「ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体」 原田曜平(著)

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マイルドヤンキーとされる人たちの特徴を、冷たいマーケティングの視点でまとめた本です。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

現在の若者の消費動向を知りたい人。

 

要約

従来型のヤンキー(不良)は減って、多くのヤンキーは見た目がおとなしくなり、中身もマイルドになった。ヤンキーは、ファッションがエグザイルのような少数の「残存ヤンキー」と、小中学校の学区程度の地域に留まる多数の「地元族」に分類される。

マイルドになったヤンキーは、上京志向ではなく地元志向であり、地元で強固な人間関係と生活基盤を築き、消費活動も比較的活発である。都心の高感度・高学歴層の若者は、ソーシャルネットワークのメンテナンス関連での社交消費が主となる。マイルドヤンキーは車や酒、タバコ、パチンコといったモノにもお金を使い、車で地元の大型ショッピングモールに仲間と遊びに行くことを好む。

マイルドヤンキーは特徴的な消費行動をとるので、本書ではこれについて考察する。彼らは優良な消費者となるので、新しくヒットする商品やサービスのヒントとなるであろう。

・地元族の地元愛は、郷土愛ではない。中学、高校、(大学、)社会人と年をとっても、いつものメンバーと同じ場所で同じ消費をする。現状維持で、人間関係もライフスタイルも変えない。郷土には特に関心や愛着はなく(全国共通の大型チェーンでの消費行動で満足)、あくまでも地元友達が重要。今、ここで築いている生活が重要であり、それは概ね満足できるものである。

・高校や大学は成績で選別されているから、中学や小学校の友達が最も仲の良い友達となる。地元族は地元を出ず、学生時代以降は積極的に交友関係を広げることはないので、同級生婚の傾向がある。実家に住んだり、結婚して実家のそばに家を建てるような例が多い。大人数でミニバンに乗りドライブして遊ぶような、「絆」を大切にする。新しい人間関係や新しい土地を避け、地元で生活し、地縁を維持するため地元で消費する。大型ショッピングモールを非常に好む。(イオンは夢の国。)2000年代に大型ショッピングモールが全国に浸透し、「何もない地方」から「ほどほど満足できる地方」になった。

ヤンキーの変遷。
①ヤンキー1.0(~1980年代)
ビー・バップ・ハイスクールや横浜銀蝿のイメージ。他者を高圧的に威嚇して自分の優位を認めさせる。大人社会への反抗。地元(縄張り)意識。
②ヤンキー2.0(1990年代~2000年代前半)
渋谷センター街のチーマーや池袋ウエストゲートパークのイメージ。ポケベル、PHSや携帯で遠距離の行動がとりやすくなり、実際に渋谷や池袋といった「中央」に出張る。カラーギャングのように、統一された集団に所属する例も。
③ヤンキー3.0(2000年代後半~)
マイルドヤンキー。ファストファッションやファーストフード、タダか廉価のITコンテンツが普及し、デフレカルチャーを満喫。地方でも欲しいものは手に入る。社会に閉塞感があり、大人への反抗意識も起きない。親などに束縛されている意識もないので、上京志向もなく地元と地元友達を愛する。

・マイルドヤンキーはITへの関心が弱くスキルも低い(あまりネットで情報収集しない)。また、人間関係を新規に開拓する意欲も低い(社交消費よりモノ消費の傾向)。昇進など成り上がろうという野心もあまりない

収入は、20代前半としては高めか低めに二極化する。とび職やキャバクラ店員など高めのケースでは、見栄やメンツといった方向での消費も多くなる。アルバイトやフリーターの収入は低めで、親と同居のケースもよくみられる。仲間と遊ぶ金をつくるため、学生のバイト代は高くなる場合もある。

趣味は飲酒やカラオケ、パチンコやパチスロ、車、ゲームセンターなど。ギャンブルとの親和性が高い。娯楽への支出は多い。喫煙率は高い。居酒屋ではビールはあまり飲まず(高いから)、焼酎のボトルは人気(宅飲み型)。

・意外にもアニメを趣味のひとつとすることもある。ヤンキーはキャラクター好きであることもアニメ好きの一因で、サンリオキャラクターやディズニーキャラクター、ワンピースなどは伝統的に好まれる。ほかに化物語、涼宮ハルヒの憂鬱、進撃の巨人、シュタインズ・ゲート、アニソンで残酷な天使のテーゼなど。

音楽ではエグザイルが圧倒的に支持されている(弟分として三代目J Soul Brothersと妹分としてE-Girls)。エグザイルの仲間・家族主義は、マイルドヤンキーの志向と一致する。ほかに西野カナ。安室奈美恵と浜崎あゆみは、残存ヤンキーに支持される。好む音楽も、だらだら地元友達と変わらず過ごす生活を反映(反町隆史「Forever」やKREVA「イッサイガッサイ」)。

同世代の若者と比較すれば、物欲はある。ブランド物は好き。車やバイクも買うが、デジタルガジェットは買わない。車は軽自動車も乗るがミニバンを好む。ミニバンを好むのは、大人数で快適に乗れるため。スマホは保有しているが、使いこなしているわけではない。ライン(やフェイスブック・ツイッターなどのSNS)は必須だが、あくまでも仲間内で使うのみ。

・ソーシャルメディアの理念は世界中のあらゆる階層の人とつながることだが、そのような使い方はエリート層の若者に限られる。マイルドヤンキーは、ソーシャルメディアを昔からの人間関係を密にする方向で使用するため、新しく人脈が広がることはない。

マイルドヤンキーは、仲間内の良好な友達付き合いを乱す行為を許さない。仲間の空気を良い状態に保つことは大切である。どんどん新しい世界へ進んでいくような、エリート層の大学生には共感できない。とにかく仲間内と共有する空間が心地よいので、車を好み電車には乗りたがらない。(電車は公共空間。数十分程度の乗車時間も耐えられない。)

・上昇志向の夢はあまり持たず、夢は結婚や幸せな家庭であり、現状維持できればよい。地元で結婚、地元で家庭を築き、地元友達やその家族(子供)と友達付き合いをし、平穏な生活を送ることを何よりも望む。経済成長が見込めない成熟社会となった日本で、マイルドヤンキーは地縁・血縁に回帰しているのかもしれない。成熟市場では、マイルドヤンキーは優秀な若年消費者である。

マイルドヤンキーを想定した、商品やサービス。
絆を確かめる消費が多くなる。ハズレを嫌がりすでに知っていることを好み、新しいことを知ろうとしたり欲しがったりしない。選択肢が多いことは苦痛で、安定を好む。現状を維持するための消費活動を行う。

高級ブランドの中古品をネット通販するアプリ。ITスキルが低いので、見栄えがよく使い勝手に優れるアプリであること。

周囲に恥ずかしくない子供服。結婚・子供願望が強いので、子供服にお金をかける。おしゃれ、かわいい、かっこいいもの。

習い事のマッチングサービス。子供にはお金をかけるが、収入は低めなので大金はかけられない。

ファミリーユースの大型ミニバン。初期投資額が低く、自分で改造していけるもの。

家族単位で行動できるもの。子供が同伴できる居酒屋。ニコイチ・サンコイチの親子おそろいファッションブランド。子供同伴(仲間家族同伴)のパック旅行。地元に建てる一軒家。

レジャー感満載の有名な観光地を、同行者と親睦を深めるためにする旅行。あるいはその疑似体験ができる娯楽。東京ディズニーランド(既知なものを好む)。

手軽なパッケージ化された非日常。ハロウィン。高級外車のカーシェアリング。

地元友達とくつろげる場所。格安レンタルルーム。複合アミューズメント施設のフードコート。格安運転代行サービス。

 

書評

マイルドヤンキーとはかけ離れた生活を送っている私ですが、そういうものかとなかなか勉強になりました。(ほとんど行かないですが)イオンやドンキホーテを訪れたときに抱く感覚と通底します。

本書はタイトルに新保守層の正体とありますが、思想的な分析はなく、あくまでマーケティングを主眼としています。内容に大きな驚きはありませんが、確かにこのクラスターの分析として納得できる部分が多いです。

個人的に全く理解できない点は、電車を嫌うことと地元愛です。

電車に乗らないのは電車が公共空間であり、車のように仲間内のくつろげる空間ではないことだそうですが、やはり理解できません。

もう一点の地元愛ですが、これはあくまでも地元友達愛であって、郷土愛ではないことに留意しなければなりません。個人的には、これまでの地元でこれまで通りの生活をこれまで通りの人間関係で過ごすことに、至上の価値を見出すことに違和感を覚えます。しかしそれ以外の生活を送ったことがなく、いまの生活にほどほど満足していればそうなるものと思われます。

戦後の高度経済成長期は、豊かになるために、そして自由になるために、日本人は上京し地縁を切り捨てました。そして上京した場で、たまたま出会った人々で共同体(学校・会社・工場)をつくってきました。橘玲氏は(日本人)で、その場でたまたまつくられた共同体だけが日本人にとって所属意識の拠り所となり、バブル経済崩壊後、そのような共同体が消失すれば日本人は無縁となるという事実を指摘しました。

この指摘はかなり正しいと私は感じますが、ではマイルドヤンキーの地元愛は何なのか。これはおそらく、小中学校の友達が、高度経済成長期におけるたまたま出会った場の共同体に相当するのではないでしょうか。成熟社会ではその人生最初の共同体がかなり安全で平穏で心地よいので、そこから出ようとせず外部に興味もなく、ひたすら閉じた人間関係のみに意識が向くためと思われます。

こう仮定すると、日本に低位安定の時代が続く限り、マイルドヤンキーは存在し続けるものと考えられます。彼らが閉じた狭い人間関係から出るのは、その空間では生存が保障されなくなったときかと思います。会社だけがアイデンティティであった中高年男性が、バブル崩壊により危機に陥ったように。
(書評2014/06/19)

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