伝説のファンドマネージャー、ピーター・リンチの著作です。株式投資の奥義を垣間見ることができます。
おすすめ
★★★★★★☆☆☆☆
対象読者層
ピーター・リンチの株式投資手法を学びたい人。
要約
・投資を始める前に、投資をする目的を考え、自分の態度をしっかり決めておくこと。
株式投資についてどう思うか、市場を信頼しているか、何を期待して投資するのか、短期なのか長期投資なのか、株価が急落したときにどうするか、などである。優柔不断で確信が持てないままで投資をすると、暴落のさなかに底値で投げ売りする最悪の行動をとりかねない。
・プロの機関投資家は、アナリストがフォローしておらず推薦していない銘柄は買いにくい。値下がりしたときに責任を問われるからだ。特に企業年金や保険会社で運用する場合は、投資先に多くの制約がある。
アマチュアにはプロの投資家にはない強みがあるので、それを活かせ。あなたはアナリストより特定の分野に詳しいかもしれない。また、どんな銘柄を選ぶか、いつ買うのか、いつ売るのか、どれだけ買うのか、どれだけ売るのか、ポートフォリオにどんな銘柄をどれだけ入れるか、制限がないことは強みだ。
・歴史的に見れば最も収益率が高いのは株式で、次に社債や公共債であり、いちばん低いのは国債である。株式投資はリスクが高いが、債券にも金利変動のリスクはあり、インフレを考慮すると国債は実質利回りゼロに近い。よく調査し長い目で見て基本に忠実に行動すれば、株式で勝てる可能性は高くなるので、株式投資には挑戦する価値がある。10銘柄を選び6銘柄で成功すれば、十分な成果があげられるだろう。
・人々が株式市場に集まり人気を博しているときは株式投資に悪い時期で、不人気で無関心なときが株式投資に良い時期となる。
・株式投資を始める前にチェックする3つのこと。
①家を持っているか。
よく調べてそれなりの家を買えば、長期間住んだあと値上がりした価格で売れる。株式の前に住宅を買うこと。
②お金が必要か。
2~3年で必要になるお金では株式投資をしない。失敗しても今後の毎日の生活に支障のない、余裕資金で株式投資をする。
③株で成功する資質があるか。
忍耐強さ、自主性、常識、苦痛への耐久力、自由な思考力、謙虚さ、柔軟性、意欲、失敗を認める強さ、パニックを無視する力など。完全な情報がないなかで決断する能力や、自分の変な信念や思い込みを除くことも必要だ。相場先行きの予測や自分の相場観など信じず、それを無視し、ファンダメンタルズに変化がなければ保有したままジッとしていられるか。
・相場の先行きはわからない。相場の予測をするよりは、ファンダメンタルズと比較して割安な株を探すべきだ。
・身の回りの物事をよく見ることで、アナリストがまだ見つけていないテンバガー(10倍上がる株)を探し出すことができる。自分が詳しい業界の知識と、一般消費者としての知識は、急成長する新興中小企業を探すのに役立つだろう。
だが候補に挙がった株をすぐに買ってはいけない。会社についてよく調べる。巨大企業の株価は動きにくく、小さい会社の株価の方が動きやすい。
・株価の動きから、企業は6つに分類できる。
なお、企業は成長の段階やビジネス環境によって、別の分類へ移ることもある。
①低成長株
大きくて古い会社。国の成長率より少し上くらいの成長である。これらは過去に急成長したが成長が鈍化した会社などで、株価は横ばいで配当は高く安定的である。
②優良株(中成長株)
低成長株を上回る成長をする巨大企業で、株価は緩やかに上昇する。買うタイミングがよければ、かなりの収益が期待できる。ただテンバガーにはなりにくく、2年で50%も上昇すれば利食いを検討する。不況時にも強いので、ポートフォリオに入れるのもよいだろう。
③急成長株
年に20~25%成長する小さい企業で、うまくいけば10倍かそれ以上に株価は上昇する。急成長株は急成長産業の中にあるとは限らず、低成長の業界にあることも多い。ただし急成長株には倒産のリスクや、成長の限界が来て停滞し株価急落のリスクがある。いつ成長が止まるか、どれだけの資金を投資するかの見極めが大事だ。
④市況関連株
売上や利益が循環的に上下し、株価も上下する。自動車、航空、鉄鋼、化学、タイヤなどである。株価は好況時には優良株より大きく上昇するが、不況時は大きく下げる。市況関連株は大企業だが、優良株と混同してはならない。市況関連株はタイミングがすべてである。
⑤業績回復株
業績不振を極め無成長となったが、破綻の手前で回復した株である。相場一般とは無関係に急速に株価は上昇する。業績回復株には、政府の支援によって破綻を回避したもの、予想外の業績悪化から回復したもの、突発的な大事故で下げたもの、倒産企業から優良事業がスピンアウトしたもの、リストラによるもの、などがある。
⑥資産株
アナリストや乗っ取り屋がまだ気付いていない資産を持っている株。自分の業界知識や消費者としての知識を利用して探す。現金、不動産、優良事業などの資産を持っている。
・わかりやすい「どんな馬鹿でも経営できる」会社は、投資対象として最高である。
社名が退屈もしくは奇妙、代わり映えしない退屈な業容、感心しない魅力的でない業容、分離独立した、機関投資家が保有せずアナリストがフォローしていない、悪い印象を与える、気が滅入る業容、無成長か低成長の産業、ニッチ産業もしくは独占的、買い続けなければならない商品をつくる、テクノロジーを使う側である、インサイダーが買っている、自社株買いをする。このような会社は素晴らしい。
・避けるべき株。
超人気産業の超人気株。(業界内の競争が厳しすぎる。)
第二の××と呼ばれる株。(××は有名企業。)
多悪化した株。(本業と関係ない会社を高すぎる価格で買収し、悪い多角化をする会社。)
耳寄りなストーリーを持つ株。(中身のない特ダネで期待を引きつけている。)
下請け会社。(特定の顧客に依存している会社。)
耳触りのよい社名の会社。
・株をいくらで買えばよいのか。株は会社の部分所有権だということを忘れるな。最終的には株価は収益と並行になる。調べる会社のPERを、株式市場全体、業界平均、過去のPERと比較する。急成長株はPERが高く、低成長株のPERは低くなるが、会社がどのように将来の収益を伸ばそうとしているのか調べてみる。
・ある会社の株を買う前には、十分に調査をし、自問自答すること。買う理由を子供に理解できるように、2分間で自分に説明してみる。
・事実を確認する。
年次報告書や四半期報告書をチェックする。証券会社から情報を得る。会社に質問したり、IRから話を聞く。本社を訪問して会社の雰囲気を感じる。商品やサービスを利用したり、販売店を観察する。
・注目すべき数字を確認する。
①興味深い商品が売上全体に占める割合を調べる。
②PERを見る。
(成長率+配当利回り)÷PER の値が2以上なら望ましく、1.5でまずまず。
③キャッシュを見る。
1株あたりどれだけキャッシュや、キャッシュに相当する資産を保有するか見る。それを株価と比較する。
④負債を見る。
バランスシートで負債はどれだけか、資産と負債の比率はどうか、短期と長期の負債はどれだけあるか。
⑤配当。
配当がその会社にどのような影響を与えているか。低成長株や優良株なら、配当は着実に支払われてきているか。無配でも急成長しているか。
⑥簿価。
簿価よりも実際の資産価値が低くないか。あるいは、不動産やブランド力や特許に含み資産がないか。
⑦キャッシュフロー。
株価に比べて高いフリーキャッシュフローが得られているか。設備投資の必要性が低い事業が望ましい。
⑧在庫。
売上以上に在庫が増えていれば危険な兆候である。
⑨成長率。
収益の伸びを見る。20%の成長率でPER20倍の会社の方が、10%の成長率でPER10倍の会社よりも望ましい。
⑩税引前利益率。
同業種内で利益率の高い会社がよい。長期保有なら利益率の高い会社を選ぶ。業績回復株なら、利益率が低い方が回復期には利益率の増加が大きい。
・定期的に会社をチェックする。
株を買った理由となる状態は維持されているか。会社の成長段階には、本業が発展する始動段階、新規事業を展開する急成長段階、成長が停滞する成熟段階がある。会社がどの段階か考える。
・個人投資家は年利回り12~15%をめざして、長期に利益を最大限にするような一貫した戦略をとり、ポートフォリオをつくるとよい。自分の得意な業界や、綿密に調査した銘柄から選ぶ。割安な優良株、最悪期から回復を始めた市況関連株や業績回復株、よく調査した資産株や急成長株などである。買った株の買った理由となるストーリーが崩れ始めたら、他の良い株と入れ替えてポートフォリオを調整する。
・ファンダメンタルズが良好な株が暴落に巻き込まれたときは、絶好の買うタイミングである。売るべきタイミングは難しい。ファンダメンタルズが悪化したとき、買った理由が失われたとき、値上がりしたので利食って別の割安な株に乗り換えるとき(優良株)、業績の循環が頂点に来たと思われるとき(市況関連株)、成長が鈍化したとき(急成長株)、業績が転換点に来たとき(業績回復株)、市場に発見されて値上がりしたとき(資産株)、などが売るタイミングである。業績回復株は回復後に他の分類に移行することもある。
・次のような声に惑わされてはいけない。
「こんなに下がったのだから、もう下がらない」
「ここが底値だ」
「これだけ上がったのだから、もう上がらない」
「必ず値は戻す」
「保守的な株は値が動かない」
「これ以上待っても値は動かない」
「値上がりしたから良い投資だった、値下がりしたから悪い投資だった」
など。
・オプション、先物、空売りは勧められない。
書評
さすがにいいことを言っているような気がしますが、ちょっと本の古さは否めない面もあります。本編はおそらくブラックマンデー直後頃に書かれており、新版に寄せた序章もITバブル崩壊直前あたりに書かれたようです。本文中にあげられる企業やビジネス環境が古いので、例はわかりにくいです。
このあとITバブル崩壊、アメリカの住宅市場バブルとその崩壊、リーマンショック、欧州金融危機と来るので、著者の見解を知りたいと思いました。最近の先進国の超低金利などについて、聞いてみたいです。株式投資の基本は変わらないと言われるかもしれませんが。
企業の6分類や望ましい会社、避けるべき会社の考察には、普遍性があるように感じました。退屈な社名の会社、気が滅入る退屈で人気がなく無視されるような事業の会社こそが最高の会社だ、というのは笑えました。言いたいことはわかりますが。葬儀屋チェーン、ガソリンスタンドの廃油を集める会社、缶と瓶の栓を作る会社(社名はクラウン・コルク・アンド・シール)、採石会社などがあげられています。
住宅はほぼ間違いなく利益が出るので、株の前に買えというような記述もあります。アメリカは今後も人口は増えるので、注意深く選べば住宅も値上がりするでしょうが、絶対はありません。必ず儲かると限度以上の借金で不動産を買った結果が、サブプライムローン危機です。古い本なので読んで納得できるところは教訓とし、現在には合わないかもというところは気に留める程度がいいのではないでしょうか。
(書評2014/07/30)