世界的投資家のジョージ・ソロス氏が市場や哲学について語った本です。
おすすめ
★★★★☆☆☆☆☆☆
対象読者層
ジョージ・ソロス氏の市場に対する哲学を知りたい人。
要約と注目ポイント
市場価格は現在のファンダメンタルズを反映するとされている。しかし市場参加者の現在の予測が、将来の結果に反映する。市場参加者の思考と、彼らが関与する状況との間には、双方向の相互作用が存在する。
予測は現実のファンダメンタルズに影響を与え、予測の方向へ現実を動かす。そして予測は強化され、このフィードバックループが市場のバイアスを強固にする。しかしフィードバックループはある時点で維持できなくなり、自己崩壊する。
人々の思考は現行のパラダイムに影響される。人々の思考は現実の世界に影響を与える。
相互作用が表れる一例が、金融市場のブーム・崩壊プロセスである。
トレンド、バイアス、ターニングポイントと市場価格の関係性の考察。これをソロス氏自身の過去の取引記録から解析している。
書評
ジョージ・ソロスという人は投資行動も大胆ですが、政治的な行動もかなり派手です。2004年のアメリカ大統領選では、反ブッシュの政治活動に多額の資金援助をしています。
これに典型的に表れるように、政治的・社会的な主張を広く公開したいという意欲が見られます。
ソロス氏は投資家として大変な知名度ですが、自身はそれにとどまらず、哲学者や思想家として認識されたいという欲求もあるのではないかと想像します。若いころに哲学者のカール・ポパーに師事したことを誇りとしているようです。
そのようなわけで本書では、再帰性という概念で市場だけでなく社会も認識しようという主張が展開されます。
ソロス氏が哲学を意識しているので、記述もわかりにくいです。また内容が1970年代と80年代の米国内の金融市場を舞台としているので、馴染みの薄い世界です。私もあまり理解できたとは思えません。
ただ掴みにくいソロス氏の主張ですが、全般的に市場参加者の予想や行動が現実世界に影響を与え、さらにそれが市場参加者の予想を変化させるという本書の趣旨は、近年の行動経済学や複雑系の研究に通じるように思われます。
(書評2014/01/02)