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「私の個人主義」 夏目漱石(著)

 

独立した人格を持つ個人主義を説く、夏目漱石の講演録です。古典なので、無料で読めますのでおすすめです。

おすすめ

★★★★★★☆☆☆☆

 

対象読者層

古典だし無料だし誰でもOK。まあ、日本の近代や日本社会に興味があれば、ますますOK。

 

要約

・大正三年、学習院での夏目漱石の講演録。

・私は大学で英文学を専攻し勉強してきたが、文学がわからなかった。また、高等師範、松山中学、熊本高等学校で教師をしたが、教職にも興味を持てなかった。自分の本領がわからず、不安を抱いていた。

・文部省からの英国留学の話を受け、留学して書物を読んだが、やはり文学はわからなかった。そして、文学とはなにかという概念は、根本的に自力で作り上げるしかないのだと悟った。そうして、ようやく不安が消えた。

・これまでの文学批評は、ただ西洋人の意見を紹介しているにすぎなかった。独立した一個の日本人として、見識を持って意見を表さなければならないと悟った。自己本位という四字が自分の道を示した。

・あなたがたにも、自分の進む道がわからず煩悶とする人もいるだろう。自分の幸福のため、自分の進むべき道はここだとわかるところまで、ぶつかっていくのがよい。自分の進むべき道と自分の個性がしっくり合ったときに、幸福と安心がもたらされる。

・あなたがたが通う学習院には、上流社会の子弟が集まっているのだろう。卒業後は、権力や金力を持つだろう。権力と金力は、自分の個性を他人に押し付ける道具となりうる。

・自分の個性が発展できるような場所に落ち着けば、幸福である。そして、自分の個性を尊重するように、他人の個性も尊重しなければならない。権力や金力を用いて、他人の個性の発展を妨害してはならない。権力には義務が、金力には責任が、附随しているのだ。

・個性を発展し、権力を使い、金力を使う人は、人格のある人間であるべきだ。あなたがたが自由を尊重し義務を引き受ける人間であることを、私は願っている。こういう意味において、私は個人主義だ。

・個人主義は、国家の安定を脅かすものではない。党派ではなく理非がある主義なのだ。そこには一人ぼっちになることもある、淋しさがあるのだ。

・個人主義は国家を亡ぼす。日本は国家主義でなければ立ちゆかない。と朝から晩まで国家国家という人が少なからずいる。しかし、国家主義だけが国家に貢献しているのではない。個人主義でも、危急存亡のときには、人格の修養の積んだ人は、自然に国家のために尽くす。だからこそ国家の平穏な時には、徳義心の高い個人主義に重きを置くのが当然である。

 

書評

古典の素晴らしいところは、価値が古びないところです。今でも鮮度を保ち、みずみずしい。少し古くさい言葉があっても、その意義は古びていません。

私も年をとってきて、人にはその人ごとにふさわしい生き方があるのだろうと、感じるようになりました。
自分にふさわしい道を追求し、他人の個性を尊重し、権力を持っても義務を自覚し、金力を持っても責任を意識する。個人が自立しながら相互に尊重し合い、自由を求めるが責任も負う。高みをめざす意思は古びていません。

2013年の今、この講演を聞いたとしても、私は心を打たれるだろう。漱石先生さすがです。
ただ、過去も現在も未来も、世界に自立した個人はほとんど存在しないのではないか、という疑念は浮かびます。
(書評2013/07/21)

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