「続マーケットの魔術師」 ジャック・D・シュワッガー(著)

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「マーケットの魔術師」シリーズの第4作です。リーマンショック後に書かれており、今の市場環境で生き残ったトレーダーたちについて知ることができます。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

マーケットに勝ち、大きな利益をあげたい人。

 

要約と注目ポイント

主に1990年代から2000年代に成功している、ヘッジファンドのマネージャー15人にインタビューした。それぞれのトレード手法や投資哲学、相場観などが語られる。

リーマンショックを乗り越え、勝ち続けるトレーダーたち

スティーブ・クラーク

高卒で証券会社の雑用として仕事を始め、マーケットメーカーや裁定取引の経験を積む。イベントドリブン戦略のヘッジファンドを創設し、大成功する。

「得意なトレードに専念して、苦手なトレードはしない。」
「トレードサイズが重要。起きたときに気になるようでは、ポジションが大きすぎる。」
「自分の考えを柔軟に変えられる。」
「興奮した感情的なトレードをしない。」
「常に資産管理をする。」

トレードを始めると、調子に乗っていろいろな市場で売買したくなります。ですが、やはり相性と言うか、得手不得手はあります。得意なトレードに専念せよ、起きたときに気になるのはポジションが大き過ぎ、などはすごく納得です。

マーティン・テイラー

東欧株式ファンドを運用する。完璧にロシアのデフォルトを予測して、好パフォーマンスをあげる。そのあと新興国ファンドを設立し、高いリターンを出し続ける。

「ファンダメンタルズが最も良い国(市場)で、長期的に良い経済環境にあり、将来の成長と予想利益が素晴らしく、妥当な株価の会社を選ぶ。」
「暴落時も、自分が安心できる水準の買いポジションは保持する。すべて手仕舞うと、焦りから不適切な場面で買いに走る。」
「長期的な視点で、投資判断する。」

暴落時も買いポジションを少し残せ、と言うのは共感できます。全部売ると、焦って買いたくなります。

トム・クローガス

化学会社の役員の地位を捨て、ヘッジファンドを創業する。手法は平均回帰の考え方に基づく逆張り。株式の銘柄選択にも独自性がある。

「将来収益が期待されるが、現在の株価に織り込まれていない銘柄を買う。」
「トレードは結果では評価できない。勝率の高いトレードが良いトレードで、それを続けること。」

将来の利益から見て割安の株を買え、トレードは確率で有利な売買を続けるべき、も良い教えです。

ジョー・ヴィディッチ

ファンダメンタルズ分析で大局観を作り、個別銘柄を選択する。そしてイベントに対する値動きを参考に、マーケットのセンチメントを察知してトレードを行う。

「損切りは少しずつ行う。含み益があれば、下げ始めるまで売らない。」
「恐れに支配されて判断しないように、ポジションサイズを限定する。」
「考えを柔軟に変える。」
「損切りによる損失に慣れる。リスク管理には必要だから。」
「割高だからという理由だけで空売りし、割安だからという理由だけで買うのは危険。」

こちらも名言です。損切りはリスク管理に必要。割高だから空売りし、割安だから買うというだけでは危険。

ケビン・デーリー

株価が事業の本質価値を大きく下回っている会社を探す。ウォーレン・バフェットの投資哲学に従い、高いリターンを継続する。しかも、投資環境を判断し、現金化して損失を低く抑えることができる。

「本質価値に比べて割安な会社を買う。」
「割安でも、キャッシュフローを増やし本質価値を大きくできない会社は避ける。」

本質価値より安い株を買う、というのも全くその通りです。

ジミー・バロディマス

トレンドに逆らい、上昇相場で空売りし、下落相場でナンピンする。それでも15年間利益をあげ、損失は出していない。

ジョエル・グリーンブラッド

バリュー投資で長年にわたり、市場平均を大きく上回るパフォーマンスを達成する。企業分割や合併などのイベントを利用していた。近年は独自の指標に基づく、システマティックなバリュー投資に力を注いでいる。

「収益利回りで割安かどうか、有形資本利益率で良い会社かどうか判定する。割安かつ良い会社に長期投資する。」
「バリュー投資は儲かるが、短期的にはうまくいかないときもある。それは機関投資家が、ますます短期のパフォーマンスを重視するようになったからだ。」

バリュー投資は効果的な方法だと思います。ただ、時間がかかることがあるというのは、おっしゃる通りです。自信を持って値上がりを待てるかです。

コルム・オシア

低リスク水準のトレードで損失を最小限にとどめながら、20年間好パフォーマンスを続ける、グローバルマクロ戦略のマネージャー。

「ファンダメンタルが重要。ファンダメンタルがマーケットを動かすが、人々が気づき始めるまでトレンドは発生しない。」
「バブルの時期は、バブルを信じ切っている人が必ず勝つ。流動性のある投資対象でバブルに乗りながら、相場が転換するまでひたすら待つ。」
「今何かが起きていると気づいたら、それに従ってトレードはできる。」
「トレードのアイデアよりも、トレードを適切なやり方で実現することが重要。利益が大きくなり、判断を誤っても損失が限定されるトレードをする必要がある。」
「マーケットで重要なのは、成長率ではなく変化率。楽観主義者の力を過小評価してはならない。」
「自分の個性にあったトレード手法を使うのが大切。世界の変化をありのままに理解して、考えを柔軟に変える。」
「自分の仮説が間違いとわかる価格に、損切り注文をおく。」

個人的には、この方の話が本書で最も勉強になりました。先進国の中央銀行がつくった金融緩和バブルも、そろそろ終わりが近いです。このような投資の考え方が必要な局面が来ると、個人的には思っています。

レイ・ダリオ

世界最大のヘッジファンド、ブリッジウオーターの創設者。40年間、市場で勝ち続ける。
「間違いからは、将来の間違いを減らす原則が学べる。」
「各マーケットは、それぞれの決定要因に従って動く。決定要因の異なる、相関関係のない資産でポートフォリオを構成するのが良い。」
「自分のトレード戦略が、異なる相場環境でも通用するか検証する。」

知る人ぞ知る、金融業界の巨人です。この方の制作した、「30分でわかる経済の仕組み」という動画は面白いです。

ラリー・ベネディクト

平均回帰の考え方に基づき、短期トレードを繰り返す。20年間、損失を小さくしながら利益をあげてきた。

スコット・ラムジー

ファンダメンタル分析でマクロの見方を決め、テクニカル分析に基づきトレードする。リスクと損失は低く抑えられ、好パフォーマンスを維持している。

ジャフリー・ウッドリフ

トレンドフォローでも平均回帰でもない、コンピュータを使う独自のシステムトレードを開発する。プログラムで運用する資産は50億ドル以上になっている。

エドワード・ソープ

数学の力でカジノに勝つ。オプションとワラントの市場でも勝ち、世界初のクオンツファンドを創立した。

ジェイミー・マイ

サブプライムローンの破綻に賭けた男として、「世紀の空売り」に登場する。だが実際は、もっと知的に洗練されたトレーダーである。創業したヘッジファンドの成績は、9年間の年平均純利益が40%に達する。

「既知のリスクに不確実性があると、マーケットは株価を割り引き過ぎることが多い。逆にマーケットは、はっきりと確認されていないリスクを過小評価しがちだ。」
「ある銘柄のボラティリティが非常に低いときは、ボラティリティの買いを検討するのに良い時期だ。」

「世紀の空売り」では素人のような扱いでしたが、本書を読んだら完全なプロでした。この方の戦略もすばらしいです。

マイケル・プラット

裁量によるトレードと、システマティックなトレンドフォローのトレードを行う。リスク管理は徹底しており、裁量のトレードでも最大損失(ドローダウン)は5%以下である。

「トレードするセクターと戦略を分散化する。運用単位の最大損失を3%に限定する。日々、トレードの方法、相関関係や戦略、ポジションの見直しをする。これらによりリスク管理を行う。」
「マーケットでは、どんなことも起こる可能性がある。マーケットが間違っていると考えてはならない。マーケットは常に正しく、損をするなら自分が間違っていると認識する。」
「相場で利益を出すために3つの必要なこと。ファンダメンタルズに関するまともなストーリー。今後も続きそうな良いトレンド。ニュースを自分の考えと同じように扱う市場。」

マーケットが間違っていると考えてはならない。これはその通りだと思います。安過ぎるとか高過ぎると自分が思っても、そのようにマーケットが反応しないことはよくあります。それを受け入れないと、大損害を食らいます。

 

書評

読んだ感想は、「マーケットの魔術師」とだいたい同じです。この本を読むだけでは儲かりません。日々相場の研究をし、自身のトレードの検証を行い、努力を続けている人が読むと、ヒントが見つかるかもしれません。

ただ2冊を比べると、本書の方が読みやすくて有益だと、個人的には思いました。難易度も上がっている印象ですが。

読みやすくなっているのは、単純に4作目で著者も慣れてきて、インタビューの内容や文章表現、解説やまとめが整理されているためかと推測します。最後にある40の教訓も、よくまとまっています。

有益と考えるのは、やはり情報として1作目の「マーケットの魔術師」は古く、4作目の方が新しいためです。トレーダーの話は、1作目だと30~40年前の内容になりますが、4作目では3~4年前までフォローされています。

「マーケットの~」では、登場するトレーダーはいかにブラックマンデーが悲惨だったかを話していました。しかし今考えると、ブラックマンデーは世界の終わりではありません。

株式市場が1日で20%以上下落するというのは、大惨事です。ただ1980年代から1990年代は、全体では幸せな上昇相場でした。ブラックマンデーの傷もすぐに回復します。長期の上昇相場で何回か起こりうる、大規模な調整と位置付けられるでしょう。

「続~」では、1997年からの新興国金融危機、2000年前後のITバブル崩壊、2008年のサブプライムローン危機をトレーダーは経験しています。このうちITバブルは、インターネットを材料にした典型的なバブルと言えます。

しかし1997年の金融危機は、グローバルに投資や投機の資金が動くことで起きました。現在、世界中の中央銀行が金融緩和を行い、マネーがじゃぶじゃぶです。アメリカの利上げなど、金融政策の変更で世界のマネーの動きが変われば、重大な事態を引き起こす可能性があります。その意味で、参考になる出来事です。

サブプライムローン危機は、典型的な不動産バブルとも言えますが、劣悪な資産を金融工学で最上級の資産と取り繕い、レバレッジで超巨額に膨らませたところが新しかったです。

あまりにもやりすぎたので、7年経った今も経済にダメージが残っています。7年経っても先進国がゼロ金利、マイナス金利という異常な状態のままです。サブプライムローン危機の後は、世界が低成長の時代に変わったようです。サブプライムローン危機が、長期上昇相場と長期停滞相場の境になったかもしれません。

これから投資やトレードを考える人は、サブプライムローン危機で何が起きたかを知るべきだと思います。中央銀行がゼロ金利の世界をつくり、債券バブルが発生しています。量的緩和の効果に限界が見えてきており、債券バブルの行く先が怪しくなっています。

またここにきて、世界第2位の経済大国である中国の様子が変です。中央銀行の債券バブル、中国のバブル、崩壊した場合はどちらも、サブプライムローン危機の規模を超えそうな予感です。

内容の難易度が上がっている、という印象も持ちました。「マーケットの~」は、プロのトレーダーに学んで個人投資家も億万長者になろう、というノリも感じます。

「続~」は、ヘッジファンドのマネージャーばかりなので、かなり理屈っぽいです。私が本書を買った目的はレイ・ダリオ氏のインタビューでしたが、これも難しいです。いろいろなマネージャーの理論を理解できれば、勉強になると思いますが。

「マーケットの魔術師」と「続マーケットの魔術師」は、両方とも文章量が相当多いです。どちらか1冊読むなら、私は上のような理由で、「続~」をおすすめします。
(書評2015/07/08)

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