「リーン・スタートアップ」 エリック・リース(著)

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どうしたら起業の失敗確率を下げられるか。どうしたら少ない資源でも起業の成功の可能性を高められるか。リーン・スタートアップと呼ばれる起業の方法論です。

おすすめ

★★★★★★★☆☆☆

 

対象読者層

起業したい人、特に少ない資源で起業を始めたい人。新規事業を立ち上げる人。

 

要約

起業とはマネジメントの一種である。イノベーションを継続的に生み出す方法がある。これをリーン・スタートアップと呼ぶ。

・本書ではスタートアップを、不確実な状態で新しい製品やサービスを創る人的組織と定義する。
未来が見通せないので、検証し学びながら持続可能な事業をめざす。アイデアを製品化し、顧客の反応を計測し、方針を判断するというフィードバックループが基本となる。進捗状況の計測や優先順位の策定などには、スタートアップに適した会計手法(革新会計)が必要である。

・本書は3部構成となる。
第1部ビジョンでは、起業に適したマネジメント手法について述べる。
第2部舵取りでは、構築―計測―学習フィードバックループを解説する。
第3部スピードアップでは、フィードバックループをできるだけ速く回す方法を検討する。

 

第1部 ビジョン

・スタートアップの目標は、できるだけ早く顧客が欲しがりお金を払ってくれるモノを突きとめることである。そのために、「検証による学び」という従来とは異なる方法で生産性を測る必要がある。

・検証による学びを得るには、現実の顧客から集めた実測データをもとにしなければならない。生産性の評価は、投入された労力から検証による学びをどれだけ得られたかが基準となる。

どのような顧客がどのような理由で自分たちの製品を使うのか、を知るために検証を行う。

・成功に向けて少しずつ進んでいることを確認するためには、マーケティングなどでお化粧した数字ではなく、検証による学びを活用せよ。

事業計画を体系的に構成要素へと分解し、部分ごとに実験で検証する。戦略を検証する実験では、どの部分が優れていてどの部分が狂っているか、定量的および定性的なテストを行う。(ザッポスの創業時の例)

・戦略の重要な仮説には、価値を提供できるのかという価値仮説と、新しい顧客に広がりがみられるかという成長仮説がある。仮説を検証実験し、その結果から戦略的計画が改善される。

 

第2部 舵取り

・アイデアを構築し製品を作り、顧客から得られるデータを計測し学習してアイデアを改良する。この構築―計測―学習のフィードバックループをどれだけ速く回せるかが、スタートアップの舵取りで重要な点だ。

①仮説の検証
はじめにスタートアップの計画ですべての基礎となる仮説(挑戦の要となる仮説で価値仮説や成長仮説などがある)を検証する。

②構築フェーズ
仮説がクリアできたら、実用最小限の製品(以下MVP)を作る。MVPで構築―計測―学習のループを回す。

③計測フェーズ
製品開発が本当に前進しているのか、革新会計という手法で測る。革新会計でフィードバックループのチューニングが成果を上げているか、定量的に計測できる。学びの中間目標も設定できる。

④戦略策定
構築―計測―学習のループを回ったあと、戦略を維持するか戦略を方向転換(ピボット)するか決めなければならない。仮説に誤りがあるなら新しい戦略的仮説にピボットする必要がある。

・実際は上記とは逆の順序となる。
①まず学ぶ必要があるものを見つける。
②検証のため計測しなければならない項目を革新会計で確認する。
③実験と計測を行うためにどのような製品を作るか考える。

・顧客を実際に見て理解することが重要だ。顧客がどうしても解決したい問題を抱えているか、その問題を仮説によって解消できるか検証する。

・見込み客をつかんだら文書で顧客の原形(customer archetype)がつくれる。ただし検証による学びが必要なので、顧客の原形は仮説と考える。

MVPは基礎となる要の事業仮説を検証するためのもの。(ドロップボックスではデモ動画)

誰が顧客なのかがわからなければ、何が品質なのかもわからない。MVPを作るとき、求める学びに直接関係ない機能や労力はすべて省く。

持続可能な事業にする方法を学んでいると証明するのが革新会計だ。
革新会計は3段階からなる。
①会社の現状をMVPから得る。
②現状のベースラインから事業計画の理想状態へ調整を(少しずつ何回もかけて)行う。これが学びの中間目標であるエンジンのチューニングだ。
③微調整や最適化が終わったら、戦略を維持するかピボットするか決める。

・エンジンのチューニングではコホート分析を行うこと。総売上や総顧客数のような総計や累積値を見るのではなく、微調整した製品と新しく接した顧客グループ(コホートと呼ぶ)の成績を個別に見る。

・累積値が急速に増えているからうまくいっているという「虚栄の評価基準」は捨てる。コホート分析やスプリットテストで持続可能な事業に近づいているのか確認する「行動につながる評価基準」を採用せよ

・新機能の開発はかんばん方式で行う。
かんばん方式の例:
作業の進捗状況をバックログ、構築中、構築完了、検証中の4段階とする。各段階には最大3つのプロジェクトしか入れられない。有益性が検証できた機能は製品に取り込み、検証できなかった機能は取り除く。各段階に空きがないとプロジェクトは進めない。

・検証には3つの尺度が重要。
①どのような行動で同じ効果が繰り返し得られるのかという、「行動しやすさ」。
②顧客の行動を評価に使うという、「わかりやすさ」。
③データの信頼性を守る、「チェックしやすさ」。

・スタートアップでは残り時間(現金残高/月の現金減少額)で何回ピボットできるか意識する。

・ピボットのタイプ
ズームイン型ピボット:製品機能のひとつを製品全体とする。
ズームアウト型ピボット:製品全体をもっと大きな製品の一機能とする。
顧客セグメント型ピボット:最初の想定と異なる顧客だった場合、ターゲットを変更する。
顧客ニーズ型ピボット:製品と顧客ニーズのずれを修正する。
プラットフォーム型ピボット:アプリケーションとプラットフォームとのピボット。
事業構造型ピボット:高利益率・少量のマーケットとマスマーケットとのピボット。
価値補足型ピボット:企業の生みだす価値の捉え方を変える。
成長エンジン型ピボット:成長エンジンモデル(ウイルス型、粘着型、支出型)を変える。
チャネル型ピボット:販売チャネルや流通チャネルを変える。
技術型ピボット:同じソリューションを全く異なる技術で実現する。

ピボットとは新たな戦略的仮説を策定し、その構造の変化を検証することである。

 

第3部 スピードアップ

・持続可能な事業の構築方法をできるだけ早く学ぶため、バッチサイズを小さくする

・バッチサイズを小さく変更の回数を多くしても致命的な欠陥が発生しないように、継続的デプロイメントという手法をとる。

・過去の顧客の行動が新しい顧客を呼び込むことを持続的な成長という。
持続的な成長を推進する4要素
①口コミ
②顧客の利用が周囲に影響を与える
③有料広告
④繰り返しの購入

・成長エンジンには3タイプある。ビジネスモデルがどの成長エンジンに該当するか考えて、その成長エンジンに集中する
①粘着型
顧客にずっと使い続けてもらうことがビジネスとなるタイプ。顧客の離反率や解約率に注目する。
②ウイルス型
顧客が製品を使うと、他の人々に製品が認知され新たな顧客が発生するタイプ。顧客ひとりから何人の新たな顧客が生じるかというウイルス係数に注目する。
③支出型
顧客を得るのに支出が必要なタイプ。顧客ひとりあたりの売上と新規顧客の獲得コストに注目する。

スタートアップは順応性の高い組織であること。問題が発生したときは真因を突きとめるため、5回の「なぜ」を繰り返す。

・新人の教育訓練プログラムも実験と改訂を繰り返す。技術的に見える問題もその根底には人的問題が隠れている。5回の「なぜ」で明らかになった問題には、その症状の軽重に応じた比例投資で対応する。

・5回の「なぜ」では悪者探しはしない。人間ではなくプロセスの欠陥を発見し対処するために行う。問題に関係するすべての人が参加して、5回の「なぜ」検討会を開く。

・5回の「なぜ」は小さくて新しく起きた問題から始める。やり方が社内に浸透してから大きな問題にも取りかかる。

・会社が大きくなってもイノベーションの文化を維持するにはどうするか。

・リーン・スタートアップの学習リスト。

 

書評

不確実で変化の速い環境において、スタートアップや新規事業はいかになされるべきかを体系的に論じた本です。

スタートアップにおいて、ビジョン、リスクを取る覚悟、踏み出す勇気、苦境に耐える精神、創造性などを著者も重視はしています。ただし、ただやってみようで起業を始めないようにと著者は主張します。アントレプレナーの貴重な資源を、不確実性の高い環境下でムダに浪費しないようにと強調します。

何を作るべきかわからない時代に、資源をムダにしないでスタートアップが進められるように、著者の体験から書かれています。本書の原点は、いかにムダを省き品質を高めるかを追求したトヨタ生産方式(リーン生産方式)にあります。これを製造業だけでなく、スタートアップや他の産業にも適用できるように進化させた体系がリーン・スタートアップです。

過去1世紀のマネジメント理論を下敷きに、著者の失敗と成功の体験を加味し、現代の社会環境をも考慮に入れた現在進行形の理論になっています。変化の激しいビジネスに関わるなら参考になる1冊と思われます。
(書評2013/12/22)

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