「暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり」 吉本佳生/西田宗千佳(著)

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マウントゴックス破綻以来、日本では忘れられた感もあるビットコインですが、まだまだ健在です。ビットコインを使うベンチャービジネスも盛んです。キプロスやギリシャで実証済みなように、金融危機で力を発揮します。勉強しておく価値はあります。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

暗号通貨に関心がある人。ビットコインの基礎を知りたい人。

 

要約

現時点では断定できないが、ビットコイン(もしくは他の暗号通貨)は、技術として経済社会システムとして成立する可能性がある。ビットコインは資産運用対象、そして少額の国際決済手段となるかもしれない。本書では、暗号・情報技術と通貨制度の両面から暗号通貨について検討する。

ビットコインについての基本的な解説。

・現在の経済統計では、現金(紙幣・硬貨)と預金(当座・普通・定期など)が通貨である。他に流動性の高い国債なども通貨の機能を持つ。一般的な決済に使えるプリペイドカードやポイントも、通貨の機能がある。クレジットカードやデビットカードは、決済の補助手段なので通貨ではない。日本政府はビットコインを通貨とは認めず、実物資産としている。

ビットコインは、形態としては電子情報であり金融資産ではないので、本書では非金融・電子情報形態の通貨と扱い、「暗号通貨」と呼ぶ。ビットコインは、現金と預金では現金タイプであり、匿名性のある暗号通貨である。

ネット上で匿名の個人同士で決済を行うことは、経済上きわめて重要な行為である。クレジットカードは、少額の決済はあまり得意ではない。そのためネット上のコンテンツ流通ビジネスでは、無料コンテンツで広告収入を得る形が主流となった。携帯電話やスマホ、電子書籍など、新しいデバイスやメディアでは、コンテンツへの課金が成功した。

・アップルやアマゾンなど、決済手段を握るものがネットを制すことになる。また、音楽や映像配信で「月額固定料金で使い放題」のビジネスモデルが広がっているが、実は月一回の決済なので処理が楽である。決済手段はスクエアやビットコイン(匿名性有)のように、小規模・個人間で通用するような簡単な方向に進んでいる。

・マウントゴックスの破綻があったが、通貨の安全性と取引の安全性(取引所管理者の信頼性)は別である。

通貨を持つ動機は3つ。
①取引動機(一般の決済に使うため)。
②予備的動機(想定外の支出に備えておく)。
③投機的動機(資産運用のときに通貨で運用するために保持する)。

通貨の持つ機能とは。
①決済手段として使える。
②価値尺度となる。
③価値を保蔵する。(価値保蔵にも、少し目減りする保蔵、名目価値を100%保蔵、実質価値を100%保蔵、価値を増やしながら保蔵、などがある。)
ビットコインは①~③を部分的に満たしている。

・物々交換のなかから、価値保蔵の機能を持つものが通貨となった。また物々交換のときに一方が借用証を渡したとすると、これは金融となる。紙幣を発券する銀行がこの借用証を買い、対価として紙幣を渡すと、紙幣は市場に流通するようになる。通貨は、一定数以上の人が通貨として受け取ってくれるなら、通貨として機能する。

・現代の国家通貨の現金には、借用証(手形)のような裏付けはほとんどない。通貨量の9割以上は預金だが、預金にもすべてに担保などがあるわけではない。国家通貨に価値の裏付けはない。

・現金通貨を発行すると、発行に対し買い入れた金融資産の金利に相当する利益(シニョリッジ)がある。現実には保有する長期国債の金利に近い。ビットコインのシニョリッジは、マイニングによる発行金額からマイニング作業のコストを差し引いたものである。シニョリッジがあることで、暗号の強固さが維持されながらユーザー数が拡大する。ビットコインで利益を得たといわれる人は、マイニングで儲けたというよりは、時間経過で値上がりした投機の要因が大きい。

・国際決済では、アメリカ大手銀行のドル預金口座を経由するので、手数料がかなりかかる。ビットコインでの国際送金はコストが低い。少額国際決済では、クレジットカードとビットコインが競合する。

暗号通貨で大切なのは、複製されないこと。その対策には、暗号化とシステム化がある。
スイカなど一般のネットワークサービスは、サーバーが存在し、利用する場でクライアントが接続する。サービスの管理者がいて、サーバー上で決済され、サーバーのデータが通貨にあたる。
ビットコインでは、管理者は利用者全員となる。ビットコインの管理コストは、利用者全員がわずかずつ負担している。利用者のパソコンや回線上を他人の決済情報が流れていくので、改竄などを防ぐ信頼性の担保が重要である。信頼性を担保する手段がマイニングとなる。暗号化は公開鍵暗号という仕組みやハッシュ化などでなされる。

・ビットコインは決済の確認に10分かかることや、他の通貨との交換の規定がない。そのため、取引所を介して利用することになる。

・通貨制度はまだまだ不十分で、世界中でさまざまな状況のもと、便利に使える通貨など存在しない。政治や中央銀行が介入する国家通貨は堕落しやすく、ビットコインは信用が情報技術(システム)に支えられている点が優れている

中央銀行と国家財政の解説。

・単一通貨のメリットは、取引コストが低くなること。複数通貨のメリットは交換レートを調節できることで、デメリットは取引コストが高くなることである。ビットコインは取引コストが低いので、複数通貨としてビットコインが使われる利点は大きい。(複数通貨制の例として、江戸時代の日本。)

複数の暗号通貨と国家通貨が競争するモデルの考察。

 

書評

ビットコインのことはなかなか理解できず、本書のような入門書はありがたいです。著者が経済学者と技術系ジャーナリストということで、ビットコインにまつわる経済的な背景と技術的な背景をわかりやすく説明しています。

それでもビットコインには、実感がわかないところがあります。私は使ったことがないので、実際に利用してみないと気付かないこともあるのでしょう。本書の解説でも投機的な部分は興味が持てるのですが、暗号技術の部分は理解が及ばず眠くなります(これは私の問題ですが)。

本書でも強調されていますが、通貨には寿命があるのでビットコインが今後も生き残るかは不明です。(江戸時代の小判など、それ自体にはゴールドとして価値はあるが、通貨としてはもはや使えない。)しかしビットコインがもっと普及するかはともかく、暗号通貨には将来性があるので、その概念をざっくりとでも知っておくことは役に立ちそうです。

また、公共の図書館が電子書籍の貸出を始めているように、音楽や電子書籍のデータと所有権を結び付け、これらを安全に流通させるというビジネスが考えられます。ビットコインの技術と関連しますが、潜在的な市場は大きいでしょう。

ビットコインが好まれる理由として、供給量に上限が定められていることがあります。インフレにならない、保存していて実質価値が減らないと考えられるからです。アメリカや日本の金融緩和政策に反対する人たちは、急激なインフレが起こると批判していたのですが、今のところ起こりそうにありません。日本などは中央銀行による財政ファイナンスの領域にまで達していそうに思われるのですが、インフレになりません。ある限界を超え、そこに社会的ショックが発生すると、インフレになるのでしょうか。そもそも、マネタリーベースを増やしても民間銀行の融資が増えていないようなので、意味があるのでしょうか。日銀当座預金にお金が積み上がると、最終的にどのような現象が起こるのだろう。

先進国各国政府と中央銀行は、緩やかなインフレと超低金利を並行させ、国家債務の実質的削減を意図しているようです(金融抑圧)。それにしても長期間にわたり、そのような政策が本当に実行できるのでしょうか。
(書評2014/08/09)

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