ファンダメンタル重視の中期投資で、トレンドに乗る順張りが基本戦略です。売買の方法を具体的な数値で教えてくれる、実践的な株式投資の教科書です。
株価チャートについては、シリーズの「株を買うなら最低限知っておきたい 株価チャートの教科書」をお読みください。
おすすめ
★★★★★★★☆☆☆
対象読者層
株式投資を勉強したい人。
自分で銘柄を選んで中期(数カ月から2~3年?)投資したい人。
難易度は入門書~初級者レベル。
要約と注目ポイント
将来値上がりする株を探すのに、決算書は有効である。しかし、個人投資家が決算書を読むのは難しい。
本書では、決算書の重要なポイントだけを読み取って銘柄を選ぶ手法を解説する。それに加えて、選んだ銘柄の株をどのように買い、どのように売るかという一連の流れについても扱う。
値上がりが期待できる株は、大きく分けて2種類。
成長株:年々売上と利益が増えている企業の株。
割安株:企業価値に比べて実際の株価が低い企業の株。
(復活株:大赤字から復活した企業の株。大きな上昇率が期待できる。)
これらの株を探すには、「会社四季報」、「決算短信」、「有価証券報告書」を見る。
会社四季報:多くの企業の概況を手早く知る。
決算短信:最新の企業情報や業績がわかる。
有価証券報告書:企業をじっくり調べる。
会社四季報の読み方
株価は将来の業績を織り込んで動くので、四季報から読み取る。ただし、あくまでも予想なので実際の業績と異なる場合もある。
成長株では、売上高と経常利益がともに過去3年以上増加しており、当期と来期も増加が予想される企業を探す。過去は売上と利益が増加していても、将来増加のスピードが鈍ったり減少に転じたりすると、株価は低迷する。
割安株では、PERが低い、PBRが低い、配当利回りが高い企業を探す。PERや配当利回りは変動するので、業績の安定性も確認する。
復活株では、赤字が減少してきている企業や、赤字から黒字へ転換が予想される企業を探す。ただし財務をチェックして、倒産の可能性が低い企業を選ぶ。また、株価が下降トレンドにある間は買わない。
四季報を号ごとに見て、業績予想の変化をチェックする。業績は加速しながら上方に修正されているか、下方修正されていないか。
倒産のリスクをチェックする7つのポイントを解説。この7項目を見れば、危険性がわかる。
株主からわかる、注意すべき3つのポイントを解説。この3つのポイントで、将来の株価下落を予測する。
決算短信の読み方
決算短信と四半期決算短信は、合わせて年4回開示される。会社四季報より速報性があり、内容も詳しい。
サマリー情報で、当期の売上と利益の実績と、来期の売上と利益の予想を見る。これを四季報の予想数値と比べる。最新情報と四季報で、業績の変化を確認する。
四季報を読んで詳しく知りたくなったことや疑問点を調べる。決算短信の「経営成績・財務状態に関する分析」を読んでみる。
キャッシュフロー対有利子負債比率や、インタレスト・カバレッジ・レシオで、債務償還能力をチェックする。
賃借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の読み方を解説。
粉飾決算がないか、簡潔なチェックポイントを解説。
会社四季報に、「継続前提に重大事象」や「継続前提に疑義注記」とコメントされていることがある。これに関して、決算短信や有価証券報告書に詳しく記載されている。その読み方の解説。
PER、PBR、ROE、配当利回り
PER = 株価 ÷ 1株当たり(予想)当期純利益
PERは、投資資金が何年分の当期純利益で回収できるかを表している。
PBR = 株価 ÷ 1株当たり純資産
PBR1倍割れなら、企業を解散した場合に残る財産より株価の方が低いことになる。利益を出せる企業がPBR1倍割れなら、割安と言える。優良株ならPBR1倍が下値のめどとなることも多い。割安株ならPBR1倍が上値のめどとなる場合もある。
ROE =(当期純利益 ÷ 自己資本)× 100
自己資本を元手に、どれだけの効率で利益をあげているかを示す。ROEが高ければ、収益力の高い優良企業と評価される。逆にROEの改善が見込める、現在ROEが低い企業に投資するのもあり。
配当利回り =(1株当たり(予想)配当金 ÷ 株価)× 100
配当利回りが高いと、株価は割安と言える。株価が下がると配当利回りが高くなるので、株価を下支えする効果がある。
PERを投資に使うときの注意点を解説。
PBRを投資に使うときの注意点を解説。
ROEを投資に使うときの注意点を解説。
配当利回りを投資に使うときの注意点を解説。
売買の方法
個人投資家より早くプロの投資家が業績悪化を予測するため、業績がよいのに株価が下がることがある。株価は業績のピークより先に下がり始める。
日経平均株価などの株価指数でも、景気の底より半年ほど前に底打ちし、景気のピークより先に天井となることが多い。
業績とは別に、株価の動きにはトレンドがある。上昇、下降、横ばいと3つのトレンドがある。横ばいのときは、上昇か下降のトレンドがはっきりするまで待つ。
上昇トレンド、下降トレンドの見極め方。そして、そのときの売買の方法を解説。
株価は買いたい人の数量(需要)と売りたい人の数量(供給)にも影響される。好業績の銘柄でも、需給が悪化すれば売られる。
供給が多くなる(株価が下がる)原因はいくつかある。典型的な下落原因を、5つ解説する。
売買での大失敗を避けられるポイントを解説。
損切りはルールに従い、機械的に実行すること。
決算書を読み込む
長期にわたり高成長を続ける企業を、早く見つけるポイントを解説。
倒産リスクを見極める、重要ポイントを解説。
粉飾決算を見抜くポイントを解説。
税効果会計の解説。
書評
著者は会計士なので、ファンダメンタルズの解説はとてもわかりやすいです。四季報や決算短信については、実際の企業の例が多く出されているので理解しやすいです。
決算短信では具体的な数値基準を示し判断材料としており、自分でも真似できます。また、粉飾決算や税効果会計の説明はさすがで、役立ちます。
しかも会計士だからファンダメンタル至上主義かというとそうでもなく、トレンドを見て売買するという実践派です。良いポイントを突いた解説書だと思います。
こういう感じで時間をかけて分析し、感情を制御して売買できれば、結構良い投資成績が残せるのではと思われます。
株式投資だと流儀が分かれることが多くて、成長株(グロース投資)だけやる、割安株(バリュー投資)だけやる、みたいになったりもします。
ただ著者は守備範囲が広くて、成長株も割安株もやるし、業績が悪化した企業も復活の目があれば投資する(10倍株狙い?)、ということで良い意味で欲張りです。ファンダメンタルズを正確に分析して、成長株も割安株も10倍株も臨機応変に投資できたら理想です。
(書評2014/08/14)