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「投資家のための金融マーケット予測ハンドブック 第6版」 三井住友信託銀行マーケット事業(著)

 

金融市場のさまざまな事柄を解説する、教科書的な本です。現役の銀行員が執筆しており、投資にまつわる広い範囲を勉強できるテキストです。

 

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

勉強熱心な個人投資家、金融関係の仕事を始めた社会人、金融業界へ就職希望の学生など。

 

要約と注目ポイント

この「投資家のための金融マーケット予測ハンドブック」という本は、日本人が金融市場を勉強するときに、割と定番なテキストのひとつになっていそうです。私は金融業界の人間ではないので、あくまで想像ですが。

20年以上もこのシリーズは刊行され続けているので、こういう本を必要とする人が少なくないのでしょう。私は第5版も読みまして、勉強させてもらいました。読み通せば、確かに読了した分だけ賢くなります。

専門家には常識でやさしい本ですが、勉強したい新社会人や学生、個人投資家には良い本だと思われます。

第5版の書評記事はこちら ⇒ 「投資家のための金融マーケット予測ハンドブック 第5版」 三井住友信託銀行マーケット事業(著)

 

解説されている事柄について

本書は、金融市場や投資について、すごく広い範囲をとにかく堅く説明していきます。そのため、要約は書けません。読み通して自習する本です。

どういう内容について解説されているかをまとめました。

 

金利や為替の予測をするには。

  • 金利の概要。
  • 予測をするための理論(理屈)。

 

日本経済について。

  • 過去の景気循環。
  • 日本の経済統計や指標。
  • 日本の金融政策と金融統計。
  • 日本の金融市場。

 

米国経済について。

  • 過去の景気循環。
  • 米国の経済統計や指標。
  • 米国の財政収支。
  • 米国の金融政策。
  • 米国の金融市場。

 

ユーロ圏経済について。

  • 統一通貨ユーロや欧州債務危機の解説。
  • ユーロ圏の経済指標。
  • ユーロ圏の金融政策。

 

英国経済について。

  • 英国経済の概要。
  • 英国の金融政策。

 

オセアニア経済について。

  • オーストラリアの経済と金融市場の概要。
  • ニュージーランドの経済と金融市場の概要。

 

新興国経済について。

  • 中国の経済と金融市場の概要。
  • インド、ロシア、ブラジル、アセアン(インドネシア、シンガポール、タイ、ベトナム)各国の経済の概要。

 

商品市場(コモディティ)について。

  • 商品市場の概要。
  • 原油について。
  • 金について。

 

為替市場について。

  • 為替市場の概要。
  • 為替需給について。
  • 為替レートの決定理論について。
  • 国際通貨制度の歴史と概要。
  • 各国の為替政策について。

 

テクニカル分析について。

  • テクニカル分析の概要。
  • テクニカル分析の方法論。

 

以上のような内容を、地味に解説していきます。本書では、2015年後半までの市場動向が反映されているので、割と直近までの金融市場に関して、基礎知識を勉強できます。

 

書評

私はこのシリーズの第5版も読みましたが、難易度や、ターゲットとなる読者層についての感想は、第5版と同じでした。

勉強熱心な個人投資家や、これから金融業界で働いていこうというレベルの学生や社会人にちょうどいい本です。現在の金融市場と関わるにあたり、広くざっと勉強したい人に適しているでしょう。

投資や経済に興味のない、日常生活が忙しい普通の人が読むには内容が多く、濃すぎます。500ページもありますし。普通の人が金融リテラシーを身につけたいときは、もっと易しめの入門書が良いと思われます。

本書はとにかく堅くて真面目なのですが、最後のテクニカル分析の章だけは、山師的要素も盛り込まれています。このへんも楽しめる人は、楽しく読めるでしょう。

 

個人的な感想としては、第5版を読んだときより、知識が増えていることが実感できました。解説もすんなり頭に入りやすく、既に知っている事柄も増えていたので、前作を読んでから金融知識は蓄積されたんだなと思いました。

当ブログの書評にもあるように、この3~4年で経済や投資などの本を、100冊くらいは読んでいます。確かに知っていることは増えました。

ただ残念なのは、別に投資で儲かるようにはなっていないことですね。特に、自分が勝手に相場見通しを立て、投機的なトレードをした収支については、まったく儲かっていません。

2009年以降は基本的にずっと上げ相場だったので、何も考えずに保有している株式指数連動のETFに、自己売買の成績は完敗です。
(書評2016/11/24)

「最強の「先読み」投資メソッド」 土居 雅紹(著)

 

中央銀行がつくりだした金融緩和バブルも、そろそろ危ない。著者によれば、2016~2017年にかけて破裂の恐れがあります。バブル崩壊に備えた投資法を教えます。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

世界経済に興味のある人。
投資をしたいが、暴落には巻き込まれたくない人。

 

要約と注目ポイント

バブルの基礎知識

金融市場では、10年に1回くらいバブルが発生して崩壊する。近年はグローバル化のため、世界のあらゆる市場で同時に暴落が起きる傾向がある。

ITバブルのようにブームが限定されていたり、バブルが株式市場にとどまれば、参加者は少ない。不動産でもバブルが発生すれば、一般人の多くが巻き込まれ、社会的影響は大きい。

アベノミクスは、世界中で行われている量的緩和バブルの一部である。バフェット指標で見れば米国株はバブルの領域で、日本株も高い水準にある。

サブプライムバブルの株価のピークは2007年で、すでに8年経っている。中央銀行の量的緩和で生じた金余りバブルも、そろそろ破裂の可能性がある。

2009年からアメリカの株式市場は上がり続けており、そろそろ危険と考えています。毎年1~2回、世界的に株価が急落するときがありますが、まだ相場は崩れていません。

バブルの発生条件

①通貨が過剰に供給される。金融緩和でカネ余りとなる。

②前回のバブル崩壊から時間が経過した。バブルの痛い思いを忘れた。

③投機を正当化するもっともらしい理由がある。楽観的な夢を抱く。

バブル崩壊の原因となりそうな出来事

大本命はアメリカの利上げ。過去の例では、最初の利上げをして6カ月から2~3年で株価が下落に転じている。

その他
①中国不動産バブルの崩壊。

②日本の消費税再増税。

③中東情勢。

④原油安。

などなど‥‥

総合的に考えると、2016~2017年頃が危ない。

バブル発生の条件は存在し、アメリカの利上げも近いのですが、崩れそうで崩れません。

バブルの天井で避けるべき行動

①多額のローンでマイホームを買う。

②海外旅行。骨董品や美術品の購入。(不景気のときは安い。)

③節税目的の不動産投資。

などなど‥‥

バブルの天井でとるべき行動

①半年分の生活費と、投資用資金を貯める。

②割高な保険や金融商品を整理する。

③暴落時の投資候補を調べ、リストにする。購入予定の不動産や高額商品を下調べする。今は買わない。

などなど‥‥

バブル進行中の注意点

①プロ、専門家、専門機関、メディア、政府、すべての人が間違える。多数派の意見を鵜呑みにしない。混雑した投資対象には投資しない。

②株価の目標価格がどんどん上方修正される。前年のパフォーマンスがものすごく良い。(自分も含め)多くの人が儲け自慢をする。これらの現象があれば、危険な兆候。

などなど‥‥

長年成功している投資家は、バブル発生と崩壊のサイクルを、適切な行動で乗り切っています。

 

バブルへの対処を含んだ10の投資法

以下の10の投資戦略から、自分に合うものを3つ併用する。併用することで、どのような経済環境になってもパフォーマンスが安定する。

リターンを狙う積極的な5つの投資法

①日本株と米国株(のETF)を、10月末に買い、4月末に売る。

②バフェット流に、暴落前に現金ポジションを多く持ち、暴落時に優良株や株価指数ETFを大量に買う。しかし、大底を見極めるのはとても難しい。S&P500が直近高値から30%を超えて下落し、S&P500のVIX指数の月中高値が45超となったあと、落ち着いて35まで下がったときを買いタイミングとする。

③トレンドに乗る、順張り投資。

などなど‥‥

守りを重視した5つの投資法

①10月末買い、4月末売りの手法に、トレーリングストップを加える。

②今後の生産年齢人口の伸び、若年層識字率、識字率の伸びしろを参考に、将来性のある国に長期投資する。フィリピン、メキシコ、アメリカ、インドネシア、インド、エジプト、ナイジェリア、バングラデシュなど。

③ゴールドへの投資。金ETF、金ミニ先物、金レバレッジトラッカーを買う。

などなど‥‥

10の投資法は面白いです。自分でもできそうな方法もあります。

 

そのほかの解説

NISA利用の注意点。

退職金を運用するときの注意点。

アベノミクス後の展望。

 

書評

前半では、世界経済の現状と、過去のバブル相場の特徴を解説しています。それをふまえて、バブル相場の暴落に巻き込まれないためにどうするか考察します。

後半では、繰り返されるバブル相場を考えたうえで、10の投資戦略を紹介します。さらに、NISA、退職金の運用、アベノミクスの今後といった、個別事項も取り上げます。

前半は、具体的なデータを揃え、グラフも豊富で、読みやすい解説となっています。内容に大きな驚きはないですが、簡潔に今の金融市場を復習できます。

リーマンショックを受け、各国の中央銀行が超金融緩和を行いました。危機はひとまず去りましたが、リスク資産の価格が相当割高になってきたので、そろそろ危ないです。アメリカの利上げが一番重要です。

後半の10の投資法ですが、詳細は本書をお読みください。10あれば、1つや2つは気に入る投資法もあるかと思います。

投資戦略が一本足打法だと、大失敗もあります。考え方の異なる投資戦略をいくつか用意し、運用を分散しておけば、パフォーマンスの安定化につながると思われます。自分に合う投資法があれば、取り入れてみるのも一案でしょう。

NISAについては、損益が相殺できないという最大の欠点をどう克服するか考えます。退職金の運用は、一言でまとめれば、浮かれていきなり全額を投資するなということです。

最後のアベノミクス後の展望ですが、これは私も一生懸命考えています。私の考えは、当局は金融抑圧政策を取る(緩いインフレを起こしながら長期金利を低く抑える)というものです。

安倍政権は、もう政府債務を返済する気がないと感じます。ゆっくりゆっくり、政府債務を預金者(国民)の資産と相殺していくのでしょう。

本書ではこれに関連し、デット・ジュビリー(Debt Jubilee)が説明されています。私は初めてこの言葉を聞きました。

中央銀行が、発行した通貨で国債を買い、その国債をバランスシート上の資産とします。その資産を通貨発行分の負債と相殺すると、債務が消えるというものです。その方法の変形として、中央銀行が国債を永久に保有するという手もあります。

そうすれば日本のGDP比243%、1000兆円の公的債務が消滅するのです。しかし、そんなことが本当に可能なのですか?

私の頭では、よくは理解できませんでした。このデット・ジュビリーの結末を、著者ははっきりとは書いていません。ですが、どうも円安(経常赤字の定着)で持続不可能になると示唆しているようです。

私も、通貨安が止まらなくなったときが金融抑圧政策の限界かなと、ぼんやり想像していました。財政ファイナンスと通貨高への介入は無限にできますが、通貨安への介入は限度があります。円安が止められなくなり、インフレが制御できなくなれば、アベノミクスの終わりかと考えさせられました。
(書評2015/07/26)

「金(ゴールド)はこれから2倍になる」 林則行(著)

 

株式市場の暴落は近い。暴落から身を守るため、そして儲けるために金(ゴールド)を買おうという本です。

 

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

金投資に興味がある人。株式市場の暴落が気になる人。

 

要約と注目ポイント

5年後に金(ゴールド)価格は、2倍以上になると予想する。金を買おう。

 

金価格が上がる理由

超金融緩和の最後には、株価暴落と経済停滞、通貨価値の毀損が起こる。

マネーの総量の方が、ゴールドの総量より伸びている。

金価格は歴史的な上昇期にある。

金の生産コストは現在の金価格より高い。金価格が低くなれば生産量は減少する。

新興国の国民は金が好き。新興国の中央銀行は、金の保有量を増やしている。

 

世界はデフレ傾向ですが、中央銀行がマネーをばら撒いているのは事実です。そして、アメリカは金融緩和を終わらせようとしています。

 

投資の原則

投資の原則は、誰にも止められない時代の大きな流れに乗ることである。

現在の大きな流れは、政府の借金が増え続けること。政府は、借金をインフレで解決しようとしている。歴史では、インフレ政策は繰り返されてきた。

 

超金融緩和の後で起きること

株価は下落し、米ドルの信用が低下して、金利が上昇する。金利の上昇幅は、経済の混乱や通貨の信用低下の程度による。金利が上がるほど、金価格も上がる。

世界的に需要が不足している。供給過剰を政府が引き受けるので、政府の債務は増える。政府債務の増大により、インフレとなる。

米国の不動産バブルの清算は終わっていない。不良債権の処理がまだ残っている。対処として量的緩和を続け、マネーが増えた。経済成長を支える主力産業がないのに、マネーの力だけで株価が上がっている。

金融緩和が終われば、株価は維持できない。実物経済より、金融資産の規模が膨張しているので、下がるときは暴落となる。

 

2009年から上げ続けたアメリカの株式市場に、利上げが迫っています。

 

金相場の情報収集

金相場に関連する情報(サイト)の解説。鉱山会社の売りポジション比率に注目する。

株式市場がピークを過ぎると、金価格は上がりやすくなる。ピークを見極める。
相場を代表する銘柄や銀行株が、市場指数に先行して下がり始める。シティバンク、バンカメ、JPモルガン・チェース、ウニクレデイト、RBS、ロイズ、三菱UFJ、三井住友、みずほ等の株価を監視する。

 

株式市場の動揺は、必ず金相場にも影響します。

 

金に投資する

情報を検討して、金を買う時期を戦略的に大まかに決める。買いの時期に、時間をずらして買っていく。相場は2段階で上昇すると考え、高値の目安をつける。

実際に金を買う手段の解説。
地金、金貨、純金積み立て、ETF、先物取引のそれぞれの長所・短所について。税金について。

そのほかの商品の解説。
銀、プラチナ、金鉱株、南アフリカ通貨ランド、原油、食糧。

 

金へ投資する方法を比較し、解説しています。金以外のコモディティについても、適切な投資か検討します。

 

書評

以前に「伝説のファンドマネージャーが教える株の公式」「伝説のファンドマネージャーが実践する株の絶対法則」といった林氏の著作を読み、投資法に影響を受けました。成長株投資に近い方法で、読んでから四半期の業績推移をチェックするようになりました。

今回は、ゴールドを買えという話です。なぜ金を買うのかということで、はじめに現在の世界経済の状況を解説しています。金融緩和による人為的な株高なので、暴落は不可避と指摘しています。

2009年3月からの米国株の上がり方を見れば、それなりの規模の暴落がそろそろ来るだろうと、私も思います。それでは株式市場の暴落にどう対処するか。著者の解決策はゴールドです。

この本を読んだ直後は、すごくゴールドのETFを買いたくなりました。現在の金価格は1130ドルまで下がってきたので、そろそろ買い下がっていってもいいような気になります。

ただ私は、全面的に金に賭けるのも危険かなと思います。

大きな資産を持っているなら、5%とか10%を金にするのもありだとは思います。しかしバフェットが金を買わないように、金自体は利益を生みません。

あくまでも値上がり益を狙うか、インフレヘッジという役割に限定されるでしょう。

それにしても、シティバンクやバンカメがこれほどひどいとは思いませんでした。銀行株は興味がないので見ていなかったのですが、リーマンショックからの回復がとても鈍いです。

それから、イタリア株やヨーロッパの銀行株もまるで回復していません。ギリシャの問題もあり、やはり南欧はダメなのかと思いました。これらの株価に注視せよという指摘は、勉強になりました。

今後の日本は、物価上昇率より金利が低い、金融抑圧の環境になりそうです。ですので、資産を守るという観点で、ゴールドとかビットコインのようなものを買うのは有効と感じます。

売買で値上がり幅を取り、投機的に利益が出せるかは、私には自信がありません。
(書評2015/07/19)

「インフレ貧乏にならないための資産防衛術」 村上尚己(著)

 

アベノミクスによりデフレがインフレに転換したあとの、資産運用方法について論じた本です。本当にインフレになったら、参考になるかもしれません。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

インフレになったときの資産運用を考えたい人。
難易度は、新聞の経済面を読んでいる人ならスラスラ読めるレベル?

 

要約と注目ポイント

本書は、アベノミクスの成功によりインフレ時代が到来したとき、一般投資家はどのように資産運用すればよいか論じている。20年に及ぶデフレ環境に慣れた日本人に、インフレ時代の資産防衛や運用の基本的な考え方を提示する。

アベノミクス

アベノミクスは正しい金融政策であり、停滞していた日本経済は好転した。

民主党政権はデフレを自然現象のように考えていた。しかし安倍政権の金融緩和政策により、円安と株高が進んだ。

安倍政権下、脱デフレを掲げる黒田総裁・岩田副総裁の日銀人事が決定される。安倍政権は、脱デフレにおける日銀の重要性を正しく認識していた。

アベノミクスによりマーケットに劇的な変化(大幅な円安と株高)が起きた。これが示すのは、個人投資家は金融政策や経済政策を理解することが重要だということである。

アベノミクスが成功すればデフレから脱却し、日本経済の状況は大きく変化する。

アベノミクス批判への反論

以下の典型的なアベノミクス批判は、いずれも的外れである。

①インフレは危険。
⇒デフレ下で豊かに生活できる環境の人たち、あるいはデフレに適応した意識を持つメディアの意見に過ぎない。

②インフレで生活が苦しくなる。
⇒一般物価水準と個別価格を混同している。生活必需品より、サービス価格や賃金の上昇は遅れる。

③資産バブルや投機を生む。
⇒金融緩和政策は、どの国でも行われている経済安定化の政策である。

インフレの実現

日本は供給が需要を上回るデフレの状態にあった。中央銀行がマネーの量を増やせば、物価と賃金が上がり、インフレ期待が生まれる。

インフレ期待が生まれると、企業は投資をし家計は消費活動をするので、インフレは実現する。インフレが実現すれば総需要が底上げされ、失業などの問題が解消し、日本経済は回復する。

2013年5~6月の株価の乱高下は、日本経済の状況が大きく変わるときに、投資家の期待が揺れ動いたために起きた調整に過ぎない。

著者は時々メディアにも寄稿していますが、完全無欠のリフレ派という印象です。

今後のアベノミクス

アベノミクスには、3本の矢の政策が正しく行われていないという危うさもある。

最も重要なのが第1の矢(金融政策)である。

第2の矢(財政政策)は、脱デフレのサポートに徹するべきだ。非効率的な公共投資よりは、民間にお金が渡り総需要を上げる減税などが行われるべきだった。消費税増税は悪影響がある。

第3の矢(成長戦略)は総供給を増やす政策なので、脱デフレが達成された後に効果が出る。規制緩和が第3の矢にあたる。

デフレ脱却で日本の問題は解決する

脱デフレが達成されれば、日本の問題は解決へ向かう。

デフレから脱すれば、税収が増加して財政問題は改善する。金利が上昇すれば政府の国債利払い負担も増えるが、名目金利が上昇するときは経済成長率やインフレ率も高まっていて、税収も増えるので問題ない。

また、中央銀行が名目金利を抑えることも可能である。インフレ率が高まれば失業率が低下する。若年層の失業率が低下し、非正規雇用の比率も下がり、若年層の所得が改善して出生率が上昇する。

金融政策の力は無限大という感じです。

2014~15年の日本経済見通し

当面は、日本の株価はアメリカの株価と連動する。

2014年度の日本の実質GDP成長率は消費税増税のため1%程度まで低迷するが、2014年後半はアメリカをはじめとする先進国経済が回復し、日本経済を下支えする。

輸出と企業の設備投資が増加すると予測される。個人消費と企業の設備投資が拡大し、インフレ期待が広がるという好循環が実現する。日銀は追加の金融緩和もできる。

2015年には日経平均株価は2万円に近づく。2014年にアメリカは、実質GDP成長率が3%程度でインフレ率が2%程度となるだろう。アメリカが先に政策金利を引き上げるので、1ドル110円台まで円安が進み、さらに脱デフレは推進される。

日本経済が安定成長し、インフレ目標が実現するので、2014年末には長期金利は1%台半ばまで上昇する。2016年までには、長期金利は2%の大台を超える可能性がある。

インフレ対策を考えた資産運用

デフレでは預貯金が合理的だったが、インフレ転換後にはデフレ時代の資産運用は機能しない。

脱デフレで日本経済が安定成長するようになれば、資産運用の中核は日本株となる。また円高が終焉することで、外貨建て金融資産もリスクに見合った本来のリターンが期待できる。

脱デフレで為替と株価の連動性が低下すると考えられるので、長期分散投資が機能する。日本株と日本債券、外国株と外国債券という4大資産を基本とする。これらのインデックス型投資信託などで、長期分散投資することが有効となる。

インフレは不動産ブームとは別の現象なので、住宅購入はあくまでも物件や個人の事情を慎重に考慮して決めるべき。

脱デフレと経済正常化が達成すれば、社会保障制度改革が次の政策課題となる。高齢化の進展に伴い、税と社会保険料の負担が大きくなるだろう。インフレ時代に対応した資産運用が必要となる。

資産運用は、日本と海外のリスク資産に分散投資しよう、という結論です。

 

書評

次期日銀総裁に望ましいのは誰かという市場関係者アンケートで、著者の村上氏は岩田規久男氏(当時は大学教授で現副総裁)と回答したと本文中にあります。

岩田氏をあげたのは村上氏ひとりだけだったそうで、村上氏はバリバリのリフレ派だなと思いましたが、実際に本書も金融緩和強化を是とするリフレ派な内容です。

以前に岩田氏の著作を一冊だけ読んだことがありますが、自身の主張に自信満々でした。村上氏も、本書の中で自説に絶対の自信を見せています。

というか、自分の分析や予測が外れる未来を全く想像していないかのようです。よくわかりませんが、あまりに自信に満ちあふれている様子を見ると、それはそれで大丈夫かとこちら側は不安になります。

本書はリフレ派の人が考える正しい資産運用の解説書です。安倍政権はリフレ派の考え方で行動しているので、個人投資家が対策を考えるのには、それなりに参考になるかなと思います。

各章のはじめに要点がまとめてあるのはわかりやすく、親切設定です。
(書評2014/07/25)

「投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識」 ハワード・マークス(著)

 

バフェットも推薦するこの本は、市場で生き残るための必携の1冊です。著者はオークツリー・キャピタル・マネジメントの会長で、大成功した投資家です。

 

おすすめ

★★★★★★★★☆☆

 

対象読者層

市場に勝ちたい人。投資哲学を考えたい人。

 

要約と注目ポイント

投資を成功させるには、数多くの「一番大切なこと」に、同時に思慮深く注意を向ける必要がある。

本書はハウツー本ではなく、投資哲学の本である。投資は複雑である。本書では、投資家が適切な判断をして、重大な失敗を避けるための思考方法について論じる。

価値のある教訓は、厳しい時期に得られる。私はいくつもの異常事態に見舞われながら投資キャリアを重ね、実効性のある投資哲学を築いてきた。

 

投資に勝つための思考

平均的なパフォーマンスならば、インデックスファンドを買えば誰でも達成できる。市場平均に勝つことを成功と定義すれば、成功には幸運かすぐれた洞察力が必要である。

投資はアートの要素が強く、成功させる普遍的な法則などない。

鋭敏な思考(二次的思考)が必要で、他の投資家より正確に見極め、他の投資家とは違う思考方法をとらねばならない。

投資で成功するには、コンセンサスとは異なる正しい予測をしなければならない。しかし、コンセンサスと異なる予想をすること、それが正しいこと、その予想に基づいて行動することはとても難しい。

 

誰にでもできる、底の浅い単純な思考が一次的思考です。奥が深く、複雑で入り組んでいるのが二次的思考です。

 

「減益だから売ろう」というのが一次的思考で、「減益だがコンセンサスよりは減益幅が小さくなると予想され、決算発表後に株価が上昇するだろうから買いだ」というのが二次的思考になります。

本質的価値を見抜く

社会的にオープンで広く情報が公開され、多くの(優秀な)人が参加する市場は、効率的市場仮説に近い。

非効率的な市場の特徴として、情報やその分析にばらつきがあり価格が本質的価値から離れ、投資家の勝ち負けが分かれている。

また、資産のリスク調整後リターンが、他の資産のリスク調整後リターンと釣り合わない事態が起きている。

本質的価値を正しく推計することが不可欠である。投資の原則は、本質的価値より安く買い、本質的価値より高く売ることだ。

 

市場は完全に効率的でも非効率的でもなく、その間にあります。間違った価格が付けられることがありますが、それを利用して市場に勝つには、すぐれた洞察力が必要です。

 

バリュー投資で勝つ

テクニカル分析のみで投資をすることに、有効性は認められない。そのため、ファンダメンタルズに基づく2つのアプローチ、バリュー投資とグロース投資を検討する。

バリュー投資は、現在の本質的価値が現在の株価より高ければ(本質的価値が将来ほとんど増大しなくても)買う。

グロース投資は、将来的に十分な利益をあげるほど本質的価値が増大するならば(現在の本質的価値が現在の株価より低くても)買う。

一般にグロース投資は成功しにくいがリターンは大きく、バリュー投資は安定的だがリターンは小さい。本書ではバリュー投資を扱う。

 

バリュー投資で成功するには、本質的価値を正しく見ることと、本質的価値の見解を我慢強く保持することが求められます。

 

バリュー投資では、割安の資産を買っても、すぐに利益が出るわけではありません。

投資家心理を読む

本質的価値を正しく推計できるようになったとしたら、その資産の価格にも注意しなければならない。妥当(割安)な価格で買わなければならない。

価格は(特に短期的には)心理とテクニカル要因(需給要因など)に左右される。投資をしたい人がこの先増えるのか減るのか、投資家心理を知ることは重要だ。

 

最も危険なのは人気の絶頂にある資産を買うことで、最も安全で収益性が高いのは人気のない資産を買うことです。

 

リスクとは資金を失う可能性だ

未来はわからないため、投資ではリスクを理解し、認識し、コントロールしなければならない。投資を検討するときは、許容できるリスクを考え、潜在的なリターンと付属するリスクを考慮する。

投資成績を評価するときも、リターンのほか付属していたリスクを評価しなければならない。相場の上昇時には、リターンを高くするにはリスクを高くすればよいように感じるが、それは誤りである。

高リスク資産は不確実性が高く損失の可能性があり、高い期待リターンが本来は提示されるべきものである。

リスクはボラティリティで定義されるが、リスクとは資金を失う可能性と考えるのがよい。

損失リスクは脆弱なファンダメンタルズや悪いマクロ環境のためではなく、たいていは楽観的過ぎる心理と行き過ぎた価格から生じる。

 

本質的価値を大幅に下回る価格で買えば低リスク高リターンが期待でき、高すぎる価格で買えば高リスク低リターンとなります。

 

リスクに対処するには、本質的価値の安定性と信頼性、価格と本質的価値の関係性をもとに判断することが大切です。

リスクとリターン

投資家が過度に楽観的で、資産を高すぎる価格で買っていたと気付くところから、たいていリスクが認識され始める。

高リスクと低い期待リターンは表裏一体であり、追加的なリターンを得るためにはリスクプレミアムを要求すべきなのだ。「リスクがなくなった」という神話が、特に危険なリスクの根源となりうる。

リターンとリスクの関係では、無リスク資産の金利に、リスクに応じてリスクプレミアムが上乗せされる。

安全性が高い資産の期待リターンが低い、高リスクの資産のパフォーマンスがこのところ良い、大量の資金が流入している、融資基準が緩い、といった状況ではリスクプレミアムが低下する。

投資家がリスクを忘れ買いを集中させた資産は、期待リターンが低下しリスクが高くなる。誰もが不安を感じ買いたがらない資産は、リスクプレミアムが拡大しリスクは低くなる。

どんな価格で買うかが問題なのだ。

 

すぐれた投資家は、利益を得るためにきちんと理解したうえで、リスクをとっています。獲得するリターンに相応する水準よりも低いリスクをとるのが、すぐれた投資家です。

 

リスクは目に見えないため、悪い出来事が起きた時にはじめて、リスクコントロールがなされていたかわかるのです。

市場のサイクルを認識せよ

ほとんどの物事にはサイクルがある。多くの人がサイクルはなくなったと思い込んだときに、大きな利益や損失が生まれる機会が発生する。

人間に感情があることが、サイクルが存在する要因のひとつである。信用サイクルが典型的である。

好景気が訪れ、金融機関が融資を拡大し、投資に付随するリスクが低下したように見え、リスク回避志向が消える。

金融機関はシェア競争のため要求リターンを引き下げ、資本コストが資本収益率を上回る投資が行われ、資金が回収できなくなる。

サイクルは下降局面へ反転し、貸し手は融資をしなくなり、企業は資本不足に陥り、デフォルトや倒産が起きる。

景気後退を招き、ますますリスク回避志向となるが、行き過ぎたところでサイクルは再び反転する。

証券市場における地合いの動きは、振り子の振動に似ている。

振り子の軌道の中心点は平均的な位置だが、振り子がその位置に留まるのは一瞬である。振り子は軌道の一端から一端へと動き、一端に近づけばいずれ必ず中心点に向かい反転する。

強欲と恐怖のサイクルは、投資家のリスクに対する姿勢の変化によって起きる。

投資家のリスク許容度が高ければ、価格はリターンに見合うより大きなリスクを含んでいる可能性がある。投資家がリスク回避的だと、リスクに見合うより大きなリターンが得られる可能性がある。

 

相場が好調で価格が高騰すれば投資家は買いに殺到し、市場が混乱すると投資家は完全にリスク回避的になり売りに殺到します。

 

過ちを招く心理的要因

過ちを招く心理とは、強欲、恐怖、自己欺瞞、同調圧力、嫉妬、うぬぼれ、降伏である。

過ちを招く心理に対抗するためには、本質的価値を強く意識すること。そして過去のサイクルの教訓を思い出し、心理的要因が悪影響を及ぼすことを理解すること。

皆が楽観的過ぎるときは悲観的になり、皆が悲観的過ぎるときは楽観的になるという、懐疑的な目を持つこと。

 

多くの投資家が市場サイクルに押し流されたときは、反対の行動、逆張りが有効です。

 

ただし、価格が本質的価値から大きく乖離していることを察知する能力と、群衆に逆らう強固な意志が必要となります。

さらに、逆張りにふさわしい行き過ぎた相場はめったになく、行き過ぎた相場が何年も続くこともあります。

賢明なポートフォリオ

賢明なポートフォリオは、収益性が高い資産を買い、それを買うために収益性の劣る資産を売り、最も収益性の低い資産を避けることで構築される。

投資先候補から、リスクに対し特に潜在リターンが高いもの、特に割安感が強いものを探し出す。このような掘り出し物は、たいてい何らかの欠陥があり不人気な資産である。

人々が理解不足で、不適切とみなし、リターンが低迷し続けており、悪い印象を持っている資産に掘り出し物がある。

良いチャンスは常にあるわけではない。掘り出し物が出てくるのを我慢強く待つことが、最良の戦略である場合もある。

予想リターンがきわめて低い環境下で、リターンを追及するのは危険である。

 

危機時に投げ売りされた資産を買うことが、最高の投資になります。

 

投資家は守りを忘れるな

将来を正しく継続的に予測することは不可能だ。市場サイクルの期間やタイミングを予測することもできない。

しかし、できるだけ現在のサイクルや振り子の位置を見極めようとし、起こりそうな事態に備えるべきである。サイクルの頂点や谷底に達するときに備え、そのとき間違った群衆と行動をともにしないこと。

投資家は市場のランダム性を認識しなければならない。投資家は、儲けと損失回避の間でバランスをどうとるか、決めなければならない。投資は複雑なので、守りの要素が重要である。

守りでは、正しい行動をとるよりも、間違った行動をとらないことに重点を置く。

守りには2つの原則がある。

1つは損失を出す資産をポートフォリオに入れないことだ。これは調査、投資基準、低価格と安全域、楽観的な予想の排除によりなされる。

もう1つは暴落による市場崩壊のリスクがある時期を避けることである。

損失をもたらす過ちは、分析や知識の問題と、心理や感情の問題から起きる。投資は未来に対処することだが、想像力を欠くことも過ちとなる。

 

資金が過剰に供給されると、人々はリスクを軽視し、リスクが大きくなります。市場が熱狂すると、従来のモデルが通用しなくなることがあります。

 

そして、危機時には資産間の相関性が高まり、分散投資の効果が下がってしまいます。

レバレッジをかけず、サイクルを意識することが大切です。長期のパフォーマンスが良いことこそ、すぐれた投資家の証です。

書評

何らかの具体的な投資手法を教える本ではありません。長年にわたり成功してきた投資家が、投資行動の基本原則について考察した本です。

「敗者のゲーム」のような、味わい深い系の本でして、これを読んだからすぐに何かがどうにかなるということはありません。常に市場のことを考えていると、どうしても目先の損益が気になりだすのですが、やはりそういうやり方だと大成功はありえません。

まとめた要約を読み返すと、そんなことは当たり前だ、となります。でも、実行できないんだな、これが。要約だけでなく本文を読むと、大事なことが書かれているなとしみじみします。

再読して印象深かったのは、リスクがないと思って投資家が集まりある資産を買うと、リスクが高くなるという指摘です。リスクがなくリターンが簡単に得られると考え買うことで、期待リターンが小さくなり、リスクプレミアムが薄くなって、逆に損失の可能性が大きくなるのです。

資産の質が高いから安全と考えるのは誤りで、本質的価値から安い価格で買うことが安全なのだ、という指摘も教訓になります。優良資産も高すぎる価格で買えば危険です。これも覚えておこう。
(書評2014/07/18)

「臆病者のための億万長者入門」 橘玲(著)

 

橘玲氏は文春新書で「臆病者の~」という著書を何冊か書かれています。タイトル的にも、本書は投資戦略の入門書という位置づけになると思います。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

投資、というか将来の人生設計(経済面)について考え始めた人。難易度は入門書と初級者向けの間ぐらいか。

 

要約

・金融(株式投資)は確率のゲームである。資産運用とは目先の金儲けではなく、人生における経済的リスクを管理することである。

お金持ちになるには、次の3つの方法の組み合わせしかない。
①収入を増やす。
②支出を減らす。
③資産を上手に運用する。

資産運用は部分でなく全体で考えること。
総資本 = 人的資本 + 金融資本
金融資本 = 金融資産 + 不動産 + 年金資産 + 相続資産など
労働者としてのスキルを高めたり、定年後も勤めて働く期間を延ばすことで、人的資本は大きくなる。金融資本は総合的に最適な形で運用する。最適な運用とは、各資産のバランスをとり、リスクは最小化しリターンを最大化し、かかるコストを最低にすることである。

金融商品は心理的な錯覚にだまされないよう、確率的に考えること。
生命保険は、最もコストが安く必要最低限なものを、必要な期間だけ契約する。医療保険は、公的健康保険制度で補えず不安があるときだけ利用する(勤労者が長期入院したときの所得保障ぐらいしか想定できない)。

資産運用で最も大切なのは、だまされないこと。
絶対に儲かる話はない。他人が自分のお金のことを真剣に考えてくれることはない。誰かが助けてくれることはない。自分で守ること。

株価は、将来の一株あたりの利益の総額を、現在価値に換算したものである。
株式投資の益回り = 長期金利 + リスクプレミアム
市場全体の株価が長期的に見て高いか安いかは、PERから大まかに判断できる。

・株式市場は複雑系の世界なので、将来予測はできない。アクティブファンドよりインデックスファンドが優位である。世界経済はずっと成長してきたが、2000年代以降、経済成長が鈍化した可能性がある(株価の上昇率が低い)。以上より個人の投資戦略をまとめると、市場が暴落するのを待って、分散投資(世界株式インデックスファンドなど)で株価が回復するまでドルコスト平均法で買い続けろ

外貨の為替リスクは中立的である。
購買力平価説によれば、インフレなら通貨は下落しデフレなら通貨は上昇する。金利平衡説によれば、高金利の通貨は下落し低金利の通貨は上昇する。長期的に見れば、通貨に有利不利はない。(中期的には金利が上がれば通貨は上がるので、歪みが生じることもある。)国内の資産にこだわらず、海外に分散投資すべきだ。

・市場が十分に効率的ならば、マイホームは所有でも賃貸でも損得は変わらない。マイホームを借金して買うことは、レバレッジをかけて不動産投資をすることだと自覚すること。日本は将来的には空き家が増えることを認識すべき。不動産市場には情報の非対称性があり、インサイダーマーケットに近いので素人は損をする。(株式市場はオープンマーケットに近い。)

将来はほとんど予測できないが、人口構成と年金財政は予測しやすい。国民年金は自発的に納付することと、収支が明らかなので比較的有利な金融商品である。国民年金のツケは厚生年金が払っている。(厚生年金は強制加入で、保険料率は上がり、利回りは実質マイナス。)

・日本は社会保障費と国債の費用で歳出の5割を占めるが、その利益を享受しているのも国民である。国民が既得権益を手放すような画期的な政策はとれないので、増税と社会保障水準の切り下げが徐々に進むだろう

・アベノミクスは、実質金利をマイナスにしようという政策である。マイルドなインフレをめざす金融政策の結末は、どうなるかわからない。急激なインフレと円安が起こる可能性はないわけではない。個人でリスクをヘッジすることを考えておくべきだ。

現在の日本人は、資産を分散できていない。マイホームという不動産にほとんど集中投資している。また、資産はほぼ円に限られている。日本で働き、円で給与を受け取る以上、人的資本も円で換算される。

アベノミクスが失敗したときのリスクヘッジ。
①お金は普通預金で運用する。
②金利が上昇し円安が進みだしたら、運用を普通預金から変更する。
国債ベアファンドを買う。外貨預金にする。物価連動国債を買う。
「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」に詳細がある。)

 

書評

人生において経済的に困窮しないように金融リテラシーを身につけよう、というのが本書の趣旨です。難易度はやさしめですが、用語の説明などはありません。資産運用を考え始めた人が、基本的な入門書を何冊か読んだ後に読むとよいでしょう。若干変化球的な内容です。

私にとっては聞いたことがある話が多かったので、橘玲氏の過去の著作やコラムを読んでいる人には本書は必要ないかと思います。今までの総まとめのような本です。新規に加わっているのは、世界経済がこれから長期に停滞した場合の対策ぐらいです。
(書評2014/06/25)

「確率・統計でわかる「金融リスク」のからくり 「想定外の損失」をどう避けるか」 吉本佳生(著)

 

本書では、株式や為替での損失について確率論的に考えます。デイトレードのような短期取引も、長期保有の投資も扱います。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

投資の損失を限定させたい人、金融商品のリスクを知りたい人。難易度は初級者向け以上。高校数学程度の確率を習っていれば、なお良いかと思います。

 

要約

・本書では、漠然としか認識されていない金融商品の危険性を、確率・統計を根拠に具体的な数字として捉える。金融機関は確率に基づくリスク把握ツールを用いているが、個人投資家も確率思考で大まかにリスクをとらえておくべき

変化率の標準偏差がボラティリティである。ボラティリティの大きさは、損失や利益の大きさを示す。

二項モデルの説明。世の中にはいろいろな行動パターンの人がいて、そのような場合、確率分布はベルの形に近づく。

ボラティリティから想定しておくべき下落率がわかる。投資期間が長くなればボラティリティも高まり、損失は大きくなる可能性がある。(塩漬けは危険。)

・オプション価格は、将来のボラティリティについての予想を表す。実際には、金融の専門家でも過去の変動に反応して将来を予想している(インプライドボラティリティはヒストリカルボラティリティの変化に反応している)。

・リスク指標にはボラティリティだけでなく、元本損失の確率などもある。

リスクは予想される損益のバラツキ(標準偏差)、リターンは予想される損益の確率的な平均(期待値)である。リスクとリターンを確率から考えることが重要。(ハイリスク・ハイリターンという表現は確率を考慮しない誤用が多い。)

・個人投資家はインフレに負けない、手数料・コスト・税の低い金融商品を選び、実質のリターンが得られるように考えるべき。

仕組債や仕組預金の説明(オプション取引の説明)。オプションを売却してもリターンは高まらないが、これらの金融商品は販売する金融機関が利益の一部を抜いているので、マイナスリターンとなる。

ボラティリティは、データ収集の期間、価格変化率をみる期間、基準の単位をとる期間をそれぞれどう設定するかで変わる。中長期で資産運用するなら、変化率は長い期間(年次変化率)もみるべき。

・バブルの発生と崩壊があれば、ボラティリティは日次変化率より年次変化率が高くなる。平均回帰の性質があれば、ボラティリティは年次変化率より日次変化率が高くなる。

想定最大損失VaRの説明。投資期間が長いほど、想定最大損失でみたリスクは高くなる。

実際の金融リスクは、正規分布(対数正規分布)よりテールが厚くなる。また暴落時にボラティリティが高まると、リスク管理を徹底することでさらにボラティリティが高まる。

金融商品のリスク計算では、モンテカルロ法とヒストリカル法が使われる。モンテカルロ法では、確率分布の形、平均(リターン)、標準偏差(ボラティリティ)の設定により結果が決まる。ヒストリカル法では、過去のデータを開始期間をずらしながら集めていく。

金融の世界では、複利が基本である(金利や配当だけでなく株価の変動でも)。対数正規分布では、当初の株価を運用後の株価が下回る投資家が多数となる。

簡易な中長期の金融リスクのシミュレーション(株式投資の場合、早期償還条項やノックイン条項がある場合)。プットオプションの売却を組み込み早期償還条項がついているデリバティブ商品では、メリットは最初の早期償還判定がある時点までの金利に限定される。

早期償還条項とノックイン条項が両方ついている場合、早期償還条項の方がより重要である。

・金融機関が巨額の損失を発生させた事例(リーマンショックや欧州債務危機)は、リスクの過小評価が根本の原因である。

 

書評

儲かる方法ではなく、あくまでも確率・統計的に投資を考える本です。特にどこまで損失を想定しなければいけないか、ということを考えています。投資やトレードの本では、損失を限定させることを絶対必要なルールと強調することが多いですが、なかなかできないことです。本書のように、投資を始める前から確率的に損失を想定しておくのは大切でしょう。

投資期間が長ければボラティリティが大きくなるので、損失も拡大する可能性があると繰り返し解説してあります。長期投資でリスクを抑えられると解説する投資本は多いですが、それは間違いのようです。山崎元氏も指摘しています(楽天証券でのレポート)。ファイナンシャルプランナーや金融機関出身の人が書く、よくある解説本とは異なる視点で本書は書かれているので役に立ちます。
(書評2014/06/16)

「投資家のための金融マーケット予測ハンドブック 第5版」 三井住友信託銀行マーケット事業(著)

 

金融市場全般を解説する、教科書的な本です。銀行員が執筆しているので、基本の知識や理論を堅く勉強できます。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

金融業界(特にマーケット)で仕事をして、メシを食っていこうと考えている新入社員や学生あたりかと思われます。現役のプロにとっては、常識に相当する内容でしょうか。難易度は初級~中級者以上が適当と思います。

フツーのお金のリテラシーを身につけて、健全に暮らそうという一般市民は読む必要はありません。一般人には詳しすぎます。市場と向き合う覚悟を持った人が、勉強のために読む本です。

 

要約と注目ポイント

本書は教科書のようなつくりの解説本なので、要約は書けません。読んでもらうしかないです。内容の項目だけ挙げます。

解説事項

日本の経済概要、経済統計、財政、金融政策、金融統計、金融市場の解説。

米国の経済統計、財政、金融政策、金融市場の解説。

ユーロ圏の経済概要、金融政策の解説。

英国とオセアニアおよび新興国各国の、経済と金融政策の解説。

商品市場の解説。

為替市場と各国の為替政策の解説。

テクニカル分析の解説。

金融マーケットのスタンダードな基礎知識を、きっちりと勉強できます。

 

書評

一応、私自身は初級者レベルと考えているのですが、知らないことがとても多くて、本書の解説は勉強になりました。正直、細かい部分は解説を読んでも理解できないところもありました。一般市民が読むレベルではないです。

本書の主題は、金融市場(金利と為替)です。これを予測するため、各国の経済状況や金融政策、統計資料の評価、為替理論、商品市場、金融史などなど解説しています。

教科書・統計集風味な本なので、読み物的な面白さはゼロです。(テクニカル分析のところはちょっと面白い。)市場に参加している複数の現役銀行員が書いているので、とにかく堅くて真面目です。500ページ弱あるので、結構骨が折れます。図表も多いけど。
(書評2013/05/04)

「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」 橘玲(著)

アベノミクスの結末は、国民にどのような影響を与えるのか?アベノミクス後を生きる一般的日本人の、生き残り術の考察です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

対象読者層

金融取引の経験が少ない保守的な人々、すなわちほとんどの日本人に向けて書いた。と著者自身が述べています。難易度は、入門書と初級者向けの間程度と思われます。

要約

・国家が財政破綻するとき、確実に起こることは金利上昇・通貨安・インフレの3つである。災害や戦争は何が起こるか予測不能なリスクだが、財政破綻は破綻後起こることが予測できるリスクである。生活者はこの3つに備えればよい。

・アベノミクスには賛否両論あるが、3通りの結末のいずれかに帰着する。
①金融緩和に成功し、日本経済が成長して税収は回復、財政も安定する。
②金融緩和に失敗し、デフレから脱却できず、現状の縮小均衡スパイラルが継続する。
③金融政策が失敗し、国家債務の制御が不能となり、財政破綻へ進む。

・財政破綻(上記③)も一夜にして発生することはない。第一段階の金利上昇、第二段階の円安・インフレ、第三段階の国家財政破綻と順を追って進む。進行状況に応じて対策をとればよい。

・上記①と②、および③の第一段階までは、庶民にとっては普通預金が最善の策。

・③の第一段階では、庶民は住宅ローンの返済に注意。③の第二段階以降が庶民にとっての試練である。

・③の第二段階の円安・インフレでは、簡単な対策は3つ。日本国債ベアファンドを買う、円預金を外貨預金(外貨MMF)にする、物価連動国債ファンドを買う。

・③の第三段階では、海外の金融機関(信用度の高いところ)に外貨預金をする。ニューヨーク市場に上場している日本国債ベアETF(ティッカーはJGBSとJGBDでレバレッジの異なる2種)を、海外の証券会社を使って買う。現在は日本の証券会社で取り扱いはない。

・金融資産だけでなく、不動産や年金、自分の人的資本までふくめて総合的に資産を考えたとき、どこまでリスクヘッジするべきかという投資戦略について。

・国家破綻時に、身を守るため勝負が必要な場合どうするか。FXと日本株売り、オプション取引について。

・そのほか、必要な金融や為替の事項が解説されている。日本のリスクから切り離して分散投資できる、MSCI世界指数に連動するETFの紹介もある。

書評

一般の日本人が、国家破産の被害の直撃を避けるにはどうすべきか、考察されています。とにかくなるべく簡単な方法で、知識のない人でも実行可能であるようにと、著者の苦慮が伝わってくる本です。

対策としては、まあ納得がいく内容でした。平時から海外にも投資しておけばいいのではと思いますが、そういうことができる人向けの本ではないし。

普段からお金のことを考えている人は、海外への分散投資などもしているでしょうから、本書の内容は既知のものも多いと思います。ただ日本人の、資産の円預金への偏りから考えると、資産運用を戦略として捉えている人はほとんどいないと思われます。

現在でも、円預金のみを抱えていて、経済情勢に何の関心もない人(危機感のない人)がやはり多数派でしょう。そうすると大多数は、本書などには全く興味を持たないでしょうから、もし財政危機と金融不安が急速に進展した場合、何の準備もないままほとんどの日本人に厄災が降りかかることになります。

本書は役に立つ本ですが、危機感がある人はもう対策をしているし、危機感がない人は対策をしないまま本番を迎えるので、本書が役立たないという皮肉があります。
橘玲氏の著作はそれなりに読んでいますが、本書はかなり悲観的なのが気になります。
(書評2013/04/07)

「金融のプロに騙されるな」 後田亨/渋澤健(著)

 

金融機関の社員にすすめられるまま、金融商品を買うことの危険性を指摘する本です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

入門書レベルと思います。すでに保険や投信を始めているが、よくわかっていない人。これから保険に加入したり投信を買いたい人。将来、保険や投信にお金を使うかなと思われる人。

 

要約

本書は、保険と投信の2編に分かれています。

保険編

・保険を勧めてくる営業担当者や販売員の給与は、販売手数料の利益から出ていることをまず考えよう。売り手側に都合が良い商品が、勧められている可能性がある。保険商品は不透明で、手数料や経費、支払い実績などが明らかではない。

・無料で情報がもらえて当然、と考える日本人が多いのも問題かも?専門家が良識的立場でアドバイスするときは、相談料が発生するのは当たり前と考えるべきでは?メディアにも誤った情報はあるので、自分でもよく考える。

・公的な保険制度や勤務先の福利厚生制度で、使えるものは多い。(高額療養費制度など)それらをまず調べて考えるべきで、重複する保険は無駄。

・保険はそもそも、確率的に低いが起こると重大なイベントに備えるもの。(若くて健康で小さな子どもがいる世帯主の急死など)一生涯の死亡保障や高齢での医療保険などは、低い掛け金で手厚く保障することが原理的に困難。

・確定拠出年金は良い。ほか、いくつか具体的な保険の紹介。

 

投信編

・売れる投信イコール良い投信ではない。売れている投信は、営業担当者が熱心に売る投信であり、手数料が高いなど問題がある。

・毎月分配型や通貨選択型のように、目先の利回りが優先されたり仕組みが分かりにくい投信は避ける。どういうリスクがあり、どのようにリターンを得るのか、自分で理解できる投信を選ぶべき。

・テレビ、新聞、雑誌などメディアの情報も正確でないことがある。運用成績やリターンも、着目する期間によって大きく変わるので、都合のよいデータを示されることがある。

・純資産が増え続けているような投信が良い。信託報酬はインデックスなら0.3~0.5%、アクティブなら1~1.5%が目安。販売手数料は2~3%以下で。そのほか、投信を選ぶ考え方を簡単に。

 

書評

初心者の私が偉そうに批評するのは、気が引けますが。一から勉強を始める人は、まず、やさしい標準的なマネー本を、複数読んだほうがいいと思います。大まかに分かってきて、金融商品である実際の保険や投信を買いたくなったら、本当にそれでいいのか!って自分につっこみを入れるのが、本書の役割かと。入門書を複数読む内の1冊に加えてみると、効果的だと思われます。
(書評2013/03/06)