「40兆円の男たち」 マニート・アフジャ(著)

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世界で今もっとも活躍し影響力のある、ヘッジファンドのマネジャーの素顔に迫ります。成功する投資家の戦略を学べる本です。

成功しているヘッジファンドマネジャーは十人十色ですが、共通点もあります。

強い目的意識、優れた管理能力、向学心、何になぜどのように投資するかを深く考える、持続可能な形で他人と違うことをする、不快な感情に対応する、失敗から学び軌道修正する、といった特徴を9組のインタビューから発見できるでしょう。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

市場に勝ち続けてきたヘッジファンドマネジャーに興味がある人。

 

要約と注目ポイント

市場に勝ち続け成功している、特別な存在となった、ヘッジファンドマネジャーの投資人生を紹介する。

レイ・ダリオ

グローバルマクロ戦略を採る、世界で最も大きく最も成功したヘッジファンドがブリッジウォーター・アソシエイツである。レイ・ダリオが創設した。

「失敗や大変な経験から学ぶ」、「真実を追及する」、「自分自身を進化させる」、「現実に対処する」ことに断固として集中する。

彼のレポートは、各国の中央銀行や国際機関、大企業、年金基金等で読まれており、強い影響力を持つ。

マーケットと無相関のアルファを追求し、運用ではアルファとベータを分離する。

歴史から学ぶことで、普遍的な投資法や危機管理の原則を確立する。

環境が変わると、各マーケットのベータはそれぞれ異なった影響を受ける。

複数の相関性のないアルファをポートフォリオに入れることで、期待リターンを保ったままリスクを減らす。

リスクパリティと呼ばれる手法を、理論的に構築する。(ポスト・モダン・ポートフォリオ・セオリー)

ピエール・ラグランジュとティム・ウォン

マン・グループとGLGパートナーズの合併により誕生した、世界最大級のヘッジファンドの主要幹部である。

長期の結果を重視し、大きなトレンドから利益を得る。

リスク管理が重要で、勝率を高めることと資金を守ることが基本である。

優秀なマネジャーの自主性を尊重するが、投資のプロセスやリスクは管理する。

ジョン・ポールソン

イベントの裁定取引を基本事業とする。

一流ファンドとなることをめざし、キャリアを積み、好業績を続けてファンドを成長させた。リスクとリターンが不釣り合いな、有利な取引を一貫して追求してきた。

そしてその経歴が、名高いサブプライム市場の空売りにつながった。150億ドルの利益をもたらしたサブプライム証券の空売りで、一躍トップに立つ。その後も大規模な裁定取引を続ける。

マーク・ラスリーとソニア・ガードナー

破綻のおそれがある企業や再建後の企業などの、過小評価された債券や株式に投資するディストレス戦略を行う。

豊富な経験と保守的な運用で、有力なディストレス戦略ファンドに拡大する。その冷静な投資戦略は、金融危機後のフォードの取引でも発揮され、2009年には60%のリターンをあげた。

デビッド・テッパー

信用アナリストとして出発し、ゴールドマン・サックスで債券部門のトレーダーとして大きな利益をあげる。

独立後は、他社に先駆けた積極果敢な投資で、好パフォーマンスを連発する。これは、市場がパニックに陥ったときにも冷静でいられるので、誰よりも早くリスクをとって投資ができるからだ。

ウィリアム・A・アックマン

有力なアクティビストとして知られる。投資先の企業に働きかけ、長期的な企業価値を高めることで利益を得る。

楽天主義者であり、自信満々な態度のため、攻撃的ととられることも多い。

ロックフェラーセンターへの投資、シアーズへの投資、ウェンディーズやマクドナルドへの投資、破産したリートへの投資などで成功する。しかし、検事や証券取引委員会に目をつけられ、取り調べを受けたこともある。

ダニエル・ローブ

自信家で自己主張が強いことで有名である。アクティビストというイメージがあるが、債券取引や裁定取引、ディストレス戦略やイベントドリブン戦略などもこなす。

金融危機前のサブプライム市場の空売りと、2009年の大底での大胆な投資に成功する。ヤフー経営陣へ、積極的な提案も行った。

ジェームズ・チェイノス

空売り専門のファンドマネジャー。早くから、大企業だったエンロンやタイコの巨額不正会計に気付く。決算書を読み込むファンダメンタル分析を核に、ボトムアップの手法をとる。

企業の年次決算書を3回読んでも理解できないときは、詳細を調査せよ。逆に買いの投資家なら、逃げること。

流動性のある大型株か中型株で、空売りを行う。

アナリストは調査に専念し、ポートフォリオマネジャーやパートナーが投資判断を下す。

決算が改竄される可能性はかなりあるので、知的好奇心や疑問を持つことが大切だ。

バブルのような過剰評価や、ある流行がいつまでも続くといった誤認のあとに、空売りのチャンスが生まれる。

2011年以降、中国に対し最大の空売りポジションをとっている。

ボアズ・ワインシュタイン

若くしてドイツ銀行の幹部となり、自己勘定取引で利益を出し続けていた。独立後も、金融危機のさなかに大きな利益をあげる。デリバティブ取引を得意とする。

登場する投資家は、皆すごい能力を発揮し、抜群の成績を残しています。長年の研究、実践、経験。すぐにまねできることはないです。ただ凡人であっても、日々経済と市場を冷静に観察し、勉強するのはムダではないでしょう。

 

書評

成功しているファンドマネジャーにインタビューする本ということで、「マーケットの魔術師」に似た企画です。勝ち続けるファンドマネジャーから学びたいと考え、読んでみました。

ただ登場する人たちが凄すぎるので、個人投資家のトレードや投資には、それほど役立たないような気もします。

素人の意見ですが、私は2007年から始まった金融危機を境に、その前と後では世界が変わったと考えています。リーマンショックに象徴される危機は去ったような風潮ですが、後始末は済んでいないと思います。

日米欧の中央銀行が金利をゼロにして、それでも足りずに莫大なリスク資産を買いっ放しです。危機から7~8年経ちますが、金利を上げることも、買い入れた資産を処分することも、とてもできそうにありません。

中央銀行や政治家が、あからさまにマーケットに介入し、リスク資産の価格形成に関与しています。そういった意味で、金融危機前後でゲームの進め方が少し変わったように感じます。

ですから投資の本では、金融危機後の内容まで含んだものを読みたいと思っています。優秀な成功している投資家が、金融危機後の世界をどのように見て、どう考えているのか、それを知りたいからです。

本書は、金融危機のあとで超トップレベルのマネーマネジャーが何を考えているか語るので、有意義な本だと感じました。

とはいえインタビューは2012年ごろまでに行われたようです。アメリカの利上げ、中国経済の減速とそれに伴う新興国の低迷という、2015年現在の重大事項をどう見ているのか、教えてほしいものです。

「続マーケットの魔術師」「リスク・テイカーズ」などを読んで楽しめる人には、面白い本でしょう。
(書評2015/09/12)

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