「国債リスク 金利が上昇するとき」 森田長太郎(著)

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今のやり方ではもはや日本の財政は持続不可能と、素人の私は思っているのですが、実際はどうなのか。本書では日本国債と財政について考察します。読むと国債暴落の確率は3.1%ということで、あら意外と低いのねと感じたのですが、さらに読み進めていくと……

おすすめ

★★★★★☆☆☆☆☆

 

対象読者層

日本の財政について考えたい人。

 

要約

・本書のシミュレーションは2020~2030年頃、または2025~2035年頃を想定している。

日本経済の将来シナリオと発生確率。
財政再建達成:7.5%
財政は緩やかな悪化継続:53.7%
財政悪化が加速:20.1%
財政が劇的に悪化:15.6%
財政が劇的に悪化しデフォルト:1.0%
ハイパーインフレーション:2.1%
「国債暴落」とは、「財政が劇的に悪化しデフォルト」と「ハイパーインフレーション」が相当する。

日本の国債暴落はあり得ないテールリスクとされるが、アベノミクス以降わずかに確率が高まった(ファットテール)と思われる。著者は、予測可能な時間軸内では国債暴落は起きないと考えている。しかし、日本の財政問題が「新たなフェーズ」に入ったかもしれないとも感じている。

・1999年のゼロ金利政策以降、日本銀行は量的緩和政策において、中央銀行のとりうる政策をほぼやりつくした。そして2013年4月、日銀は「異次元の金融緩和」を決定した。

・国債についての一般的な説明。
考え方によって国の借金の額は異なるが、日本が最も深刻な財政状況の国のひとつであることは事実。

財政問題の議論では、ストックとフローの概念を明確にしなければ正しく理解できない。家計、企業、政府、海外の4つの経済主体のフローを認識すること。4つの資金収支は合計するとゼロになる。
1990年代からの政府部門の赤字に対して、民間部門が資金を供給し埋め合わせることができた。1997年の金融危機以降、日本は好況、不況にかかわらず民間部門の資金需要が小さく金余りであった。

過去15年ほどの資本収支動向では、海外(経常黒字)は安定的に推移、政府は劇的に悪化、家計の黒字は縮小、企業の黒字は拡大した。

・家計の金融資産が政府の債務を支えている、というイメージが世間にはある。しかし1990年代後半から、家計の金融資産(貯蓄)はあまり増加していない。
日本の国債は家計が直接・間接に保有しているだけではなく、日銀や公的資金、社会保障基金も大量に保有している。また企業も間接保有額を大きく伸ばしている。

1990年代末から、企業のフリーキャッシュフローが増大した。(企業の手元にお金が貯まりだした。)
企業に資金余剰が発生している理由は、人件費などのコストが削減された結果と考えられる。日本の長期的な成長期待が低下したことや、企業の海外生産が増えたことは主な理由とは考えにくい。

・企業が余剰キャッシュをもつことは、銀行の貸出減少につながる。銀行の貸出減少は、銀行の国債購入を増加させる。人件費削減によって家計の所得を抑制し、政府の財政赤字を支える所得移転のメカニズムが存在するとみなせる。

・銀行の民間部門への貸出は減少し、公的部門への資金提供(国債購入)は増加してきた。しかし民間部門への貸出では信用調査のノウハウを必要とするが、国債購入にはノウハウは必要ない。(国債はリスクフリー。)
では銀行が自らの信用により預金を集め、リスクフリーの国債を購入する意義はあるのか?

銀行預金には、定期性預金(定期預金)と流動性預金(普通預金や当座預金)がある。以前は定期性預金が多かったが、低金利やペイオフ解禁のため、現在は流動性預金の方が多くなっている
銀行は巨額になった流動性預金の運用を迫られるが、短期国債の購入で対応している。さらに長期間引き出されないと考えられる流動性預金(コア預金とよばれる)については、長期の国債で運用している。
デフレ下での有利な実質金利のため、預金者は流動性預金にお金を預けてきたが、インフレに転換したときの預金者の行動は予測不能である。銀行のリスク管理モデルによる長期の国債運用と、預金者の行動とに齟齬が生じるおそれがある。

・数年から数十年の期間でみた、日本の政府債務の持続可能性についての考察。
ドーマーの条件、IMFの試算、将来の政府債務残高の割引現在価値の試算、財政運営スタンスの分析など。

・1990年代になされた日本の財政破綻の予測は外れた。クラウディング・アウトは起こらなかった。政府が財政赤字を拡大させても、資本は不足せず金利は上昇しなかった。過剰な貯蓄は投資にまわらなかった。

デフレが政府債務の持続可能性を強化している現状を認識しなければならない。

・「高齢化により成長率・貯蓄率が低下し、経常赤字が発生して国債消化を海外に依存するようになり長期金利が上昇する」という予測には疑問がある。
経常赤字が即座に国債消化の海外依存につながるのか?高齢化が経常赤字に直結するのか?企業の過剰貯蓄がこのまま続く可能性は?

・日本の政府歳出、官僚機構、公共投資は諸外国と比較して過大とは言えない。日本の財政悪化の主因は行政コストではない。
現在の日本は低受益、超低負担の所得再配分機能不全の状態にあり、受益と負担の不均衡が財政赤字の原因である。
政治家は、国民間の受益と負担の関係を広く社会に問い、財政再建を計画すべきだ。

・投資家が損失を被る状況は?
日本の財政悪化が進んだときのリスクは、狭義のデフォルトのほか、ハイパーインフレーション、超法規的な資産課税、大幅な通貨安、年金の不払いがある。
財政危機の際は、公的年金の積立金が財政赤字の補填に使われる可能性が全くないわけではない。

・国際通貨システムが不安定化した時期に、国家のデフォルトは起こりやすい。

日銀の「異次元緩和」は短期的には成功した。しかし中期的(1~2年)、長期的(3~10年超)な成果は疑わしい。
中期的には、2年で2%のインフレ率目標の達成は難しい。そして「異次元緩和」は、日本の国債市場の機能(流動性と価格発見機能)を低下させた。これらの機能は大きな環境変化が起き始めたときに必要な機能である。
長期的には、「異次元緩和」はマネタイゼーションとみなされる可能性がある。これは日銀の政策により、日本政府の行動が財政規律を失う方向に変化するかにかかっている。政府が財政支出拡大に抵抗感をもたなくなり、かつ民間の資金需要が増えれば、インフレ率が上昇し日本経済の構造が変わるかもしれない(ただし当初は好況というポジティブな評価になるだろう)。

・長期的にインフレ率が高まってきたときに有事が発生した場合、劇的な結果(ハイパーインフレーション等)をもたらす可能性がある。歴史的にマネタイゼーションやハイパーインフレーションは、それを招きうる法制度や経済環境下で有事がきっかけ(触媒)となって起きてきた。

日本国債の悲観シナリオ。
日本政府が国債を償還できない「狭義のデフォルト」は、容易には発生しない。ハイパーインフレーションという「広義のデフォルト」の方が、生起確率は高い。
ハイパーインフレーションに至る経路には、戦争や石油ショックのような有事が触媒となる可能性が高く、その経路の最後の政策選択に中央銀行の国債購入がある。

日本国債のテールリスクに個人投資家が対処するには?
危機時には、分散投資の効果は失われ、流動性も枯渇する。
危機に陥ったときの投資対象は、米国債(米ドル)と金(ゴールド)、スイスフランなどの逃避通貨、ドイツなどのユーロ建て国債(主要先進国通貨)となる。
リスクヘッジをするタイミングは、テールリスクが若干上昇したが、まだテールと認識されている間に、少しずつ始めるのがよいだろう。

 

書評

財政問題の議論はすぐに政治色を帯びるので、なかなか冷静に行われません。私は経済について素人で、各エコノミストも言うことがバラバラなので、本書の内容の妥当性は正確にはわかりません。国債の専門家の意見として、ただなるほどなあと受け止めました。

著者は財政赤字を考えるときに、ストックとフローを見ろと述べています。家計資産が1500兆円なので国債発行額がそれを超えたら破綻するとか、日本人が90%の国債を保有しているから破綻しないなどといった主張には誤解があると解説しています。著者は本書を金融関係者だけでなく、一般国民を対象と意識して執筆しています。わかりやすく書こうという努力の跡がみられるので、詳細は本書を読んでいただければと思います。(それでもちょっとわかりにくさはあります。各章にまとめをつければよいのになと感じました。)

本書では、日本経済の将来シナリオを確率ごとに分岐させています。例えばハイパーインフレーション発生シナリオは2.1%ですが、それは各分岐(以下の①~③)の和になります。

①実質GDP成長率が3%以上で景気過熱(発生確率10%)
×消費者物価指数3%以上でインフレ加速(発生確率30%)
×2020年時点での消費税率10%で財政再建停滞(発生確率30%)
×日銀が国債購入継続(発生確率40%)
≒0.4%

②実質GDP成長率が-1%~1%で景気低迷(発生確率30%)
×消費者物価指数3%以上でインフレ加速(発生確率10%)
×2020年時点での消費税率15%でノーマルな財政再建(発生確率20%)
×日銀が国債購入継続(発生確率50%)
=0.3%

③実質GDP成長率が-1%~1%で景気低迷(発生確率30%)
×消費者物価指数3%以上でインフレ加速(発生確率10%)
×2020年時点での消費税率10%で財政再建停滞(発生確率80%)
×日銀が国債購入継続(発生確率60%)
≒1.4%

これは高校数学のやさしい確率の問題みたいで、予測シナリオとしては非常に不正確と思われます。そもそも10~20年先の経済予測は不可能ですから、このような経路をたどればこういう結末が起こりうるという心構えとして、理解しておけばよいでしょう。

最後に著者は、広義のデフォルトが起こるには、有事が触媒となり中央銀行の国債引き受けがそれを決定づけると強調しています。この点は、国民各自が注意する必要があります。
(書評2014/03/09)

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