「ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>」 リンダ・グラットン(著)

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著者はロンドン・ビジネススクールの高名な教授で、これからの働き方を考える1冊です。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

現在の働き方に疑問や不安がある人。将来のキャリアについて考えたい人。教育や経済環境に恵まれたホワイトカラー。

 

要約

今、仕事のあり方(いつ、どこで、何を、どのように行うか)に根本的な変化が起きている。

・過去の延長線上から未来を予測できなくなった今こそ、未来を予測する必要がある。
それは自分と自分の大切な人たちが、不確実性の高い世界で、適切な選択と決断をする手がかりにするためである。

・未来にはさまざまな可能性があるが、賢い選択を行い主体的に決断することで、望ましい未来を選べる。準備として以下の質問への答えを考えてみる。

自分と周囲の人たちに影響を与えそうな要素は何か?
自分の職業生活に影響を与えそうな要素は何か?
どのように影響を受けるか?
未来に適応していくために、これからの5年間に自分は何をすべきか?

これまでの固定観念を次のように変えるべきだ。
シフト1:
ゼネラリスト的キャリアの尊重から、専門技能を連続的に習得するキャリアへ。
シフト2:
個人主義と競争原理から、コラボレーションやネットワークで結びつく人間関係へ。
シフト3:
消費し続ける生活から、質の高い経験や人生のバランスを重視する生活へ。

 

未来を決定する

・未来を決定する5つの大きな要因は次の通り。
①テクノロジーの進化、②グローバル化の進展、③人口構成の変化と長寿化、④社会の変化、⑤エネルギー・環境問題の深刻化。

・5つの大きな要因は、32の現象から特徴づけられる。
①テクノロジーの進化(10の現象)
テクノロジーが急速に発展し、50億人がインターネットでつながり、クラウドが利用され、生産性が向上し、ソーシャル化し、デジタル化し、バーチャル空間が一般化し、人工知能が利用され、メガ企業とミニ起業家が台頭し、機械化が進む。

②グローバル化の進展(8の現象)
24時間・週7日休まない世界となる。新興国(特に中国とインド)が台頭し、インドと中国から人材が輩出され、倹約型イノベーションが広まり、都市化が進み、世界中に貧困層が出現し、バブル経済は繰り返される。

③人口構成の変化と長寿化(4の現象)
寿命が長くなり、Y世代(1980~1995年生まれ)の影響力が拡大し、ベビーブーム世代(1945~1964年生まれ)の一部は貧しい老後を迎え、国境を越えた移住が増える。

④社会の変化(7の現象)
家族のあり方が変わり、女性は強くなり、人生のバランスを重視する男性が増え、大企業や政府への不信感が強まり、余暇時間が増え、幸福感が低下し、自分を見つめ直す人が増える。

⑤エネルギー・環境問題の深刻化(3の現象)
エネルギー価格が上昇し、環境破壊で住む場所を追われる人が現れ、持続可能性を重視する文化が生まれる。

・自分の未来ストーリーのつくり方。
1、上の32の現象から自分に必要な要素を取捨選択する。
2、要素を自分で肉付けする。
3、さらに、自分にとって関係があるが欠けている要素を探して加える。
4、集めた要素を再分類する。
5、全体像を見い出す。

 

時間

・1990年は時間が細切れではなかった。2025年は3分刻みの世界となる。

・時間が細切れになり、時間に追われ続けることの影響は次のように考えられる。
ひとつのものごとに集中して取り組めず、専門技能を磨きにくくなり、観察と学習の機会が失われ、創造性が低下する。

時間に追われない未来にするためには?
専門技能の習熟をキャリアの土台とし、ある程度まとまった時間をこのために使う。すべての仕事を自分が抱えこまないように、自分と周囲の人的ネットワークを構築する。
消費をひたすら追求する人生から、ものごとを深く考えて自分の働き方を選びとる人生に転換する。

 

孤独

・1990年はリアルな人間関係があった。2025年は職業生活・家庭生活において、直接に人間と触れ合う機会は少ない。
同僚との気軽な関係の消滅、家族関係の希薄化は、多くの人々に深い孤独感と寂しさをもたらす。

孤独な未来を避けるには?
3つのタイプの人的ネットワークをつくる。(シフト2)

①ポッセ(同じ志を持つ仲間)
比較的少人数で、声をかければすぐに力になってくれる長期間付き合いの続く人々。専門技能や知識がある程度共通しており、一緒に活動したことがあり、互いに力になれる信頼感のある人々。
ポッセを構築するためには、互いのポッセの人脈を引き合わせたり、自分の関心テーマを公表し発信して人を引き付ける。

②ビッグアイデア・クラウド(大きなアイデアの源)
自分の人的ネットワークの外縁部にいる、自分とは違うタイプの人々(友達の友達のような)。アイデアや新しい人脈をもたらす多様性に富む大人数のネットワーク。メンバー数は多い方がよく、バーチャル空間での付き合いも考えられる。
ビッグアイデア・クラウドを構築するには、いつもとは違う行動(活動)をする、違うタイプの人の振る舞いに自分を合わせてみる、自分の存在を広く知らせて人を引きつける。

③自己再生のコミュニティ(支えと安らぎの人間関係)
現実の世界で頻繁に会い、くつろいで時間を過ごせる人々。この種の温かい人間関係は、これからの時代は意識的に築く必要がある。
自己再生のコミュニティを築くには、親密な人間関係がつくりやすい暮らしやすい地域に住む、住む場所が選べ時間的・精神的にバランスのとれる仕事に就く。

 

貧困

・1990年(より前)は、どこで生まれたかによって人生の経済的環境がほぼ決まった。2025年は勝者総取りの世界となり、先進国の住民でも才能とやる気と人脈を欠けば、貧困層の一員となる

・貧困は自己肯定の感覚を失わせ、高齢になっても働き続けることを強いる。単純労働に従事する貧困層は、高度な専門技能を身に付ける機会がない。
先進国か途上国かは関係なく世界のあらゆる地域は、クリエイティブな人材が集まる地域、巨大生産拠点、巨大都市(とスラム)、衰退する地方、に分かれていく。

 

キャリア(シフト1)

・専門性の低いゼネラリスト的技能は、特定の企業以外では通用しにくい。

未来の世界で価値を持ちそうな技能をいろいろと想定し、そのうえで自分の好きなことを職業に選ぶ。(その技能は価値を生み出すことが広く社会に理解されており、技能の持ち主は少なく、機械化されにくいこと。)
その分野で専門技能を磨き習熟したら、他の分野にも転進する。次の専門技能へ転進するには、実験的に試みたり、人的ネットワークから学んだり、副業から始めたりするのがよい。

・今後、価値が高まりそうなキャリアと専門技能。
草の根の市民運動家、社会起業家、ミニ起業家。生命科学・健康関連、再生エネルギー関連、創造性・イノベーション関連、コーチング・ケア関連。

・雇用の流動性が高まり、働き方が多様化すると、自分のキャリアや能力が周囲に認知されにくくなる。
自分を理解してもらうには、自分の仕事に対して署名したり、格付けサービスやギルド内で自分の評価を確立させる。

・長く楽しく働き続けられるよう、仕事に集中する時期や仕事以外の活動を行う時期が、モザイク状になるキャリアを実践する。

 

バランスのとれた働き方を選ぶ(シフト3)

従来は、消費活動をするために給料をもらい、給料をもらうために仕事をする、という考え方だった。(この消費活動に幸せを感じていた。)
しかしこの考え方に基づく仕事のあり方は、私生活を犠牲にすることが多かった。

従来の考え方は、お金と地位の価値を過大に、充実した経験がもたらす幸せを過少に評価している。

・これからの仕事観は次のように変わる。
働く目的は充実した経験をするためであり、それが幸せにつながる。

この仕事観のシフトには、選択肢を理解することが重要となる。
自分にはどのような選択肢があり、それぞれの選択肢はどういう結果をもたらすのか、何をあきらめることになるのかを理解する。
そして、人生で何を大切にしたいのか、どういう働き方を望むのかは自分で決める。

 

書評

内容はだいたい同意できる、でも物足りない。というのが感想です。

本書は、これまでの働き方はもう続けられないという問題提起から書かれています。その問題意識には首肯しますし、なぜ働き方を変えなければならないかという分析もおおむね是認できます。

さらに、本書の主張である3つのシフトについても異論はありません。

専門技能を磨き、環境変化に応じて分野を変えてまた技能を磨く。結構なことだと思います。親密な人間関係を大事にしながら、多様性のある緩やかな人的ネットワークをつくる。いいことです。自分の人生を見つめて、物質的な欲求から内面的な欲求へシフトし、自己実現をはかる。すばらしいです。

でもやはり物足りない。何が足りないのか?

本書は、教育水準や家庭環境、経済環境などが平均以上の人にしか役立たないと感じてしまいます。もっと厳しく救いのない言い方をすれば、本書の提言は、おそらく上位10からせいぜい20%の人々にしか当てはまらないと思われます。生まれた時の階層が中流以下の人たちはどうすればいいのでしょう。

本書の内容はほぼ漏れなく要旨にまとめられたと思います。時間に追われないように生きるにはどうするかと、孤独にならず生きるにはどうするかという問題には、要約にその回答をまとめました。

しかし、貧困から抜け出すにはどうするかという疑問には回答していません。本書をすべて読みましたが、答えは書かれておらず、要約にまとめることもできませんでした。本書には貧困から自由になる働き方は書かれていません。

ただ、著者をこのことで責めるのも無理かもしれません。そもそも原著のタイトルは”The Shift: The Future of Work Is Already Here”なので、貧困から自由になるとは書いてありません。

最低賃金水準のアルバイトを掛け持ちして生活している人。新卒時に正規雇用に採用されず、その後キャリアが蓄積されない低賃金の非正規雇用が続き、貯蓄もできず年金支給額も低い人。シングルマザーで生活保護基準未満の生活をしている人、およびその子。
このような人たちが貧困から脱出するには、何かほかの方法論が必要に感じます。

本書の主張を実践できる人は少ないと思われます。逆説的ですが、大半の人が実践できない方法論なので、もし本書のようにシフトできる人なら、それなりに明るい未来が期待できるのではないでしょうか。
人生の出発点が本書の方法を実践できない環境にあるならば、何かの力(社会保障制度、本人のとびぬけた才能や意欲、運など)が必要と考えます。
(書評2014/02/01)

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