「日本人というリスク」 橘玲(著)

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本書は、単行本「大震災の後で人生について語るということ」を加筆修正し、タイトルを改めて文庫化したものです。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

日本国内で日々働いてお金を稼ぎ、平凡に暮らしている市井の人。社会環境が将来、大きく変わったとき、平均的日本人が生きるにはどうすべきか考えたい人。

 

要約

・自分では管理できないほどのリスクを抱えたとき、人間は不安を覚える。現在の日本人と日本社会は、リスクへの耐性が低下している。

・複雑系のシステムでは、それぞれの要素が互いに影響し、予測は不可能である。(複雑系のシステムは、地震などの自然現象や、株式市場などの経済現象、生態系や生物個体など。)

・複雑系では、ときおりブラックスワンが現れる。ブラックスワンとは、前例がなく異常で、とても衝撃が大きく、かつ発生した後で想定できたはずとされる出来事。ブラックマンデーや9.11同時多発テロ、福島第一原子力発電所事故など。

・日本人の自殺率が高いのは、経済的に回復不能な状態(人並みの生活ができる希望がなくなる状態)へ陥る人が多いからである。

・日本人は、不動産、会社、円、国家という4つの神話を信じてきた。

・ローンで家を買うことは、レバレッジをかけて、現物不動産に一点集中投資することである。不動産価格が上昇していた時代はリスクが隠れていたが、現在はリスクがあると考えるべき。

・日本の大手企業は終身雇用制なので、就職した時点で生涯賃金(人的資本)が決定する。労働者は、キャリア終盤でその大半を得る(中高年での給与と退職金)ので、途中で退職するのは損である。しかし、会社は中高年社員に高い給与を払えなくなっており、しかも中高年はほとんど転職できない。中高年社員は一度失職すると、生きていけない。

・円高とデフレが継続してきたので、円預金(と日本国債)を持っていた人が最も得をした。円安の環境では、状況が逆転する。

・日本の高齢者のほとんどは、年金で生活している。年金は日本国に依存する。日本国の財政が信用を保持し続けるかは、予測できない。

・日本の会社は、閉鎖的な伽藍空間である。伽藍空間では、目立たず悪評を避けるのが生き残る方法である。

・バザールは開かれた空間であり、バザールでは目立って良い評判を集めることが生き残る道となる。

・今後は、日本の会社(伽藍空間)に人的資本すべてを預けるのは、ハイリスクな人生設計となる。会社外(バザール)でも通用する汎用的なスキルを蓄積し、良い評判を獲得する戦略を考える。

・金融資本を分散し、個人のリスクを国家のリスクから切り離せ。(これについては、「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」書評も参照してください。)

 

書評

本書は、著者がこれまでに述べてきたことを、大震災をきっかけに、新たに考察しまとめたものと位置づけられます。過去の著作を読んでいれば、要旨で大体わかっていただけるかと思います。初めての方や、詳しく知りたい方はお読みいただければと思います。

少し、本文より引用します。
「私がこころから残念に思うのは、この二十年間、日本政府がどうでもいいことに資金を垂れ流し、莫大な債務を積み重ね、いちばん大事なときに財政に余裕がなくなってしまったことです。国家の債務は公共事業や社会保障費として(平等ではないとしても)国民に配られたのですから、これは私たち一人ひとりの責任でもあります。」
「私があえてこのことを書いたのは、日本が変わるとしたら、これが最後の機会だからです。大震災と原発事故の悲惨な現実を目の前にしても、為政者も国民も変わる勇気を持てないとしたら、あとは伽藍の重みで自壊していくだけです。」

引用は以上です。上の言葉に、もう加えることはないように思われます。

東日本大震災は多くの人命を奪い、極めて甚大な被害をもたらしました。ただ、近い将来、これ以上の「いちばん大事なとき」が来ないとは言いきれません。私の思い過ごしであれば良いのですが。
(書評2013/05/05)

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