「さっさと不況を終わらせろ」 ポール・クルーグマン(著)

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おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

停滞した世界経済を再び成長させるにはどうするべきか、考えたい人。

 

要約

本書では、金融危機のあとの不況から、どうすれば抜け出せるかを論じる。緊縮政策をやめ、政府支出を増やし、拡張的な雇用創出政策をとるべきだ。

 

誤った政策で続く不況による悪影響

・失業は人生にとって悲惨だ。
収入が激減して生活できなくなり、健康保険はなくなり、自尊心を失う。長期失業で、労働者としての技能や技術は低下する。若者の失業は、一生のキャリアに悪影響を及ぼす。

・不況が続いたことで、過去の平均成長で見込まれる水準より、低い成長軌道になった。二度と取り戻せない、失われた産出の累積損失は数兆ドルになる。将来に対する設備投資も不足している。

 

正しい政策(経済学)

・正しい政策がとられれば、現在の苦しい不況は発生しなかった。不況の悲惨さは大きいが、不況の原因自体はたいしたことではない。大きな需要不足が原因であり、その調整に失敗したことも原因だ。

・需要不足や調整の失敗が原因なら、お金の供給を増やすことで解決できる。だが今回は成功しなかった。流動性の罠にはまったためだ。ゼロ金利でも十分ではなかった。

・今の労働者の技能と、今の仕事で必要とされる技能にミスマッチがあるという説は誤りだ。政府が大量支出すれば、好況になる。

・ケインズの政府支出による雇用創出という政策は、正しいのにもかかわらず、政治的右派の人たちの敵意を受ける。金融危機に際しても、自由放任主義者、効率的市場仮説信奉者が誤った主張を行った。

・金融危機直後の金融政策は、おおむね肯定できる。FRBの政策により、金融システムの崩壊は回避できた。ただし、実体経済に対する財政刺激策は、方向性は正しいが、まったく不十分だった。その不十分さのために、財政刺激策に効果はないと、政治的右派から非難された。

・財政政策が不十分なのに、2010年ごろには追加の刺激策ではなく、財政赤字の抑制が議論されていた。財政赤字のせいで経済が危ないと言われたが、経済が低迷する限り金利が上昇することはないのだ。財政赤字に関しては、負債の実質価値が一定に収まるように注意すればよい。財政支出削減をすると、経済を縮小させ、長期的な債務負担能力を低下させる可能性がある。

・財政赤字と金融緩和により、激しいインフレが発生すると懸念する人たちがいる。しかし、インフレにはなっていない。好況にならなければインフレにならない。インフレ率が年4%のように今より高ければ、実質金利も下げられるし、負債の実質価値も圧縮できる。

・ユーロは、加盟国が共通通貨を使う。そのため、不況の国が通貨を切り下げられない。労働者が国を越えて移動することは少なく、財政統合されていない。制度に大きな問題がある。そのため不動産バブルが崩壊した南欧諸国などでは、長いデフレと低迷から抜けられない。国債の借り換えでも金利が高くなる。解決には、ECBがユーロ諸国の国債を買い、ドイツが財政刺激策をとってインフレ率を上げる必要がある。

・ユーロの失敗は、不況の原因が放漫財政だと信じていることにある。過去の贅沢で財政赤字が生じ、不況という罰を現在受けている、と道徳的に解釈する。2010年ごろから、緊縮財政によって経済は成長するという、奇妙な妄想が(前ECB総裁トリシェなど)エリート層に突然広がった。彼らは、経済が停滞し高失業で低インフレなときでも、金利を上げたがる。

・エリート層が、逆効果なのに緊縮策を好む理由は、おそらく心情的なものだろう。一般人には理解できないという知的優越性、緊縮による悲惨な事態を経ないと改善はないという道徳性、格差を是認する資本家の支持、を感じることができる。

 

金融危機の原因

・金融危機後に、忘れられていた非主流派の経済学者、ミンスキーのことを皆が評価するようになった。経済安定期には、資産や所得に対し負債が増え、レバレッジが高まる。しかしレバレッジの上昇は、そのあと経済を不安定にする。

・不況(恐慌)では、借り手が負債圧縮のため、資産を売ったり支出を減らす。するとデフレになって、経済は縮小し、さらに債務負担は重くなる。これを防ぐには、政府が支出を増やさなければならない。

・金融イノベーションや金融システムの規制緩和が、負債を増大させてリスクを高め、危機を招いた。規制緩和により、金融業界はリスクを極大にして利益を最大化し、損失が出れば顧客や納税者に押し付けるようになった。政治的右派は、危機の原因が規制緩和とは認めていない。

・アメリカでは1980年以降、所得がトップ1%の人たちと、それ以外の人たちの格差が急激に広がった。金融システムの規制緩和は、所得が最上位の人たちが推し進め、彼らの利益につながった。お金持ちは影響力が強い。お金持ちや政治家は、イデオロギー、経済的利益、人脈などの面から、問題のある現在の金融システムを維持しようとする。

 

不況の解決策

・政府支出を増やして雇用を創出し、経済を成長させ実質GDPを増大させる。セーフティネット整備などの困窮者対策を行う。

・中央銀行は過激なまでの決意をもって、次の政策を行う。長期債や民間債権を買う。減税分の国債を買う。金利を一定以下にすると宣言する。通貨価値を切り下げる。高めのインフレ目標を設定する。

・住宅購入者の債務負担を軽減する。

・現在の悲惨な停滞は、本書でここまで述べてきた、昔ながらの経済学の原理で解決できる。私たちは現実を知的にとらえ、政治的な意志を持ち、政策を実現させて不況を終わらせるべきだ。

 

書評

著者のクルーグマンは、ノーベル経済学賞を受賞した著名な経済学者です。私も有名な学者であると知っていましたが、主張(個性?)が強烈なので、ファンキーなニューヨークタイムズのコラムニストという印象でした。そのため少し敬遠していたのですが、売れた本でもあり、本書を読んでみました。

2012年に書かれた本で、現在が2015年10月なので、やや古いですが、それほど違和感のない主張のように感じました。実にリベラル派と言える内容ですが、2008年の金融危機についてよくまとまっています。世界経済を論じた本としては、くだけた文章でわかりやすく書かれています。内容は、実は易しくないですけど。

今思うと、中央銀行の超金融緩和策はまあ妥当で、破局を避けることができました。ただ、金融緩和だけでは限界があります。確かバーナンキ前FRB議長が、QE3が終わったころに、「金融緩和の効果は期待したほどではなかった(特に後半)」のようなことを言っていた気がします。

「シフト&ショック」などを読むと、金融緩和で恐慌を避けたあと、政府支出を拡大して生産性を高め、実体経済の成長率を高める努力をしておけばよかったのか、と感じます。本書でも、政府支出で教育投資やインフラ投資をしろと述べています。政府支出はさまざまな反対も出るし、金融緩和をやらせておくのが楽なので、政策として超金融緩和のみになってしまいました。「シフト&ショック」は2015年の本ですが、だいたい同じような分析と政策提言を、2012年の段階で述べています。クルーグマンさすがです。

あとちょっと意外だったのが、サマーズ元財務長官が2008年12月時点で、大きな財政刺激策に反対する経済的な助言を、オバマ次期大統領にしていることです。サマーズは現在、長期停滞論を唱え、インフラ投資など財政政策を行うよう主張しています。すごく頭のよい人でも、景気を見通すことは容易ではないのでしょう。

私個人はひたすら、株価や為替だけに関心があります。クルーグマンは中央銀行の政策も提言していますが、今の日銀とそっくりです。日銀の金融緩和策がかなり限界に近くなってきて、日本株も微妙になっています。これからどうなるのか、一生懸命考えているのですが、よくわかりません。クルーグマン的にはどうなのでしょう、金融緩和が不十分ということなのか?インフレ目標が2%では低く、4%ないと足りないのか?
(書評2015/10/04)

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