「イスラム 中国への抵抗論理」 宮田律(著)

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強大な国家となって、外国との摩擦が増える中国。国内にも少数民族問題があります。イスラム原理主義が今、世界を揺るがしています。それとも関連する、ウイグルがわかる本です。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

新疆ウイグルに関心がある人。

 

要約と注目ポイント

本書では、中国中央政府に対し強い不満と民族的欲求を持つイスラム系ウイグル族の現状を概観し、中国や東アジアのリスクについて検討する。

新疆ウイグル自治区

新疆ウイグル自治区では、抗議活動やデモ、爆発事件やウイグル族と治安機関の衝突が繰り返し起きている。ウイグル人が社会的に抑圧されていることが原因にある。

衝突の背景

漢人との経済的な格差

要職は漢人が占め社会的地位が期待できないこと

漢人が文化や宗教に無理解であること

漢人が移住してきて自治区内の漢人の人口比率が高まり故郷が奪われるという感覚

逆にウイグル人の中国東部への強制移住

自治区内の資源を漢人が独占していること

漢人のウイグル人への差別意識

中国の少数民族政策

ソ連が少数民族のナショナリズムの高揚から崩壊していったため、中国中央政府は少数民族による独立の動きを極めて憂慮している。

また東欧共産主義体制の瓦解にはカトリック教会が大きな力を及ぼしたため、宗教も脅威と見ている。

ウイグル族への中国政府の対応は、一貫して強硬である。デモや暴動への弾圧、拘留、逮捕や処刑が行われている。

宗教活動も妨害(礼拝・断食・スカーフ着用の禁止、モスクへの立ち入り制限など)している。

ただし宗教の抑圧は、自治区内では厳しいが中国の他の地域では緩い。

ウイグル族とは

ウイグル族はトルコ系なので、ウイグル人への弾圧にはトルコ政府は抗議している。宗教的にはパキスタンとの関係も深い。

キルギスやカザフスタンは、同じトルコ系民族としてのつながりがある。アフガニスタンからは、イスラム過激派勢力の新疆ウイグル自治区への浸透が窺われる。

ウイグル人の起源は、8~9世紀のウイグル帝国(トルコ系遊牧民族)と考えられることが多い。自治区には9世紀の西ウイグル帝国や、13世紀までの高昌国(漢族)の仏教遺跡がある。

15世紀半ばには仏教からイスラムへの改宗が完了した。1450年から1935年までは、ウイグルという名称は一つの民族を指して使われることはなかった。

イスラムは普遍的な宗教であったためウイグルという民族意識は薄かったが、1931年の中国の侵攻を受けてウイグル人としてのナショナリズムが高まった。

ただ中国に編入された過去3世紀、新疆のムスリムと漢人は宗教的相違により摩擦は絶えなかった。

新疆ウイグル自治区の主要都市について。ウルムチ、トルファン、カシュガル。

圧政下での鬱屈した心情のため、ウイグル人の間には強い権力やカリスマへの憧れが見られる(天安門事件の指導者のひとりでウイグル人のウアルカイシ、あるいはヒトラー)。

ウイグル人の漢人への優越を示すため、神話も創作された(ウイグル人は8000年前にタリム盆地にやってきた)。

中国政府とウイグル

中国政府は、漢王朝の時代からウイグルを支配していたとしており、漢族の移住もウイグルを経済発展させるものとしている。

中国にとって自治区の豊富な資源は貴重であり、さらに中央アジア諸国の資源を得るためにも自治区は地理的に必要である。また、ミサイル基地や核実験場も存在する。

国家の統一を維持するためにも、独立運動を容認することはない。

中国政府はウイグル人による爆発事件や襲撃事件を、ウイグルの脅威として訴えている。

アメリカの対テロ戦争と協力する形で、ウイグル族の独立運動組織をテロ組織と位置付けている。近隣諸国へ避難したウイグル人を強制送還するよう、中国政府は近隣諸国に圧力をかけている。

チベットとの比較

チベットは20世紀初頭に清朝の侵攻を受けるが、事実上1951年までは独立を維持していた。

中国共産党は1950年10月にチベットを軍事侵攻し、強圧の下でチベット代表団と交渉し、中国軍の進駐と外交権の委譲を受け入れさせた。

ダライ・ラマの存在や欧米人のチベット体験などのため、国際社会ではチベットの方が問題として取り上げられやすい。ダライ・ラマは自治のみで独立を求めていないが中国は軟化せず、ダライ・ラマの指導力にも限界がある。

中国政府は、人々を奴隷化していたチベットの神政政治から農奴を解放した、として支配を正当化している。共産党のチベット支配は、中国の主権と領土保全を守り、チベットの経済を発展させるとする。

チベットにおいても寺院の破壊をはじめとする信仰の禁止、経済格差、漢人の流入や強制移住、漢人の資源の独占と環境破壊などがみられる。

現在まで多くのチベット人が焼身自殺をしており、チベットでも民族問題は改善していない。

ウイグルの民族意識の高まり

ソ連からの中央アジア諸国の独立は、ウイグル人の民族意識を高めることになった。

中央アジア諸国のウイグル人やムスリムとの交流により、麻薬や武器、過激思想が新疆ウイグルに入ることを中国は恐れるようになった。

中国政府は上海協力機構を利用したり、経済力を背景にして、中央アジア諸国などでのウイグル人の活動を抑えるよう各国政府に要求している。

「東トルキスタン・イスラム運動」(米国と国連もテロ組織と指定)をはじめとするテロ組織の脅威を、中国政府は訴えている。

中国政府はほかに解放党も警戒している。解放党とは中央アジアや南アジアなどに影響力を広げるイスラム運動で、近代の国民国家を否定し統一イスラム国家建設を唱える組織である。キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンなどでは、腐敗した現政権と戦う組織として支持が広がっている。

しかし、中国政府の抑圧がウイグル人のムスリムとしての意識を呼び起こしてはいるものの、現状ではイスラム原理主義よりは独立国家を目的とする活動が主流である。

中国の内政の展望

中国では腐敗、環境汚染、経済格差と貧困、未発達な社会福祉制度、東西地域の経済格差などにより国内の不満は高まっている。

しかし、問題を民主的に解決しようとする気配は全くない。そして辺縁の民族問題も、中国の現体制を脅かす要因となっている。

中国の政治的動揺は日本の経済や安全保障に重大な影響をもたらすため、ウイグル等の民族問題を注視する必要があろう。

イスラム原理主義の運動は、国民国家を超えた共同体の建設をめざしています。これから長い間、アジアから中東、北アフリカまで、影響を受けるでしょう。ウイグル問題を知っておくことも、有意義と思われます。

 

書評

現実は厳しいと、読むと少し暗い気持ちになる本です。

ウイグルやチベットにおいて、全く人権が保障されておらず、今後もまるで改善する見込みがないのはどうなっているのかと感じます。

しかし政治的抑圧は、少数民族に限らず漢族の民主派に対しても容赦がないわけです。抑圧の原点は漢族の民族的意識よりも、中国共産党の体質にあるように思います。

中国共産党の目的というのも謎で、これほどまでに中国共産党が民主制や自由に敵意(恐怖?)を持つ理由がよくわかりません。

予備知識がまるでないので、初見のことが多く本書を読んでいろいろ勉強になりました。

ただ同じような記述があまりまとまりなく繰り返され、その内容にずれがあったりもするので、ややわかりにくく感じました。

(新疆ウイグル自治区には天然資源が豊富と解説するが、油井が枯渇したというエクソンモービルの報告をひいて、期待したほど資源が多くないと述べたりもしている。)

事実関係を整理して項目ごとに分析し、最後に分析に基づき考察したらもっと読みやすいと思われるのが残念です。
(書評2014/07/07)

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