「橘玲の中国私論 世界投資見聞録」 橘玲(著)

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中国の不動産バブル・信用バブル・株バブルは、いつどのように崩壊するのか?世界経済、そして日本経済にも悪影響が必至の事態です。本書は中国の不動産バブルを通し、中国経済と中国人、中国社会を考察します。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

中国事情(特に経済と国民性)に興味がある人。

 

要約

中国の不動産バブル現地レポート。
10大鬼城(ゴーストタウン)の紹介。内モンゴル自治区オルドス、天津浜海新区、海南島三亜、河南省鄭州、安徽省合肥、内モンゴル自治区フフホト、内モンゴル自治区清水河、河南省鶴壁、浙江省杭州、上海松江区。

・中国のゴーストタウンは、どこも同じかたちをしている。これは何故だろうか。このような現象が起きる背景には、中国には「人が多すぎる」という外的要因があるからだ、と考える。

・中国人の特徴として、冷酷な合理主義者で、国家や同じ中国人を信じない。しかし家族や血縁、侠気などは大切にするようだ。朋友(幇)はとても大事だ。

・アジアは米の多毛作が可能であり、食糧が豊富で人口が多かった。ヨーロッパは小麦が連作できず、人口が増えなかった。ペストによる人口の激減と、産業革命による工業化を契機に、ヨーロッパで人権思想が誕生した。

・イギリスの産業革命は、少ない労働者でより多く生産する、資本集約型の生産革命。江戸時代の日本は、多くの労働者を効率的に配置する、労働集約型の生産革命。

・18世紀の中国(清朝)では、人口が1億から4億に増えた。しかし中国では、日本のように細かく分配された土地に固定化されて働くという、勤勉革命は起きなかった。大規模な人口移動が始まり、内陸部や辺境、さらには東南アジアへ移住した。

・日本の人口は3000万人で、中国は4億人だった。行政機能の届かない村落は、中国で圧倒的に多い。行政機能のない移住先で自衛のため頼りになるのは、郷党と宗族という人的ネットワークだ。

・日本では場所がはじめにあり、そこで協調して生きる方法が求められた。(流動性が低く、一生をその場で送る。)中国では移動が前提なので土地は基準にならず、人的ネットワークが利用されることになる。この人的ネットワークは関係(グワンシ)と呼ばれる。

・日本は古代より中国文化の影響を受けてきたし、近代以降は中国が日本を通して西洋を学んだ。そのため、互いに相手のことが「わかる」気がするが、実際の行動原理は大きく異なる。このずれが、現在の不信感の原因だろう。

・日本では、安心は共同体に保障されるから共同体を重視する。中国では、安心はグワンシにもたらされるからグワンシを重視する(法治より人治となる)。中国人は血縁と朋友は信頼するが、その外側の人間とは裏切り合うことも想定内。

・中国人は組織でなく個人単位で考えるので、合理主義的で競争や信賞必罰を受け入れる。中国人にとっては、日本企業より欧米企業で働く方が働きやすい。

中国の秘密結社や宗教結社は、身を守るための相互扶助の共同体だった。中国共産党(毛沢東)が中国史上初めて、末端まで支配体制を固めたため、中華人民共和国では秘密結社が衰退した。中国共産党が唯一の秘密結社となった。

・秘密結社は平等主義である。中国共産党の統治下で不正と格差が目立つようになって、再び中国社会に秘密結社が生まれてきた。

・中国を理解するには、中国はうまくいかないだろうといった先入観を持たずに、現実を見ること。理解しておくべき点は、
①特異な社会主義。
②組織がそれぞれ自己完結している(諸侯経済)。
③過剰な人口。
④共産党の支配。
⑤地域の独自性。
⑥中国人の価値観。
各地方が豊かになりたいと、互いに競争しながら中央政府の指示や法律を無視して猛進したことが、高成長につながった(各地で同じような不動産バブルが発生した)。

・中国の掟破りのビジネスモデルは、世界の膨大な貧困層のマーケットを捉える可能性がある(格安携帯電話の例)。

中国は実質金利をマイナスにし、貸出金利を低く保ってきた。これが公共投資や不動産投資を促進した。また理財商品や融資平台といった、影の銀行による融資が増大した。この投資が経済成長を支え、富裕層と中間層をつくった。だが農民から土地を収奪することが困難になり、不動産価格も低迷し、利益をあげられなくなってきた。

中国の権力構造では、中央政府の指示に地方政府は従わず、地方政府の指示に下部の組織は従わない。

・中国共産党は(皮肉ではなく)腐敗に対し厳しいが、腐敗は構造的になくならない。公務員の数が多すぎ、給料が安すぎるため、賄賂を受け取らなくては生活できない。グワンシ的に贈り物を拒絶することは許されず、贈り物への返礼(便宜供与)は義務である。

・中国の人口構成が今、人口ボーナスから人口オーナスの時期に転じつつある。老化と人口減少は、経済成長を止め、不動産価格を下落させるかもしれない。

・現在、日中相互の国民感情は悪化しているが、日本人個人が中国に住んだり、旅行したりして困ることはほとんどない。反日教育が反日の原因とする意見があるが、日本の中国侵略は歴史的事実であるし、抗日が建国の歴史そのものなので、そのような批判にはあまり意味がない。

・ナショナリズムは虚構であるが、異文化コミュニケーションの前提は、民族自決の理念となるナショナリズムは肯定し、ウルトラナショナリズムを否定することである。

・中国では親日はタブーだが、知日はタブーではない。現在の共産党指導者たちにはカリスマ性がないので、国民感情に逆らう外交判断はできない。日本は感情的に中国を批判するよりは、知日派と連帯するべきだろう。

人権は普遍的な権利であり、その概念はグローバルスタンダードである。これに反するローカルな論理は通用しない。好き嫌いはともかく、前提として認識すべき

・ドイツは自国の戦争責任について、ナチスやヒトラーと、ドイツ人を分離するレトリックを使っている。国家として被害者に責任を負い謝罪するが、関与していない個人には責任はない。日本の場合も、日本という国家には責任があるが、日本人という個人には罪はない、というのがグローバルなルールだ。国家と民族(個人)を同一視して、感情的になるのは避けた方がよいだろう。

・日本人の祖先の多くは、中国南部や朝鮮半島に由来する。また「日本という国」は、白村江の戦の敗北で受けた衝撃を機に、誕生した。隋や唐に知識や思想を学び、日本神話も中国史書に影響を受けた。当初はグローバル思想である仏教が優越していたが、鎌倉・南北朝時代あたりで神道の地位が高まってきた。幕末から昭和までも、志士やナショナリストの思想は、儒学や陽明学の枠内にあった。近代まで日本は中国の強い影響下にあった。
中国の行動原理は華夷思想であると言われるが、アヘン戦争や日清戦争の敗北をもとにする弱国意識だという指摘もある。中国は日本に影響を与え続けたが、日本も中国を変化させた。中国の民族主義は日本に亡命した孫文ら知識人が主導したし、中国人に民族意識を芽生えさせたのも、日本の侵略と抗日運動だった。

・皇帝を頂点とし、各地方を派遣された官僚が治める。官僚には地盤がないので、地元の宗族の族長と協力して徴税する。官僚と族長は私腹を肥やすため重税を課すようになり、農民は疲弊して流浪し、反乱を起こす。王朝が農民の反乱から崩壊するという歴史を、中国は三千年繰り返してきた。
共産党政権でも、地方幹部と有力者の腐敗は極まっている。ただ歴史と異なるのは、軍や警察が強力なこと、農民の働き口が都市にあること、沿岸部の中産階級が混乱を嫌うことだ。腐敗を防ぐには民主化するしかないが、民主化は中国人自身が望んでいない。全土で完全な民主化が行われれば、豊かな沿岸部から貧しい内陸部へ富の移転が伴うからだ。

・人権と民主主義を旗印とするワシントンコンセンサスは、イラクとアフガニスタンで惨めに失敗した。人権や政治体制を問わず中国の利益を重視した途上国支援、北京コンセンサスこそが正しいと、リーマンショックののち中国は考えた。
中国の開発援助の結末は、
①経済成長せず、融資が不良債権となるがインフラは残る
②中国自体の経済成長が鈍化し、中国の援助資金が枯渇する
③被援助国が経済成長し、中国企業と先進国企業の間でその国の市場を巡り競争となる
のいずれかだろう。中国が途上国支援に成功したら、日本はそれに便乗すればよいだけで懸念することではない。地政学的リアリズムにより、中国の冒険主義的行動を封じることの方が重要だ。

・現在の中国は、ソフトパワーを欠く大国である。中国がそのかたちを保つには、現代においても中世的支配体制をとる以外に方法はない。この不安定な帝国の隣国であり続けることが、日本の宿命なのだ。

 

書評

はじめに書きましたが、ダイヤモンドオンラインのコラムがかなり元ネタになっているので、それを読んでいた人は既読の感覚を持つかもしれません。単行本の中身を無料で大盤振る舞いしていただけなので、別に悪いことではないですけど。コラムを読んだことがあっても、結局はそれらのネタをどう構成するかに価値があるので、面白く読めるとは思います。

本文でも少し出てきますが、本書のタイトルは小室直樹氏の「小室直樹の中国原論」を意識しているのは間違いないでしょう。読んでいないのでどうなのかわかりませんが、小室直樹という人は凄いらしいので、小室先生の本も読んでみますか。

本書の前半は、中国とはどういうものか、中国人(中国社会)とは何なのか、ということを考えます。後半になってくると、これから中国とどうつきあうべきか、歴史問題をどう考えるか、という話になってきます。政治的な歴史の話は、娯楽としての読書になりにくいのですが、昨今の状況から考慮せざるをえない問題です。

橘玲氏はガチの個人主義者なので、感情を排した論理的で合理的な思考に基づく行動を勧めています。感情が先に立って決断するとロクなことがないと思うので、私もだいたい同意します。ただ世論は感情に引きずられるので、難しいところです。

嫌いだとか脅威に感じるというのは別によいのですが、敵視すると相手のことを見なくなるのは、悪い癖ではないでしょうか。アメリカと戦争したときは、英米文化や英語を取り締まったりしたわけです。国力で格段に勝るアメリカは、開戦後、日本文化や日本語を研究したというのに。敵と己を知るのは基本です。

それから本書では、中国人を中国人たらしめるのは過剰な人口である、としています。なかなか面白い視点だったのですが、そうするとインドはどうなるのでしょう。インドの広さ、人の多さ、カオスっぷりも相当なものです。21世紀は中国とインドが大国になると言われますが、人口が多いといろいろなことが起きそうです。
(書評2015/04/30)

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