「機械との競争」 エリック・ブリニョルフソン/アンドリュー・マカフィー(著)

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産業の機械化や自動化により、今まで中流階級として働いていた人々の職が失われるのではないか?という疑問がある方にはおすすめの本です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

書評

まず、装丁に特色有り。人文系の本だとこだわったりする本はありますが、これは社会科学系というか、基本的にはビジネス書と思ったので珍しいかなと。カバーもゴテゴテしているし、ページも油汚れ的な茶色です。外見の印象はプロレタリア文学風味というか、セメント樽から血糊が付着したまま出てきた感じです。

で、あと、文字が大きい。そんなにページが大きくないので、ページあたりの字数が少ないような。少ない?少ないってどれくらい?中谷彰宏先生くらい!
ですので、全体量としても薄めの新書程度かなあ。カバーとページが硬いので、ちと読みにくい。

それで肝心の内容ですが、アホな私が要約すると以下のようになります。

米国の雇用情勢が回復しない。その主因は、汎用技術(情報通信技術)の発展に伴う雇用の喪失である。テクノロジーの発展に伴い、それまで人間がしてきた仕事を、機械(コンピュータ)が取って代わって行うようになった。この動きは産業革命以降続いてきたが、これまでは技術が革新し経済が成長することで新しい職が生まれ、失業者を吸収してきた。しかし、あまりにもテクノロジーの進歩が加速し、人間の価値観や社会制度が追いつかなくなってきた。

現在、あらゆる分野で人間の仕事が機械に置き換わろうとしている。機械には無理と考えられてきた、パターン認知や複雑なコミュニケーションが必要な仕事にも、その波は押し寄せている。例えば自動車の運転、翻訳、これらは技術的に完成されつつある。情報通信技術の指数関数的な速度で進む拡大は、まだ途上であり、今後さらに社会生活と雇用に重大な影響を与える。人間に残された仕事は、問題解決や創造性など極めて高い認知能力が必要な分野と、配管工や給仕係のような肉体労働(これらの仕事は実は高いパターン認知能力が必要で、かつロボットは繊細な動きが苦手)である。

このような社会環境では、勝者が利益を総取りする傾向が強まる。こうした急激な変化への対処法を著者は2つ提示している。勝者以外の、多くの普通の人々が社会生活を営めるよう、機械と人間が直接競争するのではなく(人間に勝ち目はない)、機械と協力しながら仕事を進めるように組織の革新を行うこと。また、教育への投資を増やしたり有能な人材を自国へ呼び込む政策をとったりして、人的資本を強化(スキル向上)すること。ただ、著者は効果の限界も述べている。

以下は本書の主張に対する愚考です。
あと、どうでもいいですが、原著のタイトル、Race against the machineでした。買うまで気付かんかった。

確かに近年、経済成長しても雇用が増えないことは、グローバル化などと関連して指摘されてきた。特に日本を含めた先進国で。しかし、新興国は比較的明るい未来が語られていたと思う。

日本は人口が減少するが、新興国では若者や生産年齢人口がこれから増大し、人口ボーナス期だとよく言われる。確かに消費市場は拡大するだろうが、雇用は人口に対応するほど増えるだろうか。現在も中国では大卒者の就職率が悪くて、アリ族だのネズミ族だのが存在する。インドでも若者は就職難らしい。依然として南欧方面の雇用情勢も最悪である。これらますます増える世界人口に対応するほどの雇用が、将来生まれるか?

社会学者ジグムント・バウマンの「新しい貧困」によると、産業革命以降に大量に工場労働者が必要となったため、長時間低賃金で働くように仕向ける労働倫理が発生した。この労働倫理とは、成人男性が完全雇用の状態にある社会が正常で、働けるのに働いていない人間(特に成人男性)は労働意欲や自己管理能力が不足しており、そのため失業し貧困にあるものは自己責任とするものである。
すなわち、人口ほどに職が用意されず失業者が全世界で大量に生じるが、完全雇用がめざすべき正常な状態、という人々が抱いている価値観はそのまま残り、失業は本人の努力や意欲の不足によるものとされた場合、どうなる?世界中で深刻な社会不安が蔓延するのでは?

最後に、凡庸な私が、本書で少し希望を感じた部分を紹介する。
本書では、機械と協力して成功する例として、チェスの例が挙げられていた。人間が全くコンピュータに勝てなくなったので、チェスのゲームとして、人とコンピュータが組んだチーム同士で戦う競技ができた。ここで優勝したのは、グランドマスターのいるチームや、強力なコンピュータを擁するチームではなく、アマチュアプレーヤーと並のコンピュータの組だった。優勝チームはコンピュータを操作して学習させる能力が高く、これが決め手になったと考えられている。つまり、[弱い人間+マシン+より良いプロセス]が、[強力なマシン]や[強い人間+マシン+お粗末なプロセス]に勝利したのである。
(書評2013/02/20)

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