「マンキュー入門経済学 第2版」 N・グレゴリー・マンキュー(著)

Pocket

 

経済学の教科書として、かなり有名な「マンキューの経済学」です。私は独学なので、マンキューの「入門経済学」の方で、書評をまとめてみました。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

経済学の基本を、真面目に独学したい人。

 

要約

経済学の10大原理。
①人々はトレードオフに直面している。
②あるものの費用は、それを得るために放棄したものの価値である。
③既存の計画を微調整することを、限界的な変化を呼ぶ。限界的な費用と限界的な便益を比較することが、合理的な選択となる。
④人々はインセンティブに反応する。
⑤交易(取引)は、すべての人をより豊かにする。
⑥通常、市場は経済活動を組織する良策である。
⑦政府が市場経済を改善できることもある。
⑧(ある国の)生産性が高くなると、生活水準が向上する。
⑨政府が貨幣を供給しすぎると、インフレになる。
⑩インフレと失業は、短期的トレードオフである。(短期的には、インフレになると失業が減る。)

・経済学は、社会の希少な資源をいかに管理するか、を研究する学問である。研究は科学的方法による。(仮定、モデル、フロー循環図、生産可能性フロンティア。)
ミクロ経済学は家計や企業、マクロ経済学は経済全体。
実証的な主張は社会がどうなっているかという説明(経済学者)、規範的な主張は社会がどうあるべきかという主張(政策アドバイザー)。

・より少ない投入量で生産できるのは絶対優位、より小さい機会費用で生産できるのは比較優位。それぞれの比較優位に特化して交易することで、すべての人がより豊かになる。このとき、交易の価格は、それぞれの機会費用の間にあること。

・競争市場には、多くの売り手と買い手がいる。財の価格が下落するにつれて需要量は増加(需要曲線)、財の価格が上昇するにつれて供給量は増加(供給曲線)。価格以外の要因が変化すると、需要曲線や供給曲線はシフトする。需要曲線と供給曲線の交点で均衡する。ある出来事が市場にどのような影響を与えるか分析するには、①需要曲線と供給曲線がシフトするか、②どちらにシフトするか、③新しい均衡と当初の均衡を比較、を考える。

・財の価格の上限を法律で決めたとき、価格の上限が均衡価格を下回っていれば、需要量が供給量を上回って不足が生じる。価格の下限を法律で決めたとき、価格の下限が均衡価格を上回っていれば、供給量が需要量を上回って余剰が生じる。

政府がある財に課税すると、均衡取引量は減少し、その財の市場規模は縮小する。財への課税は、売り手と買い手が分担して負担することになる。税の負担は、弾力性が小さい側に重くなる。

・消費者余剰は、需要曲線よりも下で価格よりも上の部分の面積。生産者余剰は、価格よりも下で供給曲線よりも上の部分の面積。消費者余剰と生産者余剰の合計が最大となると、資源配分は効率的で、便益は最大となる。合計が最大となるのは、需要と供給の均衡点。

売り手と買い手の取引が第三者に与える影響を、外部性と呼ぶ。負の外部性があれば、社会的に最適な取引量は均衡取引量より少なくなる。正の外部性があれば、社会的に最適な取引量は均衡取引量より多くなる。政府は外部性による非効率を、規制や矯正税、排出権取引で改善できる。コースの定理によれば、外部性の影響は当事者間の交渉で解決することもできる。

経済の総支出と総所得は等しい。GDPは、新しく生産される財・サービスへの経済の総支出と、これらから得られる総所得を測定する。GDPは、一定期間において、一国内で生産されるすべての最終的な財・サービスの市場価値である。GDPは、消費、投資、政府支出、純輸出の4項目からなる。

名目GDPは、その期の価格を用いて経済の財・サービスの生産を評価する。実質GDPは、基準年の価格を用いて経済の財・サービスの生産を評価する。GDPデフレーターは、名目GDPと実質GDPの比で、物価水準を示す。

消費者物価指数(CPI)は、財・サービスのバスケットの費用を、基準年の同じバスケットの費用と比べたものである。CPIも物価水準を示し、その変化率でインフレ率を測定する。CPIには代替バイアス、新しい財を含まない、品質を考慮しないという3つの欠点がある。

実質利子率 = 名目利子率 - インフレ率

・一国経済の生活水準は、一国経済が財・サービスを生産する能力に依存する。その生産性は、労働者に利用可能な物的資本、人的資本、天然資源、技術知識で決まる。貯蓄と投資の促進、外国からの投資の促進、教育と健康の水準向上、所有権保護と政治的安定の維持、自由貿易の促進、新技術の開発促進などの政策は、経済成長を促す。

資本の限界生産力は逓減する。

金融システムは、ある人の貯蓄と他の人の投資とを結びつける。利子率は、貸付資金市場の需要と供給によって決まる。

国民貯蓄は、民間貯蓄と政府貯蓄からなる。財政赤字は負の政府貯蓄であり、国民貯蓄が減少するので、財政赤字により貸付資金の供給は減る。利子率が上がり貸付資金量が減るので投資は減少し、生産性とGDPの成長が低下する(クラウディング・アウト)。

・貨幣供給と物価水準のような名目変数は、産出量や雇用に影響しないという古典派理論の仮定は、長期においては正しいが短期においては正しくない。短期では、財・サービスの産出量と一般物価水準は、総需要と総供給が均衡するように調整される。

総需要曲線は右下がりである(物価水準が下がると需要が増える)。これは物価水準が下がると、①貨幣の実質価値が増加する、②利子率が下がる、③通貨が減価する、の理由で需要量が増えるため。

長期の総供給曲線は垂直。

短期の総供給曲線は右上がりである(物価水準が下がると供給が減る)。これは短期では、①賃金が動きにくい、②価格が動きにくい、③供給者が価格を誤認する、という理由による。

・消費、投資、政府支出、純輸出の変化で、総需要曲線はシフトする。労働、資本、天然資源、技術知識の変化で、総供給曲線はシフトする。

ある経済の純資本流出は純輸出に等しい。国民貯蓄は、国内投資と純資本流出の和に等しい。

 

書評

私は経済学を学校で勉強したことはありません。ですから、経済学の教科書を評価することはできません。ただマンキューの経済学は、門外漢の私ですら聞いたことがあるので、スタンダードなテキストだろうと思っていました。

実際読んでみると、確かにわかりやすいです。例えがやさしく、解説もじっくり書かれています。考えながらゆっくり読んでいけば、理解できるのではないでしょうか。ただ経済への興味がないと、500ページ以上あるので、なかなか最後まで読めないかもしれません。私はこの5年くらい投資のことばかり考えているので、勉強になるなと思いつつ読めました。

大家の教科書ですので、やさしいとはいえ結構本質的なことも書いてあるような気がしました。税を真に負担しているのは誰か、などは考えさせられました。税の種類によって、表面上納税義務がある人ではなく、別の人が実質的に税を負担していることがあるなどは、知っていた方がよいなと思いました。税制度の設計のやり方で国民の負担配分が変わりうること、そしてそのことを国民が理解しない場合があるとわかりました。

入門経済学のレベルでですが、断片的だった経済の知識がひとつにまとまりました。独学で読み通せれば、達成感は味わえます。ただ困るのは、経済学にはいろいろ学派があることです。

本書は2008年の金融危機後に改訂されており、金融危機の内容も意識されて書かれています。マクロ経済の解説も勉強になりましたが、マクロ経済学はまだ完成していないような感じもしました。

日本のバブル崩壊からの20年で起きたことや、2008年の金融危機後に起きたことを、マクロ経済学の説明を読みながら考えても、どうもしっくり来ません。総需要や総供給の説明と、失われた20年の現象がかみ合わないような気もします。2008年以降の金融政策とその効果も、どうなっているのかよくわかりません。私の勉強が浅いためでもありますが。本書では割と、サブプライムローン危機は去ったという書き方なのですが、まだ終わってはいないのではないでしょうか。2015年の現時点でさえ、ゼロ金利のままなのですから。事態を正しく理解するためにも、ますます勉強が必要です。
(書評2015/05/06)

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA