「中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ」 遠藤誉(著)

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中国が台頭してきて、日本も地政学的に困難な状況になってきたと感じますが、中国にも問題は山積のようです。中国にとても造詣の深い遠藤誉氏の、新刊を読んでみました。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

中国の社会状況を知りたい人。

 

要約

・2013年12月26日に安倍総理が靖国神社を参拝したが、中国では反日デモは起こらなかった。格差拡大は毛沢東への支持を呼び戻しているが、毛沢東賛美は容易に現政権への攻撃に転化するため、反日デモは容認できなかった。本書では、2014年1月1日に中国のネット空間に掲示された「中国人クズ番付」を手掛かりに、中国人の民意と腐敗の構造を明らかにする。

・薄熙来事件は、薄熙来が政治的野心から不満を持つ民衆を扇動し、中国共産党中央委員会政治局常務委員会委員(序列9位内)をめざした事件である。このとき薄熙来は毛沢東を持ち出し、文化大革命以降タブーとなった、個人崇拝と大衆運動扇動を手段として用いた。個人崇拝と大衆運動扇動は、中国の集団指導体制を危険に晒すため、タブーとなっている。

・しかし習近平も、貧富の差や環境汚染による人民の不満をかわすため、毛沢東路線に半身だけ回帰している。党幹部の腐敗は極限に達しており、腐敗問題を解決できなければ共産党政権は崩壊する。腐敗した党幹部処分の最終ターゲットは、公安と石油閥を牛耳っていた周永康である。

・中華人民共和国建国より、エネルギー源確保(油田開発)は国家の課題であった。石油技術者として出発した周永康は、巨大化する国有石油企業の幹部を歴任し、江沢民とも関係をつないだ。江沢民は法輪功を弾圧する際、周永康を公安の要職につけ、手駒として使った。

・公安は、公安・検察・司法・武装警察を司る。公安・検察・司法が一体となり、(腐敗した)党幹部を守り、党幹部に都合の悪い人民を冤罪で逮捕する。周永康は江沢民人脈として、公安と石油で巨大な権力と利権を握った。

・2014年1月1日に現れた「中国人クズ番付」は、大陸の中国人が書いたものと推測される。個人は理由も含め100位まで、集団(組織)も27位まで列挙されている。

・集団には、中央テレビ局や機関誌のニュース、買収した地方議員、都市で取り締まりを行う城管、国有石油企業など。

・個人には、アリババの創業者である馬雲(天安門事件弾圧を肯定したため)、李鵬の娘の李小琳(利権を貪っているため)、国防大学教授の戴旭と軍事科学院研究員の羅援(対日・対米強硬派)、ほかに広東省の党委員会宣伝部長(南方周末検閲のため)、人民解放軍報副編集長(狂信的な党礼賛記事のため)、新生児を人身売買業者に売った産婦人科主任、冤罪を多く起こした公安関係者、中国に腐敗はないと豪語する規律委員、全人代報道官や外交部報道官など。

・元鉄道部部長の劉志軍を例に、共産党幹部の腐敗と利権をみてみる。
劉志軍は少年まで極貧の生活だったが、鉄道の保線工になるチャンスを得た。仕事に励み文書係に抜擢され、また共産党に入党した。上司に気に入られ上司の娘と結婚し、出世のきっかけとした。働きながら学校へ通い、学歴を高めた。しかし出世すると妻は用済みとなり離婚し、あらたに有力者の娘と結婚した(のちに離婚する)。有力者の人脈を活用し、国家鉄道部の幹部に昇進した。機会を見て江沢民に接近し、知己を得た。江沢民の腹心となって鉄道部部長となり、また江沢民の息子に莫大な便宜を供与した。独立した権益を持つ鉄道部で権勢をふるい、巨額の賄賂を受けた。盟友の政商から金銭・愛人を提供され、蓄財に励むが、鉄道省の腐敗と高速鉄道事故の責任から失脚した。

・中国の腐敗の温床となっている国有企業は、鉄道、石油、通信である。鉄道(劉志軍)と石油(周永康)には捜査が及んだが、通信(江沢民の長男)はまだ時間がかかるだろう。

・中国は国家から地方の細部に至るまで、共産党が支配している。司法、検察、公安のほかさまざまな許認可権を党幹部が握っているので、党幹部が腐敗するのは必至である。
許認可に関わる賄賂、架空プロジェクトでの横領、公費の横領、官位売買、愛人を囲う(愛人は海外に不正蓄財を送るときにも利用できる)などなど。1年あたり40兆円程度の不正資金が海外流出している?

・想像を絶する腐敗に対しては、人民の怒りも臨界点に達しようとしている。各地の暴動や抗議活動、少数民族問題について。

・中国の歴代王朝は腐敗により滅んできた。習近平は腐敗を撲滅しようとしているが、その腐敗はそもそも共産党一党支配が原因である。共産党一党支配を維持するため、習近平は毛沢東を利用している(毛沢東に似た大衆運動をする、毛沢東をまねて包子を食べる、虎もハエも同時に叩く)。新公民運動も弾圧しているが、貧しい若者がネットを通じ共闘するのを抑えるのは困難だろう。

・習近平は中共中央総書記、中共中央軍事委員会主席、国家主席、中央全面深化改革領導小組組長、中央国家安全委員会主席という5大権力のトップに就いた。
習近平政権は腐敗が共産党支配体制を脅かすことを知っており、現指導部の共通の敵は利益集団である。旧来の利益集団(江沢民系など)と戦う態勢をとろうとして、5大権力のトップ就任(組織改編)となった。そのために毛沢東路線にも回帰するが、あくまでも官制の毛沢東礼賛のみが容認され、ボトムアップの毛沢東礼賛は許容されない。党に服従する人民のみが求められる。

・中国の将来を決める要素に、対米関係がある。アメリカは尖閣諸島の領有権について、どちらかの立場に立つことはない(施政権は日本)としているが、これを足掛かりに中国は日米分断を図っている。しかし日米同盟があり、また国内の安定が必要な現在は、日本との武力紛争は望んでいない。

 

書評

私はチャイナウォッチャーではないので詳しいことはわかりませんが、中国の体制が行き詰まりつつあるように思われます。とは言え、日本の反中派の人たちが望むように簡単に体制が崩れるとも思われません。強大な軍事力と経済力、海外への影響力がありますので、これから何度も波乱がありそうです。

個人的に驚いたのは、番付の1位がアリババ創業者の馬雲であることでした。近々アメリカで上場するそうですし、何となくネット企業経営者なので、自由主義的な開明派かと勝手に思っていました。天安門事件で弾圧したことは正しいと発言したそうですが、ちょっと引いてしまいます。
(書評2014/05/21)

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