「日銀、「出口」なし! 異次元緩和の次に来る危機」 加藤出(著)

 

本当に日銀の異次元緩和は成功するのか?失敗したらどうなるのか?私の人生に出口はありませんが、日銀にも出口はなかったというお話です。

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対象読者層

日銀の金融緩和政策のその後を考えたい人。難易度は、経済紙のコラムレベルか?

 

要約

・金融危機以降、各国の中央銀行は金融緩和政策をとり、国債やリスク性資産を購入してきた。中央銀行が莫大な資産を保有している場合、売却時に景気を悪化させるおそれや、途中で評価損となる危険がある。また資産を売却しない場合には、資産バブルを起こしたり、マネタイゼーションとみなされたり、次の景気後退期に緩和策をとれなくなるおそれがある。このように中央銀行が資産を多く抱えることには問題があるが、他の中央銀行より日銀がGDP比で最も多く資産を保有している

・日本のデフレは緩やかで、大恐慌時のアメリカのようなデフレではない。緩やかなデフレに対して、日銀の金融緩和(インフレ目標)は急激すぎる。かえって消費や投資が萎縮するおそれがある。

・耐久消費財が値下がりしているなかでインフレ目標を達成するには、サービス料金や公共料金、食料費、医療費、教育費などが大きく値上がりしなければならない。インフレ目標を達成すると、消費税増税と合わせて3年で9%ほど物価が上昇することになる。日本は雇用を守るために賃金が低くなる傾向がある。また、中低所得層は機械化やIT化のため賃金が上がりにくい。中央銀行の金融緩和は、所得の不平等をさらに拡大させる。
国民はこのような状況に耐え難い。日銀は弊害を抑えるため、インフレ目標達成時期を柔軟に再設定した方がよい。

・日本経済は物価が上がりにくい。異次元緩和では、マネタリーベースを操作し、長期国債の大規模買い入れと年限の長期化を行い、リスク性資産(ETF、REIT、社債)を購入している。また日銀はインフレ期待が膨らむよう、強力にはたらきかけている。

・2014年3月にコアCPIはプラス1.3%になった。しかし主因は、円安による輸入物価の上昇と、公共事業による建築資材と工賃の上昇である。人手不足が喧伝されているほどには、賃金は上がっていない。直近では東大日次物価指数は上がっていない。また、金融緩和策としてのマネタリーベース目標は、経済を刺激する効果が疑わしい超低金利政策は期待されたほど効果はなく、長期的には弊害が大きい。

FRBなど中央銀行は、市場の期待を操作して金融政策の効果を高めようと、近年、意図的に情報発信を行ってきた。しかし、中央銀行も経済予測を誤るという危険性があり、また、市場のボラティリティが大きくなるおそれもある。もともとポートフォリオ・リバランスを狙う緩和策は効果が限定的なので、市場の期待を操作できなくなれば金融緩和の効果はなくなる

・歴史的に見て、財政赤字が巨大で中央銀行に独立性がないとき、高インフレが発生してきた。ひとたび財政の信認が失われると、それを取り戻すのは困難だ。財政の持続可能性を維持するため、中央銀行が政府の財政赤字をファイナンスする事態は避けなければならない。日本では、貯蓄が銀行を経由して国債を買い支えてきたので、金利が上昇してこなかった。そのため財政赤字に対し、国民も政治家も危機意識が低い。

・1931年深刻なデフレに襲われた日本では、高橋是清がリフレ政策をとった。日銀が国債を直接全額引き受けた。しかし同時に国債の売りオペレーションもとられたため、1935年までは日銀保有国債の増加はGNP比で限定的だった。
長期金利上昇で売りオペが機能しなくなるのをおそれ、高橋是清は、銀行が国債を購入したときは発行価格を帳簿価格とする制度を導入した。企業の合理化と円安により輸出が拡大し、日本経済は回復を始めた。しかし労働者の実質賃金は低下した。
高橋是清は、日銀の国債直接引き受けを金融危機対策の一時的なものと考えていたが、これは社会にモラルハザードをもたらした。敗戦後まで、日銀の国債直接引き受けは止められなかった。最終的にはインフレが急激に進み、政府債務の実質価値はなくなり、預金封鎖と新円切り替えが実施された。

日銀の大規模な国債買い入れにより、日本の国債市場は価格決定の機能が失われている。これは日銀の出口政策では、国債市場の機能の再構築が必要であることを示す。現在の国債利回りは不自然に低いので、インフレ率が2%になると多くの金融機関や投資家が信じるようになれば、国債が売られて長期金利が上昇してくるだろう。日銀の出口政策では、現在以上に国債を購入せざるをえなくなるとの予想もある。そのときは財政に対する信認が必須のものとなる。

現在保有する巨額の資産の出口政策については、FRBやBOEも困惑している。国債やリスク性資産を市場に売却することは、きわめて難しい。国債や証券は償還を待つ自然減で圧縮しようとしており、自然減すら遅らせようともしている。また出口政策としては、利上げを優先しようとしている。

日本の潜在成長率が低いのは、労働年齢人口の減少が原因である。高齢化のニーズを汲み取るビジネス、高技能の移民の受け入れ、ビジネスしやすい環境の整備、基礎学力と創造性をもたせる教育、中国をはじめとする新興国市場の取り込み、ブランド力やマーケティング力の向上など、地道な努力が必要である。

 

書評

前回はリフレ派の人の著作を紹介しましたが、今回は反リフレな感じの本です。日銀が異次元緩和を始めたときにみられた批判のエッセンスが、だいたい入っているような印象です。

経済の先行きを正確に予想することはできないので、起こりそうな事態をいろいろ考えておくことは大事かもしれません。そのなかで確率的に起こりやすそうな順番で、いちおう対策も想定しておくといいかと思います。ありうる事態を想像したり、全く予想外の出来事も考えて、常々リスク管理は怠らないようにしようと感じました。

高橋是清の金融政策はよく知らないので、なかなか勉強になりました。本書で東洋経済新報1933年2月21日号の内容が一部紹介されているので、引用します。こうなったら困るなあ。
「国民一般の購買力は、仕事も増さず所得も増さずに、ただ物価だけ上がって行っては、所詮は行詰りに逢着するの外あるまい」
「大インフレーション政策を実行しながら、低金利の永続を予想するは痴人の夢に類する」
(書評2014/07/26)

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