「貨幣という謎 金と日銀券とビットコイン」 西部忠(著)

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貨幣について深く考察した1冊です。ビットコインについても学べます。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

貨幣、市場、価格、ビットコイン、資本主義などに興味のある人。

 

要約

・経済は数字でカッチリと形が決まるようなものではなく、人間の認識や行動を通じて生じる、動きのあるシステムである。進化するシステムである経済を理解するため、貨幣について考える。

貨幣は「もの」なのか「こと」なのか。硬貨や紙幣のような「もの」であり、プリペイドカード利用時のデータ信号のような「もの」でもあり、クレジットカード利用時のお金を借りる信用通貨のような「こと」でもある。

・現在、価格の決まり方は新古典派経済学の「一般均衡理論」を根拠としている。これは貨幣の存在を無視し、すべての需要と供給のギャップが解消されるようにあらかじめ価格を完全に調整してから、全参加者が全取引を一度に行うような市場を想定している。
このようなすべてに一物一価が成立し、すべての取引が同時に瞬間的に行われるという仮定は現実的ではない本書では、貨幣の存在する現実の市場を考察する。

・市場には、需要と供給により価格が決定される「伸縮価格市場」と、生産者や当局が価格を決める「固定価格市場」がある。「伸縮価格市場」は、「組織化された市場(競り市場)」と「組織化されない市場(商人媒介市場)」とわけられる。
現在は、いくつかの分野に「競り市場」がみられるが、大部分は「固定価格市場」である。本書では、一般均衡理論に基づく市場を「集中的市場」、「組織化されない市場」と「固定価格市場」を合わせて「分散的市場」と呼ぶことにする。

現実の市場のほとんどは、相対取引が集積した「分散的市場」である。オークションのみ、「集中的市場」に似ている。株式市場は競争の要素はあるが、無数の相対取引の集合である。一般消費財もほとんどが定価販売であり、需要の短期的変動には、生産者は価格調整ではなく数量調整で対応する。また、一物多価が成立している。売り手は適切な価格が市場で決められてから売買するのではなく、自ら定価を提示し、短期的には数量調整を、長期的には価格調整をする。

現実の世界では、貨幣が存在して市場が成立する。貨幣が存在するから物が商品となり、商品が売買される場が市場となる。

・物々交換の際、多くの人に欲しがられるものが交換に便利なので貨幣となった(貨幣商品説)。そして、貨幣は他者が欲しがるから自分も欲しいという、欲求の模倣によって制度が強化される。したがってどんなものでも貨幣になりうる。

貨幣の動態と人間の欲望は循環構造にあり、市場経済を考察するのに貨幣を無視してはならない。経済の本質が、所与の目的を達成するために希少な資源を最適に配分することならば、経済に貨幣は必要ない。だが多くの独立した個人が分業する社会では、貨幣なくして市場は存在しない。

・市場は共同体の外にあるが、経済は共同体の中にもある。経済(エコノミー)の語源は家政術(オイコノミア)である。市場原理は、共同体の原理(贈与原理や互酬原理)を脅かす。

貨幣の機能。
①交換手段。
②価値尺度、購買手段。(貨幣で物は買えるが、物で貨幣は買えない。)
③蓄積手段。
④支払手段。(「信用」は貨幣を節約するための仕組み。)
貨幣の機能は、貨幣に購買力があると皆が信じるか予想するために、観念が自己実現することで支えられている。

・観念の自己実現は、昨日と同じように今日も貨幣が使えると慣習的に考えることで成り立つ。あるいは、次に貨幣を受け取る人がいると予想することで成り立つ。大多数の慣習的思考と予想が崩れると、観念の自己実現は失われる。

ビットコインについて。その成り立ち、仕組み、特徴。公開性やP2Pという、自由主義的で非中央集権的な設計思想に基づく。マイニングは、通貨発行や管理業務を行うインセンティブをユーザーに与え、ユーザーを増やすことに寄与する。
集権性の国家通貨に対し、P2P型分散的ネットワークの民間通貨が競合する世界が、フィクションではなくなってきた。(ハイエクの「貨幣の脱国営化論」。)

・貨幣は、穀物や家畜から貴金属、鋳貨、紙幣、手形、電子マネーと変化し、「もの」から「こと」へと近づいてきた。また、鋳貨から兌換銀行券、不換銀行券と、信用貨幣へと変化した
通貨には、市中に存在する現金通貨と、銀行に預けられている預金通貨がある。民間銀行は、要求払預金の一部を支払の準備として残すほかは、貸付で信用創造することができる。

貨幣が信用貨幣化していることは、現代の貨幣の本質が、価値の移転や債務を記録する債務証書であることを示す。市場は、無数の売り手と買い手が貨幣という価値情報を媒介にして、相対取引を行う分散的ネットワークである。

・手っ取り早く儲けたい、自分だけ乗り遅れたくない、という心理から資産価格が異常に高騰するバブルは、歴史上繰り返し発生してきた。バブルには、価格が上がると皆が信じることによって実際に価格が上昇するという、観念の自己実現の性質がある。

・ジョージ・ソロスは、バブルを「再帰性」という概念で説明した。人間は自分の生きる世界を理解しようとする(認知機能)と同時に、世界に影響を与え自分に都合よく変えようとする(操作機能)。
認知機能と操作機能は同時に干渉し合いながら社会現象に作用するので、参加者の思考と社会現象の間には双方向性が生じる。ソロスはこの双方向性を「再帰性」と呼んだ。

ソロスによれば、「支配的トレンド」と「支配的バイアス」によってポジティブフィードバックループが作動してバブルが生成し、転換点でループが逆回転するとバブルは崩壊する。
「支配的トレンド」とは、ある時代において支配的な世界への働きかけの方法、すなわち操作機能である。「支配的バイアス」とは、ある時代において支配的な認識の方法、すなわち認知機能である。

ソロスのバブル8段階説。
①初期:支配的トレンドは認識されていない。
②加速期:支配的トレンドが広く認識され、支配的バイアスにより強化される。株価は上昇。
③試練期:株価が一時的に下落。
④確立期:試練期を越え、支配的トレンドと支配的バイアスは強化される。株価は著しく上昇。
⑤正念場期:高騰した株価に現実が追い付かなくなる。
⑥黄昏期:危険に気付きながら参加者はゲームを続ける。
⑦転換期:支配的トレンドと支配的バイアスが一気に逆転する。
⑧暴落期:破局に至る。

・貨幣がなくては市場や信用といった制度は存在せず、市場や信用がなければバブルも発生しない。資本主義市場経済の長所は、競争により価格が下がり消費者の利益になること、イノベーションが促されること、契約や売買の自由は政治的自由の基盤となることである。短所には、景気の変動が大きくなること、社会環境や自然環境への悪影響に歯止めがかからないこと、人間関係や共同体を弱体化させることがあげられる。現在は、資本主義市場経済の短所が大きく現れている。

・グローバル資本主義には、貧富の格差という問題がある。だがそれ以上に重大な問題は、個人には自己責任が厳しく問われるのに、巨大な企業や金融機関は危機に陥っても金融システム維持の大義名分で救われ、経営者や富裕層が責任を逃れることにある。資本主義の競争原理や自己責任原則というルールが実は失われており、グローバル資本主義は根本的に不公正であるということが、広く認識されつつあるようだ。
現在行われているインフレ目標を伴う金融緩和政策は、失敗したとしても次の手段はない。今の金融政策は貨幣の量の視点のみで、質に注目することはない。新たな思想に基づく質の高い貨幣の出現が望まれる。

 

書評

貨幣について考えたことなどなかったので、新しい視点を勉強することができました。貨幣がなければ市場は存在しない。需要と供給の均衡から価格が決まるのではなく、市場は無数の相対取引の集積である。などなど。著者は新古典派経済学に批判的なので、こういった主張は主流ではないらしいですが。

貨幣はそのものに価値があるのではなく、皆が価値があると信じるから貨幣になるということは知っていましたが、順序立てて解説されるとよくわかりました。将来も貨幣が使われると慣習的に考えることと、次に別の人が受け取ると予想することが貨幣を成立させるようです。

個人的には株式市場に関心が高いので、ジョージ・ソロスの再帰説は興味深く読めました。ソロス自身の著作も読んだことがありますが、あの人の本は理解しにくいので少しすっきりしました。まあ私は単純に、市場は行き過ぎることがあるし(バブル発生)、逆方向に揺り戻しが来ることもある(バブル崩壊)と一言で済むように思うのですが。

最後に著者はグローバル資本主義の限界を指摘し、コミュニティ再生のような議論もするのですが、そのあたりは若干よくわかりません。強欲な資本主義で人間関係が希薄になると述べていますが、資本主義的関係にもいいところはありますよ。後腐れがないですし。昔ながらのしがらみにまみれた共同体の、永遠に変わらない閉鎖的な相互監視の空間はかなりキツいです。全面的に共同体に没入できれば楽になるのでしょうけど。理想的なコミュニティってできるのでしょうか。
(書評2014/08/05)

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