人の本は理解しにくいので少しすっきりしました。まあ私は単純に、市場は行き過ぎることがあるし(バブル発生)、逆方向に揺り戻しが来ることもある(バブル崩壊)と一言で済むように思うのですが。

最後に著者はグローバル資本主義の限界を指摘し、コミュニティ再生のような議論もするのですが、そのあたりは若干よくわかりません。強欲な資本主義で人間関係が希薄になると述べていますが、資本主義的関係にもいいところはありますよ。後腐れがないですし。昔ながらのしがらみにまみれた共同体の、永遠に変わらない閉鎖的な相互監視の空間はかなりキツいです。全面的に共同体に没入できれば楽になるのでしょうけど。理想的なコミュニティってできるのでしょうか。
(書評2014/08/05)

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「マンキュー入門経済学 第2版」 N・グレゴリー・マンキュー(著)

 

経済学の教科書として、かなり有名な「マンキューの経済学」です。私は独学なので、マンキューの「入門経済学」の方で、書評をまとめてみました。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

経済学の基本を、真面目に独学したい人。

 

要約

経済学の10大原理。
①人々はトレードオフに直面している。
②あるものの費用は、それを得るために放棄したものの価値である。
③既存の計画を微調整することを、限界的な変化を呼ぶ。限界的な費用と限界的な便益を比較することが、合理的な選択となる。
④人々はインセンティブに反応する。
⑤交易(取引)は、すべての人をより豊かにする。
⑥通常、市場は経済活動を組織する良策である。
⑦政府が市場経済を改善できることもある。
⑧(ある国の)生産性が高くなると、生活水準が向上する。
⑨政府が貨幣を供給しすぎると、インフレになる。
⑩インフレと失業は、短期的トレードオフである。(短期的には、インフレになると失業が減る。)

・経済学は、社会の希少な資源をいかに管理するか、を研究する学問である。研究は科学的方法による。(仮定、モデル、フロー循環図、生産可能性フロンティア。)
ミクロ経済学は家計や企業、マクロ経済学は経済全体。
実証的な主張は社会がどうなっているかという説明(経済学者)、規範的な主張は社会がどうあるべきかという主張(政策アドバイザー)。

・より少ない投入量で生産できるのは絶対優位、より小さい機会費用で生産できるのは比較優位。それぞれの比較優位に特化して交易することで、すべての人がより豊かになる。このとき、交易の価格は、それぞれの機会費用の間にあること。

・競争市場には、多くの売り手と買い手がいる。財の価格が下落するにつれて需要量は増加(需要曲線)、財の価格が上昇するにつれて供給量は増加(供給曲線)。価格以外の要因が変化すると、需要曲線や供給曲線はシフトする。需要曲線と供給曲線の交点で均衡する。ある出来事が市場にどのような影響を与えるか分析するには、①需要曲線と供給曲線がシフトするか、②どちらにシフトするか、③新しい均衡と当初の均衡を比較、を考える。

・財の価格の上限を法律で決めたとき、価格の上限が均衡価格を下回っていれば、需要量が供給量を上回って不足が生じる。価格の下限を法律で決めたとき、価格の下限が均衡価格を上回っていれば、供給量が需要量を上回って余剰が生じる。

政府がある財に課税すると、均衡取引量は減少し、その財の市場規模は縮小する。財への課税は、売り手と買い手が分担して負担することになる。税の負担は、弾力性が小さい側に重くなる。

・消費者余剰は、需要曲線よりも下で価格よりも上の部分の面積。生産者余剰は、価格よりも下で供給曲線よりも上の部分の面積。消費者余剰と生産者余剰の合計が最大となると、資源配分は効率的で、便益は最大となる。合計が最大となるのは、需要と供給の均衡点。

売り手と買い手の取引が第三者に与える影響を、外部性と呼ぶ。負の外部性があれば、社会的に最適な取引量は均衡取引量より少なくなる。正の外部性があれば、社会的に最適な取引量は均衡取引量より多くなる。政府は外部性による非効率を、規制や矯正税、排出権取引で改善できる。コースの定理によれば、外部性の影響は当事者間の交渉で解決することもできる。

経済の総支出と総所得は等しい。GDPは、新しく生産される財・サービスへの経済の総支出と、これらから得られる総所得を測定する。GDPは、一定期間において、一国内で生産されるすべての最終的な財・サービスの市場価値である。GDPは、消費、投資、政府支出、純輸出の4項目からなる。

名目GDPは、その期の価格を用いて経済の財・サービスの生産を評価する。実質GDPは、基準年の価格を用いて経済の財・サービスの生産を評価する。GDPデフレーターは、名目GDPと実質GDPの比で、物価水準を示す。

消費者物価指数(CPI)は、財・サービスのバスケットの費用を、基準年の同じバスケットの費用と比べたものである。CPIも物価水準を示し、その変化率でインフレ率を測定する。CPIには代替バイアス、新しい財を含まない、品質を考慮しないという3つの欠点がある。

実質利子率 = 名目利子率 - インフレ率

・一国経済の生活水準は、一国経済が財・サービスを生産する能力に依存する。その生産性は、労働者に利用可能な物的資本、人的資本、天然資源、技術知識で決まる。貯蓄と投資の促進、外国からの投資の促進、教育と健康の水準向上、所有権保護と政治的安定の維持、自由貿易の促進、新技術の開発促進などの政策は、経済成長を促す。

資本の限界生産力は逓減する。

金融システムは、ある人の貯蓄と他の人の投資とを結びつける。利子率は、貸付資金市場の需要と供給によって決まる。

国民貯蓄は、民間貯蓄と政府貯蓄からなる。財政赤字は負の政府貯蓄であり、国民貯蓄が減少するので、財政赤字により貸付資金の供給は減る。利子率が上がり貸付資金量が減るので投資は減少し、生産性とGDPの成長が低下する(クラウディング・アウト)。

・貨幣供給と物価水準のような名目変数は、産出量や雇用に影響しないという古典派理論の仮定は、長期においては正しいが短期においては正しくない。短期では、財・サービスの産出量と一般物価水準は、総需要と総供給が均衡するように調整される。

総需要曲線は右下がりである(物価水準が下がると需要が増える)。これは物価水準が下がると、①貨幣の実質価値が増加する、②利子率が下がる、③通貨が減価する、の理由で需要量が増えるため。

長期の総供給曲線は垂直。

短期の総供給曲線は右上がりである(物価水準が下がると供給が減る)。これは短期では、①賃金が動きにくい、②価格が動きにくい、③供給者が価格を誤認する、という理由による。

・消費、投資、政府支出、純輸出の変化で、総需要曲線はシフトする。労働、資本、天然資源、技術知識の変化で、総供給曲線はシフトする。

ある経済の純資本流出は純輸出に等しい。国民貯蓄は、国内投資と純資本流出の和に等しい。

 

書評

私は経済学を学校で勉強したことはありません。ですから、経済学の教科書を評価することはできません。ただマンキューの経済学は、門外漢の私ですら聞いたことがあるので、スタンダードなテキストだろうと思っていました。

実際読んでみると、確かにわかりやすいです。例えがやさしく、解説もじっくり書かれています。考えながらゆっくり読んでいけば、理解できるのではないでしょうか。ただ経済への興味がないと、500ページ以上あるので、なかなか最後まで読めないかもしれません。私はこの5年くらい投資のことばかり考えているので、勉強になるなと思いつつ読めました。

大家の教科書ですので、やさしいとはいえ結構本質的なことも書いてあるような気がしました。税を真に負担しているのは誰か、などは考えさせられました。税の種類によって、表面上納税義務がある人ではなく、別の人が実質的に税を負担していることがあるなどは、知っていた方がよいなと思いました。税制度の設計のやり方で国民の負担配分が変わりうること、そしてそのことを国民が理解しない場合があるとわかりました。

入門経済学のレベルでですが、断片的だった経済の知識がひとつにまとまりました。独学で読み通せれば、達成感は味わえます。ただ困るのは、経済学にはいろいろ学派があることです。

本書は2008年の金融危機後に改訂されており、金融危機の内容も意識されて書かれています。マクロ経済の解説も勉強になりましたが、マクロ経済学はまだ完成していないような感じもしました。

日本のバブル崩壊からの20年で起きたことや、2008年の金融危機後に起きたことを、マクロ経済学の説明を読みながら考えても、どうもしっくり来ません。総需要や総供給の説明と、失われた20年の現象がかみ合わないような気もします。2008年以降の金融政策とその効果も、どうなっているのかよくわかりません。私の勉強が浅いためでもありますが。本書では割と、サブプライムローン危機は去ったという書き方なのですが、まだ終わってはいないのではないでしょうか。2015年の現時点でさえ、ゼロ金利のままなのですから。事態を正しく理解するためにも、ますます勉強が必要です。
(書評2015/05/06)

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「原油暴落で変わる世界」 藤和彦(著)

 

原油価格の暴落は、資源国経済とアメリカのシェール経済に大打撃を与えます。本書では、この打撃が想定外の金融クラッシュを招きかねないと指摘します。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

原油と世界経済に興味がある人。

 

要約と注目ポイント

原油価格の推移

・原油価格は3つの要素で決まる。
①需要と供給。
②地政学的リスク。
③金融市場。
近年は金融市場の影響が最も大きい。

・2014年後半から原油価格が急落した原因は、
①OPECで減産合意できず、サウジアラビア、イラク、リビアなどが増産していること。
②米国が量的緩和の終了を決めたこと。
③米国の原油生産量が増加していること。

現在の原油価格は、金融市場にふりまわされています。

原油価格下落の影響

原油安は産油国から原油輸入国への富の移転であり、輸入国(日本)の経済成長を押し上げる。産油国の経済にはマイナスとなる。

・原油安の恩恵を受けるのは、輸送、化学、建設などの業界。打撃を受けるのは、石油元売り、総合商社、エンジニアリング、鉄鋼などの業界。

原油安による消費増は世界経済にプラス。産油国の経済停滞は世界経済にマイナス。オイルマネー(政府系ファンド)の資金引き上げが、金融市場に動揺を及ぼす可能性も。また、シェール企業とその低格付け社債、資源関連ファンドなどの破綻が金融危機を招くおそれもある。

技術の向上により原油の可採埋蔵量は増えており、原油価格を押し下げている。2000年代に起きたシェール革命は、アメリカの原油生産量を増大させ、多くの雇用を生んだ。ただし、シェールオイルの採算性には疑問もある。

原油先物市場に大量の資金が流れ込むようになり、価格の高騰と急落の原因となった。

・中国経済の本格的な減速により、原油の需要はさらに減少する可能性がある。

・原油価格の低下で、石油産業に巨額の評価損が発生する。また設備投資が大幅に抑制されるので、経済成長を減速させる。

・シェール企業は規模が小さく、原油安が続けば破綻が続くという見方もある。しかし生産分を市場でヘッジしているため、当面は生産を続けるとも推測される。

原油価格の低下は日本経済にとってプラス、という声が世間では多いです。しかし原油や資源の価格低下は、資源国や新興国に大ダメージです。

原油暴落と金融危機

シェール関連債券の構図は、サブプライムローンと酷似している。

・原油価格の下落でオイルマネーは縮小し、世界の商品市場の指数も安値をつけている。世界経済にデフレ圧力がかかっている。過度な引き締めや緊縮財政は、不況や社会不安を招きかねない。金融緩和により市場はバブル化しているが、金融市場は複雑系なので、崩壊を予測することはできない。

・原油安のためロシア経済はマイナス成長が予想され、ルーブル安ともなっている。しかし当面は、デフォルトなどの事態は考えにくい。

原油や資源の価格低下はデフレの兆候であり、金融危機の原因となる可能性があります。

原油安と日本の安全保障

・歴史的には、ロシアからウクライナや欧州へ安定して天然ガスが供給されてきた。天然ガス価格下落に伴う値下げ交渉、ウクライナ紛争、複数のパイプライン計画などにより、このところ問題が生じている。

・ウクライナ紛争を受けた、ロシアと欧州の相互の経済制裁は、両者の経済に悪影響を与える。ロシアは中国に対し警戒心を持っているが、欧米の強硬な姿勢が続けば、中ロ接近という副作用も考えられる。

・原油安は産油国間の立場に亀裂を生じさせた。またサウジアラビアなどでは、内政にも動揺を与えている。サウジアラビアは、将来の王位をめぐる王族内の争い、国民の不満、反サウジのISILやイエメンの武装勢力など、内憂外患である。

・アラブの春は挫折し、中東に混乱をもたらした。ISILの目的は、イスラム圏の国民国家体制を解体し、ひとつのイスラム共同体を建設することである。この主張は、イスラム原理主義者に対し訴求力がある。

・アメリカは北米や中南米で原油の調達のめどがつくようになり、中東へ関与する意欲が低下していくかもしれない。

・アメリカのシェールガスは採算がとれていない。日本は原発が停止し、政治的に不安定な中東にエネルギーを依存する状態となっている。日本はサハリンとの間で、天然ガスのパイプラインを建設すべきである。

・中国は急増する原油輸入の安定化のため、東シナ海と南シナ海の制海権を確保しようとしている。中国は対外強硬路線をとる可能性があり、日本には戦略的な行動が必要となる。

日本国内の対ロ感情はとても悪いです。しかし著者は、戦略的な思考を勧めます。中国への対抗策に、対ロ関係の再構築も考えられます。

 

書評

本書は前半が金融市場と原油の関係、後半はエネルギー資源と国際政治、安全保障の話となっています。どちらも興味深いものですが、私は専ら、相場への関心から読みました。

金融市場の話の肝としては、原油安が金融危機の原因になりかねないということです。世界的に金融緩和政策がとられ、低金利・カネ余り状態のため、審査の甘い融資が行われています。

シェール革命のブームに乗って、アメリカで多くのエネルギー企業が、多額の借金をしたり低格付けの社債を発行しています。これは高い原油価格を前提にしているので、原油安が続けばシェール企業は破綻します。

この破綻が、融資した銀行やジャンク債の買い手に損失を発生させます。サブプライムローン危機で発覚したように、デリバティブ取引の損失はどこまで波及するのかが不明です。

また原油安は、産油国のオイルマネーを縮小させ、事態が長引けば政府系ファンドが市場から資金を引き上げるかもしれません。これらの要因が金融市場にショックを与え、危機を招くおそれがあるということです。

バーナンキ議長が量的緩和の終わりを口にしただけで株価が急落したように、市場はアメリカの金融引き締めを気にしています。リーマンショック以降の7年ほど、世界中で歴史的な金融緩和政策を続けてきました。

バブル相場はいつでもそうですが、緩和政策が続いてリスク意識が低下することから発生します。好景気が続き、お金を借りる方も貸す方も気が緩んでくると、期待リターンと貸し倒れのリスクが釣り合わない状態になります。

融資にしろ株価にしろ、経済的に理屈に合わない事態がそのまま進行すると、あるときその歪みが逆回転を始めます。

そんなわけで、次の金融危機が原油安を起点に発生するというシナリオがあります。本書ではそのあたりの事情を解説しており、よくわかります。シェール革命や世界の原油市場の事情なども、簡潔な説明があるので勉強になります。

後半は地政学的な話ですが、中国がこれから覇権国家として、東アジアを支配下に置きかねない事態を検討しています。こういう話を読むと、(日本の独立が危うい、列強の植民地にされるという)幕末のような危機感を感じます。戦略的思考が必要になるのですが、日本の戦略的思考の弱さは70年前に実証済みなので、心配になります。
(書評2015/04/17)

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「リスクを取らないリスク」 堀古英司(著)

 

デフレの失われた20年から、インフレの日本へと変わるのか?もし本当に環境が変わるのなら、どうすればよいのでしょう。それを考える1冊です。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

これから日本で起こりそうな事態と、その対処について考えたい人。

 

要約と注目ポイント

日本は金融の分野で遅れていると危機感を覚え、(著者は)ニューヨークでヘッジファンドを設立した。しかし20年以上アメリカで働きながら見ていると、日本人のリスク回避志向は変わっていない。頑張った人はご褒美をもらえるという原則のほかに、リスクを取った人がご褒美をもらえるという原則も日本人は知るべきだ。

日本経済は20年間も停滞している。リスクを避けることで、成長や利益が損なわれてきた。

本書では、「不利な状況に陥る可能性がある行動を選ぶ」ことを「リスクを取る」と呼ぶ。株式投資や転職など。

リスクを避け、現状維持を選ぶことで、日本は停滞に陥ってきたと指摘します。

リスクを考えるときの原則。

①人間はリスク回避的になりやすい。
②リスクがあることには、リターンが要求される。
③リスクとリターンのバランスは、需給で変わる。

リスクに対してリターン(期待値)が大きいか、考えてみる。ハイリスクローリターンな金融商品はあるが、ローリスクハイリターンな金融商品はない。

経済には、リスクの担い手が必要だ。株式投資や消費活動は、リスクを担うことで、社会生活を支えている。

リスクとリターンの関係を、正しく理解することが重要です。

日本経済の現状と、個人でリスクを取ること

アメリカと日本の金融政策について。金利、円高と円安などの解説。

リスクについては、「リスクを取ったことにより起こるリスク」と「リスクを取らなかったことにより起こるリスク」を、同時に検討すべき。

日本の高い公的サービスや生活の水準を維持するためには、経済成長が必要である。経済が成長するためには、競争して努力すること、リスクを取ることが求められる。

革新が起き経済が成長すると、格差は広がりやすい。しかし、格差問題と経済成長は別に考えるべきで、セーフティネットの整備などとともに、経済成長も追及しなければならない。対策としては、教育や職業訓練、英語の習得、移民(労働力)の受け入れなどが考えられる。

日本の累積債務、少子高齢化と人口減少から、将来は格差が拡大していくことが予想される。

経常収支と日米金利差を考えると、長期的にはこれから円安が進行するだろう。円高の時代が終われば、何もしないことが正解だった時代も終わる。

年金制度の問題では、経済成長の達成、年金支給年齢の引き上げ、移民の受け入れ、年金積立金の運用見直し、が対策となる。将来的には年金支給額の減額を覚悟しておくべきだろう。

政府債務の増大、人口減少と高齢化、格差拡大などは確実な未来と言えます。そうすると、経済成長が必要ですし、個人としても否応なく、リスクを取らされる場面が来るかもしれません。

投資・保険と、リスクの考え方

投資でリスクを取る前に、それ以外のリスクを考えてみる。

保険は、確率は低いがコストは大きい事象のためにある。生命保険は、残された家族の生活に必要な額だけ、掛け捨ての定期生命保険でかける。ほかに必要な保険は、自動車事故や住宅の火災など。

個人がリスクを取るのに、最適な金融商品は株式である。投資家が不安になりリスクを取らない時期は、リスクプレミアムが高くなり、その時期に投資できたならば高いリターンが得られる。

情報の透明性や信頼性、成長力、益利回りなどから、まずアメリカ株式を勧める。株式には長期の観点で投資すること。売却のタイミングは、お金が必要になったときに必要な額だけ売る。

生命保険や医療保険、自動車保険は高い買い物です。リスクとリターンを考えて、契約しましょう。長期投資に株式が適しているのは確かです。本書はあまり投資方法を扱っていないので、他の本でも勉強しましょう。

住宅の購入はローリスクに

①賃貸に転用できるような、良い地域の物件を選ぶ。

②お手ごろな価格の物件にする。(高すぎると相続税が問題になる。売却時に買い手が見つからない可能性がある。)

③住宅ローンは、余裕をもって返済できる範囲内とする。

④キャッシュがあっても、住宅ローンを低利で借りられるなら借りる。キャッシュは長期投資に回す。

人口減少する日本で、住宅の購入に失敗することは、とてもハイリスクな買い物になります。十分な事前の検討が必要です。

転職もリスクを取る行為

仕事を選ぶときも、「リスクを取るリスク」と「リスクを取らないリスク」を考える。他人にできないことをやっていく。人から信用されること、体力、胆力は大切だ。

実際にリスクを取る。

①事前に徹底的に分析する。

②短期で勝負しない。

③最悪のケースを想定しておく。

④失敗しても再挑戦できる措置をとっておく。また失敗を過剰に悲観しない。

将来の日本で、追い込まれた状態でリスクを取らされるなら、今、自分の方からリスクを取っていくことが、結局はローリスクかもしれません。

 

書評

想像通り、これからはリスクを取らないと厳しい環境になる、という本でした。でもまあ、その通りだと思います。頑張った人や他人にできないことをした人が、ご褒美をもらえるのが資本主義のルールだと強調されています。サボっている自分には痛い言葉です。

日本経済の今後を展望し、もはや国家が個人の生活を保障してはくれないので、対策を自分で行う必要があることを訴えています。私の場合は、1990年代後半から何となく不安は感じていましたが、東日本大震災で決定的に危機感を持ちました。

しかし、橘玲氏の本などを読むときも感じますが、本書を読んで問題意識や危機感を持たなければいけない人は、書店でこの本を手に取ることはないだろうと思います。

本書を読まなければいけない人は読まず、読むのはもうわかっている人です。資本主義が嫌いな日本人は、ずいぶん多いように思います。お金持ちへの妬みが強い社会なのでしょうか。

ところで、住宅購入の解説で、気になったところがあります。低利で住宅ローンを借り、保有するキャッシュは長期投資に回すべきと述べています。これに対し山崎元氏は、住宅ローンを返済することはリスクなしでローンと等しい利率で運用していることと同じなので、最優先で住宅ローンを返済すべきとしています。

私なりに考えを補足してみますと、住宅はあくまでも投資として冷静に検討し、資産価値がある物件を適正な価格で適正なローンで購入する。保有するキャッシュで買ったり、すみやかにローンを返済するのが保守的で安全だ。住宅ローンの利率以上で、長期に確実に運用できる自信のある人だけが、ローンを組みつつ保有するキャッシュを運用に回すのがよい。となります。
(書評2014/11/07)

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「「空き家」が蝕む日本」 長嶋修(著)

 

空き家が増え続けている日本。投資用のアパートやマンションの購入を考えている人は必読です。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

空き家から日本の不動産について考えたい人。

 

要約

日本では空き家が増え続けている。
2040年には、住宅の3件に1件は空き家になると予測される。賃貸住宅の空室率は、現在すでに約20%である。

・空き家の増加は治安を悪化させるので、自治体は税金を使って空き家の撤去を促している。景気対策として新築住宅の建設が推進されているが、空き家の増加は成熟社会へと変化した日本の社会構造に、政策や思考が追い付いていないことを表している。

・日本の住宅には、住宅寿命が異常に短い、賃貸住宅が貧弱、中古住宅市場が閉鎖的、という問題がある。住宅は金融商品であるとともに生活の場でもある。住宅市場が変化することで、日本社会に利益がもたらされることを期待する。

・不動産業者は、住宅価格を感覚的な基準で査定している。また仲介手数料をとるため、物件情報を囲い込もうとする。不動産業者(宅地建物取引主任者)には、建物に関する見識はない。顧客が守られていない実態がある。

・住宅ローンの審査では、本人の属性が重視される。日本の住宅は、新築で100%、入居した瞬間に80%、10年後に50%、25年後に0%の価値となる。住宅ローンで日本の新築住宅に住む場合、ずっと債務超過の状態にある。住宅を売ってもローンが残れば、返済する必要がある。(アメリカではローンが払えなくなれば、住宅を手放して清算できる。)

外国との比較。
欧米では、中古でも一律に建物の価値が下がることはない。アメリカには住宅診断士がいて、金融機関も住宅ローンの審査では実際に建物を調べる。アメリカの住宅データベースは日本よりはるかに整備され、公開されている。不動産エージェントには資格が必要で、高い倫理観が求められ、社会的地位も高い。英米仏では中古住宅取引数が新築住宅着工戸数の数倍であるが、日本では逆となる。

・空き家は地方だけでなく、都市部でも増えている。空き家が放置されるのは、建物が残っていた方が宅地扱いとなり、固定資産税が安くなるためである。住宅着工戸数が現状より減っても、2040年には空き家率が30%以上になると予想される。空き家率が30%を超えると、治安が悪化し街は荒廃するという研究結果がある。

長期間空き家となっていれば課税する、10年単位で住宅需要を推計し新築住宅着工戸数を調整(抑制)する、などの対策が有効だろう。

日本の住宅に資産価値を持たせるためにも、中古住宅市場とリフォーム市場の整備や、中古住宅の評価方法の改善が求められる。

木造住宅もマンションも、適切に設計、工事、点検、メンテナンスが行われていれば100年前後はもつ。住宅の寿命が26年でマンションが37年とよく言われるが、これは取り壊した(建て替えた)平均築年数である。木造住宅では屋根裏や床下を年1回は点検しよう。水漏れや雨漏りをチェックする。マンションではクラック(ひび割れ)を調べる。いずれも早めの修理で安く寿命が伸ばせる。

・耐震性では、マンションが1981年の新耐震設計基準に従っているか、一戸建てでは法改正された2000年基準を満たすかが、ひとつの目安となる。

・日本の住宅政策では、賃貸住宅は持ち家を得るまでの前段階と位置付けられている。景気対策のねらいもあり、新築住宅には助成や金利優遇がなされる。賃貸住宅には補助はなく(他の先進国では家賃補助は一般的な政策)、大家の経営は圧迫されるので賃貸住宅の質は低くなる

日本の住宅政策は、新築住宅に偏り過ぎている。しかし住宅関連の業界団体には力があるので、住宅予算を賃貸住宅市場に振り分ける見込みは今のところない。また借地借家法なども時代遅れになっている。

・売主も買主も自分で探せば手数料が2倍稼げるので、不動産仲介業者は物件情報を囲い込もうとする。しかしこれは顧客との契約違反であり、業界の悪習である。情報隠蔽を法で禁止し、媒介契約をオープン型とクローズ型に分けることが望ましい。

・不動産を売却したいとき、仲介業者との契約は売れやすい物件なら一般契約で、やや売れにくい物件なら専任契約がよい。

・日本の住宅には、消費エネルギーを減らすという「省エネ」においても改善すべきところが多い

・日本の不動産市場は縮小するが、マレーシアやタイ、フィリピンで良い場所を探せば有望な投資先はある

 

書評

近所でもたくさん空き家が目につきます。冬の大雪で駐車場や物置の屋根が傾き、植木の枝や雑草が道路にまで飛び出てきています。放火されたりするのではと、心配になります。

そんな空き家の数十メートル先に、消費税増税前の駆け込み新築住宅が何件も建てられました。同じ光景は何か所もありました。販売価格は数千万円で、ほぼすべて売れました。住宅の支払いは一生ものですが、それだけの価値があるのでしょうか。うまくいけばいいと思います。予定外の出来事があれば、住宅ローンが人生の重荷になります。

私にはどうしても、日本で実物不動産に集中投資することが有利な選択になるとは思えません。まあそれぞれ個人の自由なのですが。大規模な不動産開発業者のように、大量の物件を持てばリスクが分散されるのでそれもありかと思いますが、サラリーマンが人生を賭けて借金をして、1件の住宅を選ぶことは怖くて仕方がありません。

著者は日本の不動産取引の慣習に問題意識を持つ方なので、住宅を買いたい人にも参考になることがあるかと思います。本書は文章も平易でわかりやすく、分量も少ないので興味があればすぐに読めます。ただ詳しく勉強したい人には、物足りないと思われます。
(書評2014/09/03)

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