「ヤバい経営学 世界のビジネスで行われている不都合な真実」 フリーク・ヴァーミューレン(著)

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「ヤバい~」というタイトルの本は何冊かありますが、読むのは本書が初めてです。本書は正統な経営学者が書いた、くだけた感じだが正統なビジネス書です。

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

経営に関する通説に、ツッコミを入れてみたい人。

 

要約

・本書は企業の非合理的な側面を扱う。
企業は個人の集合体であり、国や文化が違っても同じような現象が発生する。ビジネスは人々の生活の基礎であり、世界を動かす力を持つ。ビジネスが実際にどのように動いているか(企業がどのように組織され経営されているか)を知ることは重要だ。

・ビジネスの世界には、当たり前と考えて疑うことのない慣習がある。本書では「当たり前」に疑問を持ち、その正体を探る。

・ほとんどの人は気付かない間に周囲から影響を受け、他の人と同じような行動をとる。経営者も同じである。経営者も競合他社を(意識的にまたは無意識に)真似ている。
例:新聞紙面の大きさ。製薬業界のMR活動。

・バイアスに基づいて、ビジネスの意思決定がなされることがある。
例:選択バイアス。不確実性は数字で評価しにくい。数字で表せないことが大事。

・過去の大成功した戦略も、論理的・合理的に導かれたとは限らない。

・優良企業が環境変化に対応できず、衰退する事例は多い。
これは優良企業が自社の強みを磨き続けることで、逆に経営環境の変化に追随できないというパラドックスが原因となる。環境変化をどう捉えるかで対応は変わり、脅威にもチャンスにもなりうる。

・事業が成功し資金が豊富なときは、むしろ強みに特化し手を広げ過ぎないこと。業績が悪化した(不況の)ときは、新しい収益源を探し、ボトムアップで試行錯誤し、多くの中小企業からの売上を増やすことをめざした方がよいだろう。

・経営者は買収を好み、企業の規模を大きくしたがる。
しかし合理的な理由ではなく、支配欲求や野心に基づく規模拡大は危険である。最大ではなくベストな会社となることをめざすべきで、優れた会社組織を築くには時間がかかる。

・ナルシシストな経営者は、戦略変更を頻繁に行い、多くの買収をする。業績は謙虚な経営者よりもばらつきが大きい(大きく良い者も大きく悪い者もいる)。優れたリスク管理者(経営者)は平均リターンが高い正規分布となるが、ダメな管理者は平均リターンが低く分布曲線両端のテール部分が長い正規分布となる。
過剰な自信で買収に失敗することも多いが、経営者の過剰な自信は生まれつきではなく後から備わったものだ。個人の能力は全能ではないのに、周囲の賛辞で自信過剰となってしまう。

・経営者には、わかりやすい戦略的な方向性を示す役割がある。会社の状況に応じて、イノベーターやマネージャーといった異なるタイプの経営者が必要となる。

・アナリストの分析対象になると、その会社の株価は上昇しやすいが、その業績見通しは楽観的であることが多い。投資銀行などで、リサーチ部門とコーポレートファイナンス部門に利益相反の可能性がある場合、顧客企業に有利な評価(あるいは曖昧な評価)を下す傾向がある。

・アナリストが理解できる事業の方が、会社が高く評価される。
コングロマリットだとアナリストが事業内容を理解できないので、コア事業に集中する会社の方を推奨する。

・社外取締役は、利益誘導のために招かれているように見える。取締役も経営者に協力的な方が利益を享受できる。経営者の報酬は高くなりやすい。

・ストックオプションを多く持つ経営者ほど、リスクを取ろうとする。

・外部取締役が多かったり大規模な機関投資家がいると、会社に不利な情報を隠すことが少なくなる。ただし、外部取締役が株を持っていたり小規模な機関投資家が多いと、会社は悪い情報を隠蔽しようとする。

・株式市場は企業の発表内容は気にするが、企業が実際に何をしているかはあまり気にしない。

・予言の自己実現が存在する。(自分の思い込みに従って行動すると、結果的に自分の予想が実現する。)

・「コアビジネスに集中せよ」というアドバイスは、原因と結果を逆に取り違えている。低迷企業は、儲かるビジネスを探そうとして多角化することが多い。好業績の企業が、成功している事業に集中するのは一般的な戦略だ。
「強い企業文化を育もう」というアドバイスも、原因と結果が逆である。成功が徐々に均質な組織文化を作っていく。また強固な企業文化は、環境変化への適応を阻んだりする。

・経営合理化は、コスト削減という短期的なメリットはあるが、長期的には利益率向上に貢献しない。普段から社員を大切にしている会社の場合は、人員削減をしてもうまくいくことがある。

・流行りの経営手法を導入しても業績はよくならない。しかし経営者の評判は上がる。流行りの経営手法の長期的な悪影響は認識されにくく、経営コンサルタントなどを通じて拡散される。

・ノウハウなどを蓄積した社内データベースだけに頼ってはいけない。大きな暗黙知の部分がある。

・研究開発部門は、新しい何かを創り出したときだけ役に立ったと考えがちだが、別の面で貢献している。研究開発部門があることで競合他社の真似ができ、他社の発明や技術を吸収できる。

・今日のビジネス環境の変化の速度は、過去と変わらない。

・イノベーションを起こす会社は、起こさない会社より成長率が低く、倒産する確率は高い。

・会社には偶然幸運が訪れることがあるが、それを受け止めるには経営者が幸運に気付き、それを活かす準備がなされている必要がある。

・成功や競争優位性の要因はよくわからない。あまりに複雑に要素が絡んでいるので、成功を模倣するには、まずは完全にコピーし、そこからゆっくりと変化を加えるのがよいだろう。

・組織再編では、不活性な組織内コミュニケーションを再活性化する利点がある。権力の過度の集中を防ぎ、変化に対する適応能力を高めるメリットもある。

・自社の外のネットワークからイノベーションの材料を得るようにする。

・原理的に会社は株主に最も責任を負う。しかし株主より社員を重視して経営する方がうまくいくこともある。人間(社員)は所属するコミュニティ(会社)へ喜んで貢献する性質がある。社員を金銭で動機付けしようとせず、活動的になれるよう組織を変えよ。

・大きな失敗の原因には、
①職務の細分化と組織の専門化
②成功による過信
③多くの人がやっていることをやりたがる群衆心理
④欲深さ
がある。

・社員が働きやすい環境をつくったり、社会的責任(CSR)を果たすことは、少なくとも損にはならない。

 

書評

本書では、あまり疑われずに常識となっている経営やビジネスの慣行について、軽い口調でツッコミをいれていきます。そのツッコミはあくまでも学術的な研究に基づいているので、面白いながらも、そういう考え方もあるのかと勉強になります。

具体例が満載なので面白いとも言えますが、話があちこちに飛ぶので散漫な印象はあります。著者が主張したいことが何なのか少しぼやけているので、さっと読み流すとあまり記憶に残らないかもしれません。アカデミックながら軽い感じの読物と言えます。ただけっこう長めです。
(書評2014/04/22)

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