「ワーク・デザイン これからの<働き方の設計図>」 長沼博之(著)

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経営コンサルタントである著者が、会社や従業員の実態に問題意識を持ち、日本のこれからの働き方について提案しようと書かれた本です。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

将来の仕事やキャリアに疑問や不安を感じている人。

 

要約

急速な機械化は、人間の仕事のさまざまな領域へ広がっている。
(中小の工場でも利用可能な格安産業用ロボット、ファーストフード店の調理システム、薬剤の調剤システム、メディア業界でのコンテンツ自動生成技術、ホテル接客システム)

・技術革新が速すぎて社会構造の変化が追いつけず、技術革新により発生する失業者が(他の産業で)吸収できていない。また成長産業は雇用を生んでいない。

・リカードの比較優位理論は、各国がそれぞれ最も得意な産業に集中することが、各国すべてに良い結果をもたらすことを示した。
しかし現在、労働力と資本が国境を越えないという比較優位理論の前提は崩れた。クラウドソーシングによる業務委託は拡大を続けている。そしてクラウドソーシングの時給は圧倒的に安い。

・株式会社は利益を上げるため、生産性と効率を追求する。大企業はコスト削減圧力にさらされ続ける。しかしインターネットとソーシャルメディアにより、個人やチーム、小規模な組織は、低コストでそのネットワークを維持できるようになった

事業の寿命(今は3年といわれる)は短くなり、人間の寿命は長くなっている。会社員としてのキャリアだけでなく、セカンドジョブ、NPO、ボランティアなどの複数のキャリア(パラレルキャリア)が求められる時代となりつつある。

・社会構造をつくりあげている基盤には、個人や集団の心理・価値観がある。社会の底流にある人々の価値観へ訴えかける活動(ビジネス)が、今後は重要になる

利潤の追求から社会貢献を追求する価値観へ、社会は変化しつつある。豊かさの基準が、多様な経験や健康、自己実現、豊かな人間関係を満たすコミュニティーとなる。大衆(身近な人)とともに歩む価値観を持つ人が、人々の支持を受けるだろう。

・企業も、機能(社員の能力)は外注することが可能なので、社員には理念の共有が必要と考えるようになった。

・インターネットの意義は、情報へのアクセスから社会的交流に進化している。ウェアラブルコンピュータにより、各個人の脳がつながる社会へと進んでいる。

・今後の事業や働き方では、長期的な視点、他者や環境への配慮、差別をなくす、個人を活かす、行動し結果を示しているか、といった点に価値をおくようになる。

・「雇用」という概念は大量生産・大量消費の経済から生まれたが、「働く」の語源は「傍を楽にする」と言われている。「働く」の意味は再び、他者への貢献や自己実現に回帰してきている。

・現在は明治維新期のような、既存のインフラをつくりかえる時代にあたる
明治維新では近代のインフラが整備された。現在では、銀行などの金融システムはクラウドファンディング、労働インフラはクラウドソーシング、近代教育制度はオープンエデュケーション、製造業はデジタルファブリケーションがそれにあたる。

生産手段を個人やチームが手にすることができるようになった。(3Dプリンタ、クァーキーやウィーメイクのようなモノづくりプラットフォーム)

・知恵を集めたり(オープンイノベーション)、低コストで新規事業を始めたり(リーンスタートアップ)、ネットとリアルをつなぐ(オンライントゥオフライン)といった動きが拡大するであろう。

・個人間の融資プラットフォームであるクラウドファンディングは、資金調達だけでなくPR・製造・流通・販売・サポートといった付随する仕事を生みだす。

・クラウドソーシングが普及すれば、経営者や従業員はトップマネジメント関連分野のみが仕事になる。仕事が分割できるので、途上国の労働者に仕事を委託することが可能で、貧困の解消にも役立つ。

・現在のコミュニティーは細分化されているが、そのような特徴をとらえながら、互いに尊敬し合えるコミュニティーを構築するモデルに需要がある。

・コワーキングスペースでチームをつくり、クラウドファンディングで資金と応援者を集め、プロジェクトを立ち上げ、大規模になりそうなら法人化する。このような新しい起業のかたちが生まれている。

自立した知識労働者も、組織(チーム)と関わりながら働くことになる。組織運営では、情報の共有、多様な考え方の受容、相手のアイデンティティーの尊重、建設的な対話と協働、が重要である。

20世紀は「消費者」と「投資家」が力を持っていたが、今後は「市民」と「労働者」の力が回復する。そして、皆で一緒に作るという、コラボしながら生産する流れが大きくなるであろう。

貨幣より評価に価値を見出す時代になってきている。貨幣経済と評価経済の両方で、幅広い活動を行うパラレルキャリアが必要となる。

パラレルキャリアを考えるポイント。
①経済基盤についてはシビアに考える。(生活費、初期投資、固定費、在庫)
②自身の体験や経験から考える。
③チーム作りを学ぶ。
④ビジョンは大きく。

・あらゆるものが民主化される社会では、個人が大切にされる。個人を尊重し、互いの信頼を重視するコミュニティーが生まれ、社会を良くするという貢献を望む価値観が広がる社会となる。大量生産・大量消費の世界から、多品種適量生産・共生・共有の世界に変わる。

 

書評

2013年における働き方を考える本ですが、現在の社会構造を分析し、まとめた本としても読めます。
本書で引用されている「メイカーズ」「機械との競争」「リーン・スタートアップ」等は私も読みました。こういった現状を簡潔によくまとめてあると思います。

働き方は労働市場や雇用制度に大きく影響を受けますが、これらは産業構造の変化に左右されます。もはや大企業は非正規雇用を利用することを止めないでしょうし、労働者側も終身雇用や年功序列への期待は捨てたほうが良いです。結局どう働くかは自分の問題です。

著者は、これまで出版されてきた働き方を指南する自己啓発書などは、上位5%のエリート層を対象にしていたが、本書ではそれ以外の人の働き方を考えると述べています。なるべく多くの人が実践できるように、さまざまな事例をわかりやすく解説しています。

本書で提示する方向性は共感できるのですが、このようなパラレルキャリアを全員ができるのかは疑問も感じます。
例えば非正規雇用は全労働者の3分の1ですが、こういった人々はパラレルキャリアを考える余裕を持てるのか。複数のアルバイトなどをこなすのは、自己実現のためではなくただ生活に追われているだけです。

また、クラウドソーシングの報酬がやはり安いです。途上国の人に仕事が増えますが、先進国の人の報酬水準を引き下げることになり、政治的に困難な問題が生じると予想されます。

社会保障の網からこぼれ落ちやすい人こそ、パラレルキャリア(複数の関係性)が必要になることは確かなのですが。
本書で紹介されている、個人同士での寄付プロジェクトサービス「ユー・ケアリング・ドットコム」などは、その可能性を示唆していると思われます。

そのほか、全世界的な潮流になるかにも疑問はあります。先進国の人々は成長重視から個人重視の価値観へ脱却できるかもしれませんが、これから豊かになりたい途上国の人々が物質的欲望に基づく市場経済を捨てられるでしょうか。
本書の主張は頷けますが、乗り越えるべき困難もあります。共生の価値観が広がることは、武力紛争や貧困を減らすことにもなり、期待したいです。
(書評2014/01/05)

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