労働市場は、容赦なくグローバル化にさらされます。インターネットで、世界中の仕事と労働がつながる、そんな現実を教えてくれる本です。
おすすめ
★★★★★☆☆☆☆☆
対象読者層
クラウドソーシングを取り巻く現状を、簡潔に知りたい人。ビジネスにクラウドソーシングを、取り入れたいと考えている人。
要約
・インターネットを介して働くクラウドソーシングが、世界規模で台頭してきている。
クラウドソーシングは、ビジネスのスピードを数倍にし、コストを半分以下にすることが可能なので、企業の競争ルールを変えうる。また、個人の働き方にも大きな影響を与える。
日本でもクラウドソーシングによる社会変革は、2016年頃までには一般に認知されることになろう。
・インターネットは情報や資源のオープン化をもたらしたが、そのオープン化は人材資源にも及ぶ。
今日、企業はマトリクス型組織として内部資源を有効に活用し、外部ともネットワークを形成して外部資源もうまく利用する必要がある。
クラウドソーシングでは企業や組織が、自社やアウトソースした人材を越えて、よりオープンで不特定多数の人的ネットワークから人材を集め、業務を遂行することになる。
・クラウドソーシングにおける、発注者と受注者を多対多でマッチングするプラットフォーム型サイトの概要を説明している。
それぞれのサイトは扱うタスクにより、デザイン&クリエイティブ型、プロジェクト型、マイクロタスク型、と分類できる。
・デザイン&クリエイティブ型は、高度な知識や創造性が必要とされるタスクを扱う。コンペティションが一般的で、報酬は労働時間でなく成果物に対して支払われる。例えば、InnoCentive、ナインシグマ、iStockPhotoなど。
・プロジェクト型では、一定の期間での決められた成果物が求められるプロジェクト単位のタスクを対象とする。 例えば、oDesk、Elance、Freelancer.com、voicebunny、fiverr、ココナラなど。
・マイクロタスク型では、数十秒から数分で終わるような細分化された単純作業をタスクとしている。例えば、Amazon Mechanical Turkなど。
・ほかに、自分たちの組織が抱える特定の課題解決を目的として、クラウドソーシングサイトをつくっている場合がある。例えば、NASA、DARPA、P&G、レゴ、ヒューレット・パッカードなど。
・日本のクラウドソーシングサイトは、上記3つの型のいずれか、もしくは複合型となる。
日本国内ではまだ市場が小さく、報酬の単価は高めの水準となっている。また、ひとつのサイトで多種のタスクを取り扱う例が多い。これらは、現在は英語圏の市場から断絶している、日本語サイトによる特徴と考えられる。
例えば、ランサーズ、クラウドワークス、クラウディア、Job-Hub、ヤフオク!など。
・フリーランサーが、経済的保証や福利厚生、交流、教育、信用などの面で有利になるために、ギルド的組織をつくる動きがある。
・高い能力や特殊スキルをもつワーカーは、クラウドソーシングでは市場が地域や特殊性で制限されていないため、従来よりも高く評価される可能性がある。
・一般的なスキルのワーカーでも、仕事の早さ、丁寧さ、融通がきく、納期を守る、などの特徴がクラウドソーシングでは評価される。
・客観的なスキル評価テストや、過去の実績、発注者と受注者の双方向での採点などで、評価が蓄積される。
・クラウドソーシングは労働時間(時刻)や所在地に制限されないので、ワーカーのライフスタイルに柔軟に適合できる。
・従来型正規雇用者(や派遣労働者)は、クラウドソーシングの普及により、報酬が下がったり雇用が減少すると考えられる。
・クラウドソーシング市場からの報酬は安定しないので、ワーカーの収入は不安定となる。好評価を得て継続的に受注できるかが重要となる。
・今後は日本国内も日本語の壁が徐々に取り払われ、海外との競争の増加が見込まれる。英語力の重要性が大きくなる。
・ホワイトカラーの職種はクラウドソーシングによる影響を受けるが、直接人と接触する職種や、特定の場所にとどまる職種などは影響を受けにくい。
・ビジネスにクラウドソーシングの人的資源を取り込む際の、注意点や戦略などを考察している。
書評
現在のクラウドソーシング市場の概要がつかめる1冊です。興味があれば、読んでも勉強になる良い本だと思います。私は労働や雇用に関心があることと、会社を辞めた場合のことを考えているので、非常に参考になりました。
本書では、日本企業(特に大企業)が今後、クラウドソーシングを活用する方法や戦略について、いろいろと考察しています。ただ私は、日本の労働市場の閉鎖性や雇用制度の硬直性、国民の意識の保守性は、非常に堅牢だと感じています。率直に言って、黒船が来るかブラックスワンが出現するまで、ほとんど何も変わらないのではと思います。
(書評2013/9/1)
